経営情報の活用、「慎重な対応が必要」 ── 実調の議論で池端副会長

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01_池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2022年10月26日の調査実施小委員会

 令和6年度改定に向けた医療経済実態調査(実調)について審議した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は経営情報の活用について「慎重な対応が必要ではないか。データ化して使用する場合でも参考値程度にすべきではないか」と見解を求めた。厚労省の担当者は「補完的な活用」と説明した。

 厚労省は10月26日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)をオンライン形式で開催した。

 この日の中医協は「4階建て」で、①薬価専門部会、②調査実施小委員会、③基本問題小委員会、④総会が約3時間にわたり開かれ、池端副会長はこのうち②④に出席した。

 最初に開かれた薬価専門部会では、中間年改定に向けた関係業界からのヒアリングを実施。続く調査実施小委員会で医療経済実態調査について審議した。基本問題小委員会では入院外来分科会、医療技術評価分科会からの報告を受け、総会ではこれら2つの分科会からの報告のほか、臨床検査2件の保険適用を承認した。

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経営情報のデータベースとの関連も

 調査実施小委員会では、前回10月5日の総会での議論などを踏まえた設計案が示された。主な調査項目に「看護の処遇改善による効果の把握」が盛り込まれたほか、有効回答率を向上させるための方策が示された。

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P2_【実-2】医療機関等調査について_2022年10月26日の調査実施小委

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 「その他」の項目には、「医療法人の事業報告書等の活用や医療法人の経営情報のデータベースとの関連」が挙がった。

 厚労省の担当者は、医政局の検討会で議論が開始したことを伝えた上で、「検討状況を注視しながら、引き続き、その活用などの在り方について検討してはどうか」と提案した。

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P28_【実-2】医療機関等調査について_2022年10月26日の調査実施小委

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改定議論の基礎となるのは実調

 質疑で、長島公之委員(日本医師会常任理事)は医療法人の経営情報データベースの活用について「共通する項目についてはフォーマットを共通化して、回答する医療機関側の手間を軽減すべき」と述べた。

 池端副会長は「実調と同様の項目についてこれを使うことはやぶさかではない」としながらも、「医療法人の経営情報のデータベースはあくまでも中医協の議論に資するためのデータではない。目的外使用になってしまう可能性がある」と懸念し、慎重な対応を求めた。
 
 厚労省の荻原和宏室長は「報酬改定の議論の基礎となるのはあくまで実調であることを踏まえ、かつ、それを補完的にデータベース情報なども活用しうる」と説明した。

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医療政策に関する議論に資するのか

 この日の会合では、回答率の低さが議論になった。安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「このような低いデータで本当にこの国の全体の医療政策に関する議論に資するのか非常に疑問」と苦言を呈し、「これまでの有効回答率、現在の抽出率で統計学的に十分なのか」と公益委員の見解を求めた。

 飯塚敏晃委員(東大大学院経済学研究科教授)は「DPCでは全員が回答するのが義務化されている」とし、「回答率が上がらないのであれば、そういう方向も含めて考えていくことも必要なぐらい回答率が低い」との認識を示した。

 飯塚委員はまた、医療法人の経営情報のデータベースとの関連について「全数が把握できるのは大変魅力的」とし、「同じデータを中医協でも使えるように最大限、医政局と調整いただいて統一的な情報をつくっていただきたい」と要望した。

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データベースは医療法人に限定される

 飯塚委員の発言に支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「経営情報のデータはほぼ100%の確率で把握できる」と賛同した。

 その上で松本委員は「先ほど池端先生と事務局との会話の中で、データベース側を参考というお話があったが、なぜ抽出率が高いものが参考で、低いものをメインにしなければいけないのか。事実の把握からすると非常に理解に苦しむ」と厚労省側の見解を求めた。

 荻原室長は「このデータベースは医療法人に限定されるので、それ以外の主体については必ずしも把握の対象にならない。データベースにおける仕組みそのものとの関係もある」と説明。「そういった観点から、(医政局の)検討会においても『補完的に』といったところで議論がスタートしていると認識している」と理解を求めた。

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02_2022年10月26日の調査実施小委員会

【池端幸彦副会長の発言要旨】
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 まず資料9ページ、委託費や経費の把握について意見を述べる。調査の負担軽減を踏まえる必要はあるが、給食費の調査も検討をお願いしたい。給食費は約20年間、上がっていない。最近、高熱費などの費用が増加している。そのため、病院団体としては、給食に関する経費がどの程度動いているのかがわかるような品目の調査を入れていただけるとありがたい。もちろん負担がない範囲で、どういう項目が可能か検討していただきたい。
 そのほか、抽出率や簡素化の問題、電子処方箋の推進等については大いに賛成したい。
 資料28ページ、医療法人の経営情報のデータベースとの関連については、長島委員がおっしゃったように実調と同様の項目について使うことはやぶさかでない。一方で、この医療法人の経営情報のデータベースはあくまでも中医協の議論に資するためのデータではないということで、これは目的外使用ということになってしまう可能性がある。実調でこれから調べる項目以外のことについて、この経営情報を使うとなると、ちょっと慎重な対応が必要ではないかと思う。もし、それをデータ化して使用する場合でも参考値程度にすべきではないか。あくまでも中医協は実調を中心に議論していくということで私は理解しているのだが、その理解でよろしいか。

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【厚労省保険局保険医療企画調査室・荻原和宏室長】
 経営情報のデータベースの検討については現在、医政局の検討会で具体的な検討をスタートさせたところである。その検討に当たり、データベースの情報などが実調に補完的に活用できるといったところが挙げられ、検討を行っている。 
 したがって、報酬改定の議論の基礎となるのはあくまで実調であることを踏まえて、かつ、それを補完的に、そういったデータベース情報なども活用しうるところが1つ今後の方向として考えられるのではないかと思っている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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