慢性期医療と創る未来 ~地域医療構想のありたい姿

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金沢学会記念シンポジウム

 「慢性期医療と創る未来 ─医療・介護とまち・ひと・しごと─」をテーマに、日本慢性期医療協会が10月27・28日の両日、金沢市内で開いた「第24回日本慢性期医療学会」では、27日の開会式に続いて、仲井培雄学会長を座長とする記念シンポジウムが開催されました。最初に登壇した厚生労働省医政局地域医療計画課の佐々木健課長は、「地域医療構想 ~医療機能の分化・連携における慢性期医療~」と題して講演し、地域医療構想の策定と療養病床の在り方等をめぐる問題に迫りました。

 続いて、産業医科大医学部の松田晋哉教授は、データに基づく政策形成の重要性を指摘。「それぞれの地域でデータをきちんと分析することが大事」と強調し、当協会と連携しながら「慢性期入院医療調査」などに取り組む姿勢を示しました。
 
 こうした二者の講演を受け、武久洋三会長は急性期病院の実態から見た機能分化の在り方や、療養病床の方向性などを展望し、「急性期医療こそがすべてであって、慢性期なんてほんの派生で付け足しだと思っているとしたら大きな間違いだということをこれから示していく」と力を込めました。以下、記念シンポジウムの模様をお伝えいたします。
 

■ どのような未来を住民とともに描いていけばよいのか

[座長(仲井培雄学会長)]
001_仲井培雄座長 2016年度の地域医療構想は秋ごろをめどに策定されることになっているが、現時点で多くの都道府県が構想や案を公表している。地域医療構想の策定に関しては、病床機能報告や医療需要の推定方法、協議の場の進め方など慣れないことばかりで検討課題も多いが、「治す医療」から「治し支える医療」への転換が進み、各都道府県でニーズに見合った病床を整備していくということは、明るい未来を創るために避けて通れない。
 
 慢性期医療は、療養病床のあり方、在宅医療への移行を含めた課題が多い。そこで地域医療構想策定の先行事例や制度の修正点を含めた今後の展開をご教示いただき、住民にとってもっとも身近な存在となる慢性期医療は何か、どのように地域医療構想に向き合い、どのような未来を住民とともに描いていけばよいのか、本シンポジウムを通して考えたい。

 シンポジストには、厚生労働省健康局がん疾病対策課長などの要職を歴任され、現在厚労省医政局地域医療計画課長の佐々木健課長をお招きした。制度をつくり、日本をつくる立場としてお話しいただく。
 また、産業医科大学医学部公衆衛生学教授松田晋哉先生は、病床機能報告制度の根幹をつくられ、さまざまなツールにより解析されたデータを駆使したアカデミアの立場でお話しいただく。
 日本慢性期医療協会会長の武久洋三先生には、慢性期医療の実践者であり、かつ日本を思う心とアイデアにあふれたオピニオンリーダーの立場としてお話いただく。
 
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【講演1】地域医療構想 ~医療機能の分化・連携における慢性期医療~

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 佐々木健課長は講演の冒頭で、地域医療構想を策定する意義について「将来像を共有し、おのおのがどんな役割を演じるのかを考えること」との考えを示し、療養病床の在り方と地域医療構想との関係に迫りました。
 
 佐々木課長は、医療提供体制をめぐる改革の流れや、療養病床の変遷などを振り返りながら、「医療内包型」と「医療外付け型」という新類型にも言及。一般病床や医療療養病床からの転換を進めた場合には介護保険制度にも影響を与える議論であることを紹介し、「在宅医療や慢性期の部分に関しては再度、各地域で検討をしてもらう場合もある」と述べました。
 
 慢性期医療については、「国民にとって安心・安全の最後の部分を担ってもらっている」と期待を込め、「各地域での地域医療構想の話し合いにぜひ積極的に参加して、各地域でどのように2025年を乗り切っていくのかを一緒になって考えてもらえれば幸い」と結びました。
 

■ 2025年をターゲット、しかし目の前の課題もある
 
[佐々木健氏(厚生労働省医政局地域医療計画課課長)]
002_佐々木健課長 本日は、地域医療構想について話したい。地域医療構想について、「病床削減」や「一定の型にはめる」というイメージを持つ方がいるかもしれないが、ポイントはこれを契機に地域の各病院の皆さん、医療関係者、地域住民を含めて、医療がどのようになっていくのかという将来像を共有し、おのおのがどんな役割を演じるのかを考えること。それが一番重要である。そういうことについて、全体を通してお伝えしたい。

