介護テクノロジーの調査、「用語がわかりにくい」 ── 介護給付費分科会で田中常任理事

令和7年度介護事業経営概況調査の実施案が示された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は、今回新たに追加された介護テクノロジーの導入状況に関する項目について「用語がわかりにくい。『支援機器』は利用者の支援なのか介護スタッフの支援なのかもわかりにくい」と指摘した上で、「今後の活用ができるよう見直していただきたい」と提案した。
厚労省は2月13日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・東大大学院法学政治学研究科教授)の第244回会合を開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。
厚労省は同日の分科会に「令和7年度介護事業経営概況調査の実施案」などを提示。調査票について、訪問系サービスと介護テクノロジーに関する項目を追加する方針などを示し、委員の意見を聴いた。
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収益力は二極化している
訪問系サービスについて、訪問先や移動時間などの項目を追加する方針について、自治体関係者から賛同する声が相次いだ。
奥塚正典委員(中津市長)は「都市部などで集合住宅を対象に効率よく運営できる事業所と、我々のように地方で点在する利用者の家を1軒1軒訪問する事業では、収益力は二極化している」とした上で、「地域の実情に応じた介護報酬の見直しを検討していく上で詳細な分析を進め、綿密な検証をお願いしたい」と述べた。
新田惇一参考人(長崎県福祉保健部長)は「調査結果の分析を通じて、訪問系サービスの提供実態、中山間地域や離島なども含めたサービス維持のために必要な方策が明らかになることが期待される」とし、「実態の把握につながるよう、丁寧な分析をしていただきたい」と求めた。
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遠距離の移動が見えにくい
訪問系サービスについては、さらに詳細な調査を求める意見もあった。石田路子委員(NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事)は「サ高住、養護老人ホーム、軽費老人ホーム、有料老人ホームの占める割合ということで全部それが一緒くたになっている」と指摘。「せっかくここまで調べるのであれば、それがサ高住なのか有料か養護老人ホームかもはっきりわかったほうがクリアになる」と提案した。
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田母神裕美委員(日本看護協会常任理事)は、移動時間に関して「平均時間だけでは遠距離の移動の有無が見えにくくなる」と指摘。「最も時間を要する移動時間についても、点在する利用者の方へのサービス提供の実態を把握する上で必要ではないか」と提案したほか、「看多機や小多機においても訪問があるので、移動に関する項目を設定いただきたい」と要望した。
一方、及川ゆりこ委員(日本介護福祉士会会長)は「訪問時間の合計は経営状況の把握には大切な項目だと考えるが、なぜ、この項目を削除したのか」と質問した。
厚労省の担当者は「回収率や記入者負担を考慮し、利用頻度が低い項目等について見直した結果として、既に令和5年度の経営実態調査から調査項目として削除している」と経緯を説明。「過去の調査を見ると、本来、回数が一致するはずの要介護度別訪問回数と類型別の訪問回数が一致しない調査票が相当程度あるなど、記入内容の正確性にも問題が生じていたことも踏まえ見直した」と回答した。
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介護テクノロジー、「例示した」
介護テクノロジーに関する項目について、厚労省の担当者は「現在、介護分野における生産性向上の取組を進めており、その導入状況とランニングコストを把握するための調査項目を追加してはどうか」と提案。「直接業務に係る支援機器だけではなく、間接業務に係る支援機器もあるため、それがわかるよう、選択肢の(6)に例示した」と説明した。
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質疑では、導入費用やランニングコストなどについて「事業所の規模等で金額も違うので、負担感を問う項目が必要ではないか」との意見や、「導入による効果を確認する項目を設けてはどうか」との提案があった。
濵田和則委員(日本介護支援専門員協会副会長)は「通常の介護用ソフトウェアについても保守メンテナンス費用以外に、例えば利用権契約のものなどは導入時以外でも一定年数の経過時に導入時と同様の費用が発生する場合が多い」と指摘した上で、「更新時等も対象とできるよう検討いただきたい」と要望した。
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現場を支える介護テクノロジーを
田中常任理事は「今後、どのような機器が本当に介護テクノロジーとして現場を支えているのかを読み解いていく必要がある」と指摘。「補助金と基金の振り分けのエビデンスなどにも活用できるような設問をお願いしたい」と提案した。
この日の分科会では、令和6年度介護報酬改定の効果検証等に関する議論もあった。田中常任理事は、他の調査結果などの活用による回答者の負担軽減などを提案した。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。
■ 令和7年度介護事業経営概況調査の実施案について
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いろいろと熟考されたアンケートを作成していただき、感謝を申し上げる。私からは要望を述べる。介護テクノロジーに関しては、今後極めて重要な位置づけとなることは間違いない。本調査対象サービスにおける令和7年4月末時点の介護テクノロジーの導入状況に関する設問を見ると、用語が非常に分かりにくく、既に導入されている機器がこれらに該当するかどうかが認識されない可能性がある点を懸念している。そのため、注釈を明確に追加することを要望する。また、「支援機器」と記載されているが、利用者に対する支援なのか、介護スタッフに対する支援なのか、わかりにくい。
今後を見据え、現場の介護テクノロジーとしてどのような機器が実際に活用されているのかを読み解いていく必要がある。そのようなアンケートを作成する必要がある。加えて、どの支援を優先すべきかに応じ、補助金や確保基金の振り分けに関するエビデンスとしても活用できるため、支援の予測が可能となると考える。以上を踏まえ、今後の活用を見据えた設問への若干の見直しを求める。
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■ 令和6年度介護報酬改定の効果検証等について
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私からは総論的な要望を述べる。本調査は極めて重要なものであるが、類似する老健事業の調査が多数存在していると認識している。担当課が異なる場合でも、担当者が相乗りするなどして同様の老健事業の調査結果を局内で適切に共有し、それらの結果を突合してデータの正確性を評価することが望ましい。また、今後は調査の集約を進め、現場の回答負担を可能な限り軽減するよう要請する。
2025年2月14日