第22回日本慢性期医療学会を開催

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第22回日本慢性期医療学会

 日本慢性期医療協会は11月20、21日の2日間にわたり、熊本市内で第22回日本慢性期医療学会を開催しました。テーマは「最期まで満足する介護・看護・医療」で、学会長を末永英文氏(医療法人財団聖十字会理事長)が務めました。会場となった熊本市民会館の大ホールには約2,000人が集まり、盛大に開催されました。

 開会のあいさつで武久洋三会長は、医療や介護を取り巻く環境の変化に触れながら、「われわれ医療人がバラバラに対応していては、この強力な政権の前には無力」と指摘し、「一致協力してこの難関に当たらなければいけない」と呼び掛けました。

 続いて、末永学会長が今回のテーマについて説明。「日本では家族の意向が強い。日本人は本人の意向ではなく、家族や周囲の意向に沿って最期を迎えているが、これで本当にいいのだろうか」と問いかけ、「自分の最期をどうするかをよく考える機会になればいい」と述べました。

 開会式には、来賓として日本医師会会長の横倉義武氏、日本病院団体協議会代表者会議議長の加納繁照氏がご出席され、盛会を祝いました。横倉会長は、「日本の慢性期医療がより良いものになり、そして我が国の高齢化社会の中で確固たる地位を確立されることを心より祈念する」とあいさつ。加納議長からは「今後も日本慢性期医療協会からのお力添えを頂きながら、医療関係者が目指す理想の医療提供体制の整備に向けて努力してまいる所存」とのお言葉を頂きました。以下、開会式の模様をお伝えいたします。
 

■「一致協力してこの難関に当たらなければ」 ── 武久会長
 
[武久洋三会長]
 第22回日本慢性期医療学会に早朝から多くの方々にお越しいただき誠にありがとうございます。本日はご来賓として日本医師会の横倉会長、そして日病協の加納議長のお二方にお忙しいところ、お越しいただいた。

 本学会は、末永学会長が1年前から粛々と準備を進めてこられた。「手づくりの学会」ということで、2,000人近い皆さまにご参加いただけることとなった。深く感謝を申し上げる。

 日本慢性期医療協会は、「日本療養病床協会」から名前を変えてすでに7年目を迎えている。いま猛烈な勢いで世界が変わっている。そして日本が変わっている。そして医療界が変わっている。このひしひしとした圧迫感というものは、職員の1人ひとりに至るまで感じていることだろう。

 思い起こせば、小泉政権の時の小泉郵政選挙、その後に経済財政諮問会議が混合診療と医療費の抑制を強く要求した。奇しくも2年前の安倍政権誕生後にも、産業競争力会議が同じように「混合診療解禁」「医療費の引き下げ」「医療提供体制の効率化を」という考え方を示した。まさに同じことを言われている。

 確かに、医療界は他の産業に比べて効率化・近代化が遅れているかもしれない。しかし、やはりその底流に流れているのは、「金食い虫の医療と福祉をなんとか抑えたい」、「その分を産業界に投じて世界に伍して日本を発展させたい」という、現政権のような「市場原理主義」の考え方がある。効率化だけを追求して利益を上げる。このような体制は医療にはなじまない。

 しかし、病床機能報告制度、非営利ホールディングス、新しい地域医療計画、新しい医療圏である総合確保区域など、矢継ぎ早に出てきている。皆さま方の病院にも、「持ち分ありの医療法人」から「持ち分なしの医療法人」に変えるように厚労省からお知らせが来ていると思う。このような中で、われわれ医療人がバラバラに対応していては、とてもではないが、この強力な政権の前には無力である。

 本日は、日本医師会の横倉会長がお越しになっている。横倉会長になられてから、非常に医師会活動がわれわれの目に見えるようになった。それまでは1期ごとに会長が交代しており、どこを目指しているかが分かりにくかった。単に「反対」ばかりを繰り返しても、時代の流れは変わっている。時代の流れに沿ったわれわれの主張というものをまとめていただく。そして、12団体の連合体である日病協の加納議長もお越しになっていただいた。われわれ病院団体は、一致協力してこの難関に当たらなければいけない。

