標準型電子カルテの方向性は? ── 厚労省WGで池端副会長

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 2026年度の本格実施を目指して開発中の「標準型電子カルテ」の課題などを協議した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「入院機能の実装が2~3年先なら標準型電子カルテを待たずに既存のベンダーを使う判断もある。方向性が見えないと中小病院は動きにくい」と指摘した。厚労省の担当者は「必要最小限の機能になるので、お待ちいただく必要はない」と説明した。

 厚労省は1月31日、標準型電子カルテの技術的な要件について、広く医療機関等で利用する従事者等の意見を聴く「標準型電子カルテ検討ワーキンググループ」(WG)を開催し、当会から池端副会長が構成員として出席した。

 このWGは、2023年6月に取りまとめられた「医療DXの推進に関する工程表」を踏まえ、標準規格に準拠したクラウドベースの電子カルテの整備に向けて同年12月に設置された。

 前回(2024年3月7日)のWGでは、開発状況の報告を踏まえて意見交換。3回目となる今回のWGでは、①モデル事業実施計画、②来年度の検討事項──の2項目を中心に構成員の意見を聴いた。
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01【資料1】第3回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料_ページ_03

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更新時の費用軽減にも期待

 質疑では、病院関係者からランニングコストなどの負担を懸念する声が相次いだ。標準型電子カルテの導入メリットについて、厚労省は「医療DXのサービス(システム)群の導入や維持負担の軽減」を挙げ、「初期の導入時にこうした機能が標準搭載されるため、導入負担が軽減される」としている。
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02【資料1】第3回標準型電子カルテ検討ワーキンググループ資料_ページ_09

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 大道道大構成員(日本病院会副会長)は「初期の導入時だけではなく、更新時の費用も軽減されることに大変期待を持っている中小病院も多い」と指摘し、「将来的な方向性でもいいので、こういう標準電子カルテを導入した病院はこのように負担が軽くなる予定というものを示してほしい」と求めた。

 中島公博構成員(日本精神科病院協会常務理事)は「どれぐらいの費用であれば導入に前向きになるのか、導入することによって何が便利になったのか、あるいは不便になったことについて検証してほしい」と要望した。

 菅間博構成員(日本医療法人協会副会長)は「診療報酬の改定前に毎回毎回、維持費に苦労している」とし、「電子カルテの維持費などにメリットがあるような観点も考えながら導入していただきたい」と提案した。

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セキュリティの懸念も大きなハードル

 高橋肇構成員(全日本病院協会)は「マスタメンテナンスなどは『軽減』ではなく、現場にとっては新たに増える業務になる」と指摘。「職員へのIT教育をどうするか、セキュリティ等を含めて何かあったときのバックアップなど、いわゆるマネジメントガバナンスをどうするのか」などの課題を挙げた。

 木澤晃代構成員(日本看護協会常任理事)は「診療しながら、いろいろ操作するのは非常にストレスフルになると思うので、そういったサポートがきちんとできるのか、困ったときの支援があるのか。オンプレではなくクラウドなので、やはりセキュリティの懸念が導入のハードルとして大きくなる」と述べた。

 池端副会長もセキュリティ対策の必要性のほか、実装機能に関する今後の見通し、導入に向けた支援体制などについて意見を述べた。

■ 今後の方向性、セキュリティ対策等について
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【池端幸彦副会長】
 今回のα版(試行版)については、まだ本格的な導入には時間がかかると考えられるが、一方で、200床未満の病院における電子カルテの普及率は診療所(55.0 %)とほとんど変わらず6割弱にとどまり、4割の施設が未導入という状況である。今後、IT化の進捗状況を踏まえると、電子カルテの導入が診療報酬上の要件として組み込まれていくことが予想される。そのため、導入の見込みが立たない場合、中小病院にとっては対応が困難になる。
 おそらく、α版に入院機能を付加することは容易ではないと考えられる。仮にその見込みが2~3年先であるならば、それを待つのではなく、既存のベンダーを活用して早期に導入を進めるという判断もある。そのため、標準型電子カルテと同時並行して、有床診療所や200床未満の病院向けの機能を検討する必要がある。
 こうした点について、ある程度の計画が示されない限り、「入院機能を実装したものが出るのなら、それを待つ」という判断もありうる。そのため、この点についても一定の方向性を示していただくことが重要である。本日の議題とは若干異なるかもしれないが、特に有床診療所や200床未満の中小病院にとっては喫緊の課題であり、方針が明確になっているのであれば、ぜひ示していただきたい。
 このほか、本格導入に際して避けて通れないのがセキュリティ対策である。既存の電子カルテを導入している施設に対しても厳格なセキュリティ対策が求められているが、α版を導入する場合、どのような方向性や具体的な対策を考えているのかについても伺いたい。

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【厚労省担当者】
 入院機能については、今後実装するのが難しいという意見も出ている。紙カルテの医療機関の方々は標準型電子カルテを待っていればよろしいのかという質問があった。これについては、開発の提供がこれからになること、また必要最小限の基本機能になると思っているので、標準型電子カルテをお待ちいただく必要はないと考えている。
 医療機関での電子カルテの導入にあたっては、各医療機関で抱えるさまざまな経営課題の解決を図るものと考えており、そうした状況も踏まえ、導入を判断していただければいい。今回、示したモデル事業の計画は、未導入の医療機関を対象としているが、これとは別に、電子カルテを導入されている方々や、情報共有を経験したことのある方々など、広く触っていただくような機会を別途、企画してまいりたい。
 期間が長めに必要だという意見もあったと思うが、それはモデル事業で検証したいと考えている。導入サポートについて、まずはモデル事業の導入時に診療所の方々に対し、操作の説明を複数回、丁寧に行うことを想定している。導入後については、適切な問い合わせ体制を設けて、必要な際に必要なサポートが提供できるような体制ができればいい。診療所にレセコンやFAXなどを導入して機器のメンテナンスを担当している事業者が既にいると思うので、そちらとも協議させていただいた上で、手厚いサポートができるように、どのようなときに、どこに問い合わせればよいのかなど、統一した体制をとりたい。

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■ サポート体制、導入に必要な期間等について
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【池端幸彦副会長】
 将来的には、電子カルテの導入が業務の効率化に寄与すると考えられる。そのため、モデル事業においても、この点について十分な情報提供を行っていただきたい。
 当院は200床未満の中小病院だが、約2年半前に電子カルテを導入した。その際、当初は端末のキーボード操作についても多くの質問があり、現場での指導を一定期間受ける必要があった。しかし、その後はクラウド型の電子カルテであったため、診療中にシステムが停止した場合でも、電話によるリモート対応を受けながらキーボード操作を行うことで、ほとんどの問題は解決可能であった。このような経験から、導入には概ね3カ月程度の期間が必要であるとの印象を持っている。現在、導入期間について具体的な設定がなされているのであれば、教えていただきたい。

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【厚労省担当者】
 モデル事業の期間について、半年以上は必要であると認識している。現地のサポートについては、ご指摘のようにリモートで、電話で問い合わせを受けることができたり、リモートでメンテナンスができたりすることも検討している。丁寧にサポートさせていただきたい。

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