第2回療養病床の在り方に関する特別部会出席のご報告
平成28年6月22日、第2回療養病床の在り方等に関する特別部会が開催され、武久洋三会長が委員として出席いたしました。議題は、下記の通りです。
療養病床の在り方等に関する検討について
上記の議題の検討にあたり、本日の特別部会では、3名の参考人によるプレゼンテーションが行われ、それをもとに議論がなされました。参考人は、次の通りです。
有吉通泰参考人(医療法人笠松会有吉病院 院長)
猿原孝行参考人(医療法人社団和恵会 理事長)
矢野諭参考人 (医療法人社団大和会多摩川病院 理事長)
有吉参考人は、医療療養型56床のうち36床が個室、介護療養型90床はすべて個室という、療養病棟入院基本料Ⅰ、ユニット型療養型介護医療施設サービス(機能強化A)の病棟を運営されている立場から、また猿原参考人は介護療養型医療施設、転換型老健等、全777床の法人を運営する立場から説明がありました。また矢野参考人は医療療養病棟1を算定し、同時に回復期リハビリテーション病棟1、地域包括ケア病棟を運営するケアミックス病院の立場から、療養病床について説明されました。
◇武久洋三会長の発言
私は日本慢性期医療協会の会長をしているので、当事者の一員でもある。一番最初に問題になるのは、病院病床というものはどういうものかという定義である。そしてもう一つ、ターミナルとはどういう状態を指すのかということだ。それが決まらないと何も進まない。これはどちらかというと厚生労働省から示していただかないといけないと思う。数年前、ターミナル期にある人に胃ろうをしたら、その後3~4年存命されたというのを聞いたことがある。胃ろうをして3年も4年も生きているということはターミナルではない。少なくとも心臓や肺はターミナルではない。消化管も、ターミナルであれば流動食を入れても吐き出してしまうか下痢をしてしまう。
ターミナルを診るというのは、ただじっと見ているということなのか。苦しかったら酸素をしてあげるのか。痰がごろごろ言っていたら痰を取ってあげるのか。血圧が下がったら、血圧が下がらないようにしてあげるのか。それとも何もしないで見ているだけなのか。これによってターミナルというものの定義は違ってくる。そこをはっきりさせていただきたい。
それから、病院病床についてである。病院、病床とはどういうものか。私は、病気の人が入院して、できるだけ早く適切に治療をして治すところと理解している。だが、治らない人もいる。それは障害者病棟とか、重度長期慢性期病床などにいる患者で、小児も含む。重度心身障害児もいるから、そういう患者は病院で診ないといけない。だが、それ以外は高齢者であろうと、できるだけ早く治療してよくするところが病床だと思っている。有吉参考人が指摘されたように、介護療養型でも強化型A、Bであれば院内に当直医が1人いるから、深夜・早朝の死亡退院に対応でき、問題は解決する。特養や老健は医者がいない。この点、老健と院内施設とではちょっと違っている。翌日や翌々日に診たら死亡していたから、その時に死亡診断書を書くというのは、今の法制上厳しい。
もう一つ、医療区分について。医療区分は平成18年からスタートした。ところが医療区分1は、2、3以外という漠然とした概念で、意識が全くないとか昏睡状態についても、全部医療区分1になってしまう。がんの末期も医療区分1になる。一般的には医療区分1はみんな軽い人だという認識を持たれているが、全く違う。日本慢性期医療協会では医療区分1のうち1-1から1-5まで程度をつくってみた。医療区分1のうちには、軽い人もいれば重度の人も多くいることが分かった。
有吉参考人がおっしゃったように、7対1一般病床の看護必要度の重症患者割合が25%に上がったが、逆に言うと25%以外の75%はその必要がないことになる。75%には軽い人がたくさん入っている。現実問題として、昨年10月14日に中医協で出された7対1の資料を見たら、医師の指示が1週間に1回またはそれ以下でいいという人が半分以上の病棟が4割近くあるというデータも出された。実は、一般病床には社会的入院のケースが多いのである。
20対1は医療区分2、3の患者の8割入院が要件なのでそうしたことはまずほとんどない。だが25対1は医療区分の縛りがない。ということは、どんな軽い人でも入ってもいいということになってしまうが、この問題は既に入院医療の療養病床の在り方検討会でことしの1月にすでに答申が出ている。そこで、25対1は20対1よりずっと軽いということもありこの4月から区分の厳密化ができているし、いわゆる病院内の住居という提案も出て、了承されている。そういうことから考えると、7対1一般病床とは明らかに状況が違う。
7対1の一番レベルの高い病棟の死亡率は2%。ところが、介護療養では40%で、医療療養ではそれ以上という状態である。人間が亡くなるときは、医師にとっても看護師にとっても非常に大変な負担が発生する。何もしないでじっと見ているというわけではない。これがどれだけ負担かということを考えていただきたいと思う。
そこで猿原先生にお聞きしたい。日本慢性期医療協会では、転換型老健になってすぐの時期と、5年後の調査を行った。実に象徴的で、胃ろうの患者の割合が転換前の介護療養型では40%近かったが、5年後は5%になっていた。現実問題、老健と変わらなくなっていた。この点、先生のところはどうだったか。というのは、私としてはこれは明らかにスタッフ数の減少によって、40%の経管栄養を診られなくなり、結果的に従来型の老健と同じ5%になってしまったのではないかと、思っている。そういうこともあって、転換型老健、療養型老健についての御意見をちょっとお聞きしたい。
