被災支援、「広域で受け入れる体制を整備」 ── 記者会見で橋本会長

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 当会は1月11日の定例記者会見で、能登半島地震に伴う被災への対応策や現地の状況などを伝えた。会見で橋本康子会長は「被災地の患者を広域で受け入れられる体制を日慢協として整える」とし、池端幸彦副会長は「地域包括ケア病棟や療養病床で2次的に受け入れるよう搬送の準備を進めている」と述べた。

 この日の会見には、橋本会長と池端副会長が出席し、対面形式で開催した。被災地の現状や支援状況、今後の課題などを示した上で、令和6年度診療報酬改定を踏まえた対応について見解を示した。

 橋本会長は、慢性期医療の重要性と寝たきり防止の必要性を改めて強調。医療と介護の連携によるADLの維持・向上を通じて高齢者の寝たきりを防ぐことが可能とし、「今回の診療報酬改定に伴い、アウトカムをどのように還元するかが問われる。診療報酬の増加は医療・介護の質の向上に結びつけなければならない」と述べた。

 同日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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被災地支援、「日慢協として協力したい」

[橋本康子会長]
 令和6年能登半島地震とその関連事故によって犠牲になられたすべての方々にお悔やみを申し上げる。また、被災者の方々に心よりお見舞い申し上げ、被災地のみなさまの安全と1日も早い復興をお祈りする。
 
 現在、被災者の方々が寒い中で避難所に滞在している。また、コロナウイルスやノロウイルスの拡大により、非常に厳しい状況にあると聞いている。
 
 先週、厚生労働省から連絡があった。日本慢性期医療協会として、できる限りの協力を進めている。
 
 ただ、インフラの整備や復旧がまだ進んでいない地域もあり、道路が寸断されているため、支援が届きにくい状況にある。後ほど、福井県医師会長を務める池端先生に詳しい状況を報告していただく。
 
 本日、当会で開催された理事会に石川県の仲井培雄先生も出席しており、状況を伺った。仲井先生によると、DMATが避難所で被災者に対して医療行為を行っているが、DMATの一部やJMATは現地に完全に到着していないようだ。
 
 池端先生によると、福井県には毎日多くの人々が運ばれてきている。最初は1日20人程度であったが、現在は定期的に5、6人が送られてくるという。
 
 現地の状況は野戦病院のようなもので、リハビリ室を病室のように使っている。多くの人々が布団を敷いて寝ている写真を見た。急な状況だったため、ベッドを十分に用意することができていない。何台かのベッドはあるが、需要に追いついていない。点滴を受けたり、経管栄養を必要とする人もいる。福井県には引き続き多くの人が送られてくる状況となっている。
 
 認知症の患者さんが避難所で他の方々と一緒にいる。ストレスにより徘徊などの問題が生じており大変であるという。「受け入れ施設はないか」という要請に対し、当日本慢性医療協会では、新潟県や富山県など近隣の地域で協力を求めている。
 
 現在、6つの病院から受け入れ可能であるとの回答を得ている。これらの病院はそれぞれ2~5人の患者を受け入れることができる。受け入れの用意があるとの回答を得たので、その情報は厚労省に連絡している。今後の具体的な対応については、これから検討される予定である。

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果たすべき責任は何か

 では、配布資料をご覧いただきたい。今回の内容は「2024年度報酬改定をどう活かすか?」である。
 
 テーマは主に3項目。①2024年度の改定、②良質な慢性期医療、③慢性期医療の責任である。

 ①は国民負担に応えるための生産性向上に関連し、②は寝たきり防止によるQOLの改善と介護費用の低減について。③は改定内容を国民に具体的な成果として還元することである。
 
 まず、2024年度改定について触れる。現在は概要しか公開されていないが、この改定をどのように活かすかが重要である。改定内容を国民に具体的な成果として還元するためには、私たちがどのように対応すべきかに焦点を当てて話を進めたい。
 
