「新類型施設の試算の比較」を公表 ── 12月8日の定例記者会見

会長メッセージ 協会の活動等

武久洋三会長20161208

 日本慢性期医療協会は12月8日、定例記者会見で「新類型施設の試算の比較」を公表しました。それによると、現在の介護療養病床は50床で約74万円の利益ですが、新類型Ⅰ-(Ⅰ)の利益は約181万円、Ⅰ-(Ⅱ)は約465万円となりました。試算結果から武久洋三会長は「現在の介護療養病床からⅠ-(Ⅰ)に移るところは非常に少ないのではないか。ほとんどがⅠ-(Ⅱ)にシフトするのではないか」とコメントしました。
 
 平成29年度末に期限を迎える介護療養病床と医療療養病床(25対1)の在り方をめぐっては、厚生労働省の「療養病床の在り方等に関する検討会」で平成27年7月から今年1月にかけて審議され、「サービス提供体制の新たな選択肢の整理案」がまとめられました。当協会からは池端幸彦副会長が委員として出席しました。

 その後、同検討会の議論を引き継ぐ形で今年6月、社会保障審議会の「療養病床の在り方等に関する特別部会」で具体的な検討が続けられました。当協会からは武久洋三会長が委員として出席しました。特別部会は12月7日、これまでの意見を踏まえた「療養病床の在り方等に関する議論の整理(案)」を部会長一任の形で取りまとめました。

 今回の定例会見は、特別部会での議論が終了した翌日に開催されました。武久会長は会見の冒頭で「すでにいろいろなことが明らかになってきているが、新類型施設について試算してみたので、転換するかどうかを考える際の1つの指標として参考にしてほしい」との考えを示したうえで、試算結果について説明しました。

 以下、同日の会見要旨をお伝えいたします。会見資料は、日本慢性期医療協会のホームページ(http://jamcf.jp/chairman/2016/chairman161208.html)に掲載しておりますので、ご参照ください。
 

■ 6.4㎡の4人部屋から3つの新類型に転換できる
 
[武久洋三会長]
 本日は、① 新類型施設の将来を考える、② 新類型施設の試算の比較──の2点についてお話ししたい。これまでの検討で、すでにいろいろなことが明らかになってきている。皆さんも大体の様子は分かっていると思うが、新類型施設について試算してみたので、転換するかどうかを考える際の1つの指標として参考にしていただければ幸いである。

 昨日、厚生労働省・社会保障審議会の「療養病床の在り方等に関する特別部会」の第7回会合が開かれた。この回をもって特別部会は終了となり、具体的な議論は社保審の介護給付費分科会に引き継がれることになった。特別部会では、これまでかなり強硬な意見もあり、侃々諤々という状態であった。しかし、昨日はどちらかというと、これまで大きな反対をしていた委員も「ある程度は仕方がない」ということで、予定していた時間よりもかなり早く終了した。

 ただ、現在示されている「議論の整理(案)」だけで、自院の病床を今後どうするかを決めるのはなかなかリスクが高いと思う。介護給付費分科会では、具体的な報酬などがまだ示されていない。こうした状況では、今後の方向性を決めかねている医療機関も少なくないと思う。このため、新類型が果たしてどのような施設になるのかについて、昨日の特別部会で質問させていただいた。

 すなわち、新類型となる施設は「トランジットな施設」なのか、「長期入所の施設」なのかという点である。短期間の入所で次の施設に移るような一過性の短期間入所施設か、それとも長期の施設を考えているのかを尋ねた。これに対して厚労省の担当者は、病状も重度で要介護度も重度で、そういう人をお預かりすることが介護療養のA型・B型であるので、それに生活施設としての機能を付け加えることから、長期を考えているという回答であった。

 長期で入所できるとなると、「6年後にはもうやめました」ということはできない。6.4㎡の4人部屋は国内にたくさんある。厚労省の担当者によると、「当分の間、6.4㎡の4人部屋のサ高住は認められる」ということだ。すなわち、新類型のⅠ-(Ⅰ)、Ⅰ-(Ⅱ)、Ⅱという3ついずれも、6.4㎡の4人部屋から転換できることになる。
 

■ 患者にとってより良い施設にしていく責任がある
 
 国が「こういうふうに変わりなさい」、「こういうふうに変わるほうがいい」と政策誘導するからには、われわれはできる限り、国が目指す方向性に従っていこうと考えている。しかし、はしごを外されることがある。

