社会保障審議会・医療保険部会(2012年11月16日)のご報告

審議会

中川翼副会長

 厚生労働省は11月16日、社会保障審議会の医療保険部会(部会長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)を開催し、当会からは、委員である武久洋三会長の代理として中川翼副会長が参考人として出席しました。議論は、高齢者医療制度の見直しが中心となりましたが、合意には至らず継続審議となりました。ただ、現役並み所得者を除く70~74歳の高齢患者が医療保険で負担する割合を現状の1割から法定通り2割にすることについては賛成意見が多数を占めました。

 現行法上、高齢患者の自己負担は、65~69歳(3割)、70~74歳(2割、現役並み所得者は3割)、75歳以上(1割、同)──と設定されています。ただ、70~74歳の負担割合は2008年、後期高齢者医療制度の「円滑な施行」のため特例措置が設けられ、毎年約2,000億円の予算措置で1割負担に抑えられています。そのため、70~74歳に対する特例措置を今後も継続するかが主な焦点になっています(資料は厚労省ホームページ)。

 厚労省の「高齢者医療制度改革会議」(改革会議)が2010年12月に取りまとめた最終報告では、「70歳から74歳までの方の患者負担について、新たな制度の施行日以後、70歳に到達する方から段階的に本来の2割負担とする」としています。ただ、法定の2割負担に戻すことに対して、「受診抑制につながる恐れがあり、そもそも現役世代の負担割合を含め引き下げるべき」との意見も併記しています。

 その後、今年2月に閣議決定した「社会保障・税一体改革大綱」では、「70歳以上75歳未満の方の患者負担について、世代間の公平を図る観点から見直しを検討する」としているほか、「平成24年度は予算措置を継続するが、平成25年度以降の取扱いは平成25年度の予算編成過程で検討する」としています。

 この日の部会で厚労省保険局の横幕章人・高齢者医療課長は、特例措置によって70~74歳の患者負担額が他の世代と比べて不均衡であること(=図表)を指摘。「70歳に到達する者から段階的に2割負担とする」とした改革会議の最終報告を紹介し、「新たに70歳になる人は3割から2割になる。これを5年間続けていくことによって、70~74歳の負担を1割から2割にするので、1人ひとりの負担が増えるわけではない」と説明しました。

70~74歳の患者負担特例措置の状況(厚労省資料)

 その上で横幕課長は、「施行日から対象者全て2割負担とする考え方もあり得るが、負担額が急激に変わる対象者が多くなることや個々人の負担が増加することについて、どう考えるか」と、意見を求めました。
 

受診抑制につながる
 

 日本医師会(日医)常任理事の鈴木邦彦委員は、「70~74歳の負担は増えないとの説明だが、1割を2割に増やすので実際には増える」として、2割負担に反対しました。また、厚労省が示した資料(=上記図表)に対して次のように指摘しました。
 「高齢者の収入や所得は必ずしも正確に予測されていないのが実態。この国民生活基礎調査は抽出調査であり、バラツキのある調査を基にしているのではないか。家計調査は一世帯ごとに集計されるのが基本だが、世帯主が75歳以上でも、同居者が75歳未満の世帯もある」
 さらに、入院と入院外の医療費を合計している点について、「一部負担割合の引き上げによって最も懸念されるのは入院外の受診抑制だと思われるので、入院と入院外は区分して考えるべきだ」と指摘しました。

 その上で鈴木委員は、「70歳以上になると公的年金に頼る人が増え、さらに消費税が今後上がるので、家計が苦しくなって受診が抑制されることが懸念される。自己負担が増えて受診を控えたために症状が悪化したとの調査結果もある。所得格差の拡大によって受診抑制が増えていく恐れがあるので、引き続き1割にとどめるべきだ」と主張しました。
 
 日本歯科医師会常務理事の堀憲郎委員も、「70~74歳で健康寿命が尽きて、その後は何らかの障害あるいは要介護の状態で寿命を全うするという厚労科研の調査もある。歯科で言えば、平均して20本の歯があるのは69歳までで、70歳から20本を割ってしまう」として、70~74歳を「重要な時期」と位置付けました。
 その上で堀委員は、「70~74歳の時期に受診抑制が起きてしまうと、最期まで質の高い生活を送ってもらうというわれわれの望みを達成できなくなる危険がある。現行の3割負担でも受診抑制があるのではないかと懸念しているので、現状の1割を維持していただきたい」と要望しました。[→続きはこちら]
 

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