安定供給に向け、今回の法改正に期待 ── 中医協総会で池端副会長

後発医薬品の安定供給をめぐる議論があった厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「今回の薬機法改正に大いに期待を寄せている」とした上で、今後の見通しを尋ねた。厚労省の担当者は「後発医薬品の安定供給を基本として適切に使用促進していく考え方で進めていきたい」と協力を呼び掛けた。
厚労省は3月12日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第605回会合を都内で開催し、当会から池端幸彦副会長が診療側委員として出席した。
この日の議題は13項目で、このうち報告事項は5項目(議題6、8、9、11、13)。審議事項はすべて承認された。
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最後の議題13(薬機法等一部改正法案の概要)は報告事項だが、改正後の「想定され得る対応」について意見があった。
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国が環境整備を進めた上で薬価の検討を
本議題で、厚労省の担当者は2030年を目途に進めている原薬の国内製造体制の整備について説明。「令和8年度の薬価改定ということではなく、将来的にこうしたことが論点になる」とし、国産原薬を使用した製剤が海外産原薬のみを使用した製剤よりも価格が高くなった場合の課題を示した。
厚労省の担当者は「国産原薬を用いることに伴うコスト増について、例えば薬価とか、あるいは時限的補助といった方法により、どのような対応が可能かを検討する必要が生じてくると考えている」と説明した。
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質疑で、診療側の長島公之委員(日本医師会常任理事)は、「まずは国が環境整備をしっかりと進め、必要なら時限的補助などの対応を行い、その上で、薬価による対応の必要性や内容について、効果の見込みなどの必要な資料もしっかり揃えていただいた上で検討すべき」と述べた。
支払側の松本真人委員(健康保険組合連合会理事)は「安全保障政策の1つとして、すなわち国策として対応するのであれば、国が費用を負担することや税制措置など、さまざまな選択肢がある」と指摘した。
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薬機法等の改正で体制が強化される
医薬品の供給不足について、診療側からは「現場の感覚として改善しているとは思えない」との声もあった。森昌平委員(日本薬剤師会副会長)は「4年経つが、まだ全体の20%の限定出荷・出荷停止が続いている」とし、「現場では医薬品の手配、患者さんへの説明、医師への相談、後日入荷した薬の配送などで苦労している」と伝えた。
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その上で、森委員は「今回の法改正はどれも重要な事項。その中で、供給体制管理責任者の設置は非常に重要だと思っているので(公布から)2年を待たず、企業においてしっかりと設置して責任を持った体制を構築していただきたい」と要請した。
林正純委員(日本歯科医師会常務理事)は「医薬品の安定供給に関して、今回、薬機法および医療法を改正して、その体制がより強化される」と期待を込め、「この問題が少しでも早く解決していくよう、より実効性が上がる方策の検討を引き続き、お願いしたい」と求めた。
池端副会長は「原薬の国産化といっても2030年。そうすると、当分はまだ現状が続くという印象を持っている」と懸念し、今後の方向性について見解を求めた。厚労省の担当者は「今回の法案の中で、安定供給確保のマネジメントシステム、制度的な枠組みを構築するとともに、後発医薬品企業の産業構造の改革を進めていく」と説明した。
【池端幸彦副会長】
現場の感覚としては、森委員の指摘のとおり、依然として出荷調整や不安定供給が次々と発生しており、その状況に変化は見られない。
しかし、今回の薬機法改正には大いに期待を寄せている。一方で、松本委員の指摘にもあるように、原薬の国産化が進むとしても2030年を見据えた取り組みであり、当面は現在の状況が継続する可能性が高いと考えられる。
仮にこの改正が効果を示し、具体的な見通しが立つのであれば、不安定供給の改善がいつ頃から期待できるのか、現時点での予測があれば教えていただきたい。
また、医療費適正化事業において、後発医薬品の使用割合80%、さらに金額ベースで65%という目標が示されている。医療界としても協力の姿勢を持っているが、そもそも後発医薬品自体が不安定供給の状況にあり、基準の厳格化のみが進められても、現場としてどのように対応すべきか判断に苦しむ状況である。このような現場の困難も含め、本日は報告事項として、現場の意見を述べさせていただいた。
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【厚労省医政局医薬産業振興・医療情報企画課・水谷忠由課長】
まず、国産原薬2030年の見込みについて誤解のないよう申し上げる。現在、国産原薬の工場整備等の取組を進めているが、これは経済安全保障法上の特定重要物資として指定されている4成分に関するものである。供給不安の問題には、品質上のトラブルや海外からの原薬輸入停止など、さまざまな要因がある。このため、サプライチェーンの強靭化や原薬の複数ソース化を企業に求めている。
国産原薬の工場整備は最も強い措置であるが、残念ながら全ての医薬品について、そうした措置を取ることは現実的ではない。そのため、経済安全保障法上の特定重要物資に関しては、こうしたアプローチを取りつつ、一方で、企業の原薬の複数ソース化に向けた取組を多方面から支援する。例えば、海外に複数、他の新しい原薬のソースを探索しに行くための費用を支援したり、そうした取組をさせていただいている。サプライチェーンの問題、複層的な取組の中で強靱化を図ってまいりたいと考えている。
現下の供給不安問題については、医療現場や患者の立場から厳しい指摘を受けている。この状況に対応するため、既存のリソースを活用し、供給の増加、需要の適正化、配分の適正化の3つの取組を組み合わせ、関係者の協力を得ながら対応している。
また、中医協で議論されている薬価の下支え措置や、緊急増産を行う企業への補助として、令和6年度補正予算で20億円を確保し、取組を進めている。
これらの環境整備と並行して、供給不安問題の本質的な解決を図るため、今回の法案において安定供給確保のマネジメントシステム、制度的な枠組みを構築するとともに、特に後発医薬品を中心に起きている、こうした状況に対して、後発医薬品企業の産業構造の改革を進めていくことを考えている。
大変恐縮ながら、「いつまでに」という具体的な時期については申し上げることができないが、そうした取組の中で改善を図ってまいりたい。
また、後発医薬品の使用促進についても、医療費適正化の観点から重要である。昨年、新たなロードマップを策定し、数量目標80%、金額ベースの目標65%を設定した。
昨年の薬価調査では、全国ベースで数量割合が85%、金額割合も56.7%から62.1%へと大きく伸びている。一方で、後発医薬品の使用促進は安定供給の確保が大前提である。そのため、タイトルにおいても「安定供給の確保を基本として、後発医薬品を適切に使用するためのロードマップ」といった形で基本的な考え方を明確にしている。
それぞれの仕組みにおいても、例えば長期収載品の選定療養に関して中医協で議論していただいた。後発医薬品が available でない場合の取扱いなどもご議論をいただいた。後発医薬品の安定供給を基本とし、適切に使用促進していく。こうした考え方で取組を進めてまいりたい。
2025年3月13日