 ただし、なんでもかんでもいまの状態が良いと言って守ろうとしても、守りきれない。やはりわれわれが独自の提案をして、その方向に政府を引っ張っていくというぐらいの強い力がないと、われわれの現場はだんだん疲弊していく。この医療の現場は、われわれ医師または経営者がどうこうできる問題ではなく、職員1人ひとりの意識の上に成り立っている。

 今回の学会は非常に多くの演題が出ている。ポスター発表もある。多彩な講演もある。皆さま方が一生懸命に講演を聴いていただき、参考になるものは参考にしていただき、また明日へと進んでいっていただきたいと思う。今日の学会を準備していただいた地元の皆さま方に、心より御礼を申し上げ、今日と明日の学会の盛会を祝いたいと思う。ぜひ、よろしくお願いいたします。ありがとうございます。
 

■ 「自分の最期についてよく考える機会に」── 末永学会長
 
[末永英文学会長]
 おはようございます。第22回日本慢性期医療学会に多数のご参加をいただき、ありがとうございます。本学会は、「手づくりの学会」を目指した。理由は、目標を持って事を行えばできるという自信と、チームワークを今より少しでもレベルアップしたいと思ったからである。

 職員全員で企画・運営をしている。準備中は皆さまにご心配と不便をかけ、誠に申し訳ない。数々の点でご迷惑をおかけしていると思うが、できるだけ費用の無駄をなくしたかった。ご協力をよろしくお願いしたい。

 また、会員施設からは多数のご参加をいただき、さらに座長の派遣などの面でご配慮をいただき、心より感謝を申し上げる。学会の開催に当たり、ご指導・ご鞭撻を頂いた日本慢性期医療協会会長の武久洋三会長に感謝を申し上げたい。

 さて、本学会のテーマは「人が最期まで満足する」ということで、医療界の問題を考えてみた。人の死に対して、他の国は基本的にQOLや尊厳を重視していると思う。これに対し日本では、家族の意向が強いと思う。つまり、日本人は本人の意向ではなく、家族や周囲の意向に沿って最期を迎えていると思う。これで本当にいいのだろうか。これらの問題を考えてみようというのが、今回の学会のテーマである。

 世界各国における「死に方」「看取り方」など、12ヶ国の比較をしている雑誌によると、「死についてよく考えるか」という問いに対し、他国では10%前後、日本ではなぜか30%前後と突出して高い。これは他の国と違いすぎる。なぜだろうかと思ったら、回答者が考えた「死亡」とは、自分が死んだ後の遺産やお金の心配があるので、パーセントが日本は多い。これでいいのだろうか。この2日間、「自分の最期をどうするか」についてよく考える、そういう機会になればいいと思っている。
 

■「日本の慢性期医療がより良いものに」── 横倉会長
 
[横倉義武会長]
 皆さん、おはようございます。ご紹介いただいた日本医師会の横倉でございます。本日、第22回日本慢性期医療学会がこの火の国・熊本で開催されるにあたり、日本医師会を代表してごあいさつを申し上げる。

 皆様ご承知のとおり、我が国は世界に先駆けて高齢化に対応した体制の構築が進められており、団塊の世代の方々が75歳以上になる2025年に向けて、今まさに全国各地でそれぞれの地域包括ケアシステムを築きあげている段階である。今年度実施された診療報酬改定や、本年6月成立したいわゆる医療介護総合確保推進法を見ても、地域包括ケアシステムの構築を後押しする政策が多く盛り込まれており、特に在宅医療に関しては、国が積極的に押し進めている。

 しかしながら、地域住民の在宅療養を支えるためには、その受け皿である医療・介護施設の充実も併せて必要である。なかでも療養病床を持つ医療機関は入院機能だけでなく、リハビリテーションの提供、ショートステイによる家族のレスパイトケア、看取りなど、地域における在宅療養の後方支援機能の拠点として大きな役割が期待されている。

 地域包括ケアシステムの理念は、重度の要介護状態となっても、住み慣れた地域で人生の最期まで暮らし続けるというものだが、このような後方支援体制があってこそはじめて住民と家族は安心して地域での在宅療養を選択できるものと考えている。

