リハビリテーション介護士の養成を ── 2月13日の定例会見で橋本会長

日本慢性期医療協会は2月13日の定例記者会見で、「リハビリテーション介護士の養成」と題して見解を示した。橋本康子会長は、寝たきりゼロに向けたリハビリ介護士の役割と重要性について述べ、医療・介護の現場におけるリハビリ介護士の必要性を強調。日慢協のノウハウを生かしたリハビリ介護士の養成に意欲を見せた。矢野諭副会長は「チーム医療におけるリハビリマインド」という視点を示した。
会見で橋本会長は、日常のケアをリハビリの機会として活用し、患者の機能改善や要介護度の改善を図る役割を担うリハビリ介護士について説明。リハビリの視点を持った介護の実践が寝たきりの防止につながると指摘した。また、リハビリの専門職から介護職への技術伝達の重要性や、介護職の腰痛予防に向けた適切なケア技術の習得についても言及し、日慢協によるリハビリ介護士養成の取り組みを示した。
橋本康子会長は、リハビリ介護士の養成が不可欠である理由として、介護職が患者のADLに最も長く関与している点を挙げた。橋本会長は「リハビリスタッフによるリハビリの提供時間は限られており、1日に30分から2時間程度である一方、介護職は1日4時間以上にわたり患者に関与するため、リハビリ視点を持った介護の実施が患者の機能向上に大きく貢献する」と述べた。
また、リハビリ介護士の養成目的として、寝たきり防止を挙げ、「寝たきりを防ぐためには、患者が可能な限り自立したADLを維持できるよう支援することが重要であり、そのためには少量頻回のリハビリが不可欠」と指摘。「介護職が適切なリハビリ技術を習得し、日常ケアをリハビリの機会として活用することで、ADLの自立化や要介護度の改善につながる」と説明した。
さらに、適切な介護技術の習得は、介護職員の腰痛予防にも寄与する点を強調。「リハビリ療法士と比較すると、介護職の腰痛発生率は非常に高く、これは適切なケア技術が十分に浸透していないことが要因の一つ」との認識を示した。その上で、橋本会長は「リハビリの専門職から技術を学び、正しい移乗方法や体勢の確保を徹底することで介護職自身の負担軽減にもつながる」と述べた。
橋本会長は今後の日慢協の取り組みとして、リハビリ介護士の養成を進める方針を示し、「日慢協の専門家が持つノウハウを活用し、適切な教育を提供することで、リハビリ介護士の育成と質の向上を目指す」との意向を表明。「リハビリ介護士により、医療・介護の現場でのリハビリの質が向上し、患者の自立支援と介護職の負担軽減が両立できる」と述べた。
矢野諭副会長は「リハビリの視点は介護士だけでなく医師にも求められる。回復期リハビリ病棟、地域包括ケア病棟、医療療養病棟などにおいて、日慢協の会員はリハビリマインドを備えているといえるが、チーム医療の中での必要な視点として、さらに強化すべき」との考えを示した。
会見要旨は以下のとおり。なお、資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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本日の内容
[矢野諭副会長]
定刻となったため、これより日本慢性期医療協会2月の定例記者会見を開始する。本日の議題は「リハビリテーション介護士の養成」である。それでは、橋本会長、よろしくお願いする。
[橋本康子会長]
今回のテーマは、矢野副会長から紹介があったとおり、「リハビリテーション介護士の養成」である。
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この内容は、前回の記者会見で取り上げた介護のあり方に関する議論の延長に位置づけられるものであり、それに関連する内容となる。リハビリテーション介護士の養成については、副題として「日常のケアをリハビリテーションに」と掲げている。
その「目的」は、機能改善および寝たきり防止を図り、必要なリハビリ量を確保することにある。「プロセス」としては、介護職がリハビリの視点を持ち、日常生活動作のケアを実践することが求められる。「アウトカム」としては、ADLの自立化と要介護度の改善が期待される。
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介護福祉士への評価
現在、介護福祉士がどのように評価されているか。
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令和6年度診療報酬改定において、介護福祉士の配置による加算が新設された。従来の「看護補助体制充実加算」は55点であったが、今回の改定により、55点・65点・80点の3区分に分けられ、「看護補助体制充実加算1・2・3」として新設された。これは、介護福祉士や介護士、すなわち看護補助者にとって大きな意義を持つ改定である。
施設基準において、「当該看護補助者は、介護福祉士の資格を有する者」と明記された。医療保険の分野において「介護福祉士」という名称が公式に使用されたことは、これまで「看護補助者」として扱われていた立場からの大きな進展である。
すなわち、これまで「看護補助者」として位置づけられていたが、今回の改定により「介護福祉士の資格を有する者」として正式に評価された。介護福祉士という名称が医療保険の分野で用いられたことは、記念すべき出来事である。
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介護福祉士の役割
では、介護福祉士の役割は何か。
