在宅医と病院の「伴走」への評価を ── 在宅医療の議論で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_第490回中医協総会(2021年10月13日)

 24時間体制で在宅療養を支える仕組みづくりが議論になった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「在宅医と病院が定期的に伴走する時間があれば、よりスムーズに在宅に移行できるのではないか」とし、「伴走する期間において、両方に対する評価があると在宅が進む」との考えを示した。

 厚労省は10月13日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第490回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に「在宅(その2) 在宅医療について」と題する46ページの資料を提示。最終ページに論点を示し、委員の意見を聴いた。

 資料の構成は、①在宅医療の現状等、②継続診療加算、③在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院、④外来を担当する医師と在宅を担当する医師の連携、⑤在宅ターミナルケア加算、⑥論点──の6項目となっている。
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01スライドP2_【総-6】在宅(その2)について_2021年10月13日の中医協総会

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団体等の意見を加味して「その2」

 令和4年度診療報酬改定に向けた「在宅」の検討は、8月25日の総会に続いて2回目。冒頭、厚労省保険局医療課の井内努課長は今回の資料の位置づけや今後のスケジュールを説明した。

 井内課長は「この夏の7月、8月に在宅、外来、入院等、それぞれ事務局提出の資料に基づき、『その1』というかたちで1ラウンド、議論していただいた」と振り返った上で、「そのご意見等を踏まえ、また、われわれに寄せられている、いろんな団体や学会等のご意見等を加味して、『その2』として、これから各項目に沿って議論していただきたい」と伝えた。
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「最後の最後まで自宅で」は1割未満

 最初のテーマである「在宅医療の現状等」について井内課長は「2025年に向け、在宅医療の需要は高齢化の進展や地域医療構想による病床の機能分化・連携により大きく増加する見込み」とし、「在宅医療の量的な供給を支えていかなければならない」とした。

 その上で、「死亡場所の推移」に関するデータを示し、「国民の約3割は『最期をむかえるときに生活したい場所』について『自宅』を希望している」と述べた。
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02スライドP4_【総-6】在宅(その2)について_2021年10月13日の中医協総会

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 質疑で、池端副会長は「最後の最後まで自宅でいたい人は1割未満ではないか」と疑問を呈し、「50年前と同じように8割の在宅死というのは現状の医療体制を考えると難しいのではないか。できるだけ長く在宅にいて、最後の最後、もし、どうしようもなくなったら入院で、そして、そこで亡くなることもあることを前提に、この在宅医療を考えていかなければいけない」と述べた。
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24時間体制、「協力医療機関が確保できない」

 24時間体制で在宅を支える環境を整備するため平成30年度改定で創設された「継続診療加算」については、届出が伸び悩んでいるデータが示された。井内課長は「24時間の連絡・往診体制構築に向けた協力医療機関が確保できないという理由で算定していないのが一番多いというアンケートがある」と述べた。

 その上で、東京・板橋区と千葉県・柏市の取り組みを先進事例として挙げ、「板橋区では、在宅医が学会等へ参加する等の事情で看取りが必要な患者の対応ができない可能性がある場合、別の在宅医が当該患者の対応を行えるシステムをつくっている。柏市では、主治医と副主治医とが相互に協力して患者に訪問診療を提供する」と紹介した。

 継続診療加算の論点では、「24時間の往診を行う体制を確保していない場合であっても、市町村・医師会と連携した上で在宅医療の提供体制が構築されている場合があることを踏まえ、要件の在り方について、どのように考えるか」としている。
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03スライドP46_【総-6】在宅(その2)について_2021年10月13日の中医協総会

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「他の医療機関への支援」の明確化を

 この日の会合では、24時間対応を支える仕組みづくりが議論になった。質疑で、支払側の安藤伸樹委員(全国健康保険協会理事長)は「在支診・在支病のように在宅医療において積極的役割を担う医療機関については、他医療機関の支援や医療、介護、障害福祉の現場での多職種連携の支援など、地域で連携して在宅医療提供体制を確保するための中核的な役割を果たしていただくことが期待されている」との認識を示した。

