「クラスター発生等で評価が変わる」 ── 実調の議論で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2021年5月26日の中医協総会(オンライン開催)

 令和4年度診療報酬改定に向け、医療機関の経営状況などの調査について議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長はコロナの影響に地域差があると指摘した上で「クラスターが発生している場合とそうでない場合の差をどう解釈するかで評価が変わる」との認識を示した。この発言を受け、日本医師会の委員がクラスター発生に関する調査などを求めた。

 厚労省は5月26日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第480回会合をオンライン形式で開催し、当会からは診療側委員として池端副会長が出席した。

 厚労省は同日の総会に、医療経済実態調査(実調)に関する資料を提示。その中で、コロナの感染がいまだ収束していない状況を示しながらも、「できる限り直近のデータを把握することには意義がある」とし、「追加で単月調査を実施することとしてはどうか」と提案した。

 具体的には、直近のデータである令和3年6月の損益状況と、その比較対象である令和元年6月、2年6月の損益状況について単月調査を実施する。この提案は大筋で了承された。
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単月調査で「最新の状況を見る」

 次期改定の基礎資料となる今回の医療経済実態調査(実調)をめぐっては、コロナ感染流行期と収束後の経営状況などを比較するための「単月調査」の実施が争点となっていた。

 質疑で、池端副会長は「第4波が来ている現状で単月調査を3カ年(令和元年6月、2年6月、3年6月)実施する意義は、直近の状況をしっかり見るということに置き換わっているのではないかと思うが、そういう解釈でいいだろうか」と尋ねた。

 厚労省の担当者は「2月に提案した時は、6月の状況がある程度落ち着いていることを期待、予想したが、決して落ち着いている状況ではない」とし、「池端委員のおっしゃるとおり、最新の状況を見るという意義のほうに大きく傾いている」と答えた。
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都道府県の中でも地域差がある

 池端副会長はまた、今年6月の単月調査について「一定のデータが出たとしても、緊急事態措置、まん延防止措置等が指定されている地域と、それ以外の地域など感染状況にはかなり地域差がある」と指摘した。

 さらに、「都道府県の中でも大きな地域差がある。コロナを受け入れている場合、あるいはクラスターが発生している場合とそうでない場合がある」とし、「この差をどう解釈するかによって随分評価が変わってきてしまうのではないか」と見解を求めた。

 厚労省の担当者は「今回の調査で都道府県はもちろん、その医療機関の所在地も分かる」とし、「どういう地域差があるのか、どのようにデータを理解し、解釈するのかも、この場で議論いただきたい」と述べた。
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クラスター発生は「区別できない」

 池端副会長の発言に続き、有澤賢二委員(日本薬剤師会常務理事)も「地方でまだ拡大しているような所も見受けられる」とし、「地域あるいは都道府県の中で、どのような差があるのか。地域差、都道府県差なども考慮して極めて慎重な議論をしていただきたい」と求めた。

 こうした診療側の発言に城守国斗委員(日本医師会常任理事)も続いた。「先ほど池端委員から地域差の話があった」と切り出し、「そこそこの規模の病院においてはクラスターの発生の有無が経営状況に多大な影響を及ぼしていることは明白。今回の調査でクラスターの発生は確認できるのか」と尋ねた。

 厚労省の担当者は、コロナ患者の受け入れに関する「問11」を挙げ、「クラスターが発生した病院もこの1(受け入れ実績あり)に丸を付けていただく」としながらも、「クラスターが発生して1なのか、入院患者の受け入れがあって1なのかの区別は、この調査票ではできない」と説明した。
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【総-3-3】第23回医療経済実態調査(医療機関等調査)調査票(案)_2021年5月26日の中医協総会_ページ_04
            2021年5月26日の中医協総会資料「総-3-3」P4から抜粋
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 そこで、城守委員は「都道府県等に、この調査とは別に確認していただき、クラスターの発生した医療機関名を把握して突合すれば活用できるのではないか」などと提案した。
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コロナ対応の有無で「損益状況は違う」

 コロナの影響を受けた医療機関かどうかの調査については、公益委員も関心を寄せた。

 荒井耕委員(一橋大学大学院経営管理研究科教授)は「池端委員、その他の先生方がおっしゃったように、コロナにおいて病院ごとにどういう対応をしているかによって当然、損益状況は違う」との認識を示した。

 永瀬伸子委員(お茶の水女子大学基幹研究院人間科学系教授)は「いまさらなのだが、例えばコロナの入院患者数と収益との関係なども分かれば、より細かい分析も可能であろうとは思う」とコメントした。
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調査結果について慎重に丁寧に

 こうした議論を受け、最後に小塩会長が発言。「今までと違うので非常に丁寧にする必要があるという意見がたくさんあった」とまとめ、「こうした意見を事務局で受け止めて、丁寧に分析することを認識してほしい」と注文を付けた。

 厚労省の担当者は「(今回の医療経済実態調査以外で)ほかに、どういった調査ができるのかについては保険局だけでなく、ほかの部局とも相談しながら進めていきたい。ほぼ全ての委員から調査結果について慎重に丁寧にという意見を頂いたので、非常に強く心にとめながら、また相談させていただきたい」と応じた。

 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

 私も皆さんと同じような意見で、単月調査については賛同させていただきたいと思う。
 そこで質問だが、まず単月調査について。資料4ページに、単月調査を3年連続で、令和元年から3年度まで実施する意味が書かれている。それによると、「新型コロナウイルス感染症の影響が少ないと思われる月単位の損益の状況についても、調査を行うことについて提案をした」としている。
 一方で、現状を見ると第4波が来ている状況にある。決してコロナウイルスの感染症の影響が少ないのではなくて、むしろ多い。そのため、令和元年から3年までの単月調査の意味は少し変わってくるのではないか。以前の説明では、令和2年6月はコロナの影響が大きくて、今年6月に影響が小さくなっていた場合には、その差をもって診療報酬改定の影響などを見ることができるのではないかという意味もあったのではないかと考えている。
 しかし現状では、この単月調査を3カ年やることについての意義は「直近の状況をしっかり見る」ということに置き換わっているのではないかと思うが、そういう解釈でいいのかどうかという質問が1点。
 もう1点は、この単月調査をすることで、6月の調査で一定程度のデータが出たとしても、ご承知のとおり、今は緊急事態措置、あるいは、まん延防止措置等が指定されている地域と、それ以外の地域など、感染状況にはかなり地域差がある。あるいは、それぞれの都道府県の中でも大きな地域差がある。コロナを受け入れている場合、あるいはクラスターが発生している場合とそうでない場合がある。
 ここの差をどう解釈するかによって、随分評価が変わってきてしまうのではないか。その辺に関しては十分慎重にご検討いただきたいと思う。それについても何かお考えがあれば、お聞かせいただきたい。以上2点、質問させていただきたい。

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【厚労省保険局保険医療企画調査室・山田章平室長】
 池端委員のご指摘のとおり、2月にご提案させていただいた時には、6月の状況がある程度落ち着いていることを期待、予想して、令和3年6月は比較的落ち着いている状況のデータをとるという説明をさせていただいた。
 ただ、今般の状況を見ると、決して落ち着いている状況ではないと思っている。そのため、当初の意義から、やはり池端委員のおっしゃるとおり、最新の状況のデータをとるという意義のほうに大きく傾いていると理解している。
 ご質問の2点目だが、今回の調査について、都道府県はもちろん、その医療機関の所在地も分かるので、どういう地域差があるのか、どういうふうにデータを理解し、解釈するのかについても、それも含めて、この場で、ご議論をいただければと考えている。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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