院外リハビリをデザインする ── 12月12日の定例会見で橋本会長
日本慢性期医療協会の橋本康子会長は12月12日の定例記者会見で、「医療機関外(院外)リハビリをデザインする 〜生活の場での実践リハビリ強化〜」をテーマに見解を示した。橋本会長は、患者の社会復帰を目的とした実践的な訓練としての院外リハビリテーションの重要性を強調するとともに、その提供体制の拡充を提言した。さらに、現行の時間制限や評価基準の課題を指摘し、包括的な評価制度の必要性を訴えた。
会見で橋本会長は、院外リハビリが患者の社会復帰を円滑に進める上で不可欠であるとの考えを示した。現在、病院内のリハビリは具体的な実生活とは異なる環境で実施されることが多く、実際の生活場面での課題を発見するには院外でのリハビリが重要であると指摘した。具体例として、診療報酬上で評価されている移動手段の獲得、復職の準備、家事能力の向上のほかにも必要な支援の存在を挙げ、これらを実際の生活環境で訓練する必要性を強調した。
橋本会長は「現行の3単位(60分)の時間制限が課題であり、患者の多様なニーズに応じた柔軟な対応を可能にすべき」と指摘した上で、時間制限の緩和や訓練内容の拡充が必要との考えを示した。また、ADLやIADLに加え、患者の趣味や余暇活動を支援することがQOLの向上に寄与するとの見解を示し、こうした支援を「選定療養リハビリテーション」として自費で提供する仕組みも提案した。
橋本会長は「院外リハビリテーションの実施率が向上すれば、社会復帰や社会参加といった患者の次のステップに結びつく」と述べ、現行制度の課題を改善し、より包括的な評価制度を構築することが必要であると提言した。
会見の模様は以下のとおり。なお、会見資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。
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寝たきりゼロへのデザイン
[池端幸彦副会長]
定刻となったため、ただいまより今年最後となる日本慢性期医療協会の12月度定例記者会見を開始する。橋本会長より挨拶ならびに記者会見の内容について説明をお願いする。
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[橋本康子会長]
記者会見では毎回、「慢性期医療をデザインする」というテーマのもと、「目的」「プロセス」「アウトカム」という3つの視点から説明している。その背景にある大きなテーマは、「寝たきりゼロへのデザイン」である。
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今回のテーマは、医療機関外のリハビリテーション(院外リハビリ)に関する内容で、院外リハビリのあり方を再構築することが目的である。具体的には、患者の課題に応じたリハビリテーションを提供することを目的としている。
プロセスとしては、院外リハビリの3単位、すなわち60分の制限緩和と必要な範囲の拡大を提言する。院外リハビリの内容について、さらなる拡充を目指す。
アウトカムは、円滑な社会復帰である。院外リハビリにより、患者が社会復帰に必要な能力を実践的に養うことが可能となる。現状では院外リハビリの実施率が低迷しているため、その向上に取り組む必要がある。
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院外リハビリは1日3単位まで
まず、現行の院外リハビリの状況について説明する。
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平成28年度の診療報酬改定において、移動、復職、家事を目的とした入院患者に対する院外リハビリが1日3単位(60分)まで認められた。
その算定要件としては、移動手段の獲得、復職の準備、家事能力の獲得という3つの目的が挙げられている。これにより、移動や復職、家事を目的とした入院患者が院外リハビリを受ける際には、1日60分までが算定可能な時間として定められている。
現状では、院外リハビリの実施可能な時間が1日60分に制限されており、この制約による問題点が存在する。以下、詳しく述べる。
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院外リハの実施状況
現在、院外リハビリがどの程度実施されているのか、その状況について説明する。
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左側の円グラフを見ると、「実施している」と回答した医療機関の割合は40%である。この数字はやや低いと感じられる。
次に、右側の棒グラフは院外リハビリテーションの実施場所を示している。実施場所として最も多いのは「自宅」であり、その割合は8割に達している。また、「公共交通機関」での実施は7割に上る。そのほか、「店舗」や「自動車教習所」、「職場」なども実施場所として挙げられている。
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院外リハの実施時間
院外リハビリは、どの程度の時間、実施されているのか。診療報酬で算定可能な時間は60分であり、これは3単位に相当する。このため、60分を超える頻度に関するデータを確認する必要がある。まず、左側の円グラフ。
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日本作業療法士協会が2019年度に実施した調査によれば、作業療法の実施が60分を超える頻度について、「ほぼ毎回超える」と「時々超えることがある」を合わせると約70%に達している。
では、時間を超過する場合にどのような訓練が行われているのか。60分を超過した場合であっても、特別な内容を行っているわけではなく、生活に必須の訓練が中心となっている。
例えば、自宅へ戻るための訓練や公共交通機関の利用、自宅での家事動作の練習などが含まれる。これらは、指導された内容を実践する中で行われるが、その過程で60分を超えてしまう場合が多い。
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60分でできること、できないこと
