介護療養病床のあり方を考える ── 第24回日本慢性期医療学会③

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【シンポ3】第24回学会BLOG用原稿③

 「慢性期医療と創る未来 ─医療・介護とまち・ひと・しごと─」をテーマに、日本慢性期医療協会が10月27・28日の両日、金沢市内で開いた「第24回日本慢性期医療学会」の1日目のシンポジウム③は、「介護療養病床のあり方を考える」をテーマに開かれました。厚生労働省幹部や大学教授、地域で療養病床などを運営している法人の理事長がシンポジストを務め、同協会の清水紘副会長が座長を務めました。
 

■ 介護療養型は給付費分科会で、新施設の人員配置などを決定 ── 鈴木氏
 
 厚労省老健局老人保健課課長の鈴木健彦氏は、今年6月から開催している社会保障審議会「療養病床の在り方等に関する特別部会」などで、「療養病床に対し、どのような議論が行われてきたのか。過去の経緯も振り返りながら説明したい」と前置きして話を進めました。

 鈴木氏は平成18年以降の療養病床に関する議論の主な経過や「療養病床の在り方等に関する検討会」(昨年1月~今年1月)について説明した後、特別部会での主な論点と第3回(10月15日)に委員から出た主な意見を報告。それを踏まえ、今回のシンポジウムの前日(10月26日)に開催された第4回の特別部会で提示した「これまでの議論の整理(案)」について説明しました。

 鈴木氏は「整理(案)」に示されている「Ⅰ 医療機能を内包した施設系サービス」と「Ⅱ医療を外から提供する居住スペースと医療機関の併設」について、それぞれの設置根拠(法律)や主な利用者像などを解説。続いて、「Ⅲ 新施設に関する法整備を行う場合のスケジュール(イメージ)」では、「介護療養型医療施設については30年3月末で廃止になるので、それまでに(社会保障審議会)介護給付費分科会で、新施設の人員配置や施設基準、報酬などを具体的に決定する。ここで点数と基準が出てくるということになる」などと説明しました。

 このほか、それ以外の論点として、「Ⅳ 転換支援策の取扱い」や「Ⅴ 医療療養病床25対1(診療報酬)の取扱い等」についても言及し、引き続き、特別部会で議論を深めていくとの意向を示しました。
(厚労省は12月7日の第7回特別部会で「療養病床の在り方等に関する議論の整理(案)」を提示し、部会長一任の形で了承されました)
 

■「いずれは10万以上の病床がなくなる意義はどういうことか」── 小山氏
 
 兵庫県立大学経営研究科の小山秀夫教授は「療養病床の在り方等に関する特別部会」の議論への感想を述べた後、1970年から2010年までの40年間で入院患者に占める70歳以上の比率が9.9%から57.8%へ急増しているなど、医療や介護を取り巻く環境が大きく変化してきたことを指摘。1983年の特例許可老人病院・特例許可外老人病院制度の創設から、2018年の介護療養病床と医療療養病床25対1の廃止に向けた現在の議論まで、一連の流れなどを説明しました。

 小山氏は介護療養病床と医療療養病床25対1の廃止について、「今、話になっているが、一筋縄ではいかないというか、日本の医療・介護制度の大問題と認識している」と強調。それらの廃止への対応として、▼ 職員数は温存し名称だけ変更する。 ▼ ケア付き多床室型有料老人ホーム化するのか。 ▼ 期間限定であっても20年後はどうするのか示す必要。 ▼ なぜ、介護老人保健施設ではいけないのか。 ▼ サービス付高齢者向け住宅ではいけない理由は何か──などの問題意識を示した上で、「最低限、プライバシーと個室化の療養環境も大事と思っているし、いずれは10万以上の病院病床がなくなる意義はどういうことなのか。大所高所から考えないといけない非常に重要な問題である」と指摘しました。

 また、慢性期医療の課題として、「その後の療養病床や慢性期医療をどのようにするのか、わが国の長期療養施設の質の向上をいかに図るのか、急性短期医療、急性長期医療、慢性急性期医療、そして慢性長期医療をどのように再構築し、介護保険施設や在宅とどのように結び付けていくのか、そして各地域でいかに有効で効率的な地域包括ケアを構築できるのか」と問いかけました。
 

■「療養病床は、多死社会において非常に大きな役割を果たす」── 桑名氏
 
 東京都清瀬市の社会福祉法人信愛報恩会信愛病院理事長の桑名斉氏は「東京都地域医療構想」を交え、話を進めました。都の二次保健医療圏間の患者の流出入状況や2025年の病床数の必要量等を挙げ、それに関する認識も説明。その上で、「介護療養病床がなくなってしまう場合、どういうところに視点を置いたらいいか」として、「多死」「認知症」「がん」の3つを挙げました。
 