 地域医療構想は、日本の人口が減少の段階に既に入っていて、今後全体としても今の推計では2060年頃には9000万人を割り込むということも言われている。この中で特徴的なのは、高齢化率で、高齢者の割合が増えていく。合計特殊出生率を維持したとしても、生産年齢人口が少なくなっていく。

 人口ピラミッドで表す。2025年をわれわれが政策の一つのターゲットにしているのは、団塊の世代が75歳以上になり医療・介護の需要が非常に高まるという背景がある。高齢化というと従来は地方のほうが高齢化率は高く、その対策というイメージだったが、2025年に向かっては、実は東京、神奈川、大阪などいわゆる大都市を抱える地域が高齢者が大きく増加し、全体の60%を占めるという動きである。石川県の高齢化率は急速な伸びではないが、全体としてはそういう特徴がある。

 東京、埼玉は全国の状況よりも高いスピードで高齢化が進むが、山形、島根などは全国に比べて低い伸びになっている。高齢化、つまり医療や介護の需要総量のピークがどの時点でくるのかが各地域によって相当違う。医療の将来像を議論するために、一つは2025年をイメージしてもらっているが、圏域、地域によっては既に目の前、今どうするかという課題もあると言える。
 

■ 政権交代前後で大きな流れは変わっていない

 地域医療構想はさまざまな議論を経て出てきている。平成24年、民主党政権時代の三党合意で、社会保障と税の一体改革、年金、医療、介護、少子化などについて基本的な合意があった。

 その前に平成20年社会保障国民会議の報告書があった。この中身にも病床機能分化、ネットワーク化、地域包括ケアとキーワードが入っていて、政権交代前後であっても基本的に大きな流れは変わっていない。

 25年12月にできた「社会保障改革プログラム法」といわれるものは、いつまでに何をするのかというメニューとスケジュールを書いたような法律。その一つとして、「医療介護総合確保推進法」といわれるものが26年6月に交付された。

 その基となった平成25年8月の社会保障制度改革国民会議報告書の中身は、病院完結型から地域完結型の医療介護。地域包括ケアシステムは、もともと介護保険制度のなかで出来上がった概念だが、当然、医療との連携がなければ完結しない。

 地域によって、医療・介護の需要のピークが違っているだけでなく、どういう方々が活躍されているか。医療の分野だけで言っても、民間が熱心に救急も含めて対応している地域から公的なところが中心になっている地域、さまざまあるので、そういう地域によっての連携も違ってくる。

 データに基づくシステムづくりということで、レセプトのデータベース、ナショナルデータベースなど、さまざまな情報を使って意見交換、考えをまとめていく。その方法として地域医療介護総合確保基金などを使っていく。
 医療と介護について、いろいろな会議でわれわれも検討している。例えば医療の分野では、社会保障制度審議会の医療部会があり、医療保険部会もあり、介護は介護保険部会や介護報酬を決める介護給付費分科会など、そういうさまざまな審議会がある。

 おのおの法律に基づいた会議体だが、それを統合する総合的な方針を決めていく場として「医療介護総合確保促進会議」を位置づけて、さまざまなメンバーで議論をしていることも、この法律で新しく動き出したことである。
 この「医療介護総合確保促進会議」で総合確保方針を決める。医療分野であれば、医療の基本方針を考え、それを医療経営に反映していく。介護と医療の計画の整合性を保つことを検討していくので、医療計画の中に地域医療構想も入ってくる。

 地域医療介護総合確保基金は消費税財源をもとにしたもので、都道府県が基金を作って、それを使って地域医療構想の具現化、在宅医療の推進、人材の養成などに役立てるということに使ってもらう。こういうものも使い、現場にもさまざまな話し合いの成果を反映してもらう目的がある。
 

■ 療養病床の医療需要、どのように推計していくか
 
 高度急性期機能、急性期機能、回復期機能の医療需要については、一定の推計方法がある。しかし、これはあくまでも地域医療構想の病床区分を議論していくための線引きの考え方であり、病床の必要数を算定するために2013年のデータを使って線引きをするとこの点数になるということで、必ずしも診療報酬と合致して連結しているものではない。

 例えば、医療資源投入量が3000点を取っていたから必ず高度急性期病床になれるという関係性ではない。便宜的に1つの境界線として設定して病床の必要量を出したということである。
 これに対し、療養病床の医療需要については、こうした計算方法でどのように地域医療構想を議論していったらいいのか、出てこない。療養病床はどのように推計するのか。都道府県別に療養病床の年齢調整入院需要率(性・年齢階級調整入院受療率)が違う。

