「過渡期を乗り切って医療DXを進める」 ── 中医協総会で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2022年12月21日の中医協総会

 オンライン資格確認の普及や医薬品の安定供給問題への対応策が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は現在の厳しい状況を伝えた上で「今回のご提案は現場への応援であると受け止めたい。過渡期を乗り切って医療DXが進めばいい」と期待を寄せた。

 厚生労働省は12月21日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第534回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に、令和5年度予算の大臣折衝を踏まえた諮問書を提示。オンライン資格確認に関する加算の取り扱いや、医薬品の安定供給に資する取り組みの評価などについて論点を示し、委員の意見を聴いた。

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【総-2】諮問書_2022年12月21日の中医協総会_ページ_3

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過渡期を乗り切って医療DXを進める

 質疑で診療側委員は、オンライン資格確認等システムを導入できない事情や医薬品の不安定な供給状況などについて調査結果を示して説明。「地域医療に支障が出ないよう、医療DX推進に対応できるよう必要な方策をとっていただきたい」と要望した。

 一方、支払側からは患者負担の引き上げに不満を表す意見が相次いだ。マイナンバーカードの保険証について「患者がメリットを感じているとは言い難い現状において、こうした加算をさらに上乗せすることは患者、ひいては国民の理解が得られない」などと強く反対した。

 池端副会長は「鶏が先か卵が先かという問題かもしれないが、今は過渡期である」とし、「6割、7割ぐらい動き始めないとメリットを感じない。お互いに理解し合い、なんとかこの過渡期を乗り切って医療DXが進めばいい」と呼び掛けた。池端副会長の発言要旨は以下のとおり。

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2022年12月21日の中医協総会

■ オンライン資格確認の義務付けの経過措置について
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 私も長島委員と同じ意見で、今回のご提案を了解したい。その上で、病院団体の立場から意見を述べる。資料「総-3」の11ページ。医療機関・薬局におけるオンライン資格確認の導入状況について病院を見ると、顔認証付きカードリーダーの申込は97.6%で100%近い。準備完了施設数は約6割、そして運用開始施設数も5割を超えている。病院だけを見れば準備が進んでいる。
 病院団体の会合などでもオンライン資格確認を進めることに反対はなく、医療DXの推進に前向きである。ただ一方で、「準備したが患者さんがマイナ保険証を持ってこない」という声も多く聞かれる。 
 これは「鶏が先か卵が先か」という問題かもしれないが、患者さんにマイナンバーカードを登録していただき、それを持って来ていただくことが進まなければ、なかなか面として広く進まないのではないかと感じている。マイナンバーカードを持つことの意義やメリットを患者さんにしっかり理解していただき、持って来てもらえるように積極的に取り組んでいくことも非常に重要である。
 その上で、患者さんがマイナ保険証を利用した際に医療機関にもインセンティブがあればインパクトが強いので、ぜひお願いしたい。 
 福井県越前市では、マイナンバーカードの登録を支援するため、市の担当者が病院などに出張して一気に解決する取り組みをしている。当院も2割ぐらいの職員が支援していただいた。これは非常に有効な取り組みであると感じた。 
 民間企業でも、このような出張サービスがあれば、社員のマイナンバーカード取得が一気に進むのではないかと思う。そこで質問だが、こうした取り組みは当県独自のものなのか、それとも厚労省が指導しながら全国的に進めているのかどうか。私の知識不足かもしれないが、お聞かせいただきたい。

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【厚労省保険局医療介護連携政策課・水谷忠由課長】
 関係3大臣による「マイナンバーカードと健康保険証の一体化に関する検討会」で検討を進めている。その検討事項には「市町村による申請受付・交付体制強化の対応」として、「出張申請受付等の拡大など効率的な実施方法等」を掲げている。 
 これは総務省を中心に対応する話であるが、マイナンバーカードを取得していただくときに出張して申請を受付する。それが医療機関の場合もあるだろうし、医療機関に限らず、さまざまな場所でそうした工夫を行っている自治体もあるように承知している。こうした取り組みをさらに拡大して、効率的に取得していただけるようにどうするか。これも同検討会の中で検討していく。

