「小児成人移行期医療」について見解 ── 井川副会長、入院外来分科会で

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

20250918_入院外来分科会

 小児・周産期医療などをテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は小児から成人への移行期医療について、自身の経験などを踏まえて見解を示した。

 厚労省は9月18日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和7年度第12回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。
.

01スライド_議題

.

 この日の議題は7項目。厚労省は同日の資料「入-1」で、これらの項目について現状と課題を示し、委員の意見を聴いた。
.

02スライド_目次

.

 井川副会長はこのうち、「小児・周産期医療」の項目で示された「小児成人移行期医療」を中心に意見を述べた。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。

.

小児・周産期医療について

[井川誠一郎副会長]
 周産期医療、移行期医療について厚労省で調べていただき、非常に感謝している。これらは埋もれていた世界。特に移行期医療に関しては埋もれていた世界だと思うので、発言させていただく。

 周産期医療に関して、最初の母体と小児の部分、2つが絡むと思う。84ページ以降に小児・周産期医療や、環境について資料を示していただいた。個別の資料に関しては、それぞれが十分理解できる資料であって、とりわけ1個1個に対して個別の質問は特にない。全体的に見れば、産科、小児科は病院財政的には結構厳しい。季節差があって、どうしても満床にならなくて病床を埋め切れないという科であると感じている。精神科と合わせて、やはり収益が厳しいのだろうということで、各医療施設で、なかなか医師数を増やせないというのが逆に言うと実態である。
.

03スライド_P57

.
 
 例えば、57ページ(診療科別医師確保のための取組)。先ほどの医師の診療科偏在のところであったように、実は小児科とか、それから精神科や産婦人科は50%ぐらいの病院では既にない。存在しないから、当然、その募集はしていないので、医師の確保が困難だということにならないと思う。一方、内科には非常に積極的に取り組まれるので医師が足りないという話になるのだろうと思う。そういう点で言うと、これらのところは、どうしても埋もれてしまう。問題にならないということになろうかと思う。
 
 私は以前、小児の心臓外科医として和歌山県の田辺市という白浜のすぐ近くに赴任したことがある。和歌山県には、和歌山医大が大阪のすぐ近くにある。紀伊半島の一番上側から反対側には三重大学がある。三重大学は津市にあるので、これも紀伊半島を越えて、さらに北側という格好で、一番南にある新宮市や串本町という所になると、そこに到達するだけでも3時間、4時間もかかってしまう地域である。当然、そこで産まれたブルーベビーは、ドクターカーで運ぶ。往復で6時間、7時間もかかってしまう。多くの場合は助からないという実態があった。
 
 私が小児心臓外科医として、その中間点にあった田辺市の病院に赴任し、そこで何例かは助けたが、継続しない。1人だけの心臓外科医、もしくはNICUの医師は1人だけ。増えていくような環境にはない。

 先ほどの資料57ページにあるように、小児科は儲からない科ということで、なかなか拡張していただけない。NICUで診ていただけなければ当然、心臓の手術もできないということがある。例えば、大都市圏ではない地方の都市、県の場合は、医療圏という概念からかなり外れた状況で、この部分の施策は考えていかなければならないという気がしている。

 先ほど私が感謝を申し上げた移行期医療について。小児病棟は、皆さんもよくご存知のことだと思うが、原則的には15歳未満ということになっている。例外的に、小児慢性特定疾患の患者さんは20歳まで入院してもいいということにはなっているが、原則的には15歳未満。つまり16歳になった途端に小児病棟には入れないことになっている。2020年に成人が18歳に変わったので、少し今は体制が変わっているが、当時は小児慢性特定疾患は20歳まで。それまでは小児慢性特定疾患で医療的補助が受けられたが、そこから後は、ここの資料にあるように、難病に入っていない項目に関しては、突然、医療補助が切れるという状況になっており、非常にお母様方が苦労している。
 
 ここで1つお伺いしたい。お示しいただいた資料というのは、転院先から見て、どの程度の患者さんがおられましたかという話だが、われわれの小児の経験から言うと、小児科、母子センターなどが結構、患者を抱えていて、どこにもやれない。もしくは、例えば、ご家族がご自宅で人工呼吸器をつけながら子供を診ているという状況が結構ある。そういう全数の把握はされているのか。

[厚労省担当者]
 健康局の担当課によれば、網羅的な調査はないということであった。それに近い調査など、参考になるものはあるかもしれないが、網羅的な調査はない。

[井川誠一郎副会長]
 小児特定疾患の算定件数だけを見ると、人数から言うと、おそらく20歳までの間で5,000件ぐらいだろう。さらにその上で、難病で取られている方、もともと子ども時代からという方もおられるので、たぶん数的にはもっと増えてくるのだろうと思うが、そういうものを実際に把握していただきたいというのが1つの要望である。
.

04スライド_P141

.

 その方々を成人の施設が取れない理由が141ページに書かれている。ここで「対象となる患者の紹介がなかったため」というのは、もともと紹介が難しいと小児病院のほうも考えている。紹介していないというのもあるが、問題は、その下の「医師・スタッフの専門的な知識・経験が不足しているため」という項目である。

 これが約20%あるが、多くの移行期患者というのは何かというと、小児のうちに、ほとんど病状固定をされている。小児の疾患としては、ほとんど終わっている方が大半である。その状態で成人になられて、肺炎になったり、尿路感染だったり、それから、先ほど申し上げた、お母様やお父様が人工呼吸器を見ておられる方のレスパイトをしてほしいという話のときに入院の依頼が来る。

 成人ばかり診ていた病院で、子どもを診るのが怖いという恐怖心。だから、ここの問題は専門的な知識・経験というものではなくて、むしろ、その怖さのほうがおそらく先だっているのではないかという気がする。

実際、私が母子センターに勤めていた関係で、私のところにわざわざ紹介が来る。母子センターから紹介が来て、その患者さんを取ると、看護師はその子をアイドル化して、みてくださった。結果的に、何度も繰り返し入院して、お母様方のレスパイトを助けてさしあげられるということが実際に起こる。そういう観点からいうと、実は診療報酬というのは、おそらく何かの加点を付けることによって取ろうかと思う病院が少しでも増えてくれれば、それがきっかけになることもあると思う。ただ、たぶん問題は、気持ちの問題というか、受け取る側の心の問題であって、それは例えば医師の教育であったり、それから総合診療医の教育、そういうところに入ってくるべきものとも考えられる。

 そのため、診療報酬が何か付いて、少しでも取ってくださる施設が増えていけば、たぶん移行期医療の患者さんのためにはなると思う。しかし、根本的な部分でいうと、そこのところをしっかり教えるという体制が必要なのではないかと私は思っている。

.
この記事を印刷する この記事を印刷する


« »