 代表でよく取り上げて恐縮だが、受療率は高知県が高くて長野県が低い。このように都道府県で格差がある。慢性期、在宅医療等はいわゆるレセプトデータではなく、格差を是正するということで地域における病床必要量などについて設定した。在宅医療等は、介護保険制度との関係を見極めないと全体的なボリュームが各地域で変わってくるということにもなる。

 地域の実情に応じた慢性期機能と在宅医療等の需要推計の考え方については、A~Cの3パターンがある。Aパターンは最小値にもっていくというもので、Bパターンは一定の割合、中央値に近づけるということで、各地域で同じ割合でやってもらう。CパターンはBパターンをさらにゆっくりした形で近づけていく。この3つがある。これを構想圏域ごとに選んでもらうことになっている。
 在宅に関してはいろいろと意見があるが、医療区分1の70%、地域差の解消をしたり現時点で在宅を受けている人を考慮したりして推計をしている状況である。

 病床機能報告制度の4機能(高度急性期機能・急性期機能・回復期機能・慢性期機能)は、定義から見ても区別がつきにくいという意見を頂いているので、少しわかりやすくしなければならないと思っている。ただ、病床機能報告は現状であり、必要病床数は2013年のデータを基に2025年の状況を見たというものなので、もともとぴったりと現状で合致していなければならないというものではない。

 病院には、手術直後の患者から退院できる患者まで、さまざまな方が混在している。地域医療構想はその病床のボリュームを見ているので、必ずしも病棟の実際の配置等を考慮したものではなく、そういう点でのずれもある。
 

■ 療養病床の在り方等を地域医療構想との関係で考える

 療養病床の在り方等に関する検討が進んでいる。昭和48年の老人医療費無料化に伴い、いわゆる「老人病院」が増加した。昭和58年に「特例許可老人病院」が制度化された。平成5年には、「療養型病床群」というものが医療法の中に位置づけられた。

 介護保険法が平成12年に施行され、それを追うように平成13年の医療法改正で「療養病床」という考え方が医療法の中に出てきた。そのうち、介護保険法の中で「介護療養型医療施設」が位置づけられた。病床のカウントとしては、医療保険でみようが、介護保険でみようが、「療養病床」という意味では一緒ということになった。
 平成18年、医療保険制度改革と診療報酬・介護報酬同時改定があり、介護療養病床の平成23年度末での廃止が決定した。同時報酬改定に際して実態調査をした結果、医療療養病床と介護療養病床で入院患者の状態に大きな差が見られなかった。医療の必要性の高い患者と低い患者が同程度混在していたため、医療保険と介護保険の役割分担が課題となった。

 介護療養病床を介護療養型老人保健施設や従来型の老健施設、特別養護老人ホーム等に転換していただこうということで進めてきたが、結論を言うと、大半が医療療養病床に移ってきた。

 平成23年度末に廃止と決まった介護療養病床だが、実際、転換の進捗状況やさまざまな状況を踏まえて、平成24年度にいったん延長するということになっている。
 この延長になったものについて平成30年度の同時改定に向けてどうしていくかが、いま議論されている。社会保障審議会の特別部会で議論しているが、その前に、「もし新しい機能を付与するのであればどういうものを考えるのか」という検討が先に走っている。「医療内包型」と「医療外付け型」という新類型がすでに示されている。
 これを地域医療構想との関係で考えると、介護療養病床がどのように、介護保険の中で新しい類型としてどうしていくかという話もあるが、その新しい類型に例えば一般病床、さらには医療療養病床などから、もしくは介護保険制度の中の他の施設から転換することも認められるのかどうかの議論もある。

 それについて地域医療構想との関係で言うと、一般病床や医療療養病床が介護保険の新類型に動いていくことになると、「在宅医療等」という場合の「等」という部分は介護保険制度の中なので、その影響も出てくるだろう。その議論は年内に取りまとめたうえで、地域で議論してもらうために十分な情報を早めに提供したいと考えている。
 

■ 現場の実情に合わせてきめ細かに政策運用

 平成30年度に診療報酬と介護報酬の同時改定がある。医療計画もこの年から6年周期になるが、各都道府県で作成してもらうことになっている。この中身に地域医療構想を入れ込んでいただくということを検討会で議論している。
 その際、平成28年度中に立ててもらった地域医療構想の中身を少し新しく、先ほど紹介した介護療養病床の新しい転換先として想定されているものの状況を踏まえて、医療計画や介護保険事業計画を策定してもらうことになるので、そういうことを含めて、在宅医療の部分や慢性期の部分に関しては再度、各地域で検討をしてもらう場合もあると思う。
 そういうことから、療養病床、慢性期医療を考えた場合にはいろんな制度、今の動きに注目して考えてもらうということだと思う。