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■ オンライン資格確認に関する加算の取扱いについて
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 再診時にも定期的な薬剤情報の確認が必要であるため、オンライン資格確認システムの活用は有効である。そのため、オンライン資格確認の導入・普及に関する「医療情報・システム基盤整備体制充実加算」の評価を初診時だけでなく再診時に広げることは患者さんのメリットにもつながる。
 再診の患者さんは、他院にも通院している場合が多い。他院で処方内容が変わったとき、その情報をマイナンバーカードで把握できることは非常に有効である。再診時にも確実に持ってきてもらうメリットを患者さんに感じていただける。したがって、再診時についても評価を見直すことについては前向きな方向でお願いしたい。
 マイナンバーカードの保険証利用について、支払側から「国民はまだメリットを感じていないのではないか」という意見があったが、今は過渡期である。今日、お集まりの皆さんはオンライン資格確認を進めることには反対していない。進めるための手法などに温度差があるだけで、皆さん賛同している。
 ただ、オンライン資格確認のメリットを全国民、全ての医療機関が感じるためには一定程度、少なくとも6割、7割ぐらい動き始めないと、そのメリットを感じない。そこまでもっていくための過渡期にある。なんとかして、いろいろな方法を使って一気に進めていこうというのが水谷課長の思いなのだろう。私たちもその思いに応えていきたいと思う。医療機関も努力する。私は医師会の立場でもさらに努力していこうと思う。ぜひ、お互いに理解し合い、なんとかこの過渡期を乗り切って、医療DXが進むようにできればいいと思っている。

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■ 医薬品の安定供給のための対応について
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 医薬品の安定供給のための負担を患者に転嫁するのかという指摘があった。ここで、あえて商品名を言わせていただく。本日、供給停止になったという連絡を受けた発熱外来等に使う医薬品である。アストミン、フスタゾール、メジコン、リンコデ、アスベリン、カロナール、葛根湯、トローチ。診療側の先生方はおわかりだと思うが、一般的な風邪薬として使う咳止めや解熱剤等が全て供給停止になった。こういう状況が毎日、刻々と変わっている。私自身、毎日ドキドキしている。 
 患者さんが来る。薬を求める。なんとかしたい。あちこちに電話して、なんとかして集める。今日はなんとかしのげた。しかし、明日はしのげるかわからない。そういうギリギリの対応をしているのが現場の状況である。もちろん、診療報酬を付ければ安定供給が改善されるとは私も思っていないが、こういう現状があることをぜひご理解いただきたい。
 医薬品の安定供給問題はもう1年近く長期にわたって続いており、前例がない。この状況がさらに続けば、コロナどころではなく、これだけで医療崩壊を起こす寸前まで来ていると思う。 
 そうした中で、今回のご提案はほんのわずかな診療報酬ではあるが、現場への応援だと思って、この診療報酬の対応を受け止めたい。これでもう少し頑張ってみたいと思うが、本当にギリギリの状況にきていることをご理解いただきたい。
 医薬品の不安定な供給状況を踏まえ、一般名による処方の推進を評価する方針が示されている。一般名処方加算の評価を見直すことに賛成したい。一般処方はとても大変である。先ほど挙げた医薬品で、アストミンの一般名は「ジメモルファンリン酸塩」、フスタゾールやメジコンは「デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物」、アスベリンは「チペピジンヒベンズ酸塩」。おわかりのように、とても覚えきれない。これを確認して、変えていいかどうかを判断しなければならない。薬局とのやり取りだけで時間や手間がかかってしまう。そうすると、高くてもいいので安定供給されている先発品に変えてしまおうというバイアスもかかってしまう。
 こうした対応を避けて、なんとかもう少し頑張ってほしいという意味でのちょっとした点数ではないかと思っているので、現場の苦労もご理解いただきたいと思う。現場からの声として申し上げた。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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