「医療から介護への移行にも医療分の基金を」── 医療介護総合会議で武久会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

01_武久洋三会長_20180914

 日本慢性期医療協会の武久洋三会長は9月14日、消費税財源(基金)の使い道などについて話し合う厚生労働省の会議で、「医療保険から介護施設に移行する場合にも医療分の基金を使えないか」と厚労省の見解をただしました。厚労省の担当者は「医政、老健、保険等の3局が連携しながら対応すべき論点だと思っている。現在、省内でも3局で対応に努めているところなので、今後もそういった方向で進めていきたい」との考えを示しました。

 厚労省は同日、医療・介護の関係者が一堂に会する「医療介護総合確保促進会議」(座長=田中滋・埼玉県立大理事長)を約1年ぶりに開催し、基金の活用方法や改善策などについて話し合いました。

 この会議は、消費税財源の活用方法などを定める「総合確保方針」を策定するため平成26年7月に設置。同方針は平成28年に改定され、昨年は9月に1回開催されました。12回目を迎えた今回は今年初となる開催で、会場となった都内の帝国ホテルには医療・介護団体の幹部ら約20人が集まりました。当協会の武久会長も構成員として出席しました。

 厚労省はこの日の会合で、①基金がどのように使われたか(執行状況、平成29年度交付状況等および平成30年度内示状況)、②今後、どのように改善すべきか(平成28年度事後評価等を踏まえた改善)──の2点を主なテーマとし、委員の意見を聴きました。

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02_事務局_20180914

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平成29年度の基金事業、医療機関の施設整備が最多の504億円

 ①の議題では、平成29年度の基金の交付状況が示されました。それによると、医療分では「医療機関の施設または設備の整備に関する事業」(事業区分1)が最も多く504億円(国費336億円)、次いで「医療従事者の確保・養成に関する事業」(事業区分4)が361億円(同241億円)、「居宅等における医療の提供に関する事業」(事業区分2)が39億円(同26億円)でした。

 「事業区分1」が最も多かった理由について、厚労省は骨太方針2016の方針を示した上で、「基金のメリハリある配分を行うこととされているため、病床の機能分化・連携に重点化した配分を行った」と説明。公民の割合(都道府県計画策定時点)については、「公的機関28.4%(171.0億円)、民間機関65.7%(395.8億円)、交付先未定5.9%(35.6億円)」と報告しました。質疑では、「公民の割合」をめぐる議論がありました。

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03_田中座長_20180914

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基金の配分の考え方について検討を求める声も

 厚労省はまた、平成30年度の基金(医療分)について今後の対応予定を示しました。医療機関の施設や設備の整備に関する事業(事業区分1)について、「約50億円の残額があるため、再度募集を行った上、追加で内示する予定」とした上で、「実施できる事業の対象範囲を拡大し、医療機関のダウンサイジング等に要する経費にも活用可能とした」と説明しました。

 こうした柔軟な対応に対して委員から賛同する声が上がりましたが、その一方で「居宅等における医療の提供に関する事業」(事業区分2)や、「医療従事者の確保に関する事業」(事業区分4)への配慮を求める意見もありました。

 日本医師会の今村聡副会長は「新たに、柔軟に『事業区分1』の対象範囲が拡大されたことは大変意義のあることだと思う」と評価しながらも、「やはり地域医療構想の実現に関しては『事業区分2』や『事業区分4』も非常に大事だろうと思っているので、区分2や4にも十分な配慮がなされるように改めてお願いを申し上げたい」と求めました。日本看護協会の齋藤訓子副会長も「人材の確保や在宅医療ができないと機能分化は難しい」と指摘し、「配分の考え方については、ぜひ検討をお願いしたい」と要望しました。

 現在、消費税財源である基金を活用して実施する都道府県の事業は5つに分かれており、事業区分1、2、4が「医療分」、3と5が「介護分」となっています。

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「スムーズに医療と介護が動いてトータルで予算が減る」

 質疑で武久会長は、介護医療院が4月からスタートしたことに触れながら、「介護療養病床から介護医療院に移っていくことが基本だが、医療療養病床から移る場合には医療保険から介護保険に変わる。小さな市町村では介護保険料が急に大きく上がったりすると困るのでペンディングになっている市町村があると聞いている」と指摘し、「スムーズに医療と介護が動いて、トータルで国の予算が減っていくという大義名分で大きなベクトルをつくっていただけると非常にありがたい」と述べました。

〇武久洋三会長
 この数年で、厚生労働省の中に「地域医療計画課」や「医療介護連携政策課」が新たに立ち上がり、非常に重要な仕事をされております。
 特に、「医療介護連携政策課」ができたときには私もとても期待をしました。セクショナリズムというのはどの役所にもどこの会社にもありますけれども、それまで医療と介護が別ルートになっていたんですね。そこをうまく連携していく課ができますと、非常にありがたいということで見ておりました。
 いま、この事業区分を見てみますと、5つの区分があります。1、2、4が「医療分」で、3と5が「介護分」となっています。このうち、介護従事者を増やす事業は5であり、医療従事者は4ということになっています。
 介護従事者については処遇改善加算という給付金が十分に出ますし、長年勤務している介護福祉士には給料を8万円上げるとか、そのように対応していただいて非常に結構なのですが、かたや医療保険ではそういうことはない。
 また、介護医療院が4月1日から発足しております。介護療養病床から介護医療院に移っていくことが基本ですが、医療療養病床から移る場合には、保険が医療保険から介護保険に変わるということで、小さな市町村では介護保険料が急に大きく上がったりすると困るというのでペンディングになっている市町村があるということも聞いております。
 しかし、これは考え方を変えれば、医療保険から介護保険に移ることになり、逆に国民健康保険料は減るわけです。大きな目で見ればよいのですが、各セクションで考えると、うちが損をするという感覚で、なかなか医療療養から介護医療院への申請がうまくいっていないという事実があるようです。われわれは日本慢性期医療協会ですから、そういう事例が多く耳に入ってきます。
 せっかく医療と介護を融合してうまく進めようとしているときですから、このへんのところをお考えいただき、ぜひ医療保険から介護施設に移行する場合にも、医療分の基金を一時的に使えないでしょうか。
 老健局は、介護医療院というものをつくられた。介護医療院をせっかくつくったのですから、これを充実させていくということは老健局での大きなマターだと思います。
 また、医療分につきましては、一般病床でも空床が非常に増えておりますので、そういう病床を介護医療院に変えるということも今後あり得ると思います。
 医療は医療、介護は介護。もう一度皆さんでお話し合いをしていただいて、スムーズに医療と介護が動いて、トータルとして国の予算が減っていくという大義名分で大きなベクトルをつくっていただけると非常にありがたいと思います。地域医療計画課の鈴木課長と医療介護連携政策課の宮崎課長にご意見を賜りたいと思います。