また、医療区分は、10年が経過して制度疲労している。医療区分というのは、酸素をやればそれだけで点数が上がるというおかしなところがある。やはり急性期からのDPCに慢性期も合わせていったらどうかという案もあるが、ここでする話ではないかもしれない。まずは最初に申し上げた病院病床とはどういうものかという定義を決めていただくことと、ターミナルの定義についてである。我々はそれぞれの病院・施設でターミナルという定義を勝手に解釈して、これがうちのターミナルだと決めている状況がある。
○猿原参考人
PEGについては、全日病で厚生労働省の補助金事業として実態調査を行い、日本では欧米に比べて非常に数が多いという結果が出た。それから、その後日本老年医学会から終末期の医療についての制限みたいなもの―認知症高齢者についてのことと私は読み取ったのだが―医療の撤退という話があった。それ以来、PEGについて差し控える医療機関がふえたのではないかという気がする。
我々のところでは、自分たちでPEGをつくることはないが、総合病院でPEGを設置されてきた人を受けて、ケアに携わることはある。その数について、昔は40%もあったのに今は5%ぐらいになったという話があるとのことだが、我々としては受入れを拒否するということはない。つくる数そのものが減っているのかなという気がする。
終末期、ターミナルというお話を先生からいただいたが、私はもともと精神科出身なので、認知症の高齢者のターミナルの定義については、いわゆる失外套症候群を考える。あるところで日本を代表する学者のお話を聞いたとき、末期になって脳の剖検をしたときに、この人は前頭葉側頭葉型の認知症だったのか、アルツハイマーだったのか、ピックだったのか、それが判別できなくなる状態になるのだという。それが失外套症候群で一番最後の末期の状態だろう。
我々は現場の職員に対して、その状態までケアを中心に行い生きていただいたということは、その人にとっての人生の完成で、死は完成であるという教育をしている。私の立場は認知症高齢者というところに特化しており、武久先生のおっしゃる全般的な高齢者の終末期という考えとは少しずれがあるかもしれないが、そういう考えで日々接していることをお伝えしておきたい。
◇武久洋三会長
医療区分の中には、認知症という項目がない。当初、平成18年から20年までの2年間だけ、CPSといって、認知症があった場合には5点という点数追加があったのだが、現状では認知症があろうがなかろうが、医療区分では配慮されないということを知っていただきたい。
有吉参考人もおっしゃっていたが、療養病床20対1において、看護師が患者4人に1人という体制では現実として診られない。20対1が実は15対1ぐらいに加配しているところが圧倒的に多い。現状としては、全国的に20対1の療養病床入院基本料1は非常に重症者がふえており、苦慮している。たくさん加配をしているので人件費もかかり、なかなか利益率が悪い状況である。
看護必要度についてだが、実は20対1にいる患者の看護必要度は一般病床の1.5倍から2倍ぐらい重い。看護必要度の観点からみても重い患者さんが入っているということをお伝えしたい。
7対1一般病床の一番レベルの高い病棟で死亡率2%と申し上げたが、これはとくに7対1の死亡率が高いことを想定しているのではなく、事実を述べただけである。一般病床イコール急性期というのはすでに崩れている。昨年10月の病床機能報告制度でも、うちは慢性期だという報告が一般病床から8万9,000ぐらいあった。そういうところは当然移行していかないといけないと思う。
どうしてこの26年から30年ぐらいまでの間に大きな改革をしようしているのか。どうしてみんなが集まって頭を絞っているかというと、少子高齢化で日本の将来が大変だという認識があるからである。あまりにもお金がかかってしまうので、医療・介護を効率化していこうという日本の大きなテーマがある。その中で、うちはもっと上げてくれ、うちはこういうことをしているのだと言い合うよりは、みんなで効率化を少し考えてみませんかということだと思う。
官僚の方も政治家の方も一生懸命日本の国のために頑張ってくれているのに、我々現場の者があさってを向いて自分の利害得失ばかり考えていたら、物事は進まないのだろうと思っている。そういう観点から私は考えている。
病院内で転換して医療内包型のようになると、6.4平米がそのまま利用できればハードはそのまま使えるということだから、患者の負担金が一番安くなる。今、ユニット型の特養でも10万円以上かかり、とても入れないという人がたくさんいる。これは一般病床から慢性期病床の報告をしている9万床などから、病院内施設や住居に転換してもらうことによって医療費が減り、患者の負担も減るということで低所得者対策にもなる。私は、そういう大きな観点を持って現場の者も協力していかないといけないと感じながら、意見を述べさせていただいている。
○第2回療養病床の在り方等に関する特別部会の資料は、厚生労働省のホームページに掲載されています。
⇒ http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000128367.html
2016年6月23日