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前回も述べたように、寝たきり防止には各専門職種によるチームの連携が求められる。ここに示されているように、医師・看護師・リハビリ療法士・介護福祉士・管理栄養士・薬剤師がそれぞれの専門性を活かし、連携することが必要である。
医師をはじめ、各職種がそれぞれの役割を果たす中で、介護福祉士もその一員として加わり、ADL、すなわち日常生活動作のケアを直接的に担う。介護福祉士は、チーム医療の中で極めて重要な役割を果たしていると言える。
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介護職によるケア機会と時間
介護職によるケアの機会と時間について述べる。介護職が日常的にどのような業務を行い、どの程度の時間をかけているのかを示す。
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介護職によるADLケアは、リハビリ療法士(最大3時間)を含め、どの職種よりも頻度が高く、時間も長い。
介護職によるADLへの関わりの具体例を示す。介護職は、朝6時から昼12時、夕方6時、夜9時までの間、最低限の関わりとして、以下のような業務を行う。
朝6時に起床し、移乗を行う。その後、顔を洗い、着替えをし、トイレに行き、朝食を摂る。昼には移動し、食事介助を行い、食事を摂る。その間に入浴し、入浴介助を実施する。夕方になると再び移動し、食事介助を行う。夕食後は着替え、顔を洗い、就寝の準備を行う。夜間にはおむつ交換などのケアが入る。
これは最低限の関わりであり、介護職が患者の日常生活動作に関与する一連の流れである。1日に4時間程度、介護職が患者のADLに関わっていると考えられる。このようなケアが毎日継続的に行われている。
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介護職の専門性
介護職の専門性について説明する。日常生活において最も長時間関与するのは介護職である。
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介護職は1日約4時間にわたり利用者の生活に関わるため、最も長く関与する職種である。この関わりをリハビリの視点から捉え、ケアを実施することで、患者の能力向上を図ることができる。単なる日常的な支援にとどまらず、リハビリの視点を取り入れたケアの実践が求められる。
介護福祉士の定義については、「介護福祉士法」において次のように規定されている。「専門的知識及び技術をもって、身体上又は精神上の障害により日常生活を営むのに支障がある者に対し、心身の状況に応じた介護」を行う者とされている。
また、介護職の専門性については、回復期リハビリテーション協会の「介護5箇条」において、「『できるADL』を日常生活に積極的に取り入れ、『しているADL』へと定着させるべきである」と示されている。
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「できるADL」と「しているADL」について説明する。例えば、85歳の高齢者が杖を使用して歩行可能である場合、それが「できるADL」に該当する。しかし、実際の病棟では、食堂への移動やトイレの利用、入浴時など、すべて車椅子が使用されることが多い。つまり、「しているADL」は車椅子での移動が主体となっている。
「できるADL」と「しているADL」は一致しない。リハビリによって杖を使用した歩行が可能になったとしても、その速度が遅い。例えば、100メートルから200メートル程度は歩行できるようになったとしても、転倒のリスクがあり、安全確保のために介助者が付き添う必要がある。
この結果、食堂への移動やトイレの往復に多くの時間を要することとなる。介護職員の人数が不足している場合、効率を優先し、車椅子で迅速に移動させる対応が取られることが多い。しかし、このような対応が本当に望ましいのか、改めて考える必要がある。
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ケアに必要な量と質
ADLの機会を最大限に活かすためには、人員の確保とケアの質の向上が不可欠である。
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先に述べたように、迅速な移動を優先するのではなく、少しでも歩行を促すことがリハビリにつながる。少量頻回のリハビリを取り入れることで、患者の機能向上が期待できるが、現状ではそれが十分に実践できていない。その理由の一つは、ケア時間を確保するために必要な人員の不足である。セラピストだけでなく、介護職員の数も確保する必要がある。
また、もう1つの要素として、スキルの向上が挙げられる。同じ歩行支援であっても、リハビリ介護技術が確立され、適切なスキルを持つことで、身体機能の改善が促される。リハビリ視点での日常生活動作支援が実施されることで、機能回復が可能となる。したがって、リハビリ介護には「量」と「質」の両方が求められる。
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ケアの量 ── 量も質のうち
ケアにおいては、量も質の一部である。看護や介護は少数精鋭では成立しない。
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1人の優れた人材がいたとしても、その人が40床の病棟のすべてを管理し、おむつ交換やリハビリを単独で担うことは不可能である。医療とはそういうものであり、ケアにおいても同様である。活動量を確保するためには、一定以上の人員が必要となる。介入しなければ活動量は減少する。人員が不足しているとおむつの使用が増え、その結果として寝かせきりの状態が続き、やがて寝たきりにつながる。
