宿直兼務の課題を提示 ── 第50回通常総会で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

橋本康子会長_20240624

 政府の規制改革実施計画に盛り込まれた「医師の宿直体制の見直し」の具体的な検討に向け、日本慢性期医療協会は6月24日、緊急実態調査の結果を公表した。会員の意見などを踏まえ、橋本康子会長は「病院間の移動にかかる時間や距離、業務負荷、患者家族の理解など、宿直兼務時に想定される課題がある」と指摘。池端幸彦副会長は「厚労省医政局等とも連携を図る。今後の調査などで協力してほしい」と当会役員に呼び掛けた。

 同日の「第50回通常総会」では、令和6年度事業報告・決算報告のほか、新たな副会長として中尾一久常任理事の就任を満場一致で承認。記念講演会では、新たな地域医療構想をテーマに厚労省医政局地域医療計画課の中田勝己課長がこれまでの経緯や今後の課題などを説明し、当会役員からの質問に答えた。

 続いて、橋本会長が登壇し、「医師の宿直体制に関する日慢協の見解」を提示。当会会員を対象に、5月26日から6月8日までに実施した緊急実態調査の結果を報告した上で、宿直兼務に関する課題を示した。

 調査によると、会員病院からは「特定の時間帯のオンライン宿直許可等を望む」との声があった一方、「宿直医は必須で、常態として配置する必要がある」との意見もあった。橋本会長は、調査で明らかになった電話対応の件数や現場での診察・処置などの件数などを分析した上で「宿直兼務に関しては、条件付けなどにより、いくつかの課題をクリアする必要がある」との認識を示した。
 
 橋本会長の発言要旨は以下のとおり。なお、資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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宿直体制見直し議論について

[橋本康子会長]
 「医師の宿直体制に関する日慢協の見解」について、当会の見解を述べたい。
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 まず背景について説明する。今年3月31日、内閣府の規制改革推進会議「健康・医療・介護ワーキング・グループ」の第3回会合が開かれ、「地域における病院機能の維持に資する医師の宿直体制の見直し」が議題に挙がった。
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 その会議において、慢性期医療を担う病院の院長から「宿直対応の『遠隔』かつ複数医療機関の『兼務』を行うことを制度上認めていただきたい」との意見が出されたが、当会の公式見解として要望したものではない。
 
 その後、5月28日に取りまとめられた「規制改革推進に関する答申」では、「地域の病院機能の維持に資する医師の宿直体制の見直し」が盛り込まれた。 それによると、「地域の実情に応じて必要な病院機能を維持するため、①宿直の例外規定にオンラインによる対応が含まれる旨明確化、②複数病院の宿直を遠隔かつ兼務可能とすることを検討」としている。
 
 答申の本文には、「地域の慢性期医療を担う一部の病院など」から、「一定の要件の下で、1名の医師が複数の病院の宿直対応を兼務で行うことを可能とするよう求める要望がある」と記載されており、6月13日に閣議決定された「規制改革実施計画」にも同様の記載がある。

 3月31日のワーキング・グループで意見を述べたのは当会の会員であるが、日本慢性期医療協会の統一見解ではなく、当会から要望したものではない。
 
 今回の答申を受けて閣議決定された「規制改革実施計画」を踏まえ、当会では医師の宿直体制に関する実態調査を実施した。本日は、その結果を発表するとともに、日慢協のスタンス、日慢協の考え方を述べたい。

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宿直に関する実態調査の概要

 医師の宿直体制の見直しについて、①宿直の例外規定にオンラインによる対応が含まれる旨明確化、②複数病院の宿直を遠隔かつ兼務可能とすることを検討──が挙げられているが、このうち①は今後のICT化の進展を踏まえ、必要な対応であると考える。
 
 問題は②である。これからの検討に向けて、慢性期医療の病院における宿直体制の実情についてアンケート形式で実態調査を実施した。
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 調査期間は5月26日から6月8日までの2週間。調査内容は、2週間における宿直担当医の人数、宿直時間、電話対応件数を確認したほか、現場対応件数、すなわち実際に患者のもとへ赴いた件数を把握した。

 なお、現場対応の内訳については、以下の5項目に分類した。1つ目は診察および処置。2つ目は転院対応であり、例えば「当院では対応困難なため、急性期病院への転院が必要」と判断したケースなどである。3つ目は救命措置の実施。4つ目は看取り、5つ目は「その他」の対応として集計した。

