処遇改善、「局をまたいで調整を」 ── 介護給付費分科会で田中常任理事
処遇改善加算の更なる取得促進に向けた方策などが報告された厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の田中志子常任理事は「介護医療院は取得率が低い。医療の病棟で働く介護福祉士との差別化を避けるために処遇改善を申請できない」と指摘し、「処遇改善が行われるよう局をまたいで調整をお願いしたい」と求めた。
厚労省は12月23日、社会保障審議会(社保審)介護給付費分科会(分科会長=田辺国昭・東大大学院法学政治学研究科教授)の第243回会合を開催し、当会から田中常任理事が委員として出席した。
厚労省は同日の分科会に「処遇改善加算等について」と題する資料を提示。令和6年度補正予算に盛り込まれた「介護人材確保・職場環境改善等事業」のほか、「処遇改善加算の更なる取得促進に向けた方策」について説明した。
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「配分対象職種との差が開く」との声も
介護人材確保・職場環境改善等事業の予算規模は806億円。介護職員等処遇改善加算を取得している事業所のうち、生産性を向上し、更なる業務効率化や職場環境の改善を図り、介護人材確保・定着の基盤を構築する事業所に補助する。
厚労省老健局老人保健課の堀裕行課長は「他産業と比較して介護職員の有効求人倍率は高く、人材確保に課題を抱える中で、賃上げで先行した他産業と人材の引き合いとなっている状況にある」と同事業の背景を説明。「予算の積算上は、常勤介護職員1人当たり5.4万円相当の支援を行う。都道府県等のご協力もいただきながら速やかな執行に努めていきたい」と報告した。
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質疑で、濵田和則委員(日本介護支援専門員協会副会長)は介護12団体の要望への対応に謝意を示した上で、「今回の対象は処遇改善加算の算定事業所となっており、居宅介護支援事業所はまだ同加算の対象となっていない」と指摘。「配分対象職種との処遇差がさらに開く状況になる。人材確保が困難になる状況を回避するための検討をお願いしたい」と求めた。他の委員から「全ての介護事業所が処遇改善加算を取りやすくなるように」との要望もあった。
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職場環境等要件をめぐり議論
処遇改善加算の更なる取得促進に向けた方策については、職場環境等要件をめぐる議論があった。経済界の代表は「要件の弾力化に一定の理解はする」としながらも、「キャリアパス要件の経過措置の延長とともに、今回、職場環境等要件についても経過措置を設けるという提案」と不満を表し、「実効性をぜひ担保していただくとともに、できれば早めに本来の要件どおりの運用をお願いしたい」と注文を付けた。
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一方、江澤和彦委員(日本医師会常任理事)は「処遇改善加算を全ての事業所が取得することを推進する、あるいは推奨する一方で、令和7年度は職場環境等要件のハードルが高まっており、相矛盾するような印象を受けている」と苦言を呈した。
その上で、江澤委員は「介護人材不足の中で、まずは現場職員に賃金を届けること、処遇を改善することが最優先事項」とし、「処遇改善加算の算定にあたっては職場環境等要件を廃止して、まず賃金を届けることを検討しなければ立ちゆかない」との認識を示した。
江澤委員は「職場環境等要件と処遇改善を紐付けることなく、まずは先に賃金を届けて現場職員の処遇を改善し、その上で職場環境等要件の評価については、また改めて検討することが重要ではないか。職場環境等要件を評価する新たな加算なりを創設することも技術的には可能」と提案した。
このほか、同日の分科会では、国家公務員の地域手当の見直しに伴う地域区分の在り方について委員の意見を聴いた。また、改定検証調査における自治体調査(アンケート)の集計状況について報告があった。田中常任理事の発言要旨は以下のとおり。
■ 処遇改善加算等について
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他の委員と同様、補正対応に感謝を申し上げる。処遇改善加算取得についての要望は、とにかくわかりやすさ、それから事務的な簡略化に尽きる。煩雑であるために申請できないとか、二の足を踏むところがないようにお願いしたいと思う。
また、日慢協の立場上、申し上げると、資料6ページにあるように、介護医療院は取得率が低く、その理由としては、医療の病棟で働く介護福祉士との差別化を避けるために処遇改善を申請できないところがあるというふうにも聞いている。
今回、診療報酬では、この部分を改善していただく方向で実行されているが、この補正予算についても同様に診療報酬のほうに処遇改善が行われるよう、局をまたいでの調整を切にお願いしたい。
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■ 地域区分について
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これまでの委員の先生方と同様の意見である。特に、資料2ページにあるように、今回、令和6年のときに地域に関して地域区分の特例に関しては話し合われたばかりと記憶している。したがって、数は少ないかもしれないが、この特例や制度の変更に伴って大きく振り回されるような地域があって、そこの事業所は大変な困惑をされていると思う。緩やかな措置や対応などを求めたい。
また、今回は国家公務員の見直しということだが、これにならって、おそらく、いずれ市町村などの地方公務員のところでも議論にもなってこようかと思うので、慎重な審議を行っていただき、大きく全国的な影響がないように期待する。
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■ 自治体調査の集計状況について
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私からは2点述べたい。1点目は、先ほど濵田委員等からもご意見があったが、ケアマネジャーに対する処遇のしっかりとした対策は必要であるので、お願いしたい。
もう1点目は、先ほど石田委員もおっしゃっていたように、回答された自治体数が少ないことについて。回答数が複数回答であることを鑑みれば、回答自体も、さらに少ない。同様の調査のときに、自治体が休・廃止の理由を確認していないという声も多く聞かれていたと記憶している。今後は休・廃止の理由をしっかりと自治体が把握、確認した上で、想像ではなく確認をした上で、どういった対策が必要なのかを対応していく必要があると思っている。休・廃止の際には、各市町村や県に対し、きちんと理由を確認するような指導をお願いしたい。
2024年12月24日