「地域の病院がなくなる」 ── 池端副会長、中医協総会で訴え

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★2025年8月27日の総会

 医療機関の経営状況に関するデータを踏まえて議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「各種の切り口で詳細なデータをしていただいた」と謝意を示した上で「ある日突然、地域の病院がなくなる可能性がある事実を認識してほしい。期中改定も視野に入れなければならない状況ではないか」と訴えた。

 厚労省は8月27日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所特任教授)総会の第615回会合を都内で開催し、当会から池端幸彦副会長が診療側委員として出席した。
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01スライド_議題

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 この日の議題は7項目。在宅医療(訪問診療・看護・歯科・薬剤・栄養等)について「その1」が示されたほか、スマートフォンのマイナ保険証利用に関する諮問・答申があった。

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「切り口」で詳細に分析

 議題3では、「医療機関等を取り巻く状況について」と題する資料が示された。厚労省はその中で、医療法人経営情報データベースシステム(MCDB)に基づく経営状況の分析結果を提示。「各切り口別に見た医療機関の状況等を踏まえ、近年の医療機関の経営状況等に対してどのように対応することが考えられるか」などの課題を挙げ、委員の意見を聴いた。
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02スライド_課題

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 同テーマの議論は4月23日の総会に続いて2回目。前回の議論では、「病床の規模や機能、診療所の医師数、患者数といった切り口で詳細な分析が必要」などの意見が支払側から出ていた。
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03スライド_各切り口の定義

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 厚労省は今回、経営状況等を分析するための「切り口」として、「病院類型」「地域分類」「機能分類」を挙げている。

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自転車操業で脆弱な状況

 質疑で、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「2024年以降はコロナ補助金も廃止され、同時に物価高騰、賃金上昇も相まって経営状況は2023年より2024年、さらには2025年と、より一層厳しさを増している。直近の病院・診療所の経営状況は極めて深刻であることを共有すべき」と述べ、今回のデータを踏まえ「大変、危険な状況」と懸念した。

 その上で、江澤委員は「自己資本比率30%を切る医療機関が約3割。また、さらに深刻な危険な状態にある自己資本比率が0%以下、すなわち債務超過と想定されるものが1割程度ある」と指摘した。
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04スライド_自己資本比率と現預金回転期間

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 また、現預金回転期間について「0.0から1.0、あるいは1.0から2.0あたりに高いモードが出ている。概ね左側にグラフが偏っており、自己資本の中でも流動資産がいかに低いかを表している。言い換えると、自転車操業で、どうにかやりくりをしている大変脆弱な状況にある」と危惧した。

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深刻な医療崩壊が目前に迫っている

 江澤委員はさらに、近年の医療機関のファクタリング(診療報酬債権の譲渡)の動向に言及。「R5からR6にかけて伸びている。ファクタリングを利用するということは、既に金融機関からの融資に支障をきたしており、金融機関よりも利息の高いファクタリングに頼らざるを得ないという厳しい状況の表れで、厳しさを表している」と述べた。
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05スライド_ファクタリングの動向

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 また、債務償還年数の分析については、「一般的に融資の最長期間が20年であることを考慮すると、この円グラフからは大半の医療機関が毎年度、キャッシュアウトしていることが容易に理解できる。長期借入金の返済が予定どおりいかず、短期の運転資金の借り入れで、どうにかしのいでいる。運転資金の融資に苦慮している医療機関が増えている」と窮状を伝えた。
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06スライド_債務償還年数の分析

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 今回のデータを状況を踏まえ、江澤委員は「医療機関の経営は過去に経験のない厳しい状況にあることが明白。診療報酬や補助金による大幅な支援を緊急に手当てしないと、取り返しのつかない事態、深刻な医療崩壊が目前に迫っていることは誰もが認識できる」と理解を求めた。