 直近では平成30年度に向けた動きがあるが、今日、申し上げたかったのは冒頭の一点に尽きる。いろいろな政策がなされているが、われわれとしては介護療養病床のこれまでの経緯をみると、現場の実情、各地域の状況に合わせてきめ細かに政策運用をしていかないと、なかなかうまくいかない。

 特に、慢性期医療の分野、機能分化の中では、国民にとって安心・安全の最後の部分を担ってもらっているので、そういう意味では、今後とも慢性期の医療の先生方のご意見を聴きながら、いろいろな施策を進めていきたい。
 まず、先生方なりご出席の方にお願いしたいのは、各地域での地域医療構想の話し合いにぜひ積極的に参加して、病院ごとの立ち位置や、各地域でどのように2025年を乗り切っていくのかを一緒になって考えてもらえれば幸いである。
 その成果をわれわれにも教えていただいて、それに合った施策、法律なり予算なりをわれわれも実施していきたい。今日は貴重な機会を頂いた。ありがとうございました。

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【講演2】地域医療構想・地域包括ケアと慢性期医療

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 DPCデータの分析や研究などで知られる松田晋哉教授は「データに基づいて議論することがとても大事である」と強調し、地域医療構想は自院の役割や機能を意識する契機になると説きました。
 
 療養病床の在り方にも言及し、厚労省の老健事業費による「慢性期入院医療調査」を日慢協の協力で実施することを紹介。「療養病床の入院患者の病態像について、より正確な把握をして、かつ質の強化も進めなければならない。そして慢性期医療の評価を高めるためには、慢性期医療の現場からもっと研究が出てこないといけない」と意欲を示しました。

 地域包括ケアの実現に向け、「それぞれの地域でデータをきちんと分析することが大事だ」と指摘し、「医療介護の全職種がいる地域包括ケア病棟あるいは療養病床を持つ病院、老健が地域包括ケアの中心になれないか。『地域包括ケアステーション』を併設する仕組みをつくれないか」と問いかけました。
 

■「典型的な急性期」のニーズが少し落ちている
 
[松田晋哉氏(産業医科大学医学部公衆衛生学教授)]
003_松田晋哉教授 地域医療構想は病床削減の計画ではあるが、データに基づいて地域の実情をまず分析して、そこから課題を抽出してその実現に向けた施策を、住民を含めた幅広い関係者による地域医療構想調整会議で検討して運用していく。これが地域医療構想だろうと考える。

 重要なポイントは、各医療機関が地域における、自院の病床機能のあり方をデータに基づいて考えることができることだろうと思う。地域医療構想の検討手順については、先に構想をつくるのではなく、まず調整会議を開き、それぞれの地域でデータを見てあり方を検討して、そのうえでまとめて構想をつくるのがよかったのではないかと思う。
 いずれにしても大事なのは、地域医療構想の策定がポイントになって、これを第7次医療計画、地域包括ケア計画、地域介護保険事業計画につながっていくことだと思う。

 実際にどういうデータを見てもらうか。例えば、DPCデータがある。現在、約3000病院のデータが出ているが、これを見てもらい、それぞれの地域ですべての急性期入院の医療が行われているのか、あるいは各病院の機能が年度間で安定しているのか、あるいは機能分化がどうなのかを見ていきたい。あるいはナショナルデータベースからも見てもらいながら分析していく。

 非常に大きな地域差がある。この地域差がまさに内閣府等で問題になっている。ただ、地域差の現象論を問題にするよりも中身はどうなのか、原因が何なのかと、ここまでしっかり分析することが大事だろうと考えている。

 2025年の必要病床数の推計結果が出ている。この中に、いくつか大事なことが書いてある。1つは、医療施設調査で134.7万床あるが、病床機能報告では123.4万床。届け出漏れを合わせても128万床ぐらいだと思うが、そうすると6万床から8万床、現時点で動いていない病床がある。

 今年の夏、東北地方をかなり回った。県庁所在地にあるような急性期の病院でも、病床稼働率が7割を割るような所も出始めている。そういう意味で、いわゆる「典型的な急性期」という所のニーズが少し落ちてきているのかなと思う。
 もう1つは、仮に現在入院している病態像の患者が将来も入院し続けるというと、2025年には152万床くらい必要になる。

 しかし、この国で病床を増やすということは、全国的に見ると難しいことだと思うので、好むと好まざるにかかわらず、25万床程度に相当する分の患者さんについては入院以外で診るという仕組みも含めて、具体的には在宅医療も含めて進めていかなければいけない。やれるかやれないかではなくて、やらなければいけない状況になっていると言える。
 

