リハビリ査定の地域差、「患者への差別」── 井川副会長、入院外来分科会で
リハビリテーションなどをテーマに議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の井川誠一郎副会長は「例えば運動器リハは4単位を超えると全てカットする地域や、70歳を超えた廃用リハは3単位しか認めない地域もある」と指摘した上で、「ローカルルールがまかり通っていることは非常に大きな問題」と厚労省側の認識を尋ねた。厚労省の担当者は、「診療報酬制度は全国統一的に運用できるようにしていくべきなので実態の把握などを考えていきたい」と答えた。
厚労省は8月21日、中央社会保険医療協議会(中医協)の診療報酬調査専門組織である「入院・外来医療等の調査・評価分科会」(分科会長=尾形裕也・九州大学名誉教授)の令和7年度第9回会合を開き、当会から井川副会長が委員として出席した。
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この日の議題は、中医協総会への報告結果や賃上げ・処遇改善など7項目。このうち、リハビリや慢性期など6項目について資料「入-2」を示し、令和6年度調査結果などを踏まえた課題等について委員の意見を聴いた。
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井川副会長は、▼2.リハビリテーション(その2) ▼3.回復期リハビリテーション病棟(その2) ▼4.慢性期(その2)──の3項目について意見を述べた。井川副会長の発言要旨は以下のとおり。
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リハビリテーション(その2)について
[井川誠一郎副会長]
詳細なご報告をいただいた。まず103ページ(急性期における曜日ごとの初期加算等の算定有無別リハビリテーションの実施割合)、104ページ(急性期における曜日ごとの早期リハビリテーションの介入)において、急性期における土日祝日のリハビリテーションがまだ不十分であるというデータが出ている。
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これは令和5年度から診療報酬改定がなされているので、その結果として令和5年度と比較された場合にどうなるかというデータはぜひ出していただきたいと考えている。
続いて、107ページ(退院時リハビリテーション指導料)について。
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108ページによると、退院時リハビリテーション指導料を算定した患者のうち、疾患別リハビリテーション料を算定していない患者は33%。また、退院時リハビリテーション指導料を算定し、かつリハビリを実施しなかった患者は、在院日数が短いほど多かったと記載されている。
疑った見方かもしれないが、事務局としては、短期間入院でリハビリもしない患者に退院時リハビリテーション指導料を算定するのはいかがなものだろうかという考え方に基づくデータなのかなという気はする。
ただ、グローバルな視点で超高齢社会の日本を考えると、高齢者の在宅でのリハビリテーションに対する意識や、急性期病院に入院した際の早期リハビリテーションの必要性というものを啓蒙する非常にいいチャンスであるように私は思っている。そういう観点からいうと、ここのところは、別にあってもいいのかなと思っている。
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110ページ(リハビリテーションに係る書類作成)について、ここに書いてあるように、非常に煩雑で重複しているものもかなり多いということもあるので、もし可能であるならば統合して、少し点数を増やすなどしていただいて、書類を一本化するというふうにやって、書類の枚数を減らすことをしていただきたい。この書類に追われているセラピストは結構いるので、そういう観点からは必要な処置ではないかと考えている。
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回復期リハビリテーション病棟(その2)について
124ページから実績指数、除外患者、重症患者について、それぞれ組み合わせた検討がなされている。非常に細かい内容で、ありがたいと思っている。
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158ページには、「リハビリテーション実績指数と重症患者基準について、現状をどのように評価するか」という課題として挙げられている。
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現状では、事務局ご指摘のとおり、重症患者と除外患者ともに該当するという患者は結構増えてきているということは理解している。
ただ、これを重ならないようにすればするほど、もともと重症患者割合を導入した理由の1つである患者選別を防ぐという理念から少しずつ離れていってしまうのではないかという気がする。
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除外基準の設定当時から10年近くが経過し、入院患者の30%が85歳以上という状況になっている現在、80歳以上という基準は、125ページの左上の赤枠のように、該当患者割合がかなり多くなってしまうという点で言うと、少し緩過ぎるという可能性は考えられると思っている。
続いて、136ページ(施設ごとのFIM得点が低下した患者の割合)について。回リハにも、この5%のところで切られておられる。線が引かれているが、これはあたかも地域包括医療病棟のADL低下、患者割合5%という数字にちょっと似ていて、どうなのだろうと思っている。
ただ、地域包括医療病棟における5%という数字も何ら根拠なくというか、失礼な言い方かもしれないが、何らデータなく、突然5%という数字で始まっている。今回も、この段階で、「64%は5%未満だから」という話になっているが、ここの検証というのは、もう少し十分になされる必要があると思っている。
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それから、140ページ(運動器リハビリテーション料の上限単位数)で、早期歩行、それからADLの自立等を目的とした運動器リハビリテーション料(Ⅰ)では9単位まで可能という疑義解釈を出していただいているが、実は現場では、保険者によって全く認めないという地域もあったり、また、もともと運動器リハに関しては、4単位を超えると全てカットという査定をされる地域や、廃用リハビリテーションに関して言うと、70歳を超えた廃用リハは3単位しか認めないという地域もあるという状況である。