 スライド右側に示したのが、回答を得た病院・病床数や病床種別の内訳である。今回、2週間という短期間で調査を実施したため、回答数は限定的ではあるが、156病院から回答を得ることができた。

 この156病院における総病床数は3万1,032床で、平均病床数は198.9床。この中には、40床規模の病院もあれば、300床規模の病院も含まれている。

 病床の種別ごとの内訳は以下のとおり。療養病床が1万2,274床、回復期リハビリテーション病棟4,437床、介護医療院4,087床、障害者病棟3,085床、地域包括ケア病棟2,317床、精神科病棟1,566床である。また、「上記以外の一般病床」として1,526床。このほか、特殊疾患病棟769床、認知症病棟674床、その他(休床など)が297床である。
 
 なお、複数の病床種別を併せ持つ病院が多い。例えば、認知症病棟と回復期リハビリテーション病棟、あるいは介護医療院と地域包括ケア病棟を併設している病院、さらには一般病床を有する病院も含まれる。以上の病床種別を集計し、総計3万1,032床に基づく結果を報告する。

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調査結果について

 調査結果は以下のとおりである。全回答病院における宿直時の現場対応件数は、1日あたり1.1件であり、電話対応件数を上回っていた。慢性期病棟に限定した場合、電話対応は1日あたり0.5件、現場対応は0.7件であった。
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 全病院を対象とした宿直時対応においては、2週間の間に1病院あたり電話対応は合計8.3件、1日あたりに換算すると0.6件であった。すなわち、概ね2日に1回程度の頻度である。

 一方、現場対応、すなわち患者のもとに赴いて何らかの対応を行った件数は、1日あたり1.1件であった。このことから、調査期間である14日間において、ほぼ毎日1回は患者のもとに赴いて対応していたことがうかがえる。その具体的な対応内容は、診察・処置が0.8件、看取りが0.2件であった。なお、当該調査期間中においては、転院対応や救命処置はわずかであった。ただし、回答病院の中には一般病床1,526床が含まれていたため、それらを除き、慢性期病棟のみを運営している病院に限定した分析を行った。スライド右側に示している。
 
 慢性期病棟のみを運営している病院は60施設。その内訳は、①療養病棟入院基本料(52病院、5,320床)、②回復期リハビリ病棟(22病院、1,885床)、③地域包括ケア病棟(17病院、779床)で、これらの病棟のいずれか、あるいは複数で構成されている。総病床数は約8千床である。60病院の調査結果によると、電話対応件数は1日あたり0.5件で、一般病床を含む全病院の0.6件と比較して0.1件少ない。現場対応件数は1日あたり0.7件で、2日に1回の頻度で患者のもとに赴いている。その対応内容は、主として診察・処置や看取りであった。

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回答病院の主な意見について

 回答病院から寄せられた主な意見を紹介する。宿直医確保のために、手配や金銭面での苦労が見られた。複数病院での兼務については、賛否それぞれの意見があった。
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 主な意見(趣旨抜粋)として、「宿直医師確保のためのバイト代、派遣料、仲介料が高騰し、経営を圧迫している」との指摘があった。自院の医師が宿直する場合にも宿直代の支払いは必要だが、経営を圧迫する主な要因は外部の仲介業者への派遣料や紹介料などの支払いにあると考えられる。すなわち、自院に宿直医が不在の際、仲介業者を介して医師を手配するため、その費用負担が重くのしかかっていると思われる。

 続いて、「宿日直許可届における規制(宿直週1回、日直月1回)を緩和して欲しい」「特定の時間帯のオンライン宿直許可等を望む」との要望もあった。また、「近隣に複数病院があり、同一カルテ(クラウド)で運用しているが、各施設に1名ずつ宿直を配置しているので、合理的で現実的な宿直体制を検討して欲しい」との意見も寄せられた。これは、おそらくグループ病院における運用状況を反映した意見であり、クラウド型の電子カルテを活用していることから、現実的な提案と受け止められる。

 このほか、「宿直医兼務の検討にあたっては、条件設定をすべき」「宿直医兼務におけるトラブルは、当該病院管理者に及ぶことを判断すべき」との意見もあった。これは、例えば「医師が不在であったのではないか」と問われ、病院管理者がその責任を追及される訴訟リスクなどを指摘する意見である。