■ ネットワーク型のモデルをつくっていく

 慢性期の患者の増加にどう対応するのか。「典型的な急性期」が減ってきているため、回復期に位置づけられる一般病床がこれから必要になる。

 仮に、慢性期を減らしていくとした場合に、29.7万人から33.7万人という人数を本当に入院以外で診ることができるのか。やらなければいけないとしたら何をしなければいけないのか。これを考えなければいけない。
 地域医療構想を契機として、今後は回復期の病床が増加していくが、ここで例えば老人保健施設の機能分化をどうするのか、ということも考えなければいけない。老人保健施設も非常に重要なインフラなので、これをいかにうまく活用していくかも、医療の側から提案しないと難しい状況がくるのかなと思う。

 現在、典型的な、いわゆる急性期病院であるDPC病院においても、肺炎は誤嚥性肺炎、骨折に関しては高齢者の転倒に関連する骨折が増えてきている。要するに、医療・介護を総合的に考えなければいけない。
 誤嚥性肺炎にしても転倒に関連する骨折にしても、多くの場合は要支援、要介護高齢者から発生してくる。それをもう少しデータで確認しようとしており、福岡県では医療のレセプトと介護のレセプトを個人単位でつないで分析するということをやっている。

 脳梗塞で急性期病院に入院した患者が入院前後の半年でどういうサービスを受けているかを分析してみた。脳梗塞で急性期病院に入院しているが、1~2カ月後には大体65%から70%の方が回復期病院に入院し、半年経つと20%くらいの人が療養病床に入院し、14%くらいの人が訪問診療を受けている。

 また、入院中に3割くらいの人が肺炎を経験しているし、入院時に35%くらいの人は認知症がある。もっと大事なことは、実は半年前に40%の人は既に要支援、要介護ということで介護保険のサービスを使っているという事実である。急性期の脳梗塞で入院する患者さんの40%が、半年前に既に介護保険を使っている状態であるということの意味を考える必要がある。

 私たちは今まで、医療・介護の複合化を「急性期」「回復期」「慢性期」「介護」という形で、一方向の複合化を考えてきたが、現在はそうではない。「介護から医療へ」、「医療から介護へ」という形で、幅広い双方向の複合化が起きていることを意味している。

 私たちは今までどういうことを考えてきたか。「一次医療」「二次医療」「三次医療」というピラミッド型で考えてきた。これでは現実に合わない。データを見てもらうと、「急性期」「回復期」「慢性期」と、いろいろなものが介護も含めて同じ平面で相互に移動している。

 そうなってくると、ネットワーク型のモデルをつくっていかなければならない。階層ではなく、いろんな機能を持った医療施設、介護施設が同じ平面で、ネットワークで動いていかないと、こういう傷病構造の変化には付いていけないことを示しているのだろうと思う。
 

■ 在宅医療を支援するような病院群を地域で

 増加する肺炎・骨折への対応をどう考えるか。急性期で対応しなければならない肺炎や骨折が、実は介護保険の現場でつくられている。そうした肺炎や骨折に予防的な対応ができているのか。たぶんできていないだろう。そうすると、介護のほうに少し医療が踏み込んでいかないと、急性期の負荷を抑えることができないだろうと思う。

 要介護状態を悪化させない介護予防が必要になってくる。施設内の取り組み、医療と介護の協力体制、アセスメントと予防ケア、キュアプランをどうつくっていくか。こういう実践の場がまさに療養病床だと思うので、いろいろな実践を地域全体で展開していくことがこれから必要だろう。

 在宅医療もそんなに単純ではない。福岡県の1自治体データを示す。5万人くらいの人口の所である。訪問診療を受けていて在宅で訪問介護を受けていて、そして「認知症+がん」の患者さんがどのぐらいいるかを調べてみた。2011年4月に18人だったのが、2年後の2013年3月に37名で、直近では60名を超えている。こういう患者さんが倍々で増えてきている。本来であれば、こういう患者さんは療養病床や老健施設などで対応されるべきものだろう。ところが、老健施設はこういう患者さんに対応しにくい。

 なぜか。認知症の入所者にある時期からがんの治療が発生すると、抗がん剤は出来高だが、周辺の薬と周辺の治療の費用は出ない。少し赤字傾向になってくる。加えて、機能強化型の在宅復帰率と看取り率について、こういう患者はどちらにものりにくい。そういう意味で、こういった患者が在宅に増えてきている。

 でも、こういう患者の在宅を支援するためには、国がいま言っているような、「ほぼ在宅ときどき入院」を実現するような、在宅医療を支援するような病院群を地域でつくっていかないと難しいだろう。それがいわゆる地域包括ケア病床や療養病床のこれからの新しい役割になってくるのではないか。

