「利用者の状態がよくなれば復帰を後押しし、悪くなればまた受け入れる」 第120回社会保障審議会・介護給付費分科会 出席のご報告

会長メッセージ 審議会

介護給付費分科会20150325

 平成27年3月25日、「第120回社会保障審議会・介護給付費分科会」が開催され、武久洋三会長が委員として出席いたしました。今回の主な議題は、「平成24年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査の結果」と「平成27年度介護報酬改定を踏まえた今後の課題」の2点です。武久洋三会長は、過疎地域への対応や医療と介護の連携、そして、平成27年度介護報酬改定を受けた事業所運営のあり方について次の意見を述べました。
 
◇武久洋三会長の発言

武久会長20150325* 平成27年度介護報酬改定では、地域区分の1級地(東京都特別区)について、上乗せ割合が18%から20%に引き上げられた。しかし、過疎地域こそ職員の賃金水準を見直す手当てをしなければ、深刻な人材不足を解消することができないのではないか。「訪問介護」について言えば、都市部では1日に10件程度訪問しているのに比べ、地方では1日3件程度にとどまっているのが実状である。「特別地域加算(15%加算)」や「中山間地域等における小規模事業所加算(10%加算)」、「中山間地域等に居住する者へのサービス提供加算(5%加算)」よりも東京都特別区の上乗せ割合の方が高いというのはいかがなものか。 
 中山間地域における訪問系・通所系サービス事業所の経営の意向をみると、事業の縮小や撤退を考えているところは「ほとんどみられなかった」とのことであるが、引くに引けない状況になってなかば意地になっているということなのではなかろうか。いよいよ行き詰まって撤退を余議なくされる事業所が出てくると、「地方創生」とはまるで逆行する結果となってしまう。なぜなら、医療や介護のサービスを受けることができない地域では、人は生活することはできないからである。 
 介護保険は、株式会社をはじめとした民間事業者も参入できる公的保険である。だが実際には、株式会社が利益を見込むことのできない過疎地域に参入するという例はほとんどない。このこと自体は、営利法人である株式会社を責めることはできない。そこで、株式会社に地域医療介護総合確保基金や補助金等による支援を提案し、過疎地域への参入を促してはどうか。いずれにしても、今回の調査結果をもって、中山間地域の事業運営が安定していると判断するのはあまりに短絡的である。是非、過疎地域のサービス環境を見直していくための足がかりと捉えていただきたい。

* 平成27年度介護報酬改定によって「通所介護」と「通所リハビリ」の機能が整理され、「活動と参加」に向けたリハビリを提供するという「通所リハビリ」の機能がより鮮明になった。最近では、「リハビリ特化型デイサービス」を標榜するような事業所もあり、「医療系サービス」と「福祉系サービス」とが曖昧になっていたので、とてもよい改定であると思う。それでもなお危惧するのは、医療保険におけるリハビリと介護保険におけるリハビリの落差である。つまり、病院における脳血管疾患等のリハビリであれば、発症から180日が算定日数の上限とされているため、その日数が経過して介護サービスに移行すると、提供されるリハビリの量が大きく落ち込むことになるという懸念である。病院で改善した患者の機能が、この落差のために再び低下してしまうということにもなりかねない。この落差は、医療側でフォローすることになるのか、介護側でフォローすることになるのか。たしかに「通所リハビリ」には、退院後間もない利用者に対する「短期集中個別リハビリテーション実施加算」がある。しかし、私はかねてより、診療報酬上、リハビリの算定日数に上限があること自体に強く疑問を抱いている。リハビリは継続して必要なサービスである。どのくらいの量のリハビリをどこまで公的保険でカバーするのかということは別途考える必要があるが、日数で一律に断ち切ってしまうという選択肢はないであろう。医療と介護との円滑な連携を考えていかなければならない。

* いかに加算をとって減収を少なくしていくかという介護報酬改定セミナーが盛んであるが、私が運営する介護事業所では、「とくに何もしない」という方針を貫いている。今までどおりのサービスの提供に徹するということである。このように考えるのは、報酬改定とは、地域のニーズに応じてサービスを提供してきたそれまでの実績に対する評価であると理解しているからである。したがって、「認知症加算」と「中重度者ケア体制加算」が新設された「通所介護」を例にして言えば、これまで軽度の利用者を対象としたレクリエーションのみを提供してきた事業所が、これからは認知症患者や中重度者しか受け入れない、と態度を一変させることが適切な振る舞いとは到底考えられない。私はやはり、地域の必要に合わせて、軽度の利用者についても重度の利用者についても満遍なくサービスを提供していくのがあるべき姿であると信じている。
また何よりも、利用者の状態がよくなれば、地域に復帰させていくということをあらためて意識する必要があろう。とくに特養については「終の棲家」であるという認識が広く定着しているが、たとえ特養であっても退所の促進を考えないでよいということはない。特養の「在宅・入所相互利用」を推進するため、その加算要件が緩和されたが、どの施設種別であっても、利用者の状態がよくなれば復帰を後押しし、悪くなればまた受け入れるという自由度が地域を支えていくのである。

○第120回社会保障審議会・介護給付費分科会の資料は、厚生労働省のホームページを参照してください。
 ⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho.html?tid=126698
 

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