 加えて、「実際の急変時において、医師がオンラインで指示することに患者や家族が納得するか」との懸念も示された。すなわち、病院であるにもかかわらず、夜間に医師が常駐していないことに対し、患者や家族が納得し得るかという点についての問題提起であり、この意見は十分に理解できる。「宿直医は必須で、常態として配置する必要がある」との意見も同様の認識に基づくと考えられる。

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宿直兼務のイメージについて

 慢性期病棟においても、2病院で1日1.4件の現場対応がある。いずれかの病院で1日1件の対応が発生し、2日に1回の頻度で両病院を往来する必要が生じることになる。
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 1名の宿直医が2病院を兼務する場合のイメージを示す。宿直兼務において、いかなる問題が発生しうるか、今後の検討に向けた課題を提示する。規制改革実施計画では、「令和7年度上期検討開始、遅くとも令和9年度結論・措置」とされている。このため、今回の調査結果が今後の検討に資することを期待する。

 同計画においては、「オンラインによる対応を含む、電話以外の情報通信機器を用いた対応やカルテ情報の共有等のICT技術を活用することで、複数の病院の宿直対応を遠隔かつ兼務で行うことが可能となる要件等を検討し、遅くとも令和9年度中に結論を得次第、速やかに所要の措置を講ずる」としている。しかし、こういったことが実際に可能かどうか。本調査結果がその検討材料になればいいと思う。

 先に示したデータのとおり、慢性期病棟に限れば、現場対応は1日あたり0.7件である。例えば、1人の医師がA病院とB病院の宿直を兼務する場合、それぞれの病院で0.7件ずつ、合計で約1.4件の現場対応が生じる。したがって、ほぼ毎日、いずれかの病院において急変等の現場対応が必要となる。すなわち、1日1件はどちらかの病院で対応が発生し、結果として2日に1回は2病院間を行き来することになる。

 さらに、A・B・Cの3病院を兼務する場合には、病床数の増加に伴い対応の負担が一層増すことも予想される。例えば、A病院に宿直医が1人配置され、B病院も兼務する場合において、B病院から「患者の状態が悪化したため診察してほしい」といった要請があれば、医師はB病院へ移動し、現地で対応しなければならない。この際、呼び出しから実際の対応までには一定のタイムラグが生じる。

 加えて、同時に複数の要請が発生した場合には、優先順位をつける必要がある。例えば、A病院の医師がB病院の患者に関する情報を十分に把握していない可能性があり、現場での判断や対応に支障を来すおそれがある。また、電子カルテの操作方法が病院ごとに異なる場合には、カルテ閲覧自体が困難となり、患者情報の収集においても大きな障害となる。

 宿直医は、患者からの要請を受けて現場に赴き、診察を行うが、それだけで業務が完了するわけではない。診察後には処置を施し、その後も点滴等の経過観察を行う必要があり、数分や10分程度で完了する業務ではない。場合によっては数時間を要することもある。

 例えば、B病院において、このような対応を行っている最中に、A病院から「患者の状態に変化があったので診てもらいたい」といった連絡が入ることもあり得る。このように、A・B病院を兼務することで、両病院間を頻繁に行き来する必要が生じる可能性が高くなる。

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宿直兼務にかかる課題のまとめ

 本調査に基づくまとめとして、宿直医の兼務に関する課題を整理した。宿直医の兼務に際しては、時間や場所に関する物理的制約のほか、宿直医への負担の増大、医療の質および患者・家族からの信頼性に関わる課題を解消する必要がある。
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 第一に、「時間」に関する課題である。先に述べたような同時に複数の対応が発生した場合の問題に加えて、病床規模および病院間の距離も大きな要因となる。例えば、100床規模の病院が2施設あれば合計200床、200床規模の病院が2施設であれば合計400床となり、患者対応の負担は増大する。それに伴い、急変等の同時発生頻度も高くなると考えられる。さらに、病院間の移動に20分〜30分を要する場合、迅速な対応が困難となるため、兼務可能な病院の距離については、例えば5〜15分以内に限定するなど、一定の基準を設ける必要がある。

 また、1件の現場対応には数分から数時間を要する場合があり、病床数が多いほど同時発生の確率は高まり、移動距離が長いほど初動対応までの時間が増加する。以上の理由から、「時間」は重大な課題として位置づけられる。

 第二に、「業務」に関する課題である。異なる病院を兼務する場合、施設の構造や職員、情報に対する理解や共有が困難となる。例えば、処置に必要な医療機器の有無や、機器の設置場所・使用方法が把握できないことがある。患者が腹痛や胸痛を訴えた場合にエコー検査を行おうとしても、機器の有無が不明であり、レントゲン撮影の必要が生じた際も、夜間に技師が配置されているか不明な場合がある。すなわち、複数病院を兼務する状況では、機器や資材の把握が困難であり、業務遂行に支障を来す可能性がある。

