参議院厚生労働委員会 出席のご報告
「医療法等の一部を改正する法律案」について審議した12月3日の参議院厚生労働委員会に当会の中尾一久副会長が福岡県私設病院協会長の立場で参考人として出席し、「高齢者(救急)医療の現状と対応策 ~医療介護連携の在り方~」と題して意見を述べた。
中尾副会長は、高齢者救急を減らすための視点として、①予防的介入(ACSCs)、②ICT・DX、③多職種連携──の3点を挙げ、福岡県久留米市内を中心に展開する久英会グループの取り組みを紹介した。
.
.
中尾副会長は「医療・介護・住まいを一気通貫した“縦串”がしっかりあって、これがグルグル循環するのが高齢者の医療・介護・福祉」との考え方を示し、高齢者施設内にクリニックを配置する「建物の一体化」や、グループ内での情報共有ツール「KIICS」の活用による多職種連携などを紹介。「早期介入により重篤な進行を予防できる」と伝えた。
質疑で、委員から「非常に感銘を受けた。こうした活動が全国に広まっていくことはとても重要」、「医療・介護・福祉の取り組みに深く感動した」と共感の声が上がった。中尾副会長の発言要旨は以下のとおり。
.
キーワードは「85歳以上の高齢者」
[中尾一久副会長]
2040年に向けて高齢者医療が一丁目一番地の問題。私は福岡県久留米市で医療・介護・福祉を提供する医療法人と社会福祉法人の理事長をしており、病院では外来、入院、訪問診療、そして高齢者施設の嘱託医をしているので、本日は現場の実情を述べたい。
本日の内容は、①高齢者(救急)医療の現状と将来予測、②プライマリ・ケアの介入により重度化による入院を予防できる可能性がある疾患群(ACSCs)、③医療介護連携とICT(医療介護DX)、④医原性サルコペニア(加齢に伴う筋肉量減少と筋力低下)──について。
まず、①について。キーワードは「85歳以上の高齢者」である。2040年頃までに85歳以上の高齢者が急増し、要介護認定率は約6割。医療と介護リハビリが同時に必要となる。そして、高齢者施設からの救急搬送が増加し、在宅医療の需要が増える。さらに、2040年には医師の高齢化のために診療所が激減する地域が出てくる。
85歳以上の高齢者の主な入院疾患はおよそ決まっている。外科的手術は少なく、軽症~中等症が多い傾向だが、高齢者施設と医療機関の連携が取れていない。また、高齢者においては、低栄養の罹患率が高く、サルコペニアやフレイルを呈する。加齢に伴う筋肉量減少と筋力低下、すなわち医原性サルコペニアも重要な問題である。
.
高齢者救急を減らす3つの視点
85歳以上の高齢者に最も多い疾患は肺炎、次いで心不全、誤嚥性肺炎、股関節・大腿近位の骨折、腎臓・尿路感染症など。こうした疾患等による高齢者救急を減らすにはどうしたらいいか。
対応策は、①どのような考えで、②誰が、③何をするのか──という視点で考える。①は、予防的介入(ACSCs)、②は総合診療の技術や考えを持ったドクター、そして歯科医師、特定行為を修了した看護師を含む医療・介護の多職種である。では、③何をするか。緊急入院を減らすために、疾病の予防や重症化を防ぐことが必要になる。
そこで、高齢者救急を減らすために重要な3つの視点は、①ACSCs、②多職種連携、③キュアとケア。すなわち、①高齢者に多い心不全、肺炎、尿路感染症や低栄養等に対し、プライマリ・ケアの適切な介入によって発症や重症化を防ぐ。②医療と介護の連携、さらに情報通信技術(ICT)による多職種のタイムリーな情報共有(医療介護DX)。③多疾病を抱える高齢者に対しては、疾病を治す(キュア)だけでなく治し支える(ケア)、生活の視点──。この3つの視点が大事だ。
.