 桑名氏はそれに関し、2030年の国内推定死亡者数(カッコ内は都)が165万人(13万人)のうち、「その他」が47万人(3万7,000人)となっていることを挙げ、「3万7,000人が都で行き場所がなくなる」と指摘。これに対し、介護療養型医療施設では他の介護保険施設と比較して看取り・ターミナルケアの実施が多いとのデータも挙げ、「これから見ても療養病床は、多死社会において非常に大きな役割を果たすと言える」と説明しました。

 こうしたことも踏まえ、桑名氏は「医療行為の多寡からみた選択肢」として、▼ 多くの医療行為を必要とする看取り、認知症は医療療養、 ▼ 多少の医療行為がともなう看取り、認知症は介護療養・老健・在宅、 ▼ 少しの医療行為があればできる看取り、認知症は特養・在宅――との考えを提示。「こういう見方で考えていけば、自分たちがどこへ行くのかを考える上で参考になる」と指摘しました。

 さらに、東京都慢性期医療協会が実施した「介護療養病床・医療療養病床(25対1)に関するアンケート調査」を挙げ、「国の政策を疑問視する声や、自宅療養になったときの大きな不安等を聞くことができた。引き続き介護療養病床のあり方について真剣に議論していく必要がある」などの認識を示しました。
 

■「各省庁も巻き込み、医療をはじめとした地方創生に取り組む」── 山上氏
 
 徳島県鳴門市の医療法人久仁会鳴門山上病院理事長の山上敦子氏は「地方の現状を報告するとともに、当院が取り組もうとしている方向性についても報告したい」と前置きした上で、「徳島県地域医療構想」で示された「2025年のあるべき医療提供体制をふまえた必要病床数推計」などについて説明しました。

 山上氏は、「徳島県内や中国四国地域での慢性期医療に対する主な意見」として、「平成28年度中国四国医師会連合総会」や「徳島県地域医療構想調整会議」での意見を紹介。同会議では、事務局から「削減というより、どう維持していくかの協議を願いたい」などの回答があったとし、「徳島県ではたとえ数値上は削減でも、現実としてはどう維持していくかを考えねばならない段階に入っている」との認識を示しました。

 こうした背景の中で、全体の病床数を200床から150床にダウンサイズする自院の新病院(平成30年3月竣工予定)計画を紹介。介護療養病床を医療療養病床に転換するなど「新病院になることに併せて医療機能を上げていく道を取ることにした」と述べるとともに、介護施設の方が適当な利用者は法人のネットワーク内の老健や特養、在宅サービスなどで受け止めていくほか、「地域ケアシステムの一員として地域の各サービスとの連携を強化する」との考えも示しました。

 山上氏はまとめとして、▼ 地方では人口減少、医療従事者の高齢化などにより地域医療崩壊の危機にある。 ▼ 大切な地域資源が失われてしまうことのないよう、各省庁も巻き込んで医療をはじめとした地方創生に取り組むべき。 ▼ 介護療養病床、25対1医療療養病床の廃止は避けられなさそうだが、現場が混乱しないようソフトランディングできるようにしてほしい──との見解を示しました。
 

■「介護療養病床として存続するのが一番と考えている」── 清水座長
 
 4氏の発表後、清水座長が介護療養病床廃止の経過、その際に示された根拠を振り返り、私見として「介護療養病床の廃止の撤回、要するに介護療養病床として存続するのが一番と考えている」と述べました。

 ディスカッションは、会場から鈴木氏への質問が相次ぐ形になりました。有床診療所に関し、鈴木氏は「地域の医療資源として必要と認識している。一方、有床診は減っている状況があり、今どのように確保していくのか、維持させていくのか、(厚労省)老健局だけではなく保険局、医政局と議論している。有床診に対する配慮をどういうふうにできるのか、きちんと議論し対応したい」と述べました。

 また、介護療養型老人保健施設と「医療内包型」との差や看護師配置に関し、鈴木氏は「今回の療養病床については、看取り、重介護・重医療の方々がいるということと、長期の生活施設になっていると分かってきたので、そういったところをきちんと評価しておくのが特に内包型の案1-1となっている。利用者像については少し差があることになっている」などと説明。その上で、「内包型、特に案1-1については、ターミナル、突発的な医療対応ということがあるので、看護師についても基本的にはきちんといていただくというような施設をコンセプトとして考えている」と述べました。

 さらに、看取りにかかわる医師の配置に関し、鈴木氏は「案1-1については、きちんとした24時間体制の看取り、ターミナルケアを行っていただくということで、現在の類型だと、療養機能強化型A・Bに相当するのではないかということで提案している」とした上で、「24時間体制をどうするのか、医師の配置をどうするのかということについては、機能とすれば、A・B相当の機能をきちんと守っていただくことを基準に、細かいところについては(厚労省・社会保障審議会の)介護給付費分科会などで、そのような方針も含めて議論したい」と述べました。

 今後のスケジュールについて鈴木氏は「12月初旬に特別部会のまとめ(報告書)を提出する。特別部会は医療保険部会と介護保険部会の合同部会になっているので、それぞれの部会に報告し、必要があれば、それに関する法改正が来年度以降に行われるスケジュールになっている」と伝えました。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 

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