 さらに、患者の状態を把握している夜勤看護師の適切な配置も必要である。加えて、電子カルテによる情報収集も課題となる。他院が自院と異なる電子カルテを使用している場合や、紙カルテを使用している場合には、迅速な情報取得が困難である。また、主治医が宿直医向けに毎日適切なサマリーを作成しておく必要があり、これが行われていない場合には、診療の質に影響を及ぼすおそれがある。

 第三に、「働き手」に関する問題である。複数の病院で宿直を担う医師にとって、業務負荷の増大が大きな課題となる。すなわち、宿直業務の量、対応範囲、担当エリアの拡大が深刻な問題である。
 
 例えば、A病院からB病院への移動手段を具体的に検討した場合、事務当直が常駐している病院とそうでない病院があり、医師自身の自家用車での移動などを求められることもある。医師不足により宿直医の確保が困難な状況であるにもかかわらず、業務が増加し、対応件数が倍増、兼務先病院での業務対応、さらには病院間の移動負担が加わる中で、果たして宿直医を確保できるかという深刻な問題がある。

 第四に、「患者家族」に関する問題である。これが特に重要な課題であると私は考える。患者や家族の理解が得られるかどうか。例えば、「夜間に医師が常駐していればすぐに診てもらえて、こんなことにはならなかった」との不満や、医師不在による緊急対応の遅れに対する不信感は、医療訴訟のリスクにもつながる。病院の信頼性確保という観点からも、この点は軽視できない。

 また、「救急受入」に関する問題がある。これまで、日本慢性期医療協会では慢性期救急(高齢者救急)の積極的な受け入れを推進しているが、宿直体制が不十分であれば、その実現は困難となり、夜間救急の受け入れ制限や対応不能といった事態も生じかねない。
 
 実際、私が運営している香川県内の病院でも、宿直医の確保は非常に困難という現実がある。かつては大学病院からの医師派遣も見込めたが、近年ではその期待は薄い。そこで、派遣業者に依頼することになるが、すぐに対応してもらえるとは限らない。
 
 さらに、最近の若手医師の多くは、面接の段階で「宿直はしない」という条件を提示する例が多い。高齢の医師が宿直を辞退するのは理解できるが、若年層の医師までも同様の姿勢を示す傾向にあり、宿直医の確保は極めて困難な状況となっている。このような現状に対して、「気力で乗り切れ」というのは現実的ではなく、制度的・構造的な改善策が求められていることは明らかである。

 しかしながら、病院である以上、日本慢性期医療協会としてはこれまで療養病床を「慢性期治療病棟」として位置づけ、慢性期救急を積極的に受け入れる方針で取り組んでいる。その基本的なスタンスと整合性を保つ必要がある。したがって、宿直医については、可能な限り病院内に常駐していただくことが望ましいと考える。

 仮にそれが実現困難な場合には、一定の条件を設けることが不可欠である。例えば、病床数が極めて少ない病院に限定する、あるいは兼務先の病院が物理的に非常に近距離であるといった条件が挙げられる。この点、グループ病院であれば、クラウド型カルテや電子カルテが共通であることが多く、宿直医の兼務が比較的容易であると考えられる。

 今回の調査では、現場対応が1日に0.7回、2日に1回の頻度で現場対応が発生しており、こうした対応の遅延や困難は、患者や家族の理解を得る上で大きな障壁となる。以上より、日本慢性期医療協会のスタンスとしては、宿直兼務に関しては、一定の条件付けというか、こうした課題をクリアしていただきたい。そうでなければ、なかなか難しい課題が残ってしまうのではないかと思う。以上である。
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[池端幸彦副会長]
 橋本会長、ありがとうございました。ただいま橋本会長から説明があったとおり、今回の内容は規制改革推進会議からの答申に基づくものであり、令和9年度までに結論を得ることが求められている。したがって、今後は厚労省医政局総務課等との連携も図りつつ、当会として協力可能な事項については積極的に協力していくことが橋本会長のご意向であると理解している。

 今後、必要に応じて、会員の先生方にアンケート調査等へのご協力をお願いする場合も想定される。その際には、何卒ご理解とご協力を賜りたく、お願い申し上げる。

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