「現場が動ける仕組み作りを」── 介護文書のICT化で橋本副会長

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橋本康子委員(日本慢性期医療協会副会長)_2021年3月17日の第8回介護文書負担軽減委員会

 介護文書のICT化などを議論した厚生労働省の会議で、日本慢性期医療協会の橋本康子副会長は、今回の介護報酬改定での対応を評価しながらも「現場の者はあまり分かっていない面もある」と指摘し、人材不足が深刻な地域などで「説明会や勉強会、実際に手を動かすような周知会などを開催してはどうか」と提案した。

 厚労省は3月17日、「介護分野の文書に係る負担軽減に関する専門委員会」(委員長=野口晴子・早稲田大学政治経済学術院教授)の第8回会合をオンライン形式で開催し、当会からは橋本副会長が委員として出席した。

 この会議は社会保障審議会(社保審)介護保険部会の下部に設置され、令和元年12月に「中間取りまとめ」を公表。そこで示された3つの視点(Ⅰ.簡素化 Ⅱ.標準化 Ⅲ.ICT化)を踏まえ、介護文書の半減に向けた検討が進められている。

 厚労省は同日の会合に、「ICT化」に関する対応案のほか、「簡素化」「標準化」に関する8項目の論点を示し、これらは全て了承された。
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01スライド_P17_【資料】介護分野の文書に係る負担軽減について_2021年3月17日の介護文書負担軽減委員会

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ウェブ入力・電子申請の実現へ

 8項目の論点に先立ち審議されたICT化については、「ウェブ入力・電子申請の実現案」が示された。既存の「介護サービス情報公表システム」の機能を拡張して紙媒体の削減を目指す。

 具体的には、事業者が基本的な申請情報を入力し、平面図や資格証などのPDFファイルを添付して自治体に申請。この申請情報はクラウド上に保存され、申請先の自治体には介護サービス事業所から指定申請の通知が届く。それを確認した自治体はクラウド上に保存された申請情報をダウンロードするという流れ。

 厚労省老健局総務課の福田悠課長補佐は「システムの改修を令和3年度中に行い、令和4年度に運用開始ができるよう対応を進めていきたい」と説明。この提案は委員の承認を得たが、ICT化に向けた懸念も示された。
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02スライド_P13_【資料】介護分野の文書に係る負担軽減について_2021年3月17日の介護文書負担軽減委員会

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市町村の取り組みが非常に低調

 質疑で、まず挙がった意見が地域格差。清原慶子委員(杏林大学客員教授)は、保険者のインセンティブ交付金での実施状況に触れながら、「文書削減の実態について都道府県、政令市、全市町村を比較すると一定の地域差がある」と指摘し、「導入の促進が図られる支援体制がきめ細かく必要ではないか」と提案した。

 厚労省が示したデータによると、「指定申請関連文書の標準化」について都道府県では78.7%の実施率だが、全市町村では24.9%と大きな開きがある。

 遠藤健委員(全国介護付きホーム協会代表理事)は「何か進めづらい理由があるのか、調査分析をして次の打つ手につなげてはどうか」と提案。山際淳委員(民間介護事業推進委員会代表委員)は「市町村の取り組みが非常に低調だが、その理由は分かるだろうか」と尋ねた。

 福田補佐は「来年度に各自治体にヒアリングを行い、実施していない理由、実施でできていない理由についても確認していきたい」と答えた。
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現場が大変混乱している

 ICT等の活用について「介護サービス情報公表システム」の機能を拡張する方針に対しては「最適な解決方法」、「介護行政におけるデジタル化の第一歩」などと評価する意見が多数を占めたが、大規模システムに伴う不安の声もあった。

 木下亜希子委員(全国老人保健施設協会研修推進委員)は、新たな科学的介護情報システム「LIFE」に言及し、「現場が大変混乱している。『LIFE』のシステムにログインするためのアカウントやパスワードのリリースが私の法人関連では全く事業所に到達していない。4月から改定だが、ほとんどの事業所が改定の詳細をまだ見ることすらできていない状況」と伝えた。

 その上で、事業所情報等のシステム化に向けた課題を提示。「実装されたシステムを現場がきちんと有効に活用できるか、そのテスト期間などが適切になされなければ現場はすぐに切り替えられない」とし、移行期間などの検討を求めた。
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市町村などで勉強会や周知会を

 地域格差の解消に向け、濵田和則委員(日本介護支援専門員協会副会長)は「自治体ごとの好事例を収集すれば、その中に負担軽減を図ることができるような方法がきっとある」と期待を込めた。

 後藤裕子委員(日本看護協会医療政策部長)は「国として自治体にしっかり周知していただくことが重要」と要望。「自治体の担当者が変わることもあるので、再び地域によって異なるルールができたり手続きが複雑化したりすることがないよう、例えば自治体向けのWEB研修を繰り返し行うなど効果的な方法を検討し、継続して実施する必要がある」と述べた。

 橋本副会長は、ICT化に積極的に取り組める施設と、人材不足などで厳しい状況にある施設が二極化することを懸念し、「もう少し簡単に分かりやすくできるように、各自治体や小さい単位の市町村などで勉強会や周知会などが必要ではないか」と提案した。

【橋本副会長の発言要旨】
 今回のICT化全体に関しては、ほかの委員の方々がおっしゃられたように、とても丁寧に作っていただいた。賛成したい。
ICT化について、「介護サービス情報公表システム」を活用するという提案だが、そうすると、現在の情報公表システムのボリュームがもう少し大きくなるように思う。
 今回の介護報酬改定などもそうだが、加算を取るためにたくさん打ち込まなければいけない。そういう作業がまた増える。加算が取れるということは質を上げていくためにとても大事であると思うので、作業が増えることは事情としては致し方ない。
 一方、CHASEやVISITが「LIFE」に集約化されると聞いている。それと今回の情報公表システムとの関連性などについて、現場の者はあまり分かっていない面もある。そのための人員を1人割かなければいけないという声も上がっている。
 そこまでする必要はないと思うし、実際、その必要がないように、もう少し簡単に分かりやすくできるように、各自治体や、あるいは、もう少し小さい単位の市町村など、そういった所での勉強会や周知会なども、それぞれの地域で必要ではないか。
 頑張ってICT化にどんどん進んでいる施設もあるが、地方では人員がなかなか集まらない。やや話は違うかもしれないが、加算を取るために、リハビリのスタッフや管理栄養士らを集めようと思ってもなかなか来てくれない。来てくれても加算の点数とあわない。そのため、「もう加算は取らない」「加算を取らないから人員は要らない」という施設もあり、二極化してしまうのではないかという懸念がある。
 今回の提案のようなことを整備していただければ、すごく頑張って、そちらの方向にどんどん行く施設もある。しかし、なかなかそこまで付いていけない施設もある。「付いていけない」というような感覚を持っているという声も頻繁に聞く。そういったことにならないように、もう少し小さな単位での説明会や勉強会、実際に手を動かすような周知会など、そういうこともしていただければよいと思う。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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