「社会的医療資源」には消費税の特例を ── 定例会見で武久会長

会長メッセージ 協会の活動等

武久洋三会長_181213記者会見

 日本慢性期医療協会は12月13日、「消費税」をテーマに今年最後の定例記者会見を開きました。武久洋三会長は「民間といえども、病院は地域に許可された病床を公的医療保険で運営している『社会的医療資源』であり、医師個人だけのものではない」との考えを示した上で、「病院建築や大型医療機器についてはぜひ消費税の特例を考えていただきたい」と述べました。

 会見で武久会長は、多くの病院が建て替え時期を迎えていることを指摘。「これから病院はリニューアル等をしなければいけないが、非常に厳しい状況。オリンピックや万博のために建築費が高止まりをして過大な投資となっている」と現状を説明し、「リニューアルした途端に倒産する恐れもある」と懸念しました。

 その上で武久会長は「このまま消費税が10%から20%になれば、民間病院は病院のリニューアルをすることが不可能になり、医療資源は廃墟となる。日本の70%以上の医療を担う民間病院の廃退は、国民の健康な生活を奪うことになる」と訴えました。

 同日の会見(説明部分)は、以下のとおりです。会見の資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2018/chairman181213.html)に掲載されておりますので、ご参照ください。

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20181213_記者会見

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慢性期医療をきちんと実践していく

[池端幸彦副会長]
 定刻になったので、ただ今から本年最後の記者会見を行いたい。

[武久洋三会長]
 12月の慌ただしい時の記者会見で恐縮である。今年も皆様に大変お世話になり、われわれ会員一同、いろいろなデータを関係部局に提出して、いろいろな改正等につなげていくことができた。これもひとえに皆様のお力添えがあってのことと感謝している。

 次の改定はまだ先であるが、消費税問題等があり、来年の秋にもまだまだいろいろなことが起きてくると思われるので、ぜひ皆様方と一緒に進んでいきたい。

 高齢化がだんだん進み、慢性期医療の重要性を皆様に感じていただける時代になってきた。日本慢性期医療協会がきちんとした慢性期医療を提唱して、実践していくことが必要だと思う。月に1回の記者会見でいろいろなデータをお見せして、皆様にお知らせしていきたい。

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病院は「社会的医療資源」

 それでは、消費税について述べる。介護給付費分科会や医療保険部会などで消費税率の引上げに向けた対応が議論されているので、日慢協としてのスタンスをお知らせしたい。

 土地の売買・賃貸には消費税がない。建築物は不動産でありながら消費税がかかる。建物は既に不動産取得税が4%かかり、固定資産税が1.7%、40年で68%ということで、すべて入れると40年間で不動産価値の実に80%以上の税金を払わされているという現状がある。

 病院は民間といえども、地域に許可された病床を公的医療保険で運営している「社会的医療資源」である。医師個人だけのものではない。公立・公的病院には多額の補助金や補填金が投入されている。しかしながら、それにもかかわらず収支が赤字のところが多く、全国では8,000億から9,000億のお金が投入されていると聞いている。しかし、民間病院には公的補助金や赤字補填などは、ほとんどなされていない。賢明に経営努力をしながら地域医療を担ってきている。

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3億円の利益が出ないと「償却できない」

 1945年、太平洋戦争が終戦を迎えた。それから5年前後して、焼け野原になった県庁所在地に病院建設ラッシュが起きた。そこからさらに35年ぐらい経って、病院の増改築、さらには医療圏ごとの病床数の規制に伴う駆け込み増床があった。そして今、40年近く経った。これから病院はリニューアル等をしなければいけないのだが、非常に厳しい状況である。病院の建て替え時期が来ているが、オリンピックや万博のために建築費が高止まりをして過大な投資となっている。公的医療保険の現状では、リニューアルした途端に倒産する恐れもある。

 その上に、消費税の増税である。医療は非課税であり、収支に大きな損が出ないように考慮してくれている。それでも病院を建築すると10%の消費税を払わなければいけない。50億円の建築に5億円の消費税である。さらに大型最新の医療機器も入れると、莫大となる。