では、どのように対処すべきか。最も効果的な方法として、トイレ排泄のトレーニングが挙げられる。20分ごとにトイレへ誘導することで、排泄のパターンを把握できるようになり、それに沿った誘導を行うことで、匂いを覚え、意思表示が可能となり、最終的にはトイレでの排泄が定着する。しかし、この実践には一定の人員が必要であり、適切な体制の確保が不可欠である。
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ケアの質 ── リハビリ介護
日常生活の大半を占めるADLに対し、残存機能を活かしたリハビリの視点で介入することが求められる。これを「リハビリ介護」とし、少量頻回のトレーニングとして実施する。
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介護には一定以上の人員が必要であり、日勤帯において1回でも2回でもトイレへ誘導することが重要である。しかし、こうした意識がなければ、おむつ交換の対応に追われ、結果としておむつを交換するだけで終わってしまう。何回おむつを交換しても、それ自体が患者の機能向上にはつながらない。リハビリ介護の観点からは、患者の残存機能を活用したケアが不可欠である。
例えば、日中に1回でもトイレへ行き、ベッドから車椅子への移乗、車椅子から便座への移乗、排泄、便座から車椅子への移乗、そして車椅子からベッドへの移乗を実施すれば、回数を重ねるごとに患者の機能は向上する。「良くなる」とは、残存機能を活用した介入によって、自立に向かうことである。これこそがリハビリ介護の目的であり、少量頻回のトレーニングの実践が求められる。
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リハビリ介護の潜在力
療法士によるリハビリとリハビリ介護を組み合わせることで、より多くのリハビリ時間を提供できる。量と質の確保により、機能改善および要介護度の改善が促進される。
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病院にはリハビリスタッフが配置されているが、リハビリ療法士の提供時間は限られている。急性期病棟から地域一般病床、地域包括ケア病棟、回復期リハビリ病棟においても、1単位20分として2時間が上限である。
患者は退院後、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院、または有料老人ホームに入所するか、在宅に戻ることが多い。しかし、これらの施設や在宅環境では、リハビリ療法士が常に配置されているわけではない。そのため、回復期リハビリ病棟で向上したADLが、施設や在宅に戻った後、1カ月から2カ月の間に低下する可能性がある。したがって、退院後もリハビリ介護の継続が必要となる。
現状、リハビリ療法士によるリハビリ時間は1日30分から2時間であるが、残りの約15時間は患者が寝て過ごしている。この時間をリハビリ介護に活用し、機能改善や要介護度の改善を促進することが求められる。
介護職は1日約4時間、患者の生活に関与している。この時間をリハビリ視点での介護とすることで、リハビリ療法士によるリハビリ時間に加え、1日6時間から7時間のリハビリを提供することが可能となる。このリハビリは、生活の中で自然に行われるものであり、少量頻回のトレーニングを通じて機能改善および要介護度の改善を促進する。
1日7時間の運動は負担が大きいと考えられるかもしれないが、これは生活リハビリである。朝晩の整容や更衣、排泄、移動、食事介助、口腔ケア、入浴、パジャマへの着替えなど日常生活動作の4時間をリハビリに生かすことが重要である。
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リハビリ介護の技術習得
リハビリ介護の技術を習得する必要がある。日常ケアを機能改善の機会とするには、適切なリハビリ介護技術が求められる。
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体格の大きな患者に対して、小柄な介護職員であっても、適切な介護技術を習得すれば、無理なく安全に移乗や歩行を支援することが可能となる。これは患者にとっても有益であるが、ケアを提供する介護福祉士や介護職員にとっても大きなメリットがある。
看護師や介護職員の間では、腰痛が職業病と考えられがちである。しかし、実際には、患者の移乗や歩行を頻繁に支援するリハビリ専門職において、腰痛が仕事の継続を阻害する事例はほとんど聞かれない。
対照的に、看護職や介護職では、腰痛への対策が重要視され、コルセットの着用が推奨されることもある。一般の事務職では約半数が腰痛を抱えており、リハビリ職でも腰痛の発生率は43%から52%とされる。しかし、介護職においては89%もの人が腰痛を経験している。この原因は、適切なケア技術が十分に習得されていないためである。
例えば、当院のセラピストは、患者の移乗の際に自らの体勢を正しく整え、足の位置を決めた上で、患者の重心を移動させながら移乗を行う。これにより、自身の腰への負担を最小限に抑えている。
一方、介護職では、体勢を整えずに「はい、起きましょう」「こちらへ移動します」と無理な動作を行うことが多く、その結果、腰を痛めることにつながる。重たい患者を「よいしょっ!」で持ち上げる行為が、その要因となっている。このような「よいしょっ!」の介護は腰痛を引き起こし、適切でない介護方法の典型例である。しかし、介護技術は誰でも習得可能であり、練習によって身につけることができる。適切な技術を習得することで、介護職自身の身体を守ることができる。
