医療・介護とまち・ひと・しごと ── 第24回日本慢性期医療学会⑥

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第24回日本慢性期医療学会BLOG用原稿⑥

 「慢性期医療と創る未来 ─医療・介護とまち・ひと・しごと─」をテーマに、日本慢性期医療協会が10月27・28日の両日、金沢市内で開いた「第24回日本慢性期医療学会」の2日目のシンポジウム6は、「医療・介護とまち・ひと・しごと」をテーマに開かれました。人口動態の変化を見据えた医療提供体制の再構築などを提唱する大学教授、金沢市や富山市で医療・介護・福祉を基盤にした先駆的なコミュニティづくりなどに取り組む法人の代表者と医師が出席。当協会の安藤高朗副会長が座長を務めました。
 

■「時系列データを参照し、地域の今後の戦略を考える」── 高橋氏
 
 国際医療福祉大学医療福祉学部長の高橋泰氏は「日本の人口推移の地域差、これから地方圏と大都市圏でおきること」とのタイトルで、「『地域差』に対応した医療提供体制の改革」などについて話を進めました。

 高橋氏は、日本の「今後の大まかな年代別の人口推移」や「三大都市圏・地方圏の人口移動の推移」などを紹介。加えて、2010年と2050年の人口構成を視覚化した日本列島の“イラストマップ”も示し、地域医療構想について「自分の地域がどこに相当するのかを見定めて、この変化にどういうふうに対応して医療提供体制をつくっていくかを考える」と述べました。

 続いて、高橋氏は「『地域差』に対応した医療提供体制の改革」について、「日本全体でみると、高齢者向けの生活支援型の医療は増え、若い人向けの“とことん”医療型(急性期医療)はおそらく2~3割は需要が減るだろう」と指摘。地域ごとの目指すべき方向性(イメージ)の例として、▼岡山県や群馬県は全国と同じ動きをする。▼高知県は両方とも多すぎる。▼埼玉県は両方とも足りない──などを挙げました。

 一方、高橋氏は、現在の地域医療構想会議について「2025年の目標値だけを見て、議論をしている」と指摘。その上で、重要な視点として10年前の2005年から増床傾向にある地域と減床傾向にある地域とでは「対応が異なるだろう」と述べ、病床の増減のトレンドなどを考慮した対応の必要性を強調しました。
 
 これに関し、高橋氏は自ら作成したデータベースに基づき、2004年と2014年の全国各地の医師数や病床数の増減などを具体的に提示。それらについて説明した後、結語として、▼地域によって目標値が示されているが、結構多くの地域で目標値に自然に届きそうだ。 ▼減らすことよりも減り過ぎて地域の医療が保てないというところも結構ある──などと指摘し、「時系列データを参照して、地域の今後の戦略を考える」ことなどを挙げました。
 

■「“ごちゃまぜ”が新しい技術となって手本となる」── 雄谷氏

 石川県白山市の社会福祉法人佛子園理事長の雄谷良成氏は、障害の有無にかかわらず、多様な老若男女が“ごちゃまぜ”に共生する地域コミュニティの拠点「西圓寺」(小松市)や政府が推進している「日本版CCRC(生涯活躍のまち)」のモデル事業とされている「シェア金沢」など、佛子園の先駆的な取り組みを映像で紹介した後、「“ごちゃまぜ”ということを皆さんと考えていきたい」と話を進めました。

 雄谷氏は「祖父が戦災孤児を預かった寺で生まれたので、必然的に“ごちゃまぜ”の環境で育った」などと述べ、「廃寺(西圓寺)を復興した8年前から始まったプロジェクトが私たちの法人の大きな転機となった」と説明。西圓寺には、デイサービスや天然温泉、住民が集う憩いの場などがあり、重度心身障害の男性と認知症の高齢女性の交流を通じて起きた“変化”などを紹介するとともに、人口減少が続いていた中、西圓寺周辺(野田町)では若者の定住などによって55世帯から71世帯に増加したことも挙げ、多様な人々が“ごちゃまぜ”になって支え合う地域コミュニティの魅力を指摘しました。

 雄谷氏はまた、法人本部が昨年10月にオープンし、生涯活躍のまちに指定されている「B’sプロジェクト(多機能地域医療福祉連携の住民自治モデル)」を挙げ、「周辺には一般の住宅がたくさんあり、その中にはグループホームやサ高住などがあり、そこに駆け込み寺のように複合施設があるモデル」と説明。こうした“ごちゃまぜ”の空間で地域の人々が繰り広げる活動などを具体的に紹介し、「一緒にいることで、西圓寺のようにみんなが元気になっていく。その環境が心地いいものとして住みたくなる。そんなことがある」と述べました。

 このほか、輪島市の「新交通システムでつなぐ漆の里・生涯活躍のまちづくりプロジェクト(輪島KABULETプロジェクト)」も紹介。人と人がかかわっていく仕組みづくりの重要性を強調し、「“ごちゃまぜ”というのが、少子高齢先進国である日本の新しい技術となって、われわれと同じような道を歩もうとしている諸外国に対して手本となる時代も近いのではないか」との思いを語りました。
 

