慢性期医療展2013 開催のご報告
平成25年4月18~20日の3日間、インテックス大阪にて「慢性期医療展2013」を開催いたしました。これは慢性期医療専門の展示会で、同時開催の「バリアフリー2013」とあわせ、3日間の来場者数は延べ10万人近くに上りました。第3回目の開催となる今回の慢性期医療展には、約60の企業・団体の方々に出展のご協力をいただいております。
18日の開会式には、当協会会長の武久洋三先生と、慢性期医療展実行委員長で副会長の松谷之義先生が出席されました。武久会長は挨拶の中で「慢性期医療は、人生の長い後半を支える。我々医療者は、超高齢社会の日本にあって、すばらしい健康長寿のためのサポートをしていく必要がある。行政・住民・医療者が一体となって、これからも慢性期医療を盛り上げ、地域社会に還元していかなければならない」と述べられました。
慢性期医療展では、7つの「日慢協セミナー」が行われ、各セミナーとも医療従事者、企業関係者、一般の方々など多くの皆様にご参加いただきました。
■ セミナー1「わが国慢性期医療の将来展望」
講師 安藤高朗氏(日本慢性期医療協会副会長)
まず総論として、安藤高朗先生より、慢性期医療が現在置かれている状況と、これからの慢性期医療をテーマに講演が行われました。
一般病床における在院日数短縮の流れ、2025年にピークを迎える超高齢社会といった流れから慢性期病床の重要度が上がり、急性期病床と慢性期病床の機能分化が進み、それにともなって経営的には明確なデータに基づいた経営方針、政治的にはグランドデザインに基づいた制度構築が、医療者にはケアマネジャーを中心とした多職種連携が不可欠になると述べられました。
■ セミナー2「エンドオブライフケアのあり方」
~在宅での看取りと病院との連携について~
座長 桑名斉氏(日本慢性期医療協会「終末期医療委員会」委員長)
講師 長尾和宏氏(長尾クリニック院長)
在宅医療分野で多方面に活躍しておられる長尾和宏先生のご講演は、在宅医療において避けては通れない「看取り」をテーマとして行われました。医療保険と介護保険の制度上の違いの指摘やリビングウィルの紹介、そして「苦痛を伴う延命」というイメージのつきまとう胃ろうについて、「ハッピーな胃ろう」という事例を紹介した上で、必ずしも寿命とQOLは比例しないということなどが示されました。在宅と病院の垣根なく、地域包括ケアの中で、医療者は価値観・死生観を共有し連携していくことが、豊かなエンドオブライフケアのために必要だと述べられました。
■ セミナー3「『在宅医療』における『診療の質』とは」
~その特殊性と専門性~
座長 鹿島洋一氏(日本慢性期医療協会「診療の質委員会」副委員長)
講演①「在宅生活を取り巻く問題と地域包括ケアの考え方」
講師 小澤陽子氏(松谷病院在宅統括本部長)
講演②「在宅療養支援診療所の医療の実際」
講師 照沼秀也氏(いばらき診療所理事長)
講演③「在宅医療に求められる『診療の質』~何をどのように評価するか~」
講師 矢野諭氏(日本慢性期医療協会「診療の質委員会」委員長)
小澤陽子氏の講演では、自宅、サービス付き高齢者在宅、介護付き有料老人ホームなど、在宅医療の様々な在宅サービスについて実際の患者の事例を交えて紹介され、情報共有の必要性が述べられました。
照沼秀也先生は在宅医療という専門性の強い領域における栄養指導のあり方や、家族とのコミュニケーションの重要性、家族的ケアの必要性、チームコミュニケーションのあり方について訪問診療医師としての立場から講演されました。
矢野諭先生の講演では、在宅医療においてもこれからは質の評価が重要になってくるとして、日本慢性期医療協会が進める診療の質の評価項目「クリニカル・インディケーター」を、専門性の高い在宅医療に導入するための取り組みや課題について解説が行われました。
講演の後はシンポジウムとなり、在宅医療において患者満足度を高めるための地域包括ケアシステムのあり方、医療者同士の連携、医療資源の流動化といったテーマについて討論が行われました。
