患者本位で点数が下がる問題も ── 療養病棟の見直しで池端副会長

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2024年1月26日の総会

 令和6年度の診療報酬改定に向けて議論した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は療養病棟入院基本料の見直しについて「患者本位で点数が下がるという問題もある」と指摘し、人生の最終段階における意思決定と中心静脈栄養との関係に言及した。

 厚労省は1月26日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第581回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に、これまでの議論を踏まえた「個別改定項目」(いわゆる短冊)を提示。Ⅰ~Ⅳの項目のうち、今回は賃上げや看護必要度などを除くⅠとⅡについて厚労省の担当者が説明し、委員の意見を聴いた。
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中心静脈栄養の患者が増えている

 療養病棟入院基本料の見直しでは、「中心静脈栄養が実施される患者割合が増えている実態を踏まえ、療養病棟における適切な経腸栄養の管理の実施について、新たな評価を行う」としている。
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01スライド_P229抜粋

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 また、療養病棟入院基本料の医療区分について、「疾患・状態及び処置等に着目した医療区分に見直す」としたほか、中心静脈栄養について「患者の疾患及び状態並びに実施した期間に応じた医療区分に見直す」との方針も示されている。
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02スライド_P240抜粋

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「地域包括医療病棟入院料」の新設

 昨年3月から同時改定に向けた意見交換会などを通じて議論を重ねた高齢者救急への対応については「地域包括医療病棟入院料」の新設が提案された。
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03スライド_P150抜粋

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 一方、2014(平成26)年度改定で創設された地域包括ケア病棟入院料については、「入院期間に応じた評価に見直す」などの方針が示されている。
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04スライド_P197抜粋

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 この日の総会では、500ページを超える ⅠとⅡの項目について厚労省の担当者が1時間以上にわたり説明。池端副会長はこの中で、Ⅱ-2の⑫「地域包括ケア病棟入院料の評価の見直し」、Ⅱ-4の⑭「療養病棟入院基本料の見直し」について意見を述べた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 私からはⅡに関して、主に「地域包括ケア病棟入院料の評価の見直し」と「療養病棟入院基本料の見直し」についてコメントさせていただきたい。
 まず、197ページの「地域包括ケア病棟入院料の評価の見直し」では、「具体的な内容」として2つ挙がっており、うち1つは「入院期間に応じた評価に見直す」としている。これは主に医療資源投入量が漸減していることに対する適正化ということで、この入院期間を見直す考え方が出されたのだろう。
 私はその時の議論でも述べたが、地域包括ケア病棟には包括評価の良さがある。例えば、リハビリについては、20分1単位という中に入らないポイント・オブ・ケアが提供されている。5分、10分という短い時間ではあるが、リハビリスタッフがついてADLを向上させ、早期の在宅復帰を目指す。地域包括ケア病棟で、そうしたリハビリを実施している。その取り組み状況等については、当協会の会員病院などから多くのデータが示されている。しかし、ポイント・オブ・ケアなどの人手にかかる評価が一切なされていないことは非常に残念であると感じている。
 「具体的な内容」の2では、「入院基本料等の見直しに合わせて、40歳未満の勤務医師、事務職員等の賃上げに資する措置として、地域包括ケア病棟入院料の評価を見直す」としている。地域包括ケア病棟に限らず、賃上げ評価に係る収入によって、職員に手当てしなければいけないのだが、入院料の評価の見直し等によって基本的な診療報酬が大きく減額されてしまうと、いくら加算を取っても職員の賃上げが難しい状況となる。
 今回、療養病床についても大きな見直しが予定されている。医療機関の運営において根幹をなす入院基本料などから得られる診療報酬がこれまでどおりに担保されるのかどうか。非常に不安な状態である中で、加算を取って職員に評価して、手当てをしなければいけない。これに対する不安感は大きい。
 そのため、今回の見直しによる影響などをできるだけ早く示していただきたい。これまでの入院基本料等による診療報酬がその医療機関に入るのか、入らないのか。丁寧に示していただき、そして、できるだけ十分な経過措置をお願いしたい。これは療養病棟入院基本料の見直しについても同様にお願いしたい。
 療養病棟については、229ページの「具体的な内容」に見直しの方向性が示されている。それによると、医療区分とADL区分に基づく9分類となっている現行の療養病棟入院基本料について、「疾患・状態に係る3つの医療区分、処置等に係る3つの医療区分および3つのADL区分に基づく 27分類及びスモンに関する3分類の合計30分類の評価に見直す」とされている。
 この区分において、私は基本的には財政中立的な配分をしていただけると思っているのだが、もしそうでない場合には大幅に減額されてしまう恐れがある。療養病棟を持つ医療機関の皆さんは、今改定によって大きな収入減になってしまうのではないかと危惧している。見直しの影響について、しっかりとシミュレーションできるように、ご検討いただきたい。
 療養病棟については、中心静脈栄養についても一定の見直しがあることは理解しているが、お伝えしたいことがある。中心静脈栄養については、例外規定ということで、いくつか挙がっていて、それ以外は全て一定期間以後は医療区分を下げるということだが、療養病棟をお持ちの先生方からもよく聞き、私自身も感じるところがある。それは、人生の最終段階における本人の意思確認に関わる課題である。
 日本では以前、胃瘻に対するバッシングのような考え方があり、依然として「胃瘻は駄目だ」という認識を持っている患者さんやご家族は多い。医学的にも生理的な観点から何度も説明しているが、ご家族は胃瘻の造設を拒否する。ご本人も「胃に穴を開けることだけは絶対に嫌だ」と言う。
 実は昨日、当院の患者さんと話をした。「うちの主人は以前から『あれだけはしたくない』と言っていた」と胃瘻を拒否された。私は「何も食べられなくなって、何もしないでいいのですか?」と尋ねると、「いや、それは駄目です。せめて栄養だけは入れてほしい」と言う。そこで、中心静脈栄養について説明して、「これはある程度、生命を維持できる点滴になりますが、どうしますか?」と尋ねると、中心静脈栄養を希望する。ご本人の意識がある程度しっかりしているときに確認することもあるが、ご本人も中心静脈栄養のほうを望む。繰り返して説明しても、やはり胃瘻に対しては拒否。そこで、中心静脈栄養を選択せざるを得ない。
 胃瘻について、私たちが何度も丁寧に説明しても、なかなかご理解いただけない。そうすると、どちらを取ったらいいのだろうか。「栄養を入れない」という選択をするのだろうか。人生の最終段階は患者本位ということは大命題だと思う。そのために当然、中心静脈栄養を入れることになるが、そうすると医療区分が下がり、点数が下がる。もちろん、それは施設が甘んじて受け入れなければいけないことなのかもしれないが、こういう問題点があるのだということを保険者側も医療課の事務局の方々も知っておいていただきたい。啓蒙活動の中で改善されればいいが、それが難しいのであれば、除外規定の中に一部入れていただくことを検討していただいてもいいのではないかと個人的には感じている。そこのところは非常に曖昧な基準だから難しいということも理解しているつもりだが、現実にこうした問題が日常的に起きているということを述べておく。

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