「高齢者医療のポイント」をテーマに東大病院の秋下教授が講演

協会の活動等

秋下雅弘先生(東大医学部附属病院・老年病科教授)

 今年7月、東京大学医学部附属病院・老年病科の教授に就任した秋下雅弘氏が8月8日、日本慢性期医療協会(日慢協)の役員らを対象に講演し、「高齢者医療の失敗は、先進国である日本の失敗を世界に証明してしまうことになる。そうならないように高齢者医療を考えていくという意気込みで、われわれは高齢者医療に取り組む必要がある」と訴え、高齢者医療に必要な知識やスキルなどを紹介しました。

 講演のテーマは、「高齢者医療のポイント」。秋下氏は冒頭、ご自身の経歴を説明するなかで、入局した頃を振り返り、「当時の老年医学は高齢者の病気をみており、病気を持つ高齢者をみるという現在の視点とかなり違っていた。今から考えると古いが、患者の年齢層も若かった」と指摘。ハーバード大学への留学や東大での研究などを通じ、老年医学に関する理解を深めた経緯を説明しました。秋下氏は「高齢者医療に必要な知識とスキル」として、①全身を管理できる医学知識、②老年症候群の理解と対処、③生活機能の評価(CGA)と治療・ケアへの反映、④薬物療法の工夫、減薬介入、⑤(地域・多職種・多科)連携──の5点を示しました。

 わが国の高齢化の特徴については、①74歳までの高齢者は増えない、②複数疾患を抱える75歳以上の高齢者が増える、③大都市部における高齢化が急速に進行する──の3点を挙げ、「再生医療の実用化が間に合わないとしたら、どう対応していくべきか」と問題提起。高齢者医療の2大課題として「認知症」と「転倒・骨折」を挙げ、自立と要介護の中間に位置する「Frailty」という概念を軸にした地域・多職種連携の必要性を説きました。

 秋下氏は、「高齢者医療の在り方を間違うと医療が崩壊し、それは日本が崩壊することを意味するのではないか」と述べ、高齢者医療に積極的に取り組んでいく必要があると指摘。「高齢者医療の失敗は、先進国である日本の失敗を世界に証明してしまうことになる。そうならないように高齢者医療を考えていくという意気込みで、われわれは高齢者医療に取り組む必要がある」と訴えました。
 

■ 地域で幅広く連携し、高齢者医療を支える
 

 超高齢社会における課題として秋下氏は、「フィジカル」と「メンタル」、さらに「ソーシャル」を挙げ、独居老人や老々介護、経済面など、高齢者の「ソーシャル」な問題に対して、医療職種だけでなく地域で幅広く連携し、支えていく必要性を指摘。高齢化が急速に進むなかで求められる医師の役割について秋下氏は「総合内科や総合診療科、かかりつけ医と呼ばれる存在と、老年科医とは違う」と述べ、「老年症候群が取り扱えるかどうか、そして生活機能を評価するCGA、この2つが高齢者医療に携わる医師独特のスキルである」とし、東大病院での症例などを具体的に紹介しました。

 そのうえで秋下氏は、「若年者を対象にした疾患のガイドラインは多く存在するが、認知症や寝たきりの高齢者らに対応するための指針はない。エビデンスがない」と指摘。日本老年医学会や全国老人保健施設協会、日慢協などと共同で策定した「高齢者に対する適切な医療提供の指針」をはじめ、現在の取組みや研究の成果などを紹介しました。

 秋下氏は多剤投与の現状にも言及し、「疾患数が多いと薬が増える。それと同様に、医療機関が多いと薬が増える。担当する医師が1人から2人になると7剤以上になるリスクが2倍になる」との調査データも示したうえで、「医療機関のほかに有料老人ホームなどを経営しているならば、かかりつけ医を1人決めてあげてほしい」と要望。そのほか、急性期病院と慢性期病院との連携の在り方や医療事故の問題など、高齢者医療全般にわたり幅広い視点を提示しました。

 講演後の質疑応答で日慢協の武久洋三会長から「急性期病院ではなぜ多くの薬を出すのか」と問われ、秋下氏が「急性期病院の医師は保守的になりがちな面があるが、今後は医療連携などを通じて、そうした悪い連鎖を断ち切る必要がある」と答えるなど、急性期病院を支える慢性期病院の役割が増大していることを改めて確認する講演となりました。
 
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