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リハビリ介護のプログラム例
リハビリスタッフから学べる内容について説明する。リハビリの専門職は、患者のリハビリ技術について知識や経験を有している。
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理学療法士(PT)からは、起き上がり、座位の維持、移乗、階段昇降、歩行などの基本動作を学ぶことができる。作業療法士(OT)からは、更衣、食事動作、入浴動作など、日常生活に直結する動作を習得することができる。言語聴覚士(ST)からは、コミュニケーションに関する指導に加え、特に食事介助の技術を学ぶことが重要である。食事介助は誤嚥や窒息のリスクを伴い、誤嚥性肺炎を引き起こす可能性もあるため、命に関わる重要な技術である。また、口腔ケアについても適切な知識と技術を身に付ける必要がある。
このように、PT・OT・STの各専門職から技術を伝達してもらい、それを習得した「リハビリ介護士」としての役割を果たすことが求められる。
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寝たきりゼロへ
「寝たきりゼロへの10か条」がある。これは平成3年に旧厚生省が策定したものであり、すでに20年以上前に確立されている。
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赤字で示したように、「寝たきりは 寝かせきりから 作られる 過度の安静 逆効果」と指摘している。また、「くらしの中での リハビリは食事と排泄、着替えから」との考え方や、「朝おきて 先ずは着替えて 身だしなみ 寝・食分けて 生活にメリとハリ」としている。
このほか、「『手は出しすぎず 目は離さず』が介護の基本 自立の気持ちを大切に」という考え方や、「ベッドから 移ろう移そう 車椅子 行動広げる 機器の活用」など、具体的な指針が示されている。
この10か条は20年以上前に策定されていたにもかかわらず、十分に実践されてこなかったことが、寝たきり患者の増加の一因になっていると考えられる。 リハビリ介護士は、この指針に示されたような考え方に基づき、適切な介入を行うことが求められる。この10か条を適時・適切に実践することで、すべての患者が寝たきりを回避できるわけではないが、その割合を減少させることは可能である。
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リハビリ介護士をデザインする
最後にまとめとして、リハビリ介護士を養成する目的、プロセス、アウトカムについて述べる。
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私たちは、医療・介護のすべての現場においてリハビリ介護士が必要であると考えている。今後、日慢協のノウハウを活用し、リハビリ介護士の養成を進めたい。
リハビリ介護士の養成目的は、寝たきりの防止にある。リハビリの機会を確保し、寝たきりの状態を防ぐことが求められる。プロセスとしては、リハビリ視点でのADLケアを実践することが重要である。
介護職は、長時間にわたり患者のケアに関与している。その時間をリハビリの機会として活用し、1回目より10回目、10回目より100回目と、患者の自立を促進する方向へと導く。これにより、介護職の仕事へのやりがいが生まれ、腰痛などの身体的負担も軽減される。
アウトカムとしては、ADLの自立化および要介護度の改善が期待される。例えば、1日3回の移乗を行えば、1カ月以内に100回を超える実践が可能となる。継続的な練習を患者と共に行うことで、自立への道を確立することができる。
今後、日慢協としては、これまで蓄積されたノウハウを活用し、リハビリ介護士の養成を推進する。日慢協の専門家は、この分野における豊富な知見を有しており、それを活かして、さらなるリハビリ介護士の育成に取り組む予定である。
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リハビリマインドでチーム医療を
[矢野諭副会長]
先月の記者会見の内容を受け、リハビリ介護という考え方、さらにリハビリ介護士の養成に向けた説明であった。この点について、本日の常任理事会では、さまざまな意見が出された。今後、具体的な方向性についてさらに検討を進め、記者会見の場で改めて発表する予定である。
当会は過去にも介護士の養成を行ってきたが、1月の記者会見でも述べたように、医療は介護の理解が不足し、介護は医療の理解が不足しているという課題がある。特に、リハビリを医療の一環と捉えるのであれば、介護士にもリハビリマインドを持っていただく必要がある。
リハビリの視点は医師にも求められる。回復期リハビリ病棟、地域包括ケア病棟、医療療養病棟などにおいて、日慢協の会員はリハビリマインドを備えているといえるが、チーム医療の中での必要な視点として、さらに強化すべきである。理事会では、医学教育の中でリハビリが十分に組み込まれているのかについても議論があり、大学によってその取り組みに大きな差があるとの指摘もあった。今後、リハビリマインドのさらなる浸透を図ることが重要である。
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2025年2月14日