不妊治療、「企業への支援や広報も重要」 ── 中医協で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2021年12月15日の中医協総会

 不妊治療の保険適用について大枠が固まった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は今後の課題として仕事との両立を挙げ、「有休等を取りやすくなるように企業への支援や広報も重要」と見解を求めた。厚労省の担当者は「他部局とも連携して国民にわかりやすい周知もしっかり検討したい」と述べた。

 厚労省は12月15日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第505回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 この日のテーマは1つで、「個別事項(その10)について」。その内容は「不妊治療の保険適用(その3)」で、これまでの議論を踏まえた対応案(論点)を示した。提案は了承されたが、情報開示に関する意見が多く出た。

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推奨度Cは「原則として保険適用外」

 この日の会合で厚労省が示した論点は主に、①保険適用の対象となる医療技術等の範囲、②保険適用の運用に係る課題、③その他の事項──の三本柱。

 このうち、①については、ガイドラインの推奨度A・Bを「原則として
保険適用」とし、推奨度Cは「原則として保険適用外」とした。推奨度Cは医療機関からの申請で順次、先進医療(自費)の審議を進める。

 推奨度A・B・Cいずれでもない「ガイドラインに記載のない医療技術及び医薬品等」も「原則として保険適用外」で、同様に先進医療の審議を進めるとしている。

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P31抜粋_【総-1】個別事項(その10)不妊治療の保険適用(その3)_2021年12月15日の中医協総会

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情報開示、「引き続き検討する」

 ②については、ガイドラインを踏まえて年齢や回数などの案を示したが、「情報開示の取組」については、「引き続き検討する」との記載にとどまった。

 前回の会合で患者代表から要望のあった「患者の心理的ストレスに係る対応等」は新たに論点に盛り込まれ、「どのような実施体制が望ましいかといった観点も含め、その評価の在り方について、検討する」とした。

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P32抜粋_【総-1】個別事項(その10)不妊治療の保険適用(その3)_2021年12月15日の中医協総会

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情報開示、「慎重に検討する必要」と診療側

 質疑の冒頭で、診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「今回、これまでの議論を踏まえて事務局より不妊治療に関わる論点が提示されたが、それぞれの方向性について異論はない」と了承した。

 その上で、城守委員は「具体的な要件や施設基準等について留意していただきたい点」の1つに情報開示の在り方を挙げ、「不妊治療の場合は患者さんの背景等が異なるので慎重に検討していただく必要があろう」と求めた。

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情報開示、「進める方向で検討を」と支払側

 支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)も「不妊治療の保険適用に関する各論点についてはガイドラインや特定治療支援事業を踏まえて、おおむね妥当」と了承した。

 その上で情報開示について言及し、「医療機関ごとに患者背景が異なるといった難しさがあることも理解するが、患者の選択に資するよう比較可能なかたちでの情報開示を進められるような方向性で引き続き検討すべき」と述べた。

 ほかの支払側委員からも同様の意見が相次いだ。佐保昌一委員(連合総合政策推進局長)は「情報開示が進むことで、治療を受けようとする皆さんに安心をもたらすことにつながるので積極的に検討いただきたい」と要望した。

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情報開示、「早急に期限を切って」と公益側

 公益委員はさらに踏み込んだ。飯塚敏晃委員(東大大学院経済学研究科教授)は「情報開示の取り組みを今後、検討するということではなくて、具体的な情報開示の内容について、早急に、できれば期限を切って検討していくことが必要ではないか」と述べた。

 飯塚委員は「個別医療機関の実績は1997年から政府機関のCDCで公開されていて、例えば『CDC ART』で検索すると、全ての医療機関の情報が一元的に見ることができる。こういった情報の開示が始まったのはもう25年ぐらい前」と日本の遅れを指摘し、「情報公開の在り方を早急に詰めていただきたい」と求めた。

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患者の声を取り入れる仕組みも

 同じく公益委員の永瀬伸子委員(お茶の水女子大基幹研究院人間科学系教授)は「患者の声を取り入れるような仕組みも必要」とし、「仕事との両立という観点」を挙げた。

 永瀬委員は前回のヒアリングで出た意見を紹介し、「例えば、朝の早い時期に対応してくださる所があると精神的にとても大きいと思うので、そういった配慮もできるように検討していただくといい」と述べた。

 この発言に間宮清委員(連合「患者本位の医療を確立する連絡会」委員)が続いた。「不妊治療を受けた経験のある方々の声を拾って、こういうことが良かった、良くなかったとか、患者のご意見を直接聞いて、それに対応できるような検討をしていただきたい」と求めた。

 委員の発言が一通り終了したところで池端副会長が挙手。「企業への広報活動も一方で重要ではないか」と指摘した。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

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2021年12月15日の中医協総会

■ 不妊治療の保険適用について
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 今回の論点について、事務局案に賛同したい。不妊治療が保険適用になることは、私はかなり大きなことだと思う。保険というのは保険事故に対して保険給付を行う、いわゆる「不妊」を「疾患」とみなすことになる。
 今回の診療報酬改定の議論では、就労との両立が出ている。不妊治療が保険適用されると、長期間にわたって保険で不妊治療が受けられる。そこで、企業の支援も必要になる。 
 不妊治療を支援している企業は今までたくさんあるかと思うが、有休等を取りやすくなるように企業への支援や広報活動も一方で重要ではないかと思う。そこで質問だが、これについて事務局で何か方向性などがあれば、お聞かせいただきたい。

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【厚労省保険局医療課医療技術評価推進室・中田勝己室長】
 ご助言に感謝する。ご指摘のとおり、不妊治療の保険適用については、負担軽減の観点だけではなく、これまで自由診療のもとで、いろいろな方法で実施されていたものがガイドラインの策定を経て、治療の有効性・安全性が確認されたものが保険診療に位置づけられる。これは不妊治療の質の標準化にもつながるということで、大変、意義が大きいものと私も理解している。 
 また、委員ご指摘の仕事との両立は非常に重要な課題であると思っている。私どもは、この保険診療での対応というものだけではなくて、やはり、この課題については省内の関係部局と連携して取り組みを進めていくことがとても重要であると思っている。 
 今日いただいた意見の中にも、さまざまな分野にわたる課題があると理解しているので、しっかりと他部局とも連携し、国民にわかりやすい周知についても、十分に検討してまいりたいと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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