■「みんな頑張っていけるものをつくっていきたい」── 室谷氏
 
 富山市内で「アルペンビレッジ」(アルペン室谷クリニック・アルペンリハビレッジ・同ケアビレッジ・あしたねの森)を運営する医療法人社団アルペン会の常務理事と社会福祉法人アルペン会の法人本部長を務める室谷ゆかり氏は、「地域における自立と支え合い」を主題に、①これまでの流れ 医療も福祉も 高齢者もこどもも、②私たちの今 多世代交流の紹介、③富山の現状とこれから、④私たちがこれからできることは何か?──の順に話を進めました。

 室谷氏は①で、アルペングループの誕生から同リハビレッジの設立などを振り返った後、「あしたねの森」について、「子どもとその親と高齢者と、多世代が一つの施設内で混じり合える場所ということで、特養と保育園(現在は幼保連携型認定こども園)、発達障碍の子どもたちに対する放課後等デイサービスと学童保育、そういったものが向かい合わせに建つ場所をつくった」と説明しました。

 続いて、室谷氏は②で、▼運動会の交流競技“交流玉入れ”、▼手話教室で夢を叶えたデイ利用者、▼学童児による保育ボランティア──などを挙げ、あしたねの森を舞台にした多世代交流の様子を紹介しました。

 ④については、「あしたねの森」にある「ガンバ村保育園」で実践している「ヨコミネ式教育法」の様子などを紹介。その上で、「すべてを日常から考えてみて、私たちは子どももお年寄りも、不自由なことがあっても、みんなが、自分のために、誰かのために、何かをする場・できる場をもう一回つくりたい」との思いを述べました。

 これに関して室谷氏は、子どもの支援にかかわる都市部のNPO法人との“輪”が広がってきていることを紹介。このほか、「障碍のある人の働く場づくり」として、「農業的なかかわり、地場のものを生かした六次産業としての働き場をつくる、そういったことを進める予定」と述べました。

 最後に、アルペン会の“未来図”を示し、「地方の良さをみんなで共有しながら、都会の人、地方の人などと言わずに、人は人なりにみんな頑張っていける。そういったものをみんなでつくっていけたらと思っている」との抱負を語りました。
 

■「とても良い思い出づくりができればハッピーになる」── 安藤座長
 
 この後のディスカッションは、主に会場からの質問に答える形で進められました。
 雄谷氏は、日本版CCRCに関する質問に対し、「新しい日本は、何を中心にして人が集まり、まちとなって、地域となって発展させていくのかということを考えないといけない。われわれは、それが福祉や医療だと思っている」と指摘しました。

 その上で雄谷氏は、「日本全国、地域性があり、その場所によって、求められることは違うわけだから、その場所に応じた形で人がつながっていくありさまは違う。その土地に応じて住民主体というものを考えながら、みんなでやっていく」との必要性を強調し、「障害のある人、認知症の人、元気な人、元気でない人、病気の人、そういう人がいてこそ、まちが元気になるということを、われわれは理解すべき。そういった人たちをどこかへ隔離し、元気な人だけのまちが成り立っていく時代なのか。そうではないと思う」との認識を示しました。

 室谷氏は、「(日常の実践などで)何かにつまずいてしまった時に立ち上がるコツ」を問われ、自らの歩みをあらためて振り返った上で、「こういう私でもできるのだったら、どこかの似たような医師が逆に勇気を持って、『あの人でもできるのなら、私もやってみたい』と思ってくれるといい、そういったところで、自分のできること、何かできることがあったら、みんなも元気になるというところを頼りにしていて、やっていると意外と助けてくれる人も増えるから、それで何とか立ち直って頑張っている」と答えました。

 高橋氏は、安藤座長から雄谷氏と室谷氏の話を受ける形でコメントを求められ、「私はデータを使って全国を比較しつつ、今のライフワークとし、全国の全医療圏を回りながら、いろんな地域のミクロとマクロを見ている」などと述べた上で、「医療も介護も生活も基本的にマクロではなくミクロで、地域ごとの生活や実態を考えるときは基本的にミクロで考えるべきと思うが、一方、社会的なインフラをどうするか、人を支える仕組みをどうするかというときはマクロにしないといけない」と説明しました。

 高橋氏はまた、「今回、一番伝えたかったのは、地域性を踏まえて現実的な線を引こうということ。それで今度はミクロをどうするかということを考えていくこと」と指摘。長崎県新上五島町の事例を紹介し、「マクロとミクロの両方を見ながら、各論的にどうするかということをとらえて、あとは二人の話にもあったような、地域に応じた応用問題になっていくのではないか」との考えを示しました。

 安藤座長は最後に、「今日の話を聞いていて、地域包括ケアというのが高齢者の方に偏っているが、実際は地域包括ケアというのはそれだけではなく、小児、精神疾患を持っている方、障害者の方、そういう方たちが“ごちゃまぜ”になって初めて良いものができるのではないかと、地域包括“ごちゃまぜ”ケアでしょうか、そう思った」との感想を述べ、「医療・介護を通したまちづくり、人づくり、仕事だが、そういうことが行われて、最終的には、今日のシンポジウムで話されたように、とても良い思い出づくりというのができれば、本当にハッピーになるのではないかと思った」とまとめました。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 

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