こういうローカルルールがまかり通っていることは非常に大きな問題で、患者に対する差別みたいな形につながっている。これは地域によって受けられる医療サービスが異なるということ。これらに関する何らかの是正というのは必要だと考えるが、事務局としては、どういうふうにお考えなのか、これは質問として伺いたいと思っている。
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次に、141ページ(疾患別リハビリテーション料の提供単位数別のFIM利得)。毎回、同じことを申し上げて申し訳ないが、廃用リハと運動器リハに関しては、要するにカーブが指数関数的であり、それから脳血管リハに関しては直線的なカーブになっているという点では、カーブの形が違うということは言えると思うが、イコール、FIM利得が小さいということにつながっているわけではない。
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139ページ(運動器リハビリテーション料算定患者のFIM利得)では、今回の改定で6単位に減らした影響を見ている。例えば、令和6年度改定前の8から9単位のところのFIM利得は25を超えている。27ぐらいだろうか。ところが、令和6年度改定の5から6あたりでは25を切ってしまう。この3単位という差をどう考えるか。そういう意味で言うと、同じだと断言するのはいかがなものかと私は思っている。
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それから、150ページ(退院前訪問指導の所要時間)について。「退院前訪問指導を実施している施設のうち93%の施設で、所要時間60分以上を要しており、120分以上150分未満の割合が最も多かった」と記載されている。
これは疾患別リハで言えば6単位から9単位という、1人の患者に丸1日使うレベルの労力を使って行っていることになるので、ここに関しては何らかのインセンティブをもう少し付けてあげないと、そのために1人のセラピストを雇わないといけないということにもつながってくるので、そういう考慮は必要だと思う。
【厚労省担当者の発言要旨】
リハビリテーションの算定についての地域差に関連した質問だったと思う。どういった地域差があるのかについて、今、事務局として把握しているものはないが、当然、診療報酬制度は全国統一的に運用できるようにしていくべきということであるので、また実態の把握などを考えていきたいと思う。
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慢性期(その2)について
詳細に検討いただき、感謝申し上げる。スモンを除く27区分の算定数、従来の9区分に、本来であれば当てはめるとどうなったのかというデータが少し欲しかったが、それぞれ、どの程度のパーセンテージで算定されているかに関しては非常によくわかった。ただ、このデータの中には、例えば褥瘡が発生している患者、処置区分2の患者に対して、長期入院の間に肺炎を起こしたり尿路感染を起こしたり、2つ目の処置区分が入った場合のデータというのは存在しない。
それに対しては同様に医療資源投入量が増えるはずだが、その部分は反映されにくい。いくら細かくしても、そこが難しいという実感がある。できれば、処置区分が2つ重複したような場合には、何らかの区分を少し上げるという形の工夫が今後、必要になってくるという気はしている。
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身体拘束に関しては、181ページに実施状況が示されている。一生懸命、頑張っているところは、「デバイスあり×認知症あり」でも0%というところが30%ある。一方、「デバイスなし×認知症なし」であるのに身体的拘束を行っているところが2割近くある。これは病院そのものの問題なのか、それとも患者層の問題なのかを、はっきりさせて、その上で評価していかなければならない問題だと思うので、その辺は詳細を詰めていただければと思っている。
続いて、188ページ(摂食嚥下機能の回復や栄養管理に係る体制・加算の届出状況)。これは非常に大事な問題だと思う。非常に面白いデータを出していただいた。嚥下機能の回復や栄養管理に係る体制・加算の届出状況について円グラフを3つ重ねて、どういうふうにとっているかがすぐにわかるデータである。経腸栄養管理加算を届け出ている施設の多くは専任の管理栄養士を配置することによって要件をクリアしているというのがクリアで、非常によくわかった。
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また、他院もしくは自院でVFやVEが実施できる体制を有している施設が3分の1ぐらいしかないことも明らかにされている。確かに、VFやVEというのは嚥下状態を把握すること、そのものには非常に有用だと思うが、今後の改善の可能性などを示唆するものではない。実際、80歳以上の高齢者に検査をすると、健常と思われている患者でも遅延や残留などが発見されることもある。STが常時行っている、例えば反復唾液嚥下テストや水飲みテストなど、簡便な嚥下機能評価法が訓練をしていくには非常にタイムリーでふさわしいと考えている。
そういう意味で言うと、こういう体制を有していることを要件に入れて、例えば、VFやVEを必須項目としないという選択肢もありかなと考えている。そうすることによって、より訓練が加速し、より嚥下機能が良くなっていくのであれば、そのほうがいいのではないかと考える。
なお、先ほど中野委員から、176ページ(療養病棟入院料1における医療区分と医療資源投入量)、177ページ(療養病棟入院料2における医療区分と医療資源投入量)に関して「入院料の4、7、13、16はADLが低い患者さんが該当するということで、点数が高く設定されているということになるが、実際の資源投入量が高くはないということがわかった。次回改定に向けた課題となるのではないか」という意見があった。
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この部分というのは、ADLが悪くて結局、人的投入量というか、そういうものを評価していただいた部分であるので、そこを削ってしまうと、ますます寝たきりが増えるというか、そういう観点から言うと、今回の改定、先般の改定、全部そうだが、どちらかというと医療資源の投入量に一辺倒になっており、人的投入量に関しては、あまり評価されていなかったということがある。
それに関して、この医療区分のところでは、ADL区分というのがもともと入っていたおかげで人的投入量が少し加味されている。そういう観点から言うと、ここを安易に、医療資源投入量が少ないから下げるべきだという議論には、私はならないのではないかと思っている。
2025年8月22日




















