施設サービス費、「本体の引き上げを」 ── 田中常任理事、介護給付費分科会で
介護事業所の経営状況や人材確保策などをめぐり議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は令和7年度調査の結果等を踏まえ、施設サービス費について「本体の引き上げを考える時期」と強調した。
厚労省は12月3日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・東大大学院法学政治学研究科教授)の第249回会合を開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。
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この日の議題は、①令和7年度介護事業経営概況調査の結果、②介護人材確保に向けた処遇改善等の課題、③基準費用額──の3項目。このうち①では、「令和7年度介護事業経営概況調査結果(案)」が示された。
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廃業が年々倍増している
今回の調査は今年5月に実施。令和6年度改定前後の2か年の決算状況を調べた。それによると、全サービス平均で37.5%が赤字。このうち施設サービスでは、介護老人保健施設の赤字割合が最も多く49.3%、次いで介護老人福祉施設(44.3%)、介護医療院(39.6%)となっている。
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質疑で、東憲太郎委員(全国老人保健施設協会会長)は「介護老人保健施設は全体の中で赤字割合が最も多い49.3%であり、ほとんどの老健に併設されている通所リハビリテーション事業所も赤字割合が48.6%と2番目に多い割合。老健の経営環境というのは最悪であると言わざるを得ない」と懸念した。
その上で、東委員は老朽化が進む施設の建て替え問題などに触れ、「大規模修繕に必要な資金は、0.6%の収支差ではとても確保できない。転換できずに廃業する施設が近年、非常に増えている」と指摘した。
全老健の調べによると、令和元年から令和4年の間の廃業施設は年間平均7施設だったが、令和5年は15施設、令和6年は31施設が廃業に追い込まれており、年々倍増しているという。東委員は「令和8年4月の臨時の介護報酬改定においては、職員の処遇改善や食費など物価高騰対策だけではなく、施設サービス費本体の引き上げが必須」と訴えた。
田中常任理事も東委員の意見に賛同し、「しっかりとした対応をお願いしたい」と求めた。
【田中志子常任理事の発言要旨】
東委員と同様、本体の引き上げを考える時期と考える。介護医療院等については収支差の比較をするとマイナスとなっている。人件費・物価高騰の中で収支差率が下がるということは、運営がジリ貧であるということであり、いつまでこの状態が続くのか非常に懸念される。福祉や医療は決して慈善事業ではないことから、黒字はいけないということではないので、しっかりとした対応をお願いしたいと思う。
また、新たに人材紹介・人材派遣、テクノロジー費用等について調査を追加していただき、感謝を申し上げる。引き続きの分析をお願いしたい。
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幅広い職種の賃上げに向けて
議題②では、「介護人材確保に向けた処遇改善等の課題」と題する資料の中で、「令和8年度介護報酬改定における処遇改善の考え方」が示された。
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厚労省は前回11月21日の議論などを踏まえ、「経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに向けて、対象とする職種やサービスの範囲をどのように考えるか」などの論点を挙げ、委員の意見を聴いた。
質疑で、「幅広い事業所と職種を賃上げの対象とする措置が年度内に速やかに現場に届くように進めていただきたい」との意見があった一方、自治体の関係者から「改定の規模が拡大すると、計画に見込まれていない給付費の増加となり、保険者の介護保険財政に大きな負担がかかる」と懸念する声もあった。
伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)は「介護従事者の確保は喫緊の課題であり、賃上げや物価上昇等の状況を踏まえると、処遇改善の必要性には一定の理解をしている」としながらも、「処遇改善を介護報酬で対応していくことは利用者負担、保険料の負担の更なる増加につながる」と指摘。「補助金、公費などでの対応など、財源の在り方についても併せて検討していただきたい」と要望した。
田中常任理事は「若者の負担を増やさないことは非常に重要」とし、「彼らの負担を上げないためにも、財源については検討が必要だ」と述べた。
【田中志子常任理事の発言要旨】
今回の処遇案については、全ての従事者に支給を考えていただけるということで本当にありがたく思う。今後も全ての職種を対象とし、賃上げを継続してほしい。今般、最低賃金の値上げが決定しているので、それに伴う対応も困難では困ると考えている。伊藤委員が述べたように、若者の負担を増やさないということは非常に重要だと思う。介護現場にも若者が多く、ただでさえ他産業と比べて8万円も低い給与体系である彼らの負担を上げないためにも、財源については検討が必要だと考える。
また、取得要件が足かせにならないよう、要件を選定するときには、少し頑張れば実現可能なものもしっかりと盛り込んでほしい。例えば、ケアプランデータ連携システムの導入率が低くて利用がうまくいっていないと聞く。支援をしていただいているものの、実際には、これまで使っていたシステムを変更することに、紙ベースも含めてだが、多くの事務的負担がかかるため、取り入れているところが少ない。そのような状況である中、たとえ加算のために自分のところだけ頑張って導入するとしても、地域にとってはあまり意味がないことなのではないかと思う。それを要件としてよいのかどうか、ぜひ、しっかりと現場の現実をご理解いただき、検討を続けていただければと思う。
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物価スライド制の導入を
議題③では、介護保険施設等における食費の基準費用額について「利用者負担への影響を踏まえつつ、必要な対応を検討してはどうか」との対応案が示された。
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質疑で、小泉立志委員(全国老人福祉施設協議会副会長)は「食材料費の高騰により利用者の食事内容にも影響を及ぼしかねない厳しい状況だったので今回の補正予算での対応には感謝を申し上げる」とながらも、「食材料費は依然として上昇傾向が続いている」と強調。「老施協の調査では令和7年6月時点の1人1日当たりの食費は1,788円で、基準費用額との差は343円とさらに拡大している」と指摘した。
その上で、小泉委員は「補正予算の水準では全く足りず、継続的な支援と、基準費用額の実際の価格を踏まえた見直しが不可欠」とし、「令和8年度の介護報酬改定においては、今回の補正相当である1日99円を上回る確実な基準費用額の引き上げとともに、物価高騰に機動的に対応できる物価スライド制の導入を強く要望する」と述べた。
田中常任理事も「今後も物価スライドに関わる件については、期中改定も含めた検討を継続していただきたい」と求めた。
【田中志子常任理事の発言要旨】
期中であるものの、概況調査で逆ザヤになっていることが明らかになっている以上、速やかな対応をお願いしたく、令和9年度の改定を待たずに値上げをお願いしたい。もちろん、所得の低い方に対しての配慮は忘れずにお願いできればと思う。
また、今後も物価スライドに関わる件については、期中改定も含めた検討を継続していただきたい。
2025年12月4日





