循環型の慢性期医療を目指して

役員メッセージ

日本の風景-048

2.「三次救急と慢性期医療の連携-200例を超える連携から見えてきたもの-」  井川誠一郎氏(大阪府・平成記念病院常務理事)

 井川氏は、平成20年12月から日本慢性期医療協会急性期連携委員会により開始された三次救急と慢性期医療施設との連携モデル事業(大阪緊急連携ネットワーク)について、現在の状況を報告、転帰について検討を加え今後の連携のあり方について考察した。

 大阪地区において、コーディネーター制を導入した三次救急と慢性期病院との連携システムは一定の評価を得て、昨年末より大学病院の加入も見られるようになった。月10例前後の紹介をコンスタントに受け、2年半で251例のコーディネートを行い、その約60%の症例が慢性期医療施設に転院し、三次救急の患者数増加に貢献した。        コーディネート率も大きな変化なく経過しており、90%近い水準を維持している。転院後の入院患者の成績は満足すべきもので、これにより、三次救急からのより重症な患者の紹介が多くなった。紹介患者の病態は4人に1人が人工呼吸器患者、約半数の患者が気管切開を有し、酸素投与がされている状況が続いている。長期入院ののちに退院可能となった症例も増加しつつあるが、慢性期医療施設から介護療養への循環が十分でないと述べている。

 三次救急施設の出口問題を解決すべく開始された本ネットワークであるが、慢性期医療施設の出口問題も明らかになってきており、気管切開患者や酸素投与や胃ろうを有する患者の介護施設への入所は極めて困難な状態で、連携開始後2年半経過した現在では、慢性期医療施設における長期入院患者が増加しつつある。急性期医療と慢性期医療との連携をスムーズにするためには、慢性期医療施設と介護施設や在宅療養支援施設との連携も不可欠である。つまり、「良質な慢性期医療」を行うためには、急性期医療、慢性期医療、介護療養、在宅療養を含めた相互連携が一層重要となってくると指摘された。

3.「循環型の慢性期医療とシームレスケアサービスを考える~札幌市と西区在宅ケア連絡会の脳卒中患者追跡調査から」 
 
 奥田龍人氏(北海道・医療法人社団渓仁会ソーシャルワーク支援部)

 渓仁会グループは、急性期病院から療養病床、特養、老健施設等幅広く保健・医療・福祉を提供しており、保健・医療・福祉複合体として事業を構成している。しかしながら、患者さんの循環を見てみると、グループ内の循環というよりむしろ、地域に根差した循環が実態としては多いと奥田氏は述べている。
 札幌市医療政策課と札幌市西区在宅ケア連絡会は、「ぐるぐる図」というツールで患者さんが保健・医療・福祉の間を切れ目なく移動できているか、患者の流れや課題を把握するため、脳卒中患者の追跡調査を実施した。

 10か月間の追跡調査が可能であった65名の循環を、患者が移った回数をもとに「ぐるぐる図」に落とし込んだ結果を次に示すと、「ぐるぐる1回目」は65名中30名が在宅療養へ、2名が慢性期医療へ、3名が介護保険施設へ、残りの30名は回復期リハへ移動した。「ぐるぐる2回目」は、回復期リハの30名のうち20名は在宅療養へ移動した。また、在宅療養から3名、回復期リハから1名、慢性期医療から1名、計5名が急性期へ移動した。「ぐるぐる3回目」となると動きが少なくなり、在宅療養から老健施設へ1名、回復期リハへ1名、急性期医療へ1名移動した。

 調査終了時「ぐるぐる終了時(6回目)」には、在宅療養47名、急性期医療1名、回復期リハ1名、慢性期医療5名、介護施設(老健施設5名、特養0名)5名、死亡6名という結果となり、多くの脳卒中の患者さんは、在宅に戻れることがこの調査から明確になったと述べられた。しかしながら、在宅療養の47名中20名が「何もしていない」と回答しており、より詳細な調査が必要なものの、介護保険の利用の少なさを指摘されていた。また、10か月間の調査で平均滞在日数を見ると、慢性期医療(平均在院日数281日)、老健施設(同239日)は一旦入院すると入院が継続する傾向にあることがわかった。

 循環型の慢性期医療を考えていく上で、慢性期医療から在宅療養への流れをどうつくっていくかが、今後の課題であると述べられた。

4.「循環型の慢性期医療:在宅医療の位置と役割」 矢崎一雄氏(北海道・静明館診療所院長)

 矢崎氏が院長の静明館診療所は2001年7月開院以来10年間で788名の在宅患者を受け持ち、現在の定期訪問診療の担当の患者は218名、10年間累計の在宅看取りは131名という。在宅療養支援診療所となってからの年間看取り数は毎年15名前後で、昨年初めて20名を超えた。

 受け持ち患者は認知症を中心とした高齢者疾患(半数は認知症、脳血管障害、整形外科疾患)が70%弱、75歳未満の脳血管障害と神経難病が主体の神経疾患が15%、末期悪性腫瘍14%の構成となっている。全国の在宅療養支援診療所調査(2011年3月毎日新聞調べ)によると、在宅医療機関の典型と思われる。

 在宅療養の転帰として、10年間のデータでは、①在宅療養継続27%、②在宅で死亡17%と全体の約4割が順調に在宅療養を受けられたと評価している。また、③入院して死亡23%、④入院・入所18%、⑤転医・転居 11%、⑥外来通院3%、⑦その他の中止 1%という結果であった。

 また、なぜ在宅療養が継続できなかったのかについても、矢崎氏はデータを分析しており、3つのポイントに整理されている。①「患者本来の疾患が重症化(重症化)」、②「新たな急性期疾患の発生(急性増悪)」、③「介護する側に理由がある場合(限界)」に分類され、特に③が重要で、本人の病状にはまったく変化がないものの介護する側が病気になった等、介護する側の都合で在宅療養が継続できないことがあり、全体の約3割がこれに当たると述べている。

 今後、在宅療養が増えることが予想され、③「介護する側に理由がある場合(限界)」という理由で在宅が継続できない場合の受け皿をどう確保していくかが、今後の重要な課題と認識しなければならないと指摘された。

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