「病院が潰れてしまったら機能分化もない」── 急性期の厳格化に池端副会長

協会の活動等 審議会 役員メッセージ

2024年1月31日の総会

 急性期病床の厳格化や平均在院日数の短縮化をめぐる激しい議論の末に公益裁定で決着した厚生労働省の会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は「病院が潰れてしまったら機能分化もない」と訴え、激変緩和措置などを求めた。

 厚労省は1月31日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第582回会合を都内で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に、令和6年度改定に関する「個別改定項目」を提示。前回会合で積み残しとなっていた賃上げ対応について「ベースアップ評価料」の新設を提案するとともに、平均在院日数や看護必要度の見直しに関する考え方を説明し、委員の意見を聴いた。

.

地域医療構想は確実に進んでいる

 質疑で、支払側は急性期病床が過剰であると主張。「地域医療構想に基づく病床再編の実態を踏まえれば、病床機能の分化・強化、連携を加速することが必要」と基準の引き上げを求めた。平均在院日数は現行から4日短縮の「14日」を主張した。

 一方、診療側は医療機関の経営や患者に与える影響を懸念。「削減される病床が地域の急性期医療の提供にとって致命的な損失になる可能性がある」とし、慎重な対応を求めた。平均在院日数は現状維持の「18日」を主張した。

 公益裁定により、看護必要度の具体的な見直しが決定したほか、平均在院日数は「16日」となった。

 議論の中で池端副会長は、賃上げに向けた医療機関の経営を担保する必要性を述べ、「賃金を上げるためのアクセルを踏みながら、一方で急ブレーキをかけるようなことをしては全く意味がない」と改めて強調。病床の機能分化を求める支払側に対し、「地域医療構想は確実に進んでいる」と理解を求めた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 今回の改定の1丁目1番地は、医療部会・医療保険部会から示された基本方針にあるように、あくまでも医療従事者の人材確保、賃上げに向けた取り組みである。これについては1号側も2号側も異論がないだろう。先ほどの賃上げ対応に向けた議論でも一定程度のご理解をいただいたと思う。
 しかし、医療従事者の賃金を上げるためのプラス改定率による評価料をいただいても、ベースとなる収入が担保された上での加算である。基本的な収入が明らかに減額される状況で医療従事者の給与を上げなさいと言われても無理だ。例えば、一般の企業で職員の給与を上げるようにと言われ、その一方で定価を下げなさいと言われたら経営が成り立つのか。それを考えていただければ、おわかりだと思う。支払側が主張する見直し案では経営を維持できない。
 今、最も大事な職員の賃上げをやり遂げるためには、現行の基準を変更すべきではない。まずは職員の給与をしっかりアップすることを担保できる状況にした上で、いろいろな改革を検討すべきである。ほかの診療側委員の意見と同じように、私も基本は現状維持が望ましいと考える。
 もし、どうしても変えなければいけないのであれば、示されている4つの案の中で、最も緩い基準である「見直し案4」よりも、さらに緩和する必要がある。激変緩和措置も必要だ。今、病院経営者の多くが頭を抱えている。奈落の底に落とすようなことをすべきではない。中医協の判断によって、実際にそうなったときに誰が責任を取るのか。中医協委員である。われわれ診療側委員だけではない。支払側も公益側も合わせた中医協として、そういう事態を招いた責任を取らなければいけない。今、何が一番大事なのか、もう一度よく考えていただいて、適切な判断をしていただきたい。以前の総会でも申し上げたように、賃金を上げるためのアクセルを踏みながら、一方で急ブレーキをかけるようなことをしては全く意味がない。
 機能分化については、決して反対しているわけではない。ただし、平均在院日数を18日から14日に4日間も縮めたら、どういう状況になるのか。支払側は「早く退院させろという意味ではない」と言うが、どのようにして4日間も縮めるのだろうか。医療が不要な患者さんを入院させているわけではない。さまざまな事情で入院期間が延びる場合もある。そういう患者さんの入院期間を4日縮めるためには「4日早く退院してください」という退院支援をするしかない。まだ退院するには厳しい状態で退院させても、なかなか行き場所がない。患者さんに大きな迷惑をかける。患者代表が了解したことが私には信じられない。
 平均在院日数を短縮して、さらに重症度の基準も厳しくしたら、行き場のない患者さんが増える。新設される「地域包括医療病棟」が受け皿になるかもしれないが、そういう包括的な病床がすぐに増えるわけではない。7対1から10対1に移行したとして、余剰となる看護師をどう配置するか。施設基準をどのようにクリアするかを十分に検討しながら経営判断しなければいけない。すぐに変われるものではない。
 そんな状況の中で、いきなり最も厳しい基準にしたら病院は成り立たなくなる。機能分化と言うが、病院が潰れてしまったら機能分化もないのではないか。支払側の皆さんは、本当にそれでいいと思っておられるのか。機能分化というのは、あくまでも病院が存続した上での機能分化である。潰れた病院はもう立ち上がれない。
 地域医療構想が進んでいないという意見があるが、私は進んでいると思う。2025年に「115~119万床程度」という目標に対し、全体では119万床近くになっている。ただ、問題は高度急性期・急性期・回復期までの約90万床。これも予定どおりではあるが、急性期と回復期のバランスが悪いという課題が指摘されている。回復期が20万床ぐらい足りない。すなわち、急性期が20万床ぐらい多いとされている。そこで、リハ・栄養・口腔を一体的に提供する包括病床で高齢者を中心に救急にも対応するという方針だが、これは「回復期機能」と言えるかもしれない。非常に良い病床ができてくるとは思うが、ここに移るための期間は一定程度、必要だろう。いきなり後ろから突き落とすように、重症度と平均在院日数を見直してしまうと、移行に向けて十分に検討できないまま、奈落の底に落とされて、結局、潰れてしまうということになっては、話にならない。
 今回の改定では素晴らしい項目がいろいろあると思う。急性期のリハビリにしっかり取り組むこと。リハ・栄養・口腔の一体的な提供など、いろいろな仕掛けがある。それでもなお、十分に厳しい改定だと思っているが、われわれは甘んじて受けていこうと覚悟している。支払側の提案に従ったら、移る前に潰れてしまう。地域医療構想は確実に進んでいるし、今回の改定でも十分に進む仕掛けは多いと私は評価している。

