「第20回日本慢性期医療学会福井大会」のご報告(8) ─ シンポ5(日本慢性期医療協会への期待)

協会の活動等 役員メッセージ

日本慢性期医療学会福井大会シンポ5(天本宏・初代会長)

 

■ パネルディスカッション
 

[池端氏]
池端幸彦氏(大会長、日慢協副会長) 梅村先生も交えて討論したかったが、所用のためすぐに東京に戻らなければならないため、3名のシンポジストで行いたい。私からいくつかテーマを投げかけさせていただく。

 まず地域差の問題。天本先生や齊藤先生の地域では、これから一気に高齢化が進むが、福井のように地方では高齢化がトーンダウンしていく。そういう地域差の問題がある。

 また、2025年に向けた「地域包括ケアシステム」に関する意見などもお聞かせ願いたい。まず天本先生からいかがでしょうか。
 

[天本氏]
 まず地域差について述べたい。東京の多摩ニュータウンは毎年1%ずつ65歳以上が増えている。大都市・東京においては、施設数なども含めて整備が遅れている。高齢者人口がこれから急激に右肩上がりになると、プライマリケア、地域ケア、そして施設が一体となった形で推進していかなければならない。

 大都市・東京において施設の問題をどのように解決していくか。現時点では、高齢者専用住宅などいろいろと進んできている。しかし、東京は土地代が高いので、そうした施設数が伸び悩んでいる。現在、高齢者専用住宅などに入居しているのは中間所得層以上であることなどを考えると、やはりハコの問題はある。

 ただ、大都市・東京における在宅ケアの進め方はエリアの問題であり、われわれサービス提供側からすれば、動けはすぐに良くなる。施設をつくっていくことも重要だが、なかなか追い付かないとすれば、空き家をどのように活用するかも考えていかなければならない。いかにソフトサービスをそこに活用し、空いたところにまた高齢者が入り、その地域の包括的なケアで守っていけるか。

 もう1つ、サービスの在り方として多職種協働が重要となる。ある期間、一貫性や連続性を持って、誰がコーディネートするのか。かかりつけ医なのかケアマネジャーなのか、オランダ方式で地域ナースなのか。一貫性をどのように担保するか。それから情報の伝達システムなど、いろいろな課題がある。ある1つのチームが同じ目標に向かって、同じ価値観に基づいた形で、一体的なサービスをどのようにご利用者さんに向けていくか。難しい問題もあるが、これはどうにかして乗り越えていかなければならない。

 もう1つ必要なのが、地域の方々のいろんなケアサポートの力だ。これをわれわれがどのように養成していくか。お任せ医療から、自分が決める医療、ケアへ。われわれもまちづくりに関わり、ご利用者さんをどのように巻き込んでいくか。そうしたいろいろな働きかけがこれからも必要になってくるのではないかと思う。
 
[池端氏]
 ありがとうございました。小山先生、いかがでしょうか。
 
[小山氏]
 2つだけ申し上げる。まず、60歳を過ぎたらダイエットしない。60歳を過ぎてから痩せても、新しい恋は芽生えない。ダイエットについて、医療従事者の中には恥ずかしいぐらいに知識がおかしい人もいる。痩せるためには運動量とタンパク質を採ることが条件なので、車なんかに乗らないで、ひょこひょこ歩いて、1日1万2,000歩ぐらい歩いてタンパク質を体重の1.5倍採って、コレステロール値を115に保って、BMIを25ぐらいにすれば、ちゃんと目標通りにいける。

 ところが、「食べ方の順番を変えれば太らない」とか、「野菜を食べたほうがいい」とか、「脂身を食べると脂肪が付く」とか、本当に嘘が多い。油を食べて油が付くなら、筋肉を食べたら筋肉ができるのか。食事の問題をきちんと理解する必要がある。1日3食をきちんと守った人が勝つ。それがすごく大事だ。

 最近、思うことがある。日本看護協会がいろいろな研修を全国で開催している。私はまず、「看護師長になる前に必ず訪問看護をやりなさい」と言っている。地域のことが分からない看護師がいる。お年寄りが地域でどう働いているか分からない看護師や介護職員が病院で働いていると、やっぱりとんちんかん。看護師長になる前に、必ず訪問看護をやってほしいと思う。

 それで60歳になって病院を退職したら、白衣を着たまま訪問看護をやっていただきたい。85歳までできる。60歳から25年間ぐらい訪問看護をやっていただくぐらいでないと在宅は伸びないのではないかと心配している。訪問看護師さんは特別な人がやっているわけではない。看護師さんに限らず、理学療法士、作業療法士、栄養士、歯科衛生士さんも、みんなで一生懸命、訪問をやってみてほしいと思う。

 ぜひ会場の先生方、来週の月曜日からで結構なので、職員を在宅に出していただき、次の一歩を進めていただきたい。それから、くれぐれも下手なダイエットはしないでほしい。60のダイエットはすごくきつい。60代を生きていくには、薬よりも医療よりも、運動と食事だと思っている。みんなで長生きして、85歳まで働く。慢性期医療は、お年寄りがみんなで頑張っていく分野だと思う。
 
[池端氏]
 ありがとうございます。続きまして、最後に齊藤先生。
 
[齊藤氏]
 地域差については、「首都圏か、その他の地域か」という切り口もあるが、「地域の文化」みたいなものもすごくあると思う。これからは、そうした地域ごとの文化の違いも踏まえて考えていく必要があるだろう。現在の制度は、「このハコモノにいくら」という点数の付け方になっている。しかし、これからは病院の機能ごとに、果たす役割ごとに評価していくべきではないか。たとえ5つのベッドしかなくても、一定の役割が担えるような制度をつくっていけるかが重要になる。

 そのように制度を変えたとき、最も大きく変わるのは療養病床だと思う。急性期病院や単科の専門病院などを見ると、いろいろと大きく変わることは難しいように見える。しかし、療養病床を持っている病院は、その地域に合わせた運営ができる。従って、「あの病院がこうしているから、うちもそうするんだ」という観点ではなく、地域をまず見て動いていくことが大事なのではないか。

 地域包括ケアについても、その地域の行政によって全く違う。取り組み方も違う。以前は、「地域包括ケアシステム」と言えば、「全国どこへ行っても同じようなシステムをつくるんだ」という意味を指していたのに、最近はちょっとニュアンスが変わってきている。各地域によって幅というか、柔軟性を持たせるような、その辺りについては、きっと小山先生が言ってくださるんだろうと思う。小山先生、いかがでしょうか。
 
[小山氏]
 かつて「リゾート開発」と言えば、みんな海のそばでやって、マンションを日本中で開発したが成功しなかった。地域包括ケアは、それぞれの地域独自のものでいいし、勝手にやったらいいと思う。行政が言うと日本中が同じように染まってしまう。何か勘違いしている。「みんなと同じだったらいい」という発想がある。「みんな同じでみんな悪い」ということになりかねない。正しくは、「みんな違って、みんなが良い」ということではないか。みんなが同じだったら、みんなが悪くなってしまうので、地域包括ケアや在宅ケアなどを画一的なものととらえないでほしい。
 
[池端氏]
 まだまだお話を聴きたいところだが、この辺りで終わりたいと思う。皆様のベースの中に、「地域に出ていこう」という強い思いがあると感じた。これからの20年、また次の20年、どういうシンポジウムができるか分からないが、その時、また皆さんにご登壇いただいて……、いただけるように長生きして(会場、笑い)、頑張っていきたいと思う。ありがとうございました。
 
(完)
 

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