「第143回 社会保障審議会 介護給付費分科会」 出席のご報告
平成29年7月19日(水)、「第143回 社会保障審議会介護給付費分科会」が開催され、武久洋三会長が委員として出席いたしました。会議では下記の議題が話し合われました。
1.平成30年度介護報酬改定に向けて
(居宅介護支援、介護老人福祉施設、特定施設入居者生活介護 ※)
※特定施設入居者生活介護は他の項目に時間を要したため、
事務局から説明のみが行われ、委員からの意見・要望は次回以降となりました。
2.その他
(第143回介護給付費分科会 資料)
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000171816.html
今回の介護給付費分科会では事務局より最初に、平成30年度介護報酬改定に向けて、「居宅介護支援」が論点として提示されました。
○居宅介護支援事業所における人材育成の取組を促進する観点から、居宅介護支援事業所の管理者のあり方についてどのように考えるか。
○公正中立なケアマネジメントを確保する観点から、特定事業所集中減算のあり方や利用者やその家族に対する説明・同意プロセス等についてどう考えるか。
○退院後に円滑に必要な居宅サービスを受けられるようにするために、入院時を含めた医療機関と居宅介護支援事業所との更なる連携に向けた取組みについてどう考えるか。
○末期の悪性腫瘍の患者に係るケアマネジメントについてどう考えるか。
【武久洋三会長の「居宅介護支援」に関する発言】
論点1の管理者のあり方について、主任ケアマネジャーの取得は、ある程度の勤務年数と、金銭・時間に余裕さえあれば、試験もない研修を修了することで取得ができる。そのため現行の制度は、質の担保という点でなかなか難しいのではないか。
現実問題としてケアマネジャーの経験年数は必要だと思うが、例えば一年前にケアマネ資格を取得した地域連携室に長年勤務の社会福祉士と、今年ケアマネ資格を取得した訪問看護ステーションの訪問看護師がいたとする。どちらが適格かはわからないが、主任ケアマネジャーの経験年数だけが独り歩きしていること自体に違和感をおぼえる。やはり適切な人が管理者になる方がいいと個人的には思う。
ケアマネジャーに関してはこれまでの経過を見ていると、要望される項目がだんだん増えてきて、報酬とのアンバランスがどんどんと広がっている。これもしていない、あれもしていないと要求されながら、一方でこういう記録を残すように、ああいう記録を残すようにと強要される、非常に厳しい業界になっていると思う。
次に論点2の「特定事業所集中減算」について、これは何のためにできたのか。
これは独立ケアマネジャーを居宅支援事業所が、経済的な面も含めて、認めるか認めないかということであろう。そうでなければ事業所に併設されることが多いのは当たり前の話であり、そこに所属するケアマネジャーが経営者の顔色をうかがって「忖度」するのはある意味、当然であると思う。
自分と関係のあるケアサービスをわざとケアプランから外して他所のヘルパーに頼むとか、他所のデイケアに行くように促すというのは、逆におかしなことであるし、一体どうしてこんな減算ができたのかと思う。
独立ケアマネジャーを認めるのであれば特定事業所集中減算は意味がないが、経済的な理由でなかなか認められないと思う。そうであれば1つの事業体の中で居宅介護支援事業所が自分たちのサービスがいいと思ってプランに入れる場合は認めてもいいのではないか。
それよりも現状の制度は「アクセス時間」について顧みられていない。ケアマネジャーが病院に行くようにいわれるが、例えば県内の地方のケアマネジャーが県庁所在地の大病院に行く場合に、例えば片道1時間とすると、往復2時間がかかるということになる。これはヘルパーでも一緒で、たった20分のサービスを行うために往復と業務で2時間半をかけないといけない。これが集合渋滞区ならあっという間に済む。
当然経営側としては「アクセス時間」の短い集合住宅のようなサービスを選択するのは経済原則としては当たり前のことである。
この「アクセス時間」の問題を考えていかないと過疎地はますます過疎地化していく。例えば役場の近くのに集合住宅を作り、山の上に住んでいる人に集まって居住してもらい、集合的にサービスを提供することは、経済原則としてあまりに常識的なことだと思う。
そうであれば、私は「特定事業所集中減算」は廃止して、むしろよいケアプランを作って早く在宅に帰す、という施策にもっていくべきだと思う。ケアマネジャーが併設のケアサービスが優れていると思えば、ケアプランに入れるのは当然認めてもいいのではないか。
またケアマネジメントの公平中立という観点については、ケアマネジャーが独立してケアプランを立てるという観点だけではなく、併設のケアサービスのレベルアップを図るようにするべきであるという観点も必要ではないかと思う。
もしケアのサービスが悪いのに自分のサービスを優先したケアプランを作成するというのであれば、ケアマネジャー本人にとっても忸怩たるものがあると思うので、ケアのサービスのレベルアップに力を入れていけるような施策が必要だと思う。
最後に先ほども申し上げたが、ケアマネジャーについては現状、要求されることが多過ぎて、できないと集中的に非難を受ける業種であるので、非常に気の毒な状況に置かれている業種であると思っている。
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次に「介護老人福祉施設」の議題について、下記の論点が事務局より提示されました。
○介護老人福祉施設の入所者のプライバシーに配慮した上で、一人ひとりのニーズに即したケアを実現するために、どのような方策が考えられるか。
○介護老人福祉施設における看取りや医療ニーズへの対応をさらに進めるために、どのような方策が考えられるか。