医療・介護・福祉の連結と融合、循環
久英会グループの理念は「医療・介護・福祉の一体的提供により地域社会のまちづくり」である。主な特長は、グループ内での医療・介護・福祉の連結と融合、グループ内での情報共有ツール(KIICS)、地域の住民と我々働き手すべてのwell-beingの追求(健康経営)。そして、グループ内すべての施設で約10年間、身体拘束はゼロである。
久英会グループのアウトカムは高齢者救急入院を減らすことで、まさにACSCsを展開している。戦略は、医療・介護・福祉の融合。戦術は、医療機関と介護施設を廊下で結ぶ「建物の一体化」に加え、情報共有ツール「KIICS」(久英会統合ケアシステム、Kyueikai Integrated care Information and Communication System)である。
.
.
医療・介護・住まいには、しっかりとした縦串が必要だ。その縦串は、従来の疾患別の連携パスのほか、リハビリ・栄養・嚥下・排泄を中心とした連携パス(はこだて医療介護連携サマリー)、歯科歯科連携、 ケアマネジャーの存在である。この縦串が一気通貫でしっかりとあって、これがグルグル循環するのが高齢者の医療・介護であると思う。
.
リハビリ・栄養・嚥下・排泄・ACP
グループ内の情報共有システム(KIICS)では、全ての施設から患者、利用者の情報を見ることができる。では、どのような情報が必要か。ここで「はこだて医療介護連携サマリー」が出てくる。すなわち、リハビリ・栄養・嚥下・排泄・ACPが高齢者にとって最も必要な柱である。
.
.
では、グループ外の診療所とはどのように連携しているか。例えば、「Mクリニック」とはバイタルリンクというまた別のICTで連携している。これにより「在宅あんしんサポート隊」という取り組みをしている。1人の医師が24時間365日ずっと診ることはできないので、バックアップ体制をとる。
「サポート隊」の導入は医師の働き方改革の一助にもなっている。また、訪問看護ステーションの安心にもつながっており、入院も減っている。これはまさしくACSCsであると考えている。
.
栄養部門は年9,154万円の赤字
低栄養も重要な課題である。令和5年の国民健康・栄養調査によると、65歳以上の高齢者の低栄養傾向の割合は男性12.2%、女性22.4%であり、男女ともに85歳以上でその割合が高くなっている。高齢者は味覚障害の有病率が高くなって食欲低下や低栄養状態を惹起し、これがサルコペニアやフレイルの主要因となっているとの研究結果もある。
ここで1つ問題となるのが減塩食である。減塩食により食事量が減少し、結果的に栄養不足が進行する。さらに、低栄養状態におけるリハビリで体重が減少する。 医原性サルコペニアをつくらないためには、リハビリと栄養はセットで同時に提供しなければならない。そして、表現があまり良くないかもしれないが、「まずい治療食」を提供しないこと。まずい治療食を提供しても、食べなければ何にもならない。
したがって、高齢者には「治療食」という概念を捨てて、美味しい食事を、完食できる食事を提供してはどうか。ただし、高齢者には嚥下困難者が多いため、嚥下調整食は必要である。場合によってはカロリーを補助するために栄養補助食を必要とする。しかし現時点では、嚥下調整食に診療報酬が付いていない。栄養補助食にも付いていないので、ここは何とか考えていただければありがたい。
最後に、あまり紹介したくない資料だが、当グループの栄養部門の収支。2024年度の1年間でどうだったか。1日あたり約1,000食を提供し、年間9,154万円の赤字である。ということで、以上で発表を終わる。
.
質疑要旨(抜粋)
〇石田昌宏委員(自由民主党)
中尾参考人には、まさしく地域医療構想の具体の話をしていただいた。ご自身の医療法人・社会福祉法人で本当に医療・介護・福祉の連携、また暮らしとの連携、暮らしを支えるということをずっとやってこられた話を聞いて、非常に感銘を受けた。こうした活動が全国に広まっていくことはとても重要だと思っている。特に人口減少が甚だしい地方では、まさにこれが必要だと考える。地方のまちづくりの中心に病院が置かれている。
.
.
