「地方を置き去りにしないで」 ── 介護のICT化で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

2022年7月21日の介護文書委員会

 介護分野のICT化などを議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は介護職の高齢化や人材不足などが加速している現状を指摘した上で、「地方の介護事業者などが置き去りにされないようなシステムをつくっていただきたい」と訴えた。

 厚労省は7月21日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会の「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」(委員長=野口晴子・早稲田大学政治経済学術院教授)をオンライン形式で開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 この委員会は2019年8月に設置され、今回で10回目。介護文書をめぐる負担の軽減に向け、①簡素化、②標準化、③ICT等の活用──という「3つの視点」を踏まえた取り組みや対応策などを検討している。

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06_【資料】介護分野の文書に係る負担軽減について_2022年7月21日の介護文書委員会

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自治体の利用開始、第1期は2%

 厚労省は同日の会合に、「介護分野の文書に係る負担軽減について」と題する27ページの資料を提示。今年6月に閣議決定された政府方針を紹介した上で、その計画に盛り込まれた「電子申請届出システム」の導入スケジュールや、同システムの利用開始に向けた自治体の意向などを示した。

 それによると、介護事業所の指定申請等についてウェブ入力・電子申請を可能とするシステムの導入は「第1期の自治体では令和4年度下期頃からの運用開始を想定」とし、「その後、段階的に参加自治体を拡大していく」としている。

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21_【資料】介護分野の文書に係る負担軽減について_2022年7月21日の介護文書委員会

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 しかし、自治体の意向を見ると、第1期(令和4年度下半期)の開始を予定しているのは2%、第2期(令和5年度上半期)では3%にとどまっている。

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23_【資料】介護分野の文書に係る負担軽減について_2022年7月21日の介護文書委員会

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移行期では紙との併用を想定

 質疑で、全国老施協の桝田和平委員は「全ての自治体が使えるようになるのはかなり先の話になる」と見通した上で、「電子申請届出システムによって紙ベースの書類作成が可能なのか」と尋ねた。

 厚労省老健局高齢者支援課の須藤明彦課長は「全ての自治体が一斉に利用開始になるわけではないので、当然ながら移行期においては紙との併用になることを想定」としながらも、「システムを使って打ち込んだものを純粋に紙ベースのものに打ち出せるかは想定していなかったので検討したい」と答えた。

 その上で、須藤課長は「システム利用の意味は文書量の削減や負担の軽減であり、そのような本来の趣旨、求めるところがぶれないように検討していきたい」と理解を求めた。
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小さく産んで大きく育てる

 江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「昨年度の介護報酬改定においては当初、LIFEの入力に当たっていろいろなトラブルが生じた」と指摘。「トラブルを回避できるよう、対象サービスを徐々に拡大していくなど着実に進めていただきたい。システムエラー等も踏まえて各事業所に対し特段の配慮をお願いしたい」と述べた。

 木下亜希子委員(全国老人保健施設協会研修推進委員)は「介護報酬の核であったLIFEのシステムが現在もエラーを抱えている状況で、今年度に入って開発事業者が変更になったが、それでも改善の見通しは現時点では立っていない」と伝え、電子申請届出システムの整備状況などを懸念した。

 こうした意見を踏まえ、須藤課長は「10月から本格運用とはいえ、全体の2%程度、33自治体ということで、やはり、いきなり大きくやりだすとさまざまなエラーでとても対応しきれない、回らないことも十分考えられる」とし、「しっかりと段階を踏みながら、いわば『小さく産んで大きく育てる』ぐらいの気持ちでしっかりと丁寧に進めていきたい」と説明した。
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大規模な法人では進んでいるが

 小規模な事業所への配慮を求める声もあった。桝田委員は「アンケートを見ると、介護文書の負担軽減がさほど進んだとは思わないという回答が非常に多い」と指摘し、「規模の大きな法人は簡素化などが進んでいるが、小さい法人はそれほど感じていないという実態がある」と伝えた。

 橋本会長は「標準化や簡素化が進んだことは非常に良かった」と評価しながらも、「電子申請届出システムなどを広げていこうとすると技術的な面での負担がある」と懸念。介護職の高齢化や人手不足などの問題を挙げ、「技術面の負担に関しても丁寧に現場の指導をしてほしい。地方の介護事業者などが置き去りにされないようなシステムをつくっていただきたい」と求めた。

 岩澤由子委員(日本看護協会医療政策部長)は「訪問看護事業所は規模の小さな事業所もまだ多く、ICTに不慣れな事業所も多くある」とし、「丁寧でわかりやすい説明により、着実に情報が届くようにしていただきたい。オンライン資格確認なども含めたICT活用の全体像がわかるように周知をお願いしたい」と要望した。

【橋本会長の発言要旨】
 私ども日本慢性期医療協会には、介護施設を運営している会員も多いので、そうした立場から意見を述べたい。今回の事業は自治体も苦労している大変な事業であるが、この事業の大きな目的は介護保険の事業者や介護施設のスタッフの方々の負担を減らすことであると認識している。
 これまで9回にわたる会議において、全国統一の様式などの標準化や簡素化などについて非常に整理されて負担軽減につながっており、とても素晴らしい結果が出ていると思う。
 一方、事業者の立場から申し上げると、桝田委員もおっしゃられたように、事業者も介護スタッフらの人手が不足している状況がある。地方の介護施設には高齢のスタッフがおられる。人手不足やスタッフの高齢化が進んでいる。定年退職の時期が過ぎても、まだちょっと頑張って働いていただくような施設も地方にはたくさんあると思う。
 確かに、様式の標準化や簡素化が進んだことは非常に良かったと思うが、一方で「電子申請届出システム」などを広げていこうとすると、技術的な面での負担がやはりある。新たなことに取り組まなければいけないという思いが事業者やスタッフの人たちにもあると思う。そこで、技術的な面での負担に関しても丁寧に現場の指導をしていただきたいと感じている。
先進的な電子化が進むのはすごくいいことだと思うが、特に地方の介護事業者などが置き去りにされないというか、「もうついていけない」ということにならないようなシステムをつくっていただきたいと思っている。

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【野口晴子委員長(早稲田大学政治経済学術院教授】
 スタッフの高齢化という問題は深刻だと思う。貴重なご意見をありがとうございました。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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