○施設等における身体的拘束廃止に向けた取組をさらに進めるために、どのような方策が考えられるか。
○介護老人福祉施設における障害者支援について、どのように考えるか。
【武久洋三会長の「介護老人福祉施設」に関する発言】
まず論点2の「特養の看取り」についての意見を述べたい。私が長年医師をやっていて、モットーとして実践してきたことを申し上げると、「治る病気は治して差し上げる」、「患者ご本人の希望を大事に考える。つまり、ご家族の希望よりはご本人の希望を当然、第一に考える」という二点を守りながら医師を勤めてきた。
看取りについては、末期がんの場合や本当にだんだん老衰になり何をやっても受け付けないとなった場合に、特養であっても、在宅であっても、病院であっても、ご本人が苦しくない方法で、QOLを保っていく。痰が詰まっていたら吸引する、呼吸回数が多くて苦しそうであれば少なくとも酸素吸入をする、身体のいたるところが痛くなるので体位交換をする、栄養・水分が不足していれば投与するなど、非常に手間がかかることが多い。
ここで特養に看取りを推進していく方針であるが、特養の夜間には介護職員しかいない。介護職員がいくら喀痰吸引や経管栄養ができる研修を修了して訓練をしているといっても、重症者に対して医療的な面では非常に心細いことこの上ない状況である。
特養の看取りに関しては様々な問題がある。例えば特養から病院に送ると利用者が再入所することを想定して一定期間、施設のベッドを空けておかないといけないため、対象者が10人いるとなると経営的な問題が生じる。
また特養は病院に比べると非常に入所費用が安く抑えられているので、家族側は病院より特養にずっと入所させてほしいという希望が現実的にある。しかも特養の診療は医師が再診料が取れないこともあり、診療費が非常に安く抑えられている。
家族からすれば特養での医療提供レベルは費用負担が抑えられるのでいいのかもしれないが、できれば「治る病気は治して差し上げたい」というモットーもある。
またターミナル、終末期の定義でいえば日本医師会の終末期の定義をご紹介したい。「医師及び医療チームは『最善の治療』を施したとしても病気の進行を食い止められず終末に至る場合」とハッキリ定義されていて、この『最善の治療』という言葉は非常に大きいと思っている。
『最善の治療』を施してもほとんど厳しいものをターミナル期の定義するのであれば、どこまで『最善の治療』を施すべきなのかを考えている。
個人的に特養の嘱託医をしていた経験から、診療にいつも必ず行けるわけでもないし、週一回の回診でも入所者全員を診療できないこともある。そのため血液検査をするとかなり悪い結果が出ることもあり、最善の治療を提供できているとはいいがたい。
本来であれば病院に入院して治療した方がもっとよくなる場合でも、家族側の費用面から入院を反対され、施設側も入所者の健康管理に困ることがある。
また特養に診療所を作るようにという法律もあるが診療所長を設けなくてはいけないなど、実態に即さないところがある。先ほど申し上げた特養の再診料が取れないという問題は、以前に色々な問題があったのかもしれないが、病院や特養に入る重症者がどんどん増えている現状もあるので、特養における医療提供体制について、実態に即した抜本的な改革をお願いしたい。
特養は終のすみかとして定義されていて、一度入所したらほとんど退所しない現状があるが、利用者の状態がよくなれば、在宅に復帰できるようにしてもいいのではないか。そして在宅でまた状態が悪くなったら特養に戻れる権利を保証しておけばよいのではないか。
終のすみかなので、ターミナルを何もかも全部、特養でやるようにということであるが、これから介護医療院ができる。介護医療院は病院の中にあり、医師も常駐しているので、医療提供体制が特養より非常に優れている。つまり終のすみかとして介護医療院は特養よりターミナルにはふさわしい施設だと思う。
次いで論点1のユニットケアについて考えを申し上げたい。私はユニットケアやリハビリ病院も経営しているが、ユニットケアの場合、安くても月15万円は入所に必要である。もともと特養は所得の低い人向けに作られた施設であるのに、個人負担が大きくなってきている。
個人的な事例を申し上げると制度が変わる端境期に、ユニットケアにはならない程度の全館個室で、ユニットケアの点数ではない、入所者の費用負担を安く抑えた施設を作った。
ユニットケアができた時の日本は人口も増え、上り調子だったが、今は人口も減ってきているので全特養をユニットケアにしていこうという方針も、経済的な面から見直す時期にきているのではないか。
以上のことから私は特養の現在の法律の方針や特養の考え方について、どこかで抜本的に見直さないといけない時期にきている、と思っていることをお伝えしたい。
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資料には「特定施設入居者生活介護」の項目が用意されておりましたが、時間の都合により、事務局から現状・課題ならびに下記の論点の説明だけが行われ、委員からの意見・要望などの議論は次回以降への持ち越しとなりました。
○特定施設入居者生活介護は、幅広い状態の入居者を受け入れられる住まいサービスであり、要支援から中重度者の要介護者や、医療ニーズがある方、看取り対応が必要な方まで様々な状態の利用者を受け入れている実態を踏まえ、特定施設入居者生活介護における介護報酬上の評価のあり方についてどのように考えるか。
○特定施設入居者生活介護における短期利用(ショートステイ)について、有効なサービス利用を図るために、「短期利用の入居者の数は、特定施設入居者生活介護の入居定員の10%以下」としている要件のあり方について、どのように考えるか。
2017年7月20日