〇小西洋之委員(立憲民主・社民・無所属)
中尾参考人の医療・介護・福祉の取り組みに深く感動した。敬意を表したい。
〇田村まみ委員(国民民主党・新緑風会)
中尾参考人に陳述いただいた内容は本当に私もまさしくそのとおりだと思いながら聞いていた。特に最近、私自身も来年50歳になるのだが、未婚率が高まる世代であったり、子どもなしで高齢を迎える世代の入口になっていると思っており、施設から在宅へというところが、そもそも難しくなってくるのではないかと感じている。そうなったときに、やはり住宅と医療と介護が近くにあること。来年の法案で出てくるであろう2040年に向けての介護の在り方をどうしていくか。今、党内でも話している。栄養部門の赤字が課題だと明確におっしゃっていただいた。今日、この委員会室にいて、誰もこの話を否定しないのに、なぜこれが広がらないのか。
〇秋野公造委員(公明党)
中尾先生の資料を見ると、涙ぐましくなる。「医原性サルコペニア」と書いておられていて、美味しくないから食べられないのだろう。低栄養やサルコペニアの方々に対しては、モリモリ食べるものが治療食と受け止めていいか。低栄養はもう高齢者の共通する状況ということになると、それをICD-11でも疾病として扱うという方向性も考えると、高齢者施設で医療の連携がないところで低栄養やサルコペニアという疾病を抱えて生活しておられる高齢者には、どう医療と連携させていくか、どう栄養管理を行っていくか、どうリハビリを提供していくかが非常に重要になると思う。
〇猪瀬直樹委員(日本維新の会)
中尾参考人のお話をずっと聞いていて、塩分と肉だなということがよくわかる。おっしゃっていることは納得できることばかり。医療と介護を一体にしながら、なおかつ、まちづくりとしてやっている。こういうものをどんどん各地につくっていけば、すごくいいと思う。僕はこの(委員会の)中で一番高齢者だが、高齢者の施設がこういう形で、医療と介護が1つになっていくのはすごいことだと思う。
〇岩本麻奈委員(参政党)
私は皮膚科専門医で、フランスに20年ほどいてヨーロッパのいろいろな医療制度などを見てきた。ASEANにも約3年いたが、日本は統一電子カルテが世界標準から大変に遅れているのが気になっていた。その中で今回、中尾参考人のお話が大変刺さった。そのような介護と医療、地域、これは統一電子カルテがなければあり得ないと私は思っている。電子カルテが院内共有だけでもいいが、それがあることで、いろいろなタスクなどが非常に効率よく回ると思う。
.
.
私の母は95歳ぐらいで亡くなったのだが、病院と家を行ったり来たりで、先生がおっしゃっていたように、90歳ぐらいから母には「もう好きなものを食べていい。美味しいものを食べてね」と言ったら、本当に幸せな最期で、ピンピンコロリで自宅で亡くなった。それを本人はすごく望んでいた。先生のところがあったら母を入れたいぐらいだった。やはり、そういうような地域と複合したものが本当にこれから日本で、いろいろな所で出てくるといいなと心から思った。
〇白川容子委員(日本共産党)
私は四国出身で、先生がお示しの資料によると、四国では診療所の医師がこのままでいくと2040年の見込みでは56%減、それから全ての二次医療圏で50%以上減ということで、ショッキングな資料である。医療と介護の連携を強調されているが、四国では介護の事業所も、その自治体にはゼロという、いわゆるゼロ自治体と呼ばれている自治体が増え続けている。医療も介護もなくなってしまうのではないか。患者や利用者の心配に応える対策をどのように考えたらいいか。
〇天畠大輔(れいわ新選組)
中尾参考人が資料の中で示している「キュアだけでなく、ケア、生活の視点が必要」という考え方に強く共感している。本日は日々の暮らしに医療を入れる観点が中心だったと思うが、逆の観点、すなわち在宅生活を続ける重度障害者や高齢者が入院した場合に、生活をどう切らさずに医療につなぐかという視点も重要と考えている。
重度障害者が入院する際、普段のヘルパーが病棟に入れず、1人ひとり異なるコミュニケーション支援や身体介助が途切れることで安全な治療を受けられなかったり退院が遅れたり、そもそも入院を避けざるを得ない場合がある。私自身も通訳をしてくれるヘルパーの付き添いがなければ医療者とのコミュニケーションが成立しないという課題がある。入院中のヘルパーの付き添いは制度上は可能な場合もあるのだが、完全看護や感染対策を理由に現場運用で断られるケースがまだ多いのが実情。一方で、医療者が生活全般の支援まで担うことは困難であり、ヘルパーを活用することは医療者側の負担軽減にもつながると考える。
2025年12月4日