 また、来年度に予定されている介護報酬の改定を控え、現在、社会保障審議会の介護給付費分科会では頻繁な議論が行われている。介護療養病床については、医療ニーズや看取りへの対応が充実した施設を重点的に評価する案が論点として示されている。日本医師会としては、この点を確実に評価すべきと考えており、同時に、介護療養病床の必要性を今後とも訴えてまいる所存である。

 結びになるが、大会の開催にご尽力された日本慢性期医療協会の武久洋三会長、並びに、私の大学医局の先輩である末永英文学会長をはじめ、関係者の皆様方に深く敬意を表する。

 いま、末永学会長のごあいさつをお聴きした。人の終末期はどうあるべきか。実は私は、医師になってちょうど45年であるが、45年前、私を鍛えてくれたのが末永大会長である。当時、私たちは心臓血管外科の教室にいた。現在、心臓の手術は死亡率1%前後で、非常に安定しているが、当時は、手術をした患者さんの10%は亡くなっていた。常に死と向き合いながら、私も医師としての道を歩み始めた。恐らくそうした経験を踏まえて、末永大会長が「人生の終末期はどうあるべきか」について考えようという話をされたのではないかと、お話をお聴きしながらそう心に感じた。

 この2日間の学会で、皆様方がさらなるご研鑽を積まれて、日本の慢性期医療がより良いものになり、そして我が国の高齢化社会の中で確固たる地位を確立されることを心より祈念し、お祝いの言葉とさせていただきたい。ありがとうございました。
 

■「医療関係者が目指す理想の体制に向けて努力」── 加納議長
 
[加納繁照議長]
 本日は、「第22回日本慢性期医療学会 in 熊本」がこのように盛大に挙行されることを心よりお慶び申し上げる。日本病院団体協議会代表として一言ごあいさつさせていただく。

 我が国は2025年に団塊の世代が75歳以上となり、4人に1人が75歳以上になるという高齢社会を迎えると言われている。このような時代背景もあり、今後はますます終末期医療というものが重要視されてくることになると思う。このたびの「第22回日本慢性期医療学会 in 熊本」では、先ほどお話があったように、学会長である末永英文先生が、そのテーマを「最期まで満足する介護・看護・医療」とされた。

 先生は本学会で、医療提供側、利用者側、および制度を決める社会が共に満足する介護・看護・医療とはどのようなものであるかについて、少しでも方向性が見いだせれば、という信念の下にテーマをお決めになったとのことである。大変、時宜を得たものと期待するところでもあり、敬意を表する次第である。

 本年10月から、医療介護総合確保推進法の成立によって改正された医療法により、一般病床および療養病床について「高度急性期」「急性期」「回復期」「慢性期」──の4機能に分類し、都道府県に報告する病床機能報告制度が導入された。これらのことを含めても、今後は医療機能の分化と連携がさらに進められていくことと思われる。

 本日、明日の2日間、これらに関連したものを含め、本学会では大変興味深いプログラムが数多く組まれている。制度や仕組みが急速に変わりゆく昨今、患者様、またご家族が望まれる適切な医療を提供し続けるために、ご参集の皆様におかれては、この熊本の地で学ばれたことをご自身の日頃の活動に生かしていただくことを切に願う。

 私ども日本病院団体協議会は、日本慢性期医療協会を含む急性期から慢性期、公的、私的、大病院、中小病院といったあらゆる開設主体、病床規模の病院が所属する12の病院団体から成る協議会で、今後も日本慢性期医療協会からのお力添えを頂きながら、医療関係者が目指す理想の医療提供体制の整備に向けて努力してまいる所存である。引き続きご協力を賜りますよう、よろしくお願いを申し上げる。

 最後に、本学会のご盛会とともに、ここにご参集の皆様方のますますのご活躍、ならびに武久洋三会長を先頭に、一般社団法人 日本慢性期医療協会のますますのご発展を祈念申し上げて、私からのごあいさつとさせていただく。本日のご盛会、誠におめでとうございます。
 

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