 その上で、安藤委員は「施設基準上も在支診・在支病の役割として明確化することを検討してはどうか。特に、他の医療機関への支援については、夜間の医師の不在時、患者の病状の急変等における支援といった点で、継続診療加算のほうで課題となっている協力医療機関の確保にも資する可能性があると考えているので検討が必要」と提案した。

 佐保昌一委員(日本労働組合総連合会総合政策推進局長)は「地域での医療機関のネットワークを推進し、複数の医療機関で在宅医療を担う仕組みづくりが重要」とし、「緩和する方向だけに進んでしまうと在宅医療提供の質にも影響するのではないか」と懸念した。
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24時間対応、「評価が見合っていない」

 一方、診療側の城守国斗委員(日本医師会常任理事)は「24時間対応の負担は在支診等とそれほど変わらない」とし、「継続診療加算を算定している在支診以外の通常の診療所と在支診等とでは大きな点数格差となっている。負担の大きさと比較して評価が見合っていない」と指摘した。
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04スライドP10_【総-6】在宅(その2)について_2021年10月13日の中医協総会

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 同じく診療側の松本吉郎委員(日本医師会常任理事)は「在支診以外の診療所が24時間要件の体制が整っていれば在支診を取っているはず。24時間体制ができないから在支診を取れていない」とし、「もう少し連携の裾野を広げて、この要件が緩和されるように考えていく必要がある」と述べた。

 池端副会長は「継続診療加算のボトルネックは何かを見極めた上で、必要であれば継続診療加算を取りやすい方向にする事務局の考えに私も大賛成。ぜひ、その方向で進めていただきたい」と述べた。
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伴走する期間、在宅医と病院の評価を

 こうした議論を踏まえ、支払側の幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)が問題提起。継続診療加算を算定していない理由として最も多い「協力医療機関が確保できない」との回答を「不思議に思った」とし、「この答えをどう受け取っていいのか。依頼しても断られているのか。どういう状況で確保できないのか。実態を教えてほしい」と質問した。

 これに城守委員が回答。「協力する医療機関には評価がされていないので、そのお願いをする上で、『点数は私のほうで取るが、24時間体制に協力していただけないか』というのは、やはり、お願いする医療機関としては大変遠慮せざるを得ないという点が非常に大きい」と述べた。

 その上で、城守委員は「その連携の在り方に対しての評価というのも何とかお願いしたいと思っている」と要望した。

 池端副会長も在宅医と支援病院との連携に対する評価を提案。「在宅医と病院が定期的に伴走する時間があれば、よりスムーズに在宅に移行できるのではないか。伴走する期間において、両方に対する評価があると在宅が進むのではないか」と述べた。

 池端副会長の発言要旨は以下のとおり。
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第490回中医協総会(2021年10月13日)

■ 在宅医療の現状等について
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 資料4ページの「死亡場所の推移」について円グラフがある。これまで厚労省が出してきた資料では、平成27年度だったと思うが、同じような質問の項目では棒グラフが常に使われていたと思う。最期は自宅等で迎えたいのが6割ぐらいある一方で、最後の最後まで自宅でいたいのは1割未満であるグラフが出ていたと思う。今、自宅死亡と病院死亡が50年前と大きく逆転しているが、50年前と同じように8割の在宅死というのは現状の医療体制を考えると難しいのではないか。「最後の最後まで自宅で」というのが1割であるというデータがあれば教えていただきたい。
 やはり、できるだけ長く在宅にいて、最後の最後、もし、どうしようもなくなったら入院で、そして、そこで亡くなるということも起きうることを前提に、この在宅医療を考えていかなければいけないと思う。そういった視点で、以下、各論点について意見を述べる。

