介護事業の大規模化、「現実に即していない」── 制度改正の議論で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等 審議会

20241223_介護保険部会

 介護保険制度の改正に向けた議論を開始した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の橋本康子会長は、介護事業の大規模化を推進する方針について「現実に即していない面もある」と指摘した上で、「地方では小規模で、きめ細やかに見ていく必要がある」と提案した。

 厚労省は12月23日、社会保障審議会(社保審)介護保険部会(部会長=菊池馨実・早稲田大学理事・法学学術院教授)の第116回会合を開催し、当会から橋本会長が委員として出席した。

 厚労省は同日の部会に、介護保険制度の改正等に関する「今後のスケジュール(案)」とともに、「主な検討事項(案)」を提示。「介護保険制度をめぐる状況について」と題する137ページの資料を説明した上で、委員の意見を聴いた。
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次期制度改正に向けた議論をスタート

 資料説明の冒頭、厚労省老健局総務課の江口満課長は「第10期の介護保険事業計画は2027年度からのスタートになるので、本日、次期制度改正に向けた議論をスタートし、2025年の年末まで約1年かけてご議論いただき、その結果を踏まえて所要の制度改正を行いたい」と述べ、主な検討事項に関する説明に入った。
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01スライド_今後のスケジュール(案)

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 主な検討事項は、地域包括ケアシステムの推進や認知症施策の推進・地域共生社会の実現など5項目。
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02スライド__主な検討事項

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 江口課長は「2040年までの時間軸や地域軸を踏まえて検討すべき事項は別途、検討会を開催し、議論を整理した上で本部会に報告し、引き続き本部会でご議論いただきたい」と説明した。
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経営等の協働化・大規模化への支援

 テーマ5の「持続可能な制度の構築、介護人材確保・職場環境改善」について江口課長は、処遇改善加算の一本化や加算率の引上げなどを紹介した上で、「今般、処遇改善加算の取得をさらに促進するため、その要件の弾力化を図ることとした。これにより、加算未取得の事業所を減らすとともに、より上位の加算を取得していただきたい」と述べた。

 江口課長はまた、「全産業平均の賃上げと介護分野の賃上げに差がある状況」とし、令和6年度補正予算(1,103億円)による総合対策を紹介。この中で、「経営等の協働化・大規模化への支援」が挙げられている。
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03スライド_P108総合対策

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 さらに、江口課長は令和5年 12月22日に閣議決定された「全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)」を紹介。「介護の生産性・質の向上について、協働化・大規模化を含め、具体的な対応策に関する検討事項が記載されている」と伝えた。
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04スライド_P133改革工程

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 橋本会長は、人材不足の一因として養成学校の閉鎖などを挙げた上で、小規模事業所に対する支援の必要性を指摘した。

【橋本康子会長の発言要旨】
 私からは2点申し上げたい。1点目は、介護人材の現状について。介護福祉士の人材不足については多くの資料に示されているように、改善に向けた検討が重ねられている。ただ、この問題は介護福祉士に限らない。他の職種、例えば介護に携わる看護師やケアマネジャー、さらには介護福祉士の資格を持たないケアワーカーについても現状を把握する必要がある。
 以前は養成学校や講座が多く存在し、例えばニチイ学館などの専門学校だけでなく、それぞれの病院で養成講座などが実施されていた。しかし、これらの取り組みは現在、ほとんど見られなくなった。こうした状況を踏まえ、介護職全体の人材の推移を示す資料を提供していただきたいと考える。
 また、介護職の人材確保が課題とされながらも、試験や基準が厳格化されている現状がある。例えば、ケアマネジャーの資格要件における実務経験期間の長期化や、介護福祉士試験の難易度の上昇などである。このような政策は、人材不足解消という目的に逆行している可能性がある。
 さらに、養成校への入学者数も減少している。私の病院周辺でも、看護科は残るが介護福祉士科は廃止されるところが増えている。入学者が非常に少なく、場合によっては教員数も不足しているという現状がある。このような状況を踏まえ、具体的な政策を検討する必要があると考える。私たちも含め、真剣に対策を講じなければならない。
 2点目は、事業所の大規模化について。資料40ページの「事業所規模別の離職率」では、「事業所の規模が大きくなるほど離職率が低くなる傾向にある」としている。この点については理解できるが、現実に即していない面もあるのではないか。地方では小規模で、きめ細やかに見ていく必要がある。例えば、100人以上の介護事業所は地方では多くない。むしろ小規模事業所が複数存在し、地域に密着してきめ細やかな介護サービスを提供しているケースが多い。大規模化が進むと株式会社の参入が増える傾向がある。株式会社による運営は一定の安定性があるが、地域密着型の小規模事業所との整合性をどう図るかが課題である。この点についても十分に検討を行う必要があると考える。

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