地域包括ケア病棟、「経過措置等の検討を」 ── 短冊の議論で池端副会長

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池端幸彦委員(日本慢性期医療協会副会長)_2022年1月26日の中医協総会

 令和4年度診療報酬改定に向けた「短冊」協議がスタートした会合で、日本慢性期医療協会の池端幸彦副会長は地域包括ケア病棟について「これほどの要件の見直しなどが実施されると、現場としては大変な苦労をせざるをえない状況」と懸念し、「実態を十分に把握した上で必要な経過措置等も検討してほしい」と要望した。

 厚生労働省は1月26日、中央社会保険医療協議会(中医協、会長=小塩隆士・一橋大学経済研究所教授)総会の第513回会合をオンライン形式で開催し、当会から池端副会長が診療側委員として出席した。

 厚労省は同日の総会に、次期改定の内容を整理した「個別改定項目について」と題する約500ページの資料を提示。いわゆる「短冊」協議を開始した。

 この日の総会では、改定の基本方針の「4つの視点」に沿って整理されたⅠ~Ⅳの大項目のうち、ⅠとⅢを中心に審議。その中で、看護必要度とオンライン診療は公益裁定で決着した。

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一般病床と療養病床、「特性の違いを踏まえ」

 地域包括ケア病棟入院料の見直しについて、短冊ではⅠ─3の⑮(P60)、⑯(P73)に記載されている。

 このうち⑮は評価体系の見直しで、「地域包括ケア病棟に求められる役割に応じた医療の提供を推進する観点から、地域包括ケア病棟入院料の評価体系及び要件を見直す」としている。

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01スライドP60_【総-2】個別改定項目_2022年1月26日の中医協総会

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 ⑯では、「一般病床及び療養病床の入院患者の特性の違いを踏まえ」との考え方を示した上で、療養病床ベースの地域包括ケア病棟を一定の場合に減算する内容を挙げている。

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02スライドP73_【総-2】個別改定項目_2022年1月26日の中医協総会

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 質疑で、池端副会長は経過措置などを求めたほか、回復期リハビリ病棟入院料の見直しについて「相当な混乱が起きる可能性が高い」と危惧。看護必要度の議論では「切実な思いが現場から聞こえてくる」と慎重な対応を訴えた。主な発言要旨は以下のとおり。

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2022年1月26日の中医協総会

■ 感染防止対策加算の見直しについて
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 感染防止対策加算の見直しについては、私もこの場で発言させていただいたように、大きく広げていただいた。名称を変更し、人員配置要件を軽減した「感染対策向上加算3」を新たに入れていただいたことは非常に評価させていただきたい。外来にも広げて「外来感染対策向上加算」を新設していただくことも非常にありがたい。医療機関全体で取り組んでいきたい。
 診療所の外来感染対策向上加算については、支払側から「感染対策向上加算1の届出病院との連携が必須条件とはなっておらず、地域において基幹病院を中心とする体系的な感染症対策が必ずしも担保されているとは言えない。医師会と確実に情報を共有する必要がある」との意見があった。私も県医師会を預かっている1人として、今後もしっかり連携をとりながら取り組んでいくことを表明させていただきたい。

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■ 地域包括ケア病棟の見直しについて
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 3つの機能を十分発揮できるように、施設基準の見直しなどが提案されている。理解できるところもあるが、これほどの要件の見直し、実績要件の見直し等が行われると、現場としては、かなり大変な苦労をせざるをえない状況かと思う。
 その辺を含めて、実態を十分に把握した上で、必要な経過措置等も十分、ご検討いただきたいということを強く要望したい。

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■ 回復期リハビリ病棟入院料の見直しについて
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 今回、実績指数について大きく見直すことになると、相当な混乱が起きる可能性が高いのではないかと思う。変更は避けていただきたい。
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■ 療養病棟入院基本料の経過措置等について
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 経過措置の注11に関しては、これまでの資料にもあるように、患者の本来の目的と違ってリハビリテーションを中心にしたところがあることには一定の理解をしている。 
 ただ、それによって大きく減算となり、そこに入院している方々の行き場所がなくならないように、これも実態を十分把握していただきながら、患者さんが困らないようにすることを念頭に、通知等で、しっかり丁寧に見ていただきたい。 
 また、中心静脈栄養に関して、嚥下リハビリや嚥下評価を進める方向性は理解している。ただし、1つ申し上げておきたいことは、嚥下リハをやれば外れるものではないということ。
 中心静脈栄養の患者さんは療養病床全体の1割程度しかいない。その1割の方々のかなりの部分が、実はこれまで急性期病院等で十分評価したものの、なかなか経口摂取に切り替えられず、やむを得ない状況で中心静脈栄養を継続的にやっている方々が圧倒的に多いこともご理解いただきたい。嚥下リハをやればこれが全て外れるものではないことはご理解いただきたい。