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■ 継続診療加算について
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 城守委員をはじめ診療側委員がおっしゃったことに私も全く同感である。継続診療加算のボトルネックは何かを見極めた上で、必要であれば、少し継続診療加算を取りやすい方向にする事務局の考えに私も大賛成で、ぜひ、その方向で進めていただきたいと思う。
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■ 在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院について
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 在支診・在支病が受けやすいような方策を考えていただければいいと思っている。
 在支病の緊急往診「0件」はおかしいとの指摘がある。私の病院には訪問診療をする先生が少ないが、在宅患者が50人ぐらいいる。その方々に対する緊急往診は当然あるが、地域のかかりつけ医から緊急往診の依頼があったときに、自院の医師が往診に行くのはレアケースであり、入院していただくことになる場合が多い。そのため、緊急往診が「0件」になる。自院で訪問診療を行っていない在支病であれば、当然、緊急往診が少ないということはありうるという印象を持っている。

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■ 外来を担当する医師と在宅を担当する医師の連携について
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 在支診を持ちながら在宅に取り組んでいる私としても、こうした連携は非常に重要である。オンライン診療はまさにこういうときにある。オンライン診療を生かすことは非常に重要な視点であると感じている。
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■ 在宅ターミナルケア加算について
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 今回示されたように、在宅ターミナルケア加算が取れない事例は私も経験しているが、それほど多くはない。一方で、最近、私が感じているのは、このコロナ禍によって病院が面会が全くできないために、かえって、がんの末期で在宅を志向する方々が増えている。そんな印象を持っている。
 がんなので、どうしても治療に専念したい。医師側もそう考え、患者側もそう考える。しかし、医師に「もうこれ以上何もできない」と言われたとたんに、「では家に帰ります」となる場合もある。ギリギリまで病院にいて、最後、本当にもう何もできなくなった状態で、ポンと在宅に帰されて、そこにわれわれが依頼を受けて行くのだが、1週間ぐらいで、人間関係も構築できないうちに、あっという間に亡くなってしまう場合ある。
 これを何とかしたいと常々感じている。そのためには、がんの治療をしながら、あるいは緩和ケアの治療をしながら、でも病院にはずっとかかっていたい患者さんや家族のお気持ちを考えると、せめて何カ月かのうちの一定期間、伴走することが非常に重要ではないか。 
 急性期の病院でしっかり治療しながら、でも、また緩和ケアもしっかりみていただきながら、地域の先生方の外来でもみていく。あるいは訪問診療で時々入っていただいて、何か小さなことが起きたら訪問の先生にお願いする。そのように在宅医療と急性期病院が1カ月、2カ月ごとに定期的に伴走する時間があれば、よりスムーズに在宅に移行できるのではないか。人間関係がある程度、構築できれば、かかりつけの先生方も入ってきやすい。こういう体制に対する、何か評価はないか。3カ月なら3カ月、伴走する期間があることに対して、両方に対する評価があると、もう少し在宅がスムーズに進むのではないかということを感じたので、1つの提案として、お話しさせていただいた。

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■「協力医療機関が確保できない」との理由について
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 機能強化型在支診を持ちながら訪問診療に携わる立場として述べたい。継続診療加算は、在支診以外の診療所が他の医療機関との連携等によって24時間の往診体制と連絡体制を構築することが要件になっている。「夜間、緊急往診は全て在支病にお願いする。私は昼間だけ行く」というような連携も可能ではあるが、現実的にはあり得ない。それを言われてしまうと、在支病の負担が大きくなってしまう。
 実態を申し上げると、かかりつけの在宅医の高齢化が進んでおり、24時間365日に対して強い抵抗がある。私は「訪問看護等を使えば、そんなに多くはないですよ」と何度も地域の先生方に話しているが、「いや、そうは言っても、24時間対応を謳っているので行かなければペナルティがあるでしょう」と考えてしまい、なかなか進まないのが現実である。声をかけても、なかなか乗ってきてくれない。地域によって違いはあると思うが、そういう現状もある。現場からの意見ということで、お話しさせていただいた。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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