 例えば、平成18年の療養病床の削減政策がそうだ。平均在院日数を減らすために、療養病床を10万床減らせという政策が進められた。その10万床減った分が介護療養病床に移行すると困るので、介護療養病床の廃止という乱暴な政策がとられた。当時の反省を踏まえて、その後の動きがあると思われる。

 ただ、政治にも影響を受けるので、新類型の施設が最終的にどのようになるか今はまだ分からない。しかし、少なくとも慢性期の医療の必要度が低い患者については施設に移そうというメッセージ性はかなり強いものがある。今後は、このような方向性で恐らく固定するだろうと思われる。この方向性は強まりこそすれ弱まることはないだろうと思っている。

 そこで、今後の療養病床の在り方等について、当協会の理事会でもいろいろと検討している。慢性期の病床が中心となる問題であるので、日本慢性期医療協会としてはオピニオンリーダーとして、患者にとってより良い施設および病院、病床にしていくべき責任がある。たとえ介護療養病床から施設になったとしても、その治療レベルを下げることなくますますレベルを上げていきたい。長期入所の施設にいながらも、できるだけ改善して在宅に帰していくという機能を常に持たねばいけないと思っている。
 

■ 現在の介護療養病床は、50床で約74万円の利益

 では、資料の1ページをご覧いただきたい。これが全体をまとめたものになる。

2016.12.8会見資料_ページ_1

 この表では5分類されており、一番左が現在の介護療養病床である。医師が48対1ということで、100ベッドだと3人。ここでは50床と仮定して計算している。50床であるため、100床の半分ということで医師1.5人としている。

 では、個別に見ていきたい。資料2ページをご覧いただきたい。先ほどの表の中から、「現在の介護療養病床」の部分を抜き出している。これについてご説明したい。
 

2016.12.8会見資料_ページ_2

 看護6対1で9人。介護は最大の4対1として13人。医師の夜勤は医療機関としては必要なため、100床を基本とすると0.5人分の医師の当直料は人件費に入れなければならない。

 夜勤に関しては看護1人、介護1人。その他の職員は薬剤師・管理栄養士は0.5人、介護支援専門員・PT・OTは1人。レントゲン技師・検査技師は0.5人としている。

 収入を見てみる。多床室は、要介護4では1,166単位なので収入は1,749万円となる。各種加算収入を180万円と考えて、食費・居住費は利用者に負担していただくので、この分が265万円。そうすると、収入の合計は2,194万円となる。すなわち、50床については2,194万円ぐらいの収入があるということ。

 では、支出はどうか。人件費が約1,360万円、材料費が約400万円、経費等が約360万円として、支出合計は2,120万円となる。収入-支出=約74万円ということで、50床で100万円足らずの利益が出るということになる。
 

■ 新類型Ⅰ-(Ⅰ)の利益は約181万円、Ⅰ-(Ⅱ)は約465万円
 
 3ページをご覧いただきたい。「新類型施設Ⅰ-(Ⅰ)介護療養病床相当」について見てみる。先ほどの計算に従って試算した。医師の数と看護・介護は同じだが、夜勤の数の医師の分だけが少なくて済む。それ以外は同じで、多床室も現在の点数と同じ。このため、2,194万円の収入は同じだが、人件費が少し安くなるので、利益は約181万円となる。

2016.12.8会見資料_ページ_3

 4ページをご覧いただきたい。Ⅰ-(Ⅱ)は従来型の老健に非常に似ているわけであるが、転換型老健と同じ水準で考えているということを厚生労働省は言っている。これを見ると、入所者100人に対して医師が1人であるので、50人で0.5人。そして看護・介護は3対1で、7分の2程度が看護である。
 

2016.12.8会見資料_ページ_4

 看護・介護の夜勤は「介護2人」ということで、薬剤師0.2、管理栄養士0.5、ケアマネージャー1、PT・OTが1、支援相談員1と事務員が1として、収入は1,969.5万円となる。支出については、人件費がかなり減って1,505万円となる。その結果、収入-支出=約465万円となる。
 