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■ 重症度、医療・看護必要度の見直しについて
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 病院団体を代表する立場で意見を述べたい。「心電図モニターの管理」の削除については、心電図モニターをつけていることと重症度が必ずしも一致しないと指摘されており、それはそうかもしれない。 
 ただ、これまで内科的な重症度をどう判断するかといえば、ニアリーイコールで心電図の管理がある。心電図モニターをつけている患者さんが重症で大変だ、手間がかかっているということで評価されてきた。今回の改定で「心電図モニターの管理」を外したとしても、現在、入院している患者さんの心電図のモニターを外すわけではない。今、入院している患者さんがいるのに、重症度の評価から外れてしまう。必要度Ⅰの場合には、3割以上の医療機関が7対1から10対1に落ちる。しかし、7対1から10対1に変わっても、患者像は全く変わらない。それがどういう状況になるか。現場でどういうことが起きるか、もう一度、現場のイメージを抱いていただきたい。シミュレーションが出てから、全国各地で中小病院も含めて、「大変だ」という声が聞こえてくる。 
 以前、この中医協に資料が出されたと思うが、コロナを受け入れている所と受け入れていない所の重症度というのは、なぜかコロナを受け入れていない所よりも受け入れている所のほうが下がっている。そんなデータが出たことがあったと思う。
 1号側の委員はイメージがわきにくいのかもしれない。例えば、コロナの患者さんが入院している。呼吸器はつけていないが酸素をしていて、いつ状態が変わるかわからないので心電図モニターをして、点滴2本ぐらい、薬剤も2種類ぐらい。そういう状況の人が全て重症度から外されてしまう。
 そうなると、現場で今、コロナで一生懸命に闘っている方々がどう考えるだろうか。7対1が10対1に落ちる。人手が足りない、そして、今回のコロナでさらに手間がかかると言っている。人手を減らせと言われても、できるはずがない。そういう状況であることを、ぜひ、知っていただきたい。今、中医協でこういう議論をしているが、それぞれの立場で言わなければいけないこともあることは重々承知しているし、機能分化が重要であることも承知している。 
 ただ、何度も言うように、今は有事である。この段階で、今、それをやりきるということは、現場からしたら到底、あり得ない。考えられない。そして、本当に混乱が起きる可能性が十分あるということを私はすごく危惧する。その責任は、われわれ中医協委員が負わなければいけない。それは1号側も2号側もない。もし、これで現場が混乱する、コロナを受け入れる病院等がどんどん減っていく、患者はどんどん増えていく、となったときに、われわれは責任を取らなければいけない。そういう現実をもう一度よく、ご理解いただきたいと思う。
 現場は一生懸命、闘っている。そして、この中医協の議論も皆さんがしっかり聞いている。そういう責任を持って、この議論を進めていっていただければと思っている。本当に切実な思いが現場から聞こえてくるので、その代表として言わせていただいた。

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■ オンライン診療について
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 支払側から「対面診療と同内容・同水準であれば同じ点数で」という意見があった。しかし、対面診療とオンライン診療が「同内容・同水準」ということはあり得ない。オンライン診療と対面診療は互いに補完し合うものであるべきで、これは前回の公聴会で患者代表もそうおっしゃっていた。あくまでも補完し合うものであり、対面診療の重要性も十分認識しているという発言だったと思う。
 例えば、安定した血圧の患者さんで1~2カ月ごとに診ている患者さんがいる。血圧は安定しているが、聴診、打診をしていると、ある時にはっと気付いて、今までなかったような不整脈が見つかったり、腰に手を当ててみて違う病気が見つかったりすることもよくある。
 こうした対面診療の重要性がある。単に血圧だけを見て、血圧が安定しているからいいだろう、オンラインでいいだろうということではない。対面診療の非常に重要な点もあるということをぜひご理解いただきたい。補完する関係でオンライン診療をどんどん進めていくことに対してはやぶさかではない。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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