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〇田中滋座長(埼玉県立大理事長)
 鈴木課長からお願いいたします。
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〇厚労省医政局地域医療計画課・鈴木健彦課長
 ご質問ありがとうございます。武久先生のおっしゃるとおり、今回、介護医療院につきましてはご存じのとおり、介護療養病床と医療療養病床からそれぞれ転換できるということになっておりますが、自治体によっては躊躇する所があるという話は聞いております。
 全国的に見ますと、やはり医療療養病床も含めた全体的な計画、もしくは介護保険事業計画と整合性をとりながら、病床もしくは介護施設というものを各地域できちんと整備されていると思われます。
 結果的には、社会保障費全体が減っていく方向に進めるべきと思っております。先ほどからお話がありました転換に関する費用につきましては、介護は介護保険から出ておりますが、医療につきましても、これは医政局ではなくて、保険局の助成金から出させていただいているようなことがあります。
 そういったところで、医政局、老健局だけではなくて、保険局も含め3局が連携しながら対応すべき論点だと思っており、現在、省内でも3局で対応に努めているところでございます。

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〇田中滋座長(埼玉県立大理事長)
 宮崎課長、お願いいたします。
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〇厚労省保険局医療介護連携政策課・宮崎敦文課長
 医療介護連携政策課でございますけれども、まさに武久先生ご指摘の点も含めまして、厚生労働省の大きな課題がこの医療と介護の一体的な改革をどう進めていくかということでございますので、そのための医療介護連携政策課だと思います。
 今回の平成30年度同時改定に伴い、一体的な方針を出すということ、あるいは医療計画、介護保険事業計画の連携で、よく言われているところではございますけれども、スムーズに行く方向に向けてこれからもやるべきことは多々あると思います。鈴木課長からもお話がありましたけれども、いま3局で情報共有しながらいろいろな課題を話し合って直していくような、そういう取組を進めております。地域でスムーズに進むように引き続き努めていきたいと思います。今後もご指摘、ご指導を頂ければと思います。

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04_全体風景_20180914

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「医療機関の中にも介護従事者がたくさんいる」

 会議の後半では、議題②について各委員が意見を述べました。厚労省は、消費税財源である基金を使って実施した都道府県の主な事業を紹介した上で、「具体的な目標が設定されていない」などの課題を提示。今後の改善に向けた「評価指標(案)」を示し、大筋で了承を得ました。

 質疑で武久会長は、介護人材の処遇改善策に言及。「介護関係の事業所にも医療従事者がいるし、医療機関の中にも介護従事者がたくさんいる」と指摘した上で、「介護従事者が医療機関にいる場合にも、うまく調整していただけると現場は非常にスムーズにいくように思う」とコメントしました。

〇武久洋三会長
 資料2(事後評価の改善について)の24ページ(医療従事者の確保に関する事業)に、看護師(看護職員資質向上推進事業)と歯科衛生士(歯科衛生士復職支援研修事業)が載っています。
また、資料2の50ページ(事業区分4の国の評価指標案)にも、看護師(新人看護職員研修事業、看護師等養成所運営等事業、看護師等養成所施設整備等事業)とか、院内保育(院内保育所運営事業)とかが書かれています。私もようやく分かってきましたが、たぶん安倍首相が10年勤めた介護福祉士に給料8万円を上げると打ち出したときに、おそらく「介護従事者は介護関連施設にしかいない」と思い込んでいらっしゃったのではないでしょうか。
 介護関係の事業所にも、少数の医療従事者がいます。また、医療機関の中には介護従事者がたくさんいます。ただ、そのことを、あまり認識されてない方が一般的にはたくさんおられるのかなというような気がしました。
 ということで、この資料1(平成29年度交付状況等)の23ページ(医療従事者の確保に関する事業)にもありますように、「医療従事者の確保に関する事業」には、看護師さんなどに関する事業が主体になっています。もう少しマインドを緩くしていただかないと、実は病院にも介護福祉士は大勢います。介護福祉士は国家資格ですが、一部では「看護補助者」と呼ばれ、こんな失礼なことはないわけです。医療の中での介護というものに対する認識が世間一般に非常に弱いと思います。
 せめてここは専門家が集まっているので、ぜひ認識を新たにしていただいて、この縦割りの1、2、4と3、5に分かれている所を、医療の施設から介護施設に変わるときには、もっと力を、基金を使っていただきたい。介護従事者が医療機関に勤務するときも、このへんをうまく調整していただけると、現場は非常にスムーズにいくように思います。よろしくお願いいたします。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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