■ 新類型Ⅱの利益は約383~562万円

 5ページをご覧いただきたい。「新類型施設Ⅱ 特定施設入所者生活介護相当」について試算した。

2016.12.8会見資料_ページ_5

 特定施設の場合は、看護と介護3対1で、看護が2人でいい。夜勤は介護1人と事務当直。施設長や介護支援専門員、栄養士、機能訓練指導員、生活相談員等が必要で、収入としては730単位ということで、1,095万円。これに各種加算の収入が140万円。この中には、医療的なサービスも外から来るものについては追加している。人件費が安く済むため、収入-支出=約562万円となる。

 6ページをご覧いただきたい。「新類型施設Ⅱ (特定施設を除く)軽費老人ホーム相当」について試算した。

2016.12.8会見資料_ページ_6

 これは、療養病床100床(医療療養50床+介護療養50床)のうち、介護療養病床50床(平均要介護度4)を、新類型施設Ⅱ(特定施設を除く)軽費老人ホーム相当に転換した場合である。介護保険サービスを外付けで提供し、併設病院で運営する介護サービスを利用する。

 主な人員配置は、介護2人、施設長1人、事務員1人、生活相談員1人、栄養士1人で、収入合計は約2,019万円。支出合計は1,636万円。収入-支出=約383万円となる。

 人件費の計算根拠を別紙にご用意したので、ご覧いただきたい。


2016.12.8会見資料②人件費

 医師は月給を130万円と仮定している。看護は賞与も入れて平均して36万円、夜勤は含まれていない。リハビリ等と賞与を足して12で割っている。手当については、下にあるように医師の当直手当5万円、その他2万円、1万円などすべて書いてある。
 

■ 次の同時改定までの経過措置になる可能性も強い

 以上、新類型について試算した結果を見ていただいた。現在の転換老健は、従来型老健に比べて1カ月3万円以上高いので、これにⅠ-(Ⅱ)が対応している。そういうことも勘案して試算をしてみたところ、新類型のほうが収支に差があるという結果になった。

 介護療養型病床を持つ経営者の一部には、「現在のままがいい」とか、「6年間はそのままずっと続けてくれ」と求める声もあるが、このように試算してみると、現在の介護療養病床の方が運営しやすいということもないように思える。

 新類型のⅠ-(Ⅰ)の場合は今のそのままで医療機関でなくなるというだけのことである。医師の当直分だけが上乗せとなるが、医師の数は100床で3人という点は変わらない。

 このように見てみると、現在の介護療養病床からⅠ-(Ⅰ)に移るところは非常に少ないのではないかと想定している。ほとんどがⅠ-(Ⅱ)にシフトするのではないかと思われる。その代わり、介護療養病床の中の重度の人は残った病床のほうにシフトし、そちらを重症とする方向へ持って行く可能性が強いのではないかと類推される。

 当協会の会員には介護療養病床を持つ方がかなり多くいるので、協会の会長としては会員の利益のために努力するのは当然のことである。私も6年間の経過措置を主張している。ゆっくりと経過を見ていきたい。少なくとも介護給付費分科会での点数が決まるまで、すなわち平成30年1月、2月になるまでは態度を決められないし、点数が決まって4月から変わるようにと言われても、それは無理である。

 従って、最低でも平成30年度の同時改定から1年間は様子を見ると思われる。そうこうしているうちに2年目になると、もう次の年の改定が気になるので、結局のところ次の同時改定までの経過措置になる可能性も強いと思っている。
 

■ 日慢協が主体性を持って取り組んでいきたい

 いろいろと反対があったり賛成があったり、侃々諤々としているが、日本慢性期医療協会の会員が一番該当する病棟を持っているので、他の病院団体の会員のためにも日慢協が主体性を持って取り組んでいきたい。

 今回、皆さんにお示しした試算は、必ずしも正しいわけではなく、あくまでも仮の試算である。このような傾向だろうということだけはお示ししたほうがいいと考えた。それぞれの病院に持ち帰り、自分の病院で数字を入れていただく機会になると思ったので、このような試算を示してみた。

 年末の記者会見に金銭的なテーマになったが、やはり継続して病院の経営ができるというのは非常に重要なことである。決して、「どちらが儲かるか」という意味でお示ししたのではなく、経営がきちんと継続できるかどうかの指標にしていただきたいとの思いでお示しした次第である。

 平成30年度の同時改定に向けて、これからまだまだ動きがあると思われるので、会長として、会員のために、また日本全体の医療のために良い方向に進むようにと願っている。

                           (取材・執筆=新井裕充)
 

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