 50億円の建築費の10%の5億円の消費税は、5年間に限って減価償却が可能である。なお、5億円の5%は損金処理ができるが、95%はこの減価償却で償却しなさいということであった。しかし、それは毎年1億円以上の利益を出す法人でなければ償却はできない。しかも、50億円の新しい建築をすると、仮に50年で償却するとしても、1年に1億何千万円の償却ということになり、利益が3億円以上出ていないところでは償却ができないということになる。

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消費税が20%になれば、医療資源は廃墟

 2012年当時、2年後の消費税8%に向けた中医協の議論で、「消費税10%の時点でも非課税を維持する」と厚労省は説明した。全日本病院協会の西澤寛俊会長(当時)は、課税を含めて議論すると考えていたため驚いたということで、ニュースになっている。それから、私も「病院は原則課税にするなど、ダブルスタンダードをつくることも1つの見識だ」ということを2012年にお話ししたところ、メディファクスで取り上げていただいた。私はその際、「消費税10%までを非課税とする場合、“高額の投資にかかる消費税負担”の解釈について医療関係団体が要望事項をまとめるなど、建設的な行動に進むべき」と言っている。

 国は平成28年、29年、30年と税制改正大綱を発表している。28年には、「特に高額な設備投資にかかる負担が大きいとの指摘も踏まえ、平成29年度税制改正に際して総合的に検討し結論を得る」と言っている。また、29年の税制大綱でも、「特に高額な設備投資にかかる負担が大きいとの指摘等も踏まえ、総合的に検討し、結論を得る」と、また同じことを言っている。さらに今年の税制改正大綱でも全く同じことを言っている。だから、何も変わっていない。日本病院団体協議会(日病協)が先日、消費税についての考え方を示した。しかし、抜本的なことをおっしゃっていただけなかったことは残念である。

 このまま消費税が10%から20%になれば、民間病院は病院のリニューアルをすることが不可能になり、医療資源は廃墟となる。日本の70%以上の医療を担う民間病院の廃退は、国民の健康な生活を奪うということになる。

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消費税の特例を考えていただきたい

 病院病床は全国の二次医療圏で規制が行われている。自由には増やせない。ということは、国が一定の範囲内で「社会資源」として認めているものである。すなわち、病院は国民のためのものであり、民間でも公的役割を大きく果たしている。病院建築や大型医療機器についてはぜひ消費税の特例を考えていただきたいと思う。

 18ページは当協会会員の児玉博行先生の資料である。10%への引き上げは、病院・高齢者施設の経営に甚大な影響を与えるということである。しかし、その対応策の議論は診療報酬に反映されるフローの側面に終始、すなわち日病協が言っているように診療報酬のことについてだけであって、税負担の増大が顕著な施設整備費用に関する部分が全く抜け落ちているということがある。

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スライド18

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 病床の大部分は昭和60年以前に整備され、40年近くが経っている。したがって、56年以前の建物(旧耐震基準)は耐震補強が必要となっている。4.3㎡のベッドを持っている所がまだ30万床程度あると想定されているが、この経過措置をどうするか、また気象災害もどうするか。

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スライド20

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 病院を建て直すために1坪110万円から120万円かかるという現状では、病院を建てた途端に倒産してしまうということもある。消費税も払いっぱなしとなる。リニューアルする病院の病床は社会資産としてお考えいただき、消費税特例を考えてほしいというのが日慢協の主張である。

 以上であるが、こうした問題については、昨日のメディファクスの「医師の働き方改革、後押しする機器は特別償却を」という記事にも出ている。それによると、自民党税制調査会は13日にまとめる2019年度税制改正大綱に向け、医師・医療従事者の働き方改革を後押しする機器、地域医療構想に伴う病床再編のために建てた建物について、新たに特別償却を認める方向で調整してくれている。従来の高額な医療用機器の特別償却については、CT、MRIに一定の要件を設けた上で、期限を延長する構えだそうである。医療機関の消費税負担について、事実上一定の配慮を示す方向になっているという。

 建築をリニューアルする時期に来ているので、ぜひとも皆さまのお力で、このような問題があるということを広くお知らせいただければありがたい。

                          (取材・執筆=新井裕充) 

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