「第97回社会保障審議会医療保険部会」 出席のご報告
平成28年9月29日、「第97回社会保障審議会医療保険部会」が開催され、当会からは委員として武久洋三会長が出席いたしました。今回の主な議題は下記の通りです。
1.高額療養費の見直しと後期高齢者の保険料軽減特例の見直しについて
本年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2016(骨太の方針2016)」に盛り込まれている「高額療養費」および「後期高齢者の保険料軽減特例」の見直しについて議論が行われました。
高額療養費制度は、家計に対する医療費の負担が過度なものにならないよう、医療費の自己負担限度額を定める制度です。この制度において、現役世代に対しては所得に応じた支払い区分が設定されていますが、70歳以上の高齢者に対してはそうした区分が設けられておりません。負担能力に応じた支払いを求める方向性で見直しを行う方針が厚労省側より述べられ、委員からは見直しについて賛成の声が多く上がる一方で、医療保険は人間の尊厳を守るためのものであり、安易な負担増への踏み切りは反対であるとする意見も述べられました。
武久会長はこの点に触れ、「高齢者の環境は住む都市の状況によって違う。低所得者は有病率が高く、高所得者のほうが寿命が長いというような統計もある。地方では、資産として持ち家があるため生活保護を受けられないが、実際の所得は非常に低く、かといって家を売るにも買い手がつかない、というようなケースもある。財務省は各省に予算の縮小を呼びかけていると思うが、厚労省であれば、医療保険や介護保険など各所の予算が少しずつ厳しくなっている。一人の患者さんがそのような各種の縮小項目にそれぞれ少しずつ該当してしまうと、結果的に非常に大きな負担となるし、老夫婦が二人とも病気になったりすれば負担も倍となる。所得の低い高齢者にとって非常に厳しい状況となってしまうため、負担能力のボーダーラインの設定については、状況に即した細分化が必要だ。福祉国家として、これまで日本を支えてきた高齢者にふさわしい調整をお願いしたい」と述べられました。
また、75歳以上が加入する後期高齢者医療制度では、現在、低所得者や、子供などに扶養されている人を対象に、保険料が最大で9割軽減される特例措置がとられています。本則では7割負担とされている負担が8.5ないし9割まで軽減されている特例措置については、過去の医療保険部会において段階的に廃止していく方針が決定されています。今回の会議で改めてこの問題が採り上げられ、委員からは大筋で賛成の意向が述べられました。
2.任意継続被保険者制度について
健康保険には、被保険者が退職した後に任意で退職前の保険を最大2年間継続することができる「任意継続被保険者制度」があります。制度設立当初は国民皆保険が実現されておらず、被保険者の失業による無保険状態の回避という大きな意義がありましたが、現在では、被保険者が国保への移行にあたって保険料負担の激変を緩和するためのつなぎとなることが、実質的な意義となっています。
この制度について、支払い側である健保連から、継続加入期間を2年から1年に縮小、加入要件を2ヶ月から1年に拡大、保険料設定の方法の見直しといった要望が提出されました。委員からは、本制度は歴史的役割を終えつつあるものだとして賛成の声が上がる一方、国保の負担増につながる可能性を懸念する声も上がりました。
3.医療費適正化基本方針について
医療費適正化計画の遂行にあたって、目標値となる医療費推計の基本式が提示されました。医療側からは、机上の空論として一律に押し付けるのではなく、現場の実情に即したものとして欲しいとの意見が述べられました。
4.平成29年度厚生労働省予算概算要求
厚生労働省の平成29年度予算要求の概略が示されました。高齢化等に伴う増額として6,400億円が見込まれています。特に地方自治体から、医療の地域包括ケアシステムの実現に向けた予算の確保の要望が述べられました。
5.平成27年度医療費動向の報告
厚労省より、平成27年度医療費動向が公表されました。27年度の医療費の伸び率は3.8%で、これは前年の1.8%と比して高い伸び率となっています。特に調剤医療費が拡大しており、これは27年に承認された高額なC型肝炎治療薬が大きな影響を与えているとのことです。これについて委員からは、大きな出費ではあるものの、将来的なC型肝炎の治療のために有意義な出費であるとの意見が出されました。
また、前回の部会で武久会長が要望された後期高齢者の一般病床・療養病床の入院患者内訳について、厚労省から資料が提示されました。高齢者の入院先は、80~84歳では一般病床約60%、療養病床約26%、精神病床約15%ですが、90歳以上では、一般病床約50%、療養病床約41%、精神病床約9%となり、高齢になるほど療養病床の占める割合が大きくなっていること、高齢になるほど在院日数が増加すること、一方で一日あたりの医療費は下がっていくことなどが示されました。
2016年9月30日