「収支差が高いことが悪いという議論は残念」 ── 田中常任理事、令和6年度調査の議論で

訪問介護事業所へのアンケートなど令和6年度調査の結果が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「収支差が高いことが悪いという議論は残念。現場は本当に逼迫している。不足している若い働き手を確保するためにも介護報酬を上げていく発想が必要」と述べた。
厚労省は4月14日、「令和6年度介護報酬改定の効果検証及び調査研究に係る調査(令和6年度調査)」の結果を示し、同調査の報告書案は大筋で了承された。調査項目は、「高齢者施設等と医療機関の連携体制」など4項目。
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この調査は、昨年9月12日の分科会で調査票案などを取りまとめ、同年9月頃に実施。今年3月31日の委員会での評価、承認を経て、今回の分科会に示された。
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訪問介護事業所の収支差率は
調査項目(4)では、訪問介護事業所に関する事業所調査(アンケート)の集計結果が示された。このうち、「収支差率の状況」によると、訪問回数「801回以上」の区分で「収支差5%以上」の割合(35.7%)が高かった。
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また、同一建物減算の有無別では、「減算有」のほうが「5%以上」の割合が高い傾向だった。
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集合住宅等の利用者の割合別に見ると、「40%以上80%未満」や「80%以上」の区分で「5%以上」の割合が高くなっている一方、「0%」の区分の収支差率は低い傾向となっている。
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同一建物減算が機能しているか疑問
質疑で、伊藤悦郎委員(健康保険組合連合会常務理事)は「同一建物減算の有無別の収支差率の状況では、『減算有』で収支差率が5%以上の割合が高い傾向となっている」と指摘した上で、「同一建物減算が機能しているかどうか、疑問を感じる」との認識を示した。
その上で、伊藤委員は「集合住宅の利用者の割合が高いと収支差率が高い傾向になっているので、集合住宅へのサービス提供のあり方について検討していく必要がある」と述べた。
鳥潟美夏子委員(全国健康保険協会理事)は「訪問介護事業所調査の結果から、事業所の規模が大きいほど収支差がプラスになる事業所が多いことが見てとれる」と指摘。「高齢者に提供される介護の質を確保しつつ、サービス提供の効率性をどう高めていくのか。どのように両者のバランスをとっていくのか。こうした調査結果も踏まえ、今後議論していきたい」と述べた。
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健全経営の持続が担保されるのか
江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「全体的に多くのサービスで、2割から3割程度は赤字。収支差プラス5%未満を含めると、全体の7割から8割がその領域に入っている」と指摘。「先ほど田中委員もおっしゃったが、これで本当に健全経営の持続が担保されるのか。大変厳しい状況にあることをご理解いただきたい」と述べた。
その上で、江澤委員は訪問回数別の収支差率について「同一建物減算の『有』『無』にかかわらず、どちらも赤字割合が約18%程度という状況」と指摘した。
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また、サービス付き高齢者向け住宅の併設有無別の調査結果に言及。(報告書案P69によると)「併設有りのほうが赤字幅が多くなっている」とし、「減算の効果が適正なのか、あるいは減算が効きすぎているのか、更なる分析が必要」と述べた。
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サービスの質に着目していくべき
江澤委員は「これまでも長きにわたって同一建物減算の議論ばかりが先行して行われてきた」と振り返り、「確かに一部の過剰サービスを行っているような不適切な運営があることは従前から指摘されているが、一部の“悪貨”が、多くのまともにやっている“良貨”を駆逐することは決してあってはならない。サービスの質に着目していくべきだ」と強調した。
具体的には、「過剰介護ではなく、IADLを高める自立支援に資するサービスとなっているのか。連携できているか。尊厳を保持するサービスとなっているか」などの視点を提示。「質の評価について今まで議論がなされていないので、今後しっかりと検討をお願いしたい」と求めた。
田中常任理事は「これほど赤字で推移している事業において、収支差が高いことが悪いというディスカッションは残念。介護事業所は慈善団体ではなく、他産業に負けないくらいに賃金を支払わなければいけないと考える価値ある仕事」と述べた。同分科会における田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。
■ 調査項目(1)について
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医療と介護の連携については、まだまだ医療機関でも、この連携に理解が足りていないと感じている。これまでの議論の経過の中で検討された往診などについて、いまだに必須であると思い込んでいたり、空きベッドの確保が必要と誤解している医療機関も多いため、連携が促進されていないということも聞いている。こちらに関しては、チラシを作るなど積極的な周知の方法を考えてほしいと思う。
また、地域によっては、われわれ病院団体だけではうまくいかないことも危惧される。医師会や自治体がマッチングを担う必要もあると思われるので、こちらについてもお願いしたいと思う。
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■ 調査項目(3)について
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アウトカムについて、9ページの図表16(口腔・栄養スクリーニング加算の算定効果)、17(口腔・栄養スクリーニング加算の非算定理由)だが、これらのスクリーニング加算の算定などの本当のアウトカムは利用者さんの口の状態だと思うので、それらを把握する、例えば、図表24(口腔に関するLIFE項目)のように、LIFE項目との連動を今後は把握していただきたいと思う。
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■ 調査項目(4)について
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表現について、私見を申し上げたいと思う。介護事業において収支差が高いことが悪いというような議論が行われることは極めて遺憾である。介護事業所は慈善団体ではなく、他産業に負けないくらいに賃金を支払わなければいけないと考える価値ある仕事だと思っている。
しかも、これだけ赤字の中で推移している事業において、項目はさておき、収支差が高いことが悪いというようなディスカッションは残念だと思う。収支差の中から賃金や高騰している光熱水費を支払っていることもご理解いただきたいと思う。
現場は本当に逼迫している。このデータからわかるように、不足している若い働き手を確保するためにも、収支差が高い事業所にあわせて、いろいろな工夫をして、低いほうの介護報酬を上げていくというような発想が必要な時期に来ているのではないかと考えている。
2025年4月15日