 超高齢社会のケアマネジメントのあり方を考えないといけない。医療と介護は双方向に複合化している。入院病床の延長としての在宅医療が必要になるので、地域のナースステーションが必要になる。看護診断、看護的なマネジメントをしないといけない。その人がどういうリスクを持っていて、そのリスクが顕在化しないためにどういうサービスを提供するのかという、いわゆる看護診断、看護計画である。こういうものを進めていく必要がある。
 訪問看護が不必要な患者はいないと思う。密度が違うだけで、半年に1回行けばいい人もいれば、1日に何回も行かなければいけない人もいる。実際にはそれがうまくいっていない。
 

■ 思い込みではなくデータに基づいて議論する

 地域医療構想の重要な役割は、各医療機関が自分の状況を考えることができるようになったということだ。財政もかなり厳しくなっていく。地方と中央を合わせて1200兆円という負のストックができている。これをどう解消していくか、真正面から考えなければならない問題だろう。

 確かに、国が指摘しているように社会保障と国債費が非常に膨らんでいて、医療と介護もこれから増えていくだろうと言われている。実際に必要な医療の60%ぐらいしか保険料で賄えていなくて、40%は税金ということになるが、税金のほとんどが赤字国債による。このことは考えなければいけない。

 では、どうするのか。赤字の解消をしないといけないが、第一義的には収入を増やすことをしないといけないだろう。そのためには保険料率を上げる。消費増税などは避けられないと思うが、例えば国際的に見ると日本の保険料率の水準は低い。フランスが18%、ドイツが15.5%、日本は約10%である。こういうところをもう少し負荷をかけていかないといけない。

 今月の初めにアイルランドに行った。消費税率は20%だが、皆さんが納得して払ってくれている。大事なことは、国民にいまと同じ医療を受けたいのなら、いまと同じような介護が受けたいのなら、もう少し保険料なり消費税なりを入れなければいけないということを理解してもらうことだろう。

 データに基づいて議論することがとても大事である。思い込みではなくデータに基づいて議論する。内閣府の委員会に出席していて非常に気になるのが、慢性期医療の現場はいまだに社会的入院の温床であると思い込んでいる人がいる。しかし、介護保険制度が始まって16年経ち、さすがにそういう状況ではなくなってきているはずだ。いま、いろいろな病院に行ってみると、かつてのような老人臭が漂う病院はあまりないと思う。この16年でケアの技術がものすごく上がった。

 ところが、そこがきちんとデータとして上がってないことが問題で、それは私たち研究者の怠慢でもあるが、この状況を反省して、データに基づいて議論するということをやらなければならないと思っている。
 

■ 療養病床を持つ病院が地域包括ケアの中心になれないか

 このたび、厚労省の老健事業費による「慢性期入院医療調査」を日慢協の協力を得て実施することになった。療養病床の入院患者の病態像について、より正確な把握をして、かつ質の評価もしていきたいと思う。そして慢性期医療の評価を高めるためには、慢性期医療の現場からもっと研究が出てこないといけないと思っている。そういう研究をするベースを作るためにも、こういう調査事業を行っていきたいと思っているので、ぜひ協力をお願いしたい。

 NDBなどに基づいたデータがこれから毎年出てくるようになり、フォローアップが可能になった。それぞれの地域でのいろいろな進捗状況が見られるようになる。各地域の医療機関は、より良い医療を提供するために、それぞれの地域で責任をもってもらわないといけない。

 先ほどの佐々木先生の話にもあった。地域医療構想会議に積極的に参加して、あるべき医療をそれぞれの地域で話し合うことが重要だ。そのためには関係者全体がデータを見る目、データを解釈する能力を高めていく必要がある。
 高齢化の進展により「新しい」地域包括ケアの提供体制が求められる。医療度の高い高齢者への看護・介護の一体的提供が必要となる。地域医療構想により、医療・介護の機能分化と地域包括ケアが進む。

 地域包括ケアを実現するためには、非常に難しいが多様性を計画することが求められる。そのためには、それぞれの地域でデータをきちんと分析することが大事だし、地域包括ケアの基盤になる「住まい」を医療界としてどう保障していくのか、ここにやはり入っていかないといけない。地域包括ケアはネットワークだ。

 そういう意味で、医療介護の全職種がいる地域包括ケア病棟あるいは療養病床を持つ病院、老健が地域包括ケアの中心になれないか。すなわち、いま議論になっている「地域包括ケアステーション」を併設する仕組みをつくれないかと思っている。
 

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【講演3】絶対に断らない医療が地域包括ケアシステムを支える
 