 太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は江澤委員の意見に賛同した上で、「2024年度は2023年度よりも大幅に悪化している。2025年はもっと悪い。運転資金の確保に苦慮している病院が多い。経営の先行きが見通せない状況」と訴えた。続いて池端副会長も同様の意見を述べ、「収益は上がっているのに赤字幅が増えているという現状は構造的におかしい。夏の賞与も一般企業並みに出せない。離職者が増えていく」と現状を伝えた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 私も江澤委員、太田委員と同じような内容になるが、意見を述べる。まず、事務局には、各種の切り口で、このように詳細なデータをMCDBから分析していただいたことを心から感謝申し上げたい。そして、過去にいろいろな実調等の分析があるように、いろいろな業種あるいは規模等々で、かなり今まではいろんな差があったはずだが、今回の形は全ての病床あるいは規模で原則的にマイナス基調であることがはっきりしたと思っている。人件費や経費が70%を超すという中で、江澤委員、太田委員もおっしゃったように、2024年から2025年にかけて、さらに、その比率が厳しさが増えていることは火を見るよりも明らかな状況にある。 
 23ページ(債務償還年数の分析)については、江澤委員が述べたように、債務償還年数がマイナスという、いつ破綻してもおかしくない病院が全体の4割あるということで、これは本当に由々しき問題ではないかと思っている。病院団体もさかんにいろいろな場で訴えているが、ある日突然、その地域の病院がなくなる可能性が4割あるという事実をぜひ認識していただきたい。
 一方で、例えばコロナ等で少し稼働率が落ちたからではないかという声も以前あったが、2024年や2025年など最近のデータを分析していただければおわかりになるように、稼働率は上がってきている。病院は本当に努力して患者は増えている。2024年から2025年にかけて患者が増えて収益は上がっているが、さらに経費が増えてしまって赤字の幅が広がっているのが現状である。これは、自治体病院の24ページ以降のデータにもあるように、収益は上がっているのに赤字幅が増えているという現状。これはもう構造的におかしいとしか言えない。 
 これ以上、どうやって努力すればいいんだという声が現場の職員からも聞こえてくる。この夏の賞与も、とても一般企業並みに出せない。そして、経営者は身をはたいて、それでも出せなくているという厳しい状況に、そして、だんだん離職者が増えていくという悪循環に入ろうとしている。むしろ期中改定も視野に入れなければならない状況ではないかと感じている。ぜひ、ご理解いただいて、今後の各論も含めて、しっかり議論させていただければと思うので、どうかよろしくお願いしたい。
 事務局におかれては、2024年のMCDB、そして実調等も含めて総合的に判断できる材料をご用意していただければと思う。病院団体としても太田先生を中心にデータ作りをしている。それもあわせて皆さんに示したいと思っているので、よろしくお願い申し上げる。

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「お金は必ず一定期間後に入ってくる」と支払側

 こうした診療側の意見に対し、支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「MCDBには個人立が含まれず、医療法人だけのデータであり、直ちに医療経済実態調査を代替できるものでない」としながらも、「補完的に活用できることが今回の分析で示された」とし、「全体を通した率直な感想として、病院と診療所の経営状況には明確な違いがある」と述べた。

 また、療養型病院について「病床規模との相関が顕著で、100床を超えると黒字になり、さらに病床数が増えると3%を超える水準まで利益率が高くなっている」とし、診療所については、「医業利益率が平均値・中央値・最頻値ともにプラスが多く、かなり高い利益率の法人がある」と指摘した。

 さらに、自己資本比率やファクタリングなどのデータにも言及。「(診療側の)各委員からコメントがあったが、この業界の非常に特徴的なことは、保険診療である限りは、お金は必ず一定期間後には入ってくるということ。これが一般の企業とは大幅に違う。自己資本比率も低く、現預金回転期間も少ない月数で済んでいるというのは、そういったものに起因するものであるし、ファクタリングというものが成立するのも、そういったものの影響である」と述べた。ほかの委員からは「貸し倒れがないわけだから、3カ月あれば十分ではないか」との声もあった。

 こうした意見に対し、池端副会長は「努力した結果として2カ月後に報酬が入る形になっているので、黙っていても2カ月後に収入が入るわけではない」などと反論した。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 お言葉を返すわけではないが、少し誤解されているのではないかと思う。診療報酬というのは、あくまでも、その診療の対価として2カ月後に入るもの。貸し倒れがないとおっしゃるが、診療そのものの対価である。その努力した結果として2カ月後に報酬が入る形になっているので、黙っていても2カ月後に収入が入るわけでは決してない。
 それを債権化するということは、その2カ月後にいただく報酬で経営をなすことで、その全てを債権化することは誰もやりたくない。なぜならば、それを全て召し上げられるわけだから。なおかつ、それをしなければいけないというのは、もう本当に破綻寸前の病院に近いところで、とにかく今、目の前のキャッシュフロー上、現金がないから、そのときに債権化するということになる。決して病院が左うちわで、2カ月後にまた入ってくるからいいよということで、やっているわけではない。収入は入っても、その上に支出が多いから、どんどん悪循環をしていって、今、こういう状況になっている。なおかつ、今までの原資も返せなくて、いわゆるマイナス基調。債権も返せなくなっている状況が4割あるということ。 
 それは先ほど江澤委員もおっしゃったように、価格転嫁できない。周りが上がったから商品の価格を上げるということができない。給料が上がったから診療報酬の基本料を1割上乗せしようということはできない。2年間、完全に据え置きで、しかも施設基準があって、職員は必ず何人配置しておかないといけないということで、たとえ入院の患者が減っても減らなくても、きちんと施設基準上の人員は揃えておかなければいけない。
 一般の企業であれば、利用者や消費者が減ってきたり、あるいは買い手が減ってきたりすれば、その分はあわせて下げられるかもしれないが、そういう企業努力ができない仕組みになっているのが病院の体制であることをご理解いただきたい。

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