■ セミナー4「チューブからの与薬、それで大丈夫?」
~知ってためになる経管栄養チューブ、胃ろうからの与薬法~
趣旨説明 木戸保秀氏(日本慢性期医療協会「チーム医療推進委員会」委員長)
講演①「経管栄養時のお薬投与方法について ~ご存知ですか、『簡易懸濁法』~」
講師 賀勢泰子氏(鳴門山上病院 診療協力部長)
講演②「慢性期医療における”とろみ状半固形食”の有用性」(協力 テルモ株式会社)
講師 上田 善継氏(テルモ㈱ホスピタルカンパニー医薬品・栄養グループ課長)
講演③「薬剤師に聞く“お薬なんでも相談”」
講師 岡村正夫氏(三条東病院)、山崎浩氏(永生病院)、棗則明氏(総泉病院)
与薬をテーマとした本セミナーでは、まず、㈱テルモの上田善継氏により、経腸栄養について、医薬品メーカーの立場から最新情報が提供されました。続いて、賀勢泰子氏からは「簡易懸濁法」という手法が紹介され、薬剤に応じた適切な与薬方について講演されました。セミナーの後は「お薬なんでも相談」として、岡村正夫氏、山崎浩氏、棗則明氏ら3名の薬剤師による相談会が行われ、個々の参加者の抱える悩みについて、詳細な相談が行われました。
■ セミナー5「個別性を重視したリハビリテーション」
座長 橋本康子氏(日本慢性期医療協会「リハビリテーション委員会」委員長)
講師 進藤晃氏(大久野病院理事長)
講師 吉尾雅春氏(千里リハビリテーション病院副院長)
リハビリテーションをテーマとした本セミナーでは、まず進藤晃先生が、国際生活機能分類(International Classification of Functioning, Disability and Health, ICF)を用いたケアについて説明され、リハビリは個別性を重視する領域であることが示されました。吉尾雅春先生は脳機能の観点から患者それぞれのもつ個別性について解説され、一人ひとりの能力に適したリハビリテーションを提供するためには、標準化された知識を医療者が共有していくことが大切だと述べました。講演の後はシンポジウムに移り、多職種連携のあり方や情報共有のノウハウについて、会場の参加者を交えて討議が行われました。
■ セミナー6「慢性期医療はまずは栄養改善から始まる」
講演①「高齢者の栄養改善はこうする」
講師 武久洋三氏(日本慢性期医療協会会長)
講演②「形態機能食の開発」
講師 伊豆敦子氏(介護老人保健施設ヴィラ光陽施設長)
武久洋三先生の講演では、急性期病棟から移ってこられた患者において低栄養などの「医原性身体環境破壊」が見られることがあり、軽視されがちな「栄養摂取」の重要性が説明され、「いかに美味しく食べていただくか」に主眼を置いた取り組みが紹介されました。伊豆敦子先生の講演では、武久先生の講演を受けての具体例として、平成グループで患者に提供されている形態機能食品の開発ノウハウが示され、食事を通してQOLの向上をはかる取り組みについて紹介されました。
■ セミナー7「認知症の人の家族への支援」
講演① 講師 田中志子氏(日本慢性期医療協会「認知症委員会」委員長)
講演② 講師 星野真由美氏(内田病院社会福祉士)
セミナー7では認知症について、群馬県の内田病院より、田中志子先生と星野真由美氏が講演されました。田中先生の講演では「認知症は患者を二人に増やす」といわれるほど家族への負担が大きいものであり、認知症の治療には、患者家族の認知症への理解とともに、患者だけでなく家族への支援も大切であることが示されました。星野氏の講演では、社会福祉士としての経験から多数の要介護者に対するケアの実例が示され、様々な患者と家族がどうのようにして認知症を受け入れ、乗り越えてきたのかの実例が紹介されました。
各セミナーとも医療関係者や一般の方々、200名定員の会場が満席になるほどの聴講者が集まり、慢性期医療への人々の関心の高さが伺える結果となりました。
2013年4月21日