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 本学会を主催した日本慢性期医療協会の武久洋三会長は冒頭で、地域包括ケアシステムの意義を解説。「広域急性期」「地域急性期」「地域包括期(回復期)」「慢性期」「在宅」という5つの円滑な循環が不可欠であることを指摘し、「どこかが断ってしまうと回らない」と強調しました。
 
 寝たきりの患者を減らすために慢性期病院が果たすべき役割を具体的に解説し、「高齢者でも、正しく治療したら良くなる。絡み合った難しい病状を改善するために、一つずつ解きほぐす治療と同時にリハビリを並行することが医療スタッフの使命。治る病気は治してあげるのが私たちの仕事である」と語りました。
 
 療養病床の在り方等に関する議論にも触れ、「こういう機会を通じて、大胆に医療の現場を変えていくのも一つの考え方」との見方を示し、「良質な慢性期医療がなければ、日本の医療は成り立たない」と締めくくりました。
 

■ 急性期病院のずるずる入院を温存している
 
[武久洋三氏(日本慢性期医療協会会長)]
 厚生労働省の医系技官として大胆な発言や政策を提案されている佐々木先生に敬意を表する。松田先生は推論と統計データを見事に結実させて、非常に説得力あるデータを出され、その功績は大きいと評価している。

004_武久洋三会長

 私は現場から話をさせていただく。地域包括ケアシステムというのは、「広域急性期」「地域急性期」「地域包括期(回復期)」「慢性期」「在宅」──という5つの区分が順調に回るということである。このうち、どこかが断ってしまうと回らない。

 急激に人口が減っていく日本。世界中で寝たきりが一番多いのは日本。欧米ではほとんど寝たきりを見ない。寝たきりは急性期医療での治療中と、治療後の継続入院中に主につくられる。

 昨年10月の中医協で示されたが、7対1入院基本料の届出医療機関であっても、医師の指示の見直しは「週1回程度」またはそれ以下に該当する患者が50%を超える医療機関もある。
これはどういうことか。回診はしていても指示の変更がないということは、病変が著しくないということにはなる。この理由は、若い人も高齢者も他の入院先がない、家族の希望ということで、7対1にずるずると入院している。高度急性期病院でも長く入院している。

 90日を越えて入院すると特定除外ということになる。平均在院日数の対象とする場合と療養病床の医療区分算定にしてしまい、値段を下げて平均在院日数の計算の対象としないということで甘いわけだが、急性期病院でずるずると入院をすることができる制度をまだ温存している。

 日本の病院の病床数は156万、療養病床は32万8858床。77.2万床ある急性期が53万床に、9年間で25万床くらい減らしてほしいという政策だから官僚の方は粛々とこの通りに進めるだろう。急性期から減っていく25万床ぐらいが、回復期に行ったり慢性期に行ったり、在宅のほうにシフトしていく。

 私はまず、急性期の3分の1を削減することが一番だろうと考える。慢性期はむしろ増床しないといけない。慢性期病床の削減は順序を間違っているのではないか。
 「慢性期医療は社会的入院の温床だ」と誤解されるが、実は中途半端な急性期医療が社会的入院の温床である。「とりあえず慢性期病床を減らせばいいのだ」というのは順序が違う。
 

■ 後期高齢者の入院医療費は大幅に削減できる

 7対1病院に大量の特定除外という慢性期患者が温存され、高い入院費が野放しにされている。7対1は当初予想の5万床から7倍までに急増した。7対1の条件はほとんど看護師数だけで、その他の縛りは少なかったため、全国で看護師争奪戦が起こったことは皆さんも覚えているだろう。

 損失を計算してみた。7対1が5万から35万床に増えたことと特定除外を容認したことにより、10年間で約21兆円の損失となる。現在の官僚は、この時の失敗を取り戻そうとしているかのように感じる。
 一方、年齢別に0歳から100歳までの医療費を見ると、75歳ぐらいから医療費が多くなってくる。ただし、この入院費は急性期病院の入院費なのか、慢性期病院の入院費なのか。多くは急性期病院である。本当にこれほど急性期病院に入院しなければいけないのだろうか。

 ここにボタンのかけ違いがある。後期高齢者になると外来より入院医療費が大きくなるが、発症の時にどのくらいの重症度かが分からないので、軽中度の疾患であっても高度急性期病院または急性期病院に入院することにより、1日20万円から5万円の入院医療費がかかる。慢性期病院なら1日2万円で済む。
 従って、重度や緊急性の高い疾患以外の後期高齢者の中軽度の疾病については、地域包括ケア病棟や慢性期病棟の地域のバックベッドに入院すれば、後期高齢者の入院医療費は大幅に削減が可能となる。急性期の効率化で浮いたお金は、きちんとした高度急性期の病院をさらに伸ばしていけばいい。

