「第20回日本慢性期医療学会福井大会」のご報告(7) ─ シンポ4(介護療養病床)

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「第20回日本慢性期医療学会福井大会」のご報告(7) ─ シンポ4(介護療養病床)

 

■ パネルディスカッション
 
 
[座長・清水氏]
清水紘・座長(日慢協副会長) 桑名先生、どうもありがとうございました。日本慢性期医療協会は、「介護療養病床の廃止の撤廃を求める」と宣言している。この会場におられる先生方の多くが介護療養病床をお持ちであると思う。

 そこでまず、介護療養病床はどういう機能を持つべきか。桑名先生、介護療養病床の機能について、先生のお考えを改めてお聞かせ願いたい。
 
[桑名氏]
 単なる収容施設ではいけない。これがまず大前提になる。その上で、在宅との連携が必要なので、例えばレスパイトケアなども担っていく必要がある。そのほか、ターミナルケア、高齢者ケア、維持期のリハビリテーションなどの機能も必要だろう。
 
 「介護療養病床」に代わる名称はいろいろあると思うが、「医療療養病床」は医療系に、一般病床のほうに向かっているので、その後方部分をきちんとケアしていくのが介護療養病床の使命ではないか。
 
シンポジスト

[座長・清水氏]
 ありがとうございました。日本慢性期医療協会が考える介護療養病床の機能は、まずターミナルケアが行えること。それから2つ目は、合併症を有する認知症の患者さんのお世話ができること。そして3つ目が、急性期医療を終えた患者さんを急性期病院から受け取ることができること。この3つが介護療養病床が担うべき役割ではないかと現時点で考えている。

 そこで迫井先生、「介護療養病床が現在持っている機能は、やはり今後も残っていく必要がある」とお考えだろうか?

[迫井氏]
 例えば、2025年モデルによると、2030年に約47万人の看取りの場が見えてこない。これは、「長い目で見て」ということで、今から6年後の2018年、平成30年はもう少し短いスパンになる。
 
 現在、介護療養病床が果たしている機能について、「介護療養病床がどういう施設類型か」ということは別として、当然必要があって、医療サービスを特に重点的に含めた介護サービスを提供されているのだから……。若干、ちょっと質問の趣旨を図りかねる部分もあるが、現時点でやっておられるサービスをなんらかの形で、施設類型として再編させていこうというのが国のスタンスである。
 
 「介護療養病床の現状と機能をどう捉えるか」というのが1つの論点だろうとは思う。逆に言えば、「いま担っている機能は全く要らない」という考えは、たぶんどなたも持っていないのではないかと思う。
 
[清水氏]
 はい。1つの施設の中で医療も介護も両方提供できる機能は非常に重要であろうと思うし、厚生労働省としてもその機能が必要であるということは、今の迫井先生のご回答でみなさんお分かりだと思う。
 
 では次に、日本慢性期医療協会が考える介護療養病床の持つべき機能のうち、認知症、特に合併症がある方の認知症問題について、勝田さんにお尋ねしたい。現在の介護療養病床は、認知症に対する機能が十分と言えるだろうか。
 
[勝田氏]
 認知症の方々が、合併症があっても生き生きと暮らせる状態になる必要がある。合併症があっても、認知症があっても、そして最後にターミナル的な患者さんも受け入れられて、介護家族が安心できる場でありたいと思う。従って、やはり介護療養型の施設は絶対に必要だし、廃止してもらっては困る。
 
 もし廃止したら、やはり介護難民が生まれる。そしてまた一方で、精神科病院へ入院をめぐる問題もあるように、その受け皿となる施設もなくなる。そしてピック病にも対応できるなど、そうしたさまざまな問題を包括できる施設として、ぜひ存続してほしい。

[清水氏]
 ありがとうございます。高橋先生は以前、死に場所の問題について「100万円を払っても、10日で死なせてくれるなら、そういう機能を持つ施設を介護療養にできないか」と述べられたと記憶しているが、いかがだろうか。

[高橋氏]
 私の大きな講演テーマの1つとして、「自立的な老いと自然死」について、この3年間ぐらい、さまざまな所で話している。

 胃ろうを入れてから亡くなるまで何日間かかるか。ある論文には、733日と書かれている。認知症で胃ろうを入れて8年間頑張る人もいるし、半年の人もいるが、日本慢性期医療協会や全日本病院協会などの研究を見ると、どうやら約3年が平均らしい。