.

アウトカムが出るならば見直しを

 この日の総会では、Ⅲ(安心・安全で質の高い医療の推進)、Ⅳ(効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上)の項目についても議論があった。

 回復期リハビリ病棟で提供される運動器リハについて厚労省は「1日6単位を超えた実施単位数の増加に伴うADLの明らかな改善が見られなかった」とし、算定単位数の上限が緩和される対象患者から運動器リハを除外する改定案を示した。
 
 質疑で太田圭洋委員(日本医療法人協会副会長)は「あくまでもFIMの改善が見られなかっただけ」と指摘。具体例を挙げながら、FIM点数の変化とリハビリの必要性が相関しないことを説明した。

 その上で太田委員は、ADLの明らかな改善が「リハビリの効果をFIMだけで判断していくことが今後もまかり通っていくと、回復期リハビリ機能の評価として問題がある」と改定案の再検討を求めた。池端副会長も太田委員の考え方に賛同し、「9単位でもアウトカムが出るというデータがあれば見直しも検討していただきたい」と述べた。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 太田委員がおっしゃったとおりであると私も思う。疾患や患者によっては、9単位を短期集中的にしっかりやればADLが上がる場合もある。平均値でとらえると、ADLの改善がないように見えるのかもしれないが、個々のケースや期間によって違う。次回改定までに詳しい検証をしていただき、9単位でもアウトカムが出るというデータがあれば、見直しも検討していただきたい。

.

地域包括ケア病棟も算定対象か

 今回の会合で、個別改定項目Ⅰ~Ⅳの議論は一通り終了した。全体を通じた質疑の中で、池端副会長は感染症の入院患者に対する個室管理の評価について「地域包括ケア病棟も算定対象か」と質問。厚労省の担当者は一定の要件を満たす場合には「加算の対象にすべき」と答えた。
.

P381抜粋_短冊

.

 新設される「特定感染症入院医療管理加算」について厚労省は、「感染対策が特に必要なもの」とした上で、「一般病床又は感染症病床に入院する患者に限る」としている。

【池端幸彦副会長の発言要旨】
 感染症対策において個室対応は非常に重要である。新型コロナ対応では、地域包括ケア病棟でも患者を受け入れ、個室管理など適切な感染管理を実施した。そこで質問だが、地域包括ケア病棟はこの加算の算定対象になるか。
.
【厚労省保険局医療課・眞鍋馨課長】
 今回、このように記載しているが、感染管理が特に重要な感染症であって院内感染を起こす可能性がある患者さんについて、必要な個室管理を実施した場合には加算の対象にすべきだと考えている。ご指摘を踏まえ、必要な修正について検討させていただきたい。

この記事を印刷する この記事を印刷する
.


« »