 地域のバックベッド病院では、むしろ総合診療医機能を持つ後期高齢者の治療に習熟した医師が必要となる。高齢者の治療は、一部の高度急性期の治療が必要な場合を除いて、慢性期医療を中心に担当している医師に任せるべきだろう。地域の慢性期病院は地域の慢性期患者の急変等も受けなければいけない。

 高齢者でも、正しく治療したら良くなる。絡み合った難しい病状を改善するために、一つずつ解きほぐす治療と同時にリハビリを並行することが医療スタッフの使命だ。治る病気は治してあげるのが私たちの仕事である。
 延命とは、本人が本来持っている寿命をより延ばすという意味だ。本人の寿命を越えて延命する必要はないと私は思う。しかし、治せる病態は治す。

 慢性期病院でも、在宅等の慢性期の患者が急性増悪した場合に、その治療機能を持たなければならない。医師は病気を治療して良くすることで評価される。その後の患者のQOLを保つことが大切だ。
 

■ リハビリは、人間性の回復を優先すべき

 リハビリは、人間性の回復を優先すべきである。おむつをして経管栄養している人が、歩行訓練に熱心になれるか。オムツをしている状態で「歩け、歩け」と言われても、本人のモチベーションはどうか。嚥下障害リハビリや膀胱直腸障害リハビリに多くの時間をとるべきである。

 歩行訓練リハビリの優先は正しいのか。PTやOT、STが筋力トレーニングや歩行訓練ばかりやっている。排せつなどの訓練を全然していない。患者さんはそれをしてほしいと言っている。サービス業なのに、サービスを受ける側と提供する側が意思の疎通をしていない。

 たとえ動けなくても、まずは口から食べて自分で排せつできることが人間の原点。自ら食べて自ら排せつできるようになれば車いす自立となり、そうすれば寝たきりにならずに自宅に帰れる人が増える。寝たきり半減の原因となる。

 当院で、積極的な嚥下訓練を実施してみた。3カ月足らずの訓練で、14%しかなかった経口摂取が83%になり、経管栄養がグッと減った。嚥下障害は高次機能障害に近いと思っていたので、こんなに良くなるとは私自身は思っていなかった。胃ろうをできるだけ早くつくって積極的にリハビリを行えば、経口摂取できるようになる可能性が非常に高い。

 膀胱直腸障害リハも実施してみた。オムツが半分、リハビリパンツ36%、カテーテルの入っている人が14%だったが、これが3カ月足らずでオムツはたったの3%、リハビリパンツはなんと28%で、われわれと同じ布パンツに変わった。
 このように、嚥下訓練と排せつ訓練はやればちゃんと効果が出る。その後もずっと、このような結果が出ている。
 

■ 良質な慢性期医療がなければ、日本の医療は成り立たない

 療養病床の在り方等に関する議論が進んでいる。ずっと今のまま残るという選択もある。しかし、こういう機会を通じて、大胆に医療の現場を変えていくのも一つの政策であり、考え方であろう。そういう意味で、転換支援策がどんどん行われることになっている。

 一方、医療療養病床の25対1をどうするか。中医協で検討するという方向性もあるが、中医協はあくまでも診療報酬、お金のことを検討する場である。私はやはり医政局、佐々木先生も中心になって、ここをどうするかということを厚労省の部会で決めていただきたい。

 今後、高齢者独居や高齢者同士の世帯が3割近くになる。認知症がどんどん増えている。これでは、在宅療養が事実上不可能である。

 病床転換施設等について、現場としては病床転換施設の対象病床を療養病床に限るように要望する。転換施設は、6.4㎡の4人部屋を基本とすることや、担当医師を専任とし、他病棟との併任を可能とすることを要望する。
 看護職員は、6対1の配置。介護職員は、重介護を想定して、6対1、5対1、4対1の選択を要望する。転換施設は、院内の他の病棟からの在宅復帰施設とすることや、介護・医療提供を包括にすることも要望したい。
 転換住居は、介護・医療は外付けに(往診・訪看・ヘルパーなどサ高住扱いに)すること。介護療養型医療施設については、6年間の経過措置を要望する。25対1医療療養病床については、2年間の経過措置を要望する。病床転換した施設等の経営が安定することを要望する。病床転換施設の介護保険報酬単位は転換老健に合わせる。

 このようなことをわれわれは考えている。いろいろ述べたが、良質な慢性期医療がなければ、日本の医療は成り立たない。急性期の先生方が急性期医療こそがすべてであって、慢性期なんてほんの派生で付け足しだと思っているとしたら大きな間違いだということを、これから示していこうと思う。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 

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