療養病床の終焉がすぐそこに近づいてきた ── 最後の会見で武久会長
日本慢性期医療協会の武久洋三会長は5月19日、会長職として最後の定例記者会見に臨み、「療養病床の終焉がすぐそこに近づいてきた。いまや療養病床の実態は『療養』ではなく『慢性期重症治療病床』となっている」とし、「療養病床の名前を実態に即したものに直ちに変えるべき」と述べた。
会見で武久会長は、療養病床の変遷を示した上で25対1の経過措置病床の廃止や療養病床の地域包括ケア病棟に対する減算措置などに触れ、「療養病床に対する評価は変わってきた」との認識を示し、「これからは慢性期の多機能病院として地域の信頼を得る努力をすべき」と語った。
司会を務めた矢野諭副会長は「武久会長の記者会見は、この形式では最後となるが、今後もいろいろな場で提言をされていくと思う。皆さん、武久会長の動向からは目を離さず、引き続きよろしくお願い申し上げる」と述べた。
この日の会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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病床の実態が「療養」ではない
[矢野諭副会長]
ただいまより、令和4年5月の定例記者会見を開催する。
[武久洋三会長]
2008年に会長に就任してから14年。6月の総会で引かせていただくつもりなので、このような形での記者会見は本日が最後である。療養病床の終焉がすぐそこに近づいてきたという話をしたい。
療養病床というネーミングができて長い歴史があるが、かつての療養病床と現在では全く違う。いまや療養病床は、病床の実態が「療養」ではなく、「慢性期重症治療病床」となっている。もはやこのような病床は療養病床とは言えない。したがって、「療養病床」と呼ぶのは問題ではないか。
現在の療養病床の入院患者は、決して療養が必要な患者ではない。むしろICUに近いような重度の高齢者がほとんどである。療養病床の名前を実態に即したものに直ちに変えるべきである。
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療養病床の評価は変わってきた
療養病床の変遷を見ると、まず昭和58年に特例許可老人病棟が導入された。この「特例許可老人病院入院医療管理料」が平成5年に「療養病床群入院医療管理料」となった。
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その後、平成12年に「療養病棟入院基本料」が新設され、介護療養病床も始まった。そして、平成18年に医療区分が入った。平成22年に療養病棟入院基本料が再編され、20対1・25対1という看護師の配置基準が入った。
そして平成30年、その25対1をやめて20対1に一本化することが決まった。25対1はもうなくなるということで「経過措置」となり、今年4月の改定では、経過措置の病棟はなんと25%の減算となった。
さらに、令和4年度改定では療養病床の地域包括ケア病棟は5%の減算となった。しかし、救急告示等の条件を満たせば減算は免除される。
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このように、療養病床に対する評価は変わってきたのである。
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療養的な療養病床はもうやめなさい
療養病床の「療養」という言葉には「養生する」という要素が強いが、「治療する」という要素も加わっている。療養病床の現状は、まさに「療養」というイメージには程遠い。重症で死に至る危険性の高い患者を8割も入院させて、そのうち50%以上の患者を日常生活に戻している実績がある。
今回の改定は、5%~25%の減算が特徴的である。5%減算されたら、病院によっては収支トントンの状態が少々赤字に転じる可能性がある。10%減算されると完全に赤字となる。
療養病棟入院基本料の経過措置病棟は、それまでの15%減算から25%減算となった。要するに「療養的な療養病床はもうやめなさい」ということである。
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「養生」という要素は非常に少ない
医療区分2・3患者の入院目的は、「養生」が主体か「治療」が主体かは明白である。積極的に治療して日常生活復帰を促進しなければならない。
ところが、現在の療養病床は医療区分2・3が80%以上で重症患者しかいない。「養生」という要素は非常に少ないにもかかわらず、いまだに療養病床と言われている。
私が2008年に日本療養病床協会の会長に推挙された際の条件として、協会名を日本慢性期医療協会にすることをお願いして日本慢性期医療協会となった。そして14年が経った。
その時の療養病床の状況と今の療養病床の状況はまるで違うが、14年前にも「療養病床」というイメージと実際の病院とは違うということが言いたかった。2008年に、それまでの会の名称を日本療養病床協会から日本慢性期医療協会に変えたのは正しかったと思う。
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「慢性期重症治療病床」に変えるべき
「療養病床」という病床名は「慢性期重症治療病床」に変えるべきである。
急性期医療だけでは日本の医療制度は完遂しない。そして全床療養病床だけの病院はやがてなくなっていくだろう。そのような国の方針がはっきりしてきた。地域の高齢の慢性患者や要介護者の急変も治療できないような病院は、地域で必要とされなくなる可能性がある。
これから会員病院は慢性期の多機能病院として、地域包括ケア病棟と回復期リハビリテーション病棟を配置し、2次救急指定を取って自宅・居住系施設等入所者の急変時対応を行い、地域多機能病院として地域の信頼を得る努力をするべきだと思う。
病院は看取りの場ではない。病院は治療の場である。治る見込みがある患者を治療する場である。看取りは介護医療院等で慎重に行うべきである。
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慢性期医療への理解が進んでいる
「良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たない」と14年間、ずっと叫び続けてきた。皆さま方のおかげで、慢性期医療に対しての国民の理解が非常に進んでいる。
われわれは、重症患者を急性期病院からお引き受けして、一生懸命に治そうと努力して、半分以上を日常に戻すことができている。これからもますます良質な慢性期医療がなければ日本の医療は成り立たないと思う。
急性期医療はもちろん重要で大切だが、高齢者患者が急性期病院でも多い。その後をきちんとフォローして日常に戻す慢性期医療はどうしても必要であるから、この病床の名前を「療養病床」で続けるのか、きちんと「慢性期治療病棟」「慢性期病床」として評価していただけるか、ぜひ皆さんでお考えいただきたい。
[矢野諭副会長]
武久会長の会見は、この形式では最後の記者会見である。今後も、いろいろな場で提言をされていくと思う。皆さん、武久会長の動向からは目を離さず、引き続きよろしくお願い申し上げる。
われわれも後に続くものとして強い責任を感じている。力はまだまだ及ばないが努力していく所存であるので、今後とも日本慢性期医療協会をどうぞよろしくお願いしたい。
(取材・執筆=新井裕充)
2022年5月20日