 診療報酬はプラス0.88%で、そのうち処遇改善がプラス0.61%である。介護報酬は1.59%の増加となっている。診療報酬と介護報酬はどちらもプラス改定となっており、医療従事者や介護職員の処遇改善、人件費などが改定の主軸となっている。
 
 しかし、全体で約1,200億円の国費が増加する見込みである。診療報酬の増加は国民の負担に直結する。私たちは、この責任を自覚し、何をすべきかを考えていく必要がある。私たちには果たすべき責任がある。

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寝たきりが増加している

 寝たきりの高齢者が増加している。要支援・要介護認定者数の推移に関して、2023年度までのデータを棒グラフで示した。
 
 65歳以上の高齢者の人数は、2000年から2023年の間に1.7倍に増加している。特に、要介護度4と5、つまり寝たきりとされる高齢者の数が3倍に増えている。2023年時点で、100人中5.2%、すなわち約5人から6人が寝たきりの状態にある。
 
 この状況は、私たち医療関係者、特に慢性期医療を行っている者にとって看過できない事態である。この問題を改善するための取り組みが必要である。高齢者人口の伸び以上に要介護者が増加する状態を放置してはならない。
 
 寝たきりの高齢者がますます増加している現状を踏まえ、これまで2年間にわたり提言してきたように対策を講じる必要がある。

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質向上によるアウトカム創出

 医療および介護の生産性向上について説明する。寝たきり防止には、医療・介護の質の向上を通じた成果(アウトカム)の創出が必要不可欠である。これと並行して業務効率を高めることにより、生産性を改善することが求められる。

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 医療と介護の生産性向上に関して、私たちが行うべきことは、質の向上にある。具体的には、治療、医療、リハビリテーション、栄養管理などの分野での取り組みが含まれる。加えて、DXの推進や無駄の排除も重要である。
 
 これらの取り組みを通じて生産性を改善し、寝たきりの減少と業務コストの低減に努める必要がある。結果として、適切なアウトカムの成果を出すことが目標である。

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「良質な慢性期医療」とは

 「良質な慢性期医療」とは何か。私たちの目指すアウトカムは、寝たきりを防ぐことによってQOLを高めることである。これが「良質な慢性期医療」であり、国費投入の価値があると考えている。
 
 年末からお正月にかけて様々な会議に参加し、医療関係者以外の方々と話をしたところ、多くの人が慢性期医療について十分に理解していないことがわかった。当会や医療業界の人は何となく理解していると思うが、それ以外の人々にはよくわかっていない。
 
 武久洋三名誉会長の「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」という言葉がある。これは日本慢性期医療協会のコンセプトとなっている。
 
 日慢協の目的は「良質な慢性期医療」を目指すこと。日慢協の目的は患者さんのQOLを高めることだと考えている。急性期医療の目的は患者さんの命を救うこと。慢性期医療の目的は生活の質を向上させること。
 
 ただし、寝たきりでは生活の質を高めることは難しい。例えば、旅行に行きたい、ゴルフをしたい、仕事を続けたいといった願いは生活の質を高める一面であるが、基本となるのは自分で食事ができて、トイレに行けて、着替えができる自立した生活である。人の助けを必要とせず、自分のことが自分でできることが生活の質を向上させる根底にある。寝たきりの状態を減らすことが私たちの使命である。

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「寝たきりは当たり前」ではない

 「寝たきりは当たり前」という考え方は誤っている。多くの会議に参加し、医療関係者や大学の医療教育者などと話す中で、「歳を取れば寝たきりになるのは仕方ない」とか、「要介護度4・5になれば死ぬまでそのまま」という声が出ることに驚く。

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 高齢化が進んでも、寝たきりになるのは自然な流れではない。80歳や90歳、さらには100歳になっても元気に歩ける人は多く存在する。高齢化に伴い、病気や怪我は避けられないが、病気になったからといって必ずしも寝たきりになるわけではない。
 