60分を超える内容について、具体的な場面を想定して説明する。
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例えば、病院に入院している患者が復職を目指しており、退院が近づいているケースを考える。このような場合、職場で仕事が可能かどうかを確認するために、セラピストとともに職場を訪れ、実際の作業環境でリハビリを行うことが必要である。
病院内だけのリハビリでは不十分であり、復職を目指す患者には特に職場訪問も必要となる。この際、自宅から職場までの通勤練習も欠かせない。具体的には、電車に乗り、降車後に改札機を通過し、エスカレーターやエレベーター、階段といった移動に関連する動作を練習することが求められる。その後、職場に到着して1時間程度、仕事が可能かどうかを確認する。
こうした一連のプロセスを終え、病院に戻るまでにはおよそ3時間を要する。このような訓練を行う場合、午前中の時間をほぼ使い切ることが一般的だろう。このように、実際の生活や職場復帰に向けたリハビリには多くの時間を要するが、60分では足りない。
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1つの場面だけを切り取れば
では、病院から職場までの一連の流れの中で、どのように点数を算定しているか。院外リハビリでは、この中の60分間の部分だけを対象として点数を算定する方法が取られる。
具体的には、通勤に関連する活動として、道路の横断やバスの利用、駅でのSuicaの使用、エスカレーターの利用などの練習を行い、電車に乗車するといった各場面が対象となる。
また、作業業務の練習では、職場での仕事の60分間を対象に点数を算定する場合もある。このように、1つの場面だけを切り取れば、60分以内での実施は可能であろう。
しかしながら、職場に行くには電車などで移動する必要があり、生活全体を見渡すと、リハビリは一連の動作として評価すべきである。部分的に区切って点数が算定される現在の仕組みでは、場面間の課題や耐久力の評価・訓練が十分に行えない場合がある。この点については、改善の余地があると考えられる。
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経営面でのマイナスが阻害要因
院外リハビリは、算定可能時間を超える部分が算定対象とならないため、経営面での負担が生じ、結果として効果的な院外リハビリの推進を妨げる要因となっている。
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本来、PT・OT・STなどの療法士は、1日あたり18単位、すなわち6時間分のリハビリを実施することが可能であり、この範囲内で診療報酬を算定することができる。
しかし、院外リハビリに3時間を費やすと、そのうち1時間分しか算定対象とならず、残りの時間が算定されないため、結果的に経営面での収入が減少する。このような状況は、病院にとって経営的なマイナス要因となる。
そのため、多くの病院では院外リハビリに積極的に取り組む姿勢が十分でないと考えられる。このことが、先に示した調査結果にあるように、院外リハビリの実施率が40%にとどまっている理由の1つであると推測される。
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包括的に評価する仕組みが有効
現行の時間制限により、院外リハビリは分割実施や超過時間の持ち出しが発生し、その結果、効果や効率が低下している。また、社会生活に必要な内容であっても現行の制度では認められていないケースが存在する。
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現状、院外リハビリは60分間しか算定できないため、全体の約40%の医療機関でしか実施されていない状況である。では、どの程度の単位数があれば、院外リハビリの実施率が向上するのか。
左側の円グラフ。調査結果によれば、31%の医療機関が「4単位(80分)以上」、さらに「5単位(100分)以上」は31%、「6単位(120分)以上」を必要としている割合は38%にのぼる。
そこで、現在のように1単位や2単位といった細かい設定ではなく、平均的な必要単位数を包括的に評価する仕組みが有効ではないかと考える。
具体的には、院外リハビリが必要な患者に対して、例えば100分や1時間半程度の点数を十分に算定できるようにし、残りの時間については柔軟に運用できるような制度が望ましい。このような「包括化」を評価の1つの方法として導入することは、今後の制度改定の可能性として検討に値するのではないか。
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算定要件にない日常生活動作
現在、院外リハビリの算定要件上では、移動手段の獲得や復職の準備、家事能力の獲得といった内容が認められている。しかし、これだけでは十分ではなく、算定要件に含まれていない日常生活動作が多く存在する。
移動そのものは算定要件に含まれていても、移動先での目的達成に必要な活動は評価対象となっていない。例えば、銀行に行く場合を考えると、徒歩や自転車、電車を使って移動する部分は評価されるが、銀行到着後の手続きや行政窓口での年金受け取りなどの活動に対する支援は評価されていない。また、ATMの操作は障害を持つ方や車椅子を使用する方にとっては非常に難しいのだが、このような支援も現行の算定要件には含まれていない。
さらに、復職の準備は算定要件に含まれているが、復学の準備は対象外である。また、家事能力の獲得として調理や買い物は評価されるが、自宅内外での基礎的な生活動作、例えば入浴や排泄の動作練習といった基本的なADLの訓練は評価されていない。
これらの基本的な動作についても、入浴や排泄といった自宅での生活に不可欠な訓練が必要であるが、自宅に帰ってからではなかなか実施が難しい場合が多い。このような内容を院外リハビリに加えることも検討すべきと考える。
現行のように個別の要素を1つずつ追加する方法も考えられるが、より包括的な評価制度にすることで、必要な訓練を必要なだけ実施できる仕組みが構築されると考える。このような包括的な評価の考え方は、今後の制度改善において重