 日本やフランスなどでは、胃ろうを入れずに1日数百CCの水分を入れるだけで、平均10日ぐらいで亡くなる。そうすると、非常に極論的な話になるが、1ヵ月で3人、1年間で36人、3年間で100人が1つのベッドで亡くなる。従って、胃ろうの人が1人いなくなる時に、「自然死型」でいけば100人が亡くなる。従って、こうした形でいけば、「47万人の死ぬ場所がなくなる」という問題は、恐らくすでに解消しているのではないか。最近の傾向として、私が着目しているのは、介護保険料が上がっているために「もう特養や老健をつくるな」という動きがあること。

 私がフランスに行き続けている理由は、日本では「影の部分」になるが、「社会的コンセンサスとしてどこを切り捨ていくか」ということを見るためだ。フランスは1990年ぐらいまで、日本と同じように老人病院や長期入院の病院がたくさんあって、ガンガン胃ろうをつくる文化の国だったが、2000年に入ってから、高齢者に全く胃ろうを入れないという激変をした。「それはなぜか」ということを探るため、フランスに行き始めた。

 昨年、日本の医療のプレゼンをした時、ヨーロッパの院長が私に「日本は非常に安い医療費で、これだけの平均寿命をたたき出した。日本の医療は最高ではないか。何のためにフランスに来たのか」と言われた。そこで私はこう答えた。「全くおっしゃる通りで、僕は日本の医療は世界一で、最高だと思っている。ただし、これはもう続けられない。フランスは手の引き方が最高に上手い。私はフランスの手の引き方、要は合理的にどこの部分を削っていくかを勉強するために来た」と言ったら、「君はよく分かっている」と言われて握手をした。
 
 今後、高齢者に十分な社会支援が提供できることはない。われわれ利用者がライフスタイルを変え、生活のスタイルを変え、意識を変えていかないといけない。これから、もう一歩踏み込んだ段階までいかざるを得ない。今まで先送りにして国債でやり続けてきた部分がもう限界にきている。みなさんが、毎月の給料から介護保険で10万円を引かれてもいい覚悟があるなら成り立つと思うが、それはないと思う。とすれば、先述したようなことが恐らく5年以内に議論になる。その上で、介護療養病床の在り方を考えていかなければならない。
 
 ちなみに、フランスで「胃ろうをやめようよ。やりすぎじゃないか」という議論は、現場の救命救急と看護師さんから始まった。一般の人から声が出て始まったのではない。

[清水氏]
 ありがとうございました。高橋先生がご紹介した全日病、日慢協が調査した胃ろうの全国の予測値だが、全国で約26万人が胃ろうの処置を受けているという数値が出ている。

 では定光先生、急性期、特に救命救急センターなどの救急病院と療養型病院との連携が東京と大阪でモデル的に行われているが、大阪では十分に機能しているだろうか。

[定光氏]
 十分とは言えないが、かなり補完的に助けていただいてるのは事実。コーディネートが慢性期側にあるのが特長的だ。従来、午前中は転院先を探すためにエネルギー使ったが、現在はソーシャルワーカーや慢性期病院のコーディネーターの方々が探してくれるので、非常に助かっている。

[清水氏]
 ありがとうございます。桑名先生、東京ではどうだろうか。

[桑名氏]
 多摩地域で「急慢連携」をやっている。東京は療養病床が少ないので、転院の要請が来ても、なかなか受け入れられない。そこが大阪と違うところだろう。

[清水氏]
 ありがとうございます。迫井先生は9月10日から老人保健課長をなさっておられる。就任時、「腰を据えて取り組みたい。課題をいったん整理して、現場の声も聴きながら、今後進めていきたい」ということをおっしゃった。

 本日のお話も現場の声であると思う。介護療養病床の廃止期限まで、あと5年半ある。拙速に事を運ばないようお願いしたい。最善の方法が何であるか、日本慢性期医療協会はもとより、いま介護療養病床を運営している先生方のお考えも頂きながら、改めてご意見を聴かせていただきながら、今後も議論を進めていきたい。
 
 三井厚生労働大臣も、就任挨拶で「介護療養型医療施設の転換問題については一気に廃止は難しい。慎重にやるべきである」というような発言をされ、「おいおいやることも必要だ」と述べた。「おいおい」がどういう意味なのか、ちょっと分からないが、「拙速に物事を運ばない」ということと同じ意味だろうと考えている。

 どうかみなさまも、これからの介護保険の状況を十分に判断し、また情報を収集し、今後の病床運営に精進していただきたい。本日は本当にありがとうございました。以上でシンポジウム4番を終わりたい。[→(8)はこちら]
  

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