 病気になった人を寝たきりにさせない、あるいは既に寝たきりになってしまった人を改善させるのが慢性期医療の役割である。きちんと治療して、ADLの維持にとどまらず改善を図ることが慢性期医療の本質である。

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「国費投入の価値」が生まれる

 慢性期医療では、寝たきりを治療し、予防することが重要な任務である。その結果として、「国費投入の価値」が生まれる。

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 寝たきりをなくしたり減らしたりすることにより、介護者の負担が軽減される。看護師や介護士、家族を含むケアする側の介護時間が短縮される。寝たきりの状態では、常に付き添いが必要だが、自立した行動が可能になると介護時間が減少し、それによって介護に必要な人手も少なくて済むようになる。
 
 少子化に伴い、生産人口が減少する中で、介護離職を減らす必要がある。介護が必要な家族がいることで仕事ができなくなる人を減らすことは重要である。
 
 これにより、介護費用も削減される。要介護者やその家族にとって、寝たきり状態がなくなることはQOLの向上に繋がり、尊厳ある生活を送ることが可能になる。食事、トイレ、入浴といった日常生活の自立が実現する。

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スキルを向上させる取り組み

 会長に就任してから2年間、記者会見などを通じて寝たきり防止の方法について説明してきた。寝たきりは治療し、防止することが可能である。そのための具体的な方法を継続して発信している。

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 寝たきり防止に向けて、急性期、慢性期、介護には様々な取り組みが存在する。急性期では、総合診療医、基準リハビリテーション、基準看護、リハビリチームを通じて、入院後の患者のADLをできる限り落とさないように努める。
 
 慢性期では、落ちたADLをできる限り早期に引き上げる。介護では、さらにADLを引き上げるか、維持する。
 
 日本慢性期医療協会では、総合診療医の認定講座も開催している。また、メディカルケアマネジャーのセミナーや講座も実施しており、急性期・慢性期・介護における各機能に必要な人材を育成し、スキルを向上させる取り組みを行っている。

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質と成果で還元する

 今回のプラス改定は、質と成果で国民に還元する。QOLの改善や寝たきり防止を通じて国民負担への責任を果たす。改定内容を尊厳ある生活や介護費用の低減という成果で還元する必要がある。

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 アウトカムをどのように還元するか。人材や設備、DXの推進などを通じて、医療および介護の質を向上させることも必要である。診療報酬の増加は医療・介護の質の向上に結びつけなければならない。
 
 人材を増やす理由は、患者さんに還元するためである。急性期医療では病気を治療することが主な目的であるが、慢性期医療では病気の治療に加え、寝たきりを防ぎ、ADLを向上させることが必要である。
 
 寝たきり防止やQOL改善などの成果は、地域の人々や患者さん、利用者、その家族に還元し、診療報酬を上げることが結果として良かったと言われるような慢性期医療を目指したい。私からは以上である。

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ライフラインが断たれた病院も

[池端副会長]
 続いて、私からは能登半島地震に伴う被災への対応状況などを述べる。私が隣の福井県出身であることから、現状と会員の動向について現時点の情報をお伝えする。
 
 当院のある福井県越前市は震源地から約100キロメートル離れた場所に位置している。震度5強の揺れがあったが、病院の壁が少し外れるなどの軽微な被害にとどまり、大きな被害はなかった。現在、通常通りの診療を行っている。
 
 福井県全体について言えば、10数件の病院で軽微な被害が報告されているが、通常の診療ができない状況にある施設は特になく、無事な状態である。
 
 被災地からの退院患者やその受け入れに関して、本日行われた当会の理事会で、大きな被害を受けた2つの施設について話し合った。1つ目は能登町にある柳田温泉病院で、介護医療院もある。同院はライフラインが断たれ、入所者について搬送依頼があったため、現在、福井県と富山県内の施設へ搬送が行われている。
 
 もう1つは、当会の常任理事であり、地域包括ケア病棟協会会長である仲井培雄先生の施設である。震源地から少し離れた場所にあるが、スプリンクラーが全て故障して水浸しになり、老健施設に結構な被害があったと仲井先生から報告があった。道路にもかなりの被害があり、仲井先生のご自宅も被害を受けたという。
 
 現在、会員から大きな被害が報告されているのはこの2件だが、ほかにも軽微な被害があると聞いている。

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広域での受け入れ体制を組む

 被災地の現状については、報道等で案内されている通り、七尾市までアクセスが可能になっている。さらに、穴水までも行けるようになった。しかし、その先の輪島、珠洲、能登町への道路は1本しかなく、完全には開通していない状態。通行できるのは自衛隊の車がやっと通れる程度で、DMATは時々入っているが、JMATは全く入れない状況である。
 
 福井県からはDMATが全国から200隊以上動いていると思われるが、JMATはまだ20、30隊しか入っておらず、穴水までしか行けない。福井県ではJMATを10数隊組んでいるが、現在は活動を停止している。明日、第1陣がまず七尾まで行き、そこから先の支援を行う予定である。
 
 現在、被災地で最も大変な状況にあるのは、避難所で生活している人々、施設に入所している方々、または入院している方々である。特に水道が全く改善されておらず、復旧に数カ月かかる見込みであるため、劣悪な環境に置かれている。そのため、これらの方々の搬送の依頼が来ている。
 
 しかし、道路が通行不能なため、現在の搬送は自衛隊ヘリを使用し、小松空港や福井空港に降り、そこから陸路で搬送している。福井県では、1月7日に15名、9日には30名、合計45名の70歳から98歳までの要介護者を災害拠点病院で受け入れている。
 
 ただし、要介護者の中には要医療者でない方もいるため、拠点病院としては対応が難しい場合がある。このため、福井県では日慢協の会員病院を中心に、地域包括ケア病棟や療養病床で2次的に受け入れる体制を整えており、現在、その搬送の準備を進めている。
 
 石川県の災害対策本部やDMATの隊長とは常に連絡を取り合っている。要介護者の中には災害関連死につながる可能性のある方々が多数おり、これらの方々を広域に搬送する必要があると聞いている。橋本会長が述べられたように、老人保健課からの依頼に基づき、広域での受け入れ体制を組むことについて本日の理事会で話し合った。
 
 仲井培雄・地域包括ケア病棟協会会長からは、物資が届いても現地に送ることができない、運ぶことができない状況があるため、現金が最も必要ではないかという意見があった。協会としてもこのような対応を考えていく必要があると思っている。

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支援チームを強化している

 福井県は部分的に被災したが、福井県の知事は被災県というよりも、支援県として対策本部を設置し、現在、県医師会や看護協会等と連絡を取り合いながら災害対策を進めている。
 
 陸路でのアクセスが困難なため、海路でのアプローチも検討されているが、地震による海底の動きで船の入港が困難となっており、物資輸送も含め、海路による搬送も難しい状況である。自衛隊のホーバークラフトを使用すると聞いた。
 
 能登半島は山が中心で周囲が海に囲まれており、唯一の道路が基本的に1本しかないため、道路が閉鎖されている状態が続いている。このため、長期にわたる支援が必要となる見通しで、JMATも福井県でチームを組成し、数カ月単位の支援を見込んで再募集を行ってチームを強化している状況である。
 
 私は現在、福井県医師会長として5年目に入っているが、新型コロナウイルスの対応が終わったと思ったら、今度はこのような災害に直面している。強い気持ちで前向きに頑張っていきたいと思っている。以上、現地の状況などをお伝えした。
 
 中医協では、いよいよ重要な段階に入り、おそらく明日に諮問となり、その後、パブリックコメント、公聴会、そして短冊の議論が予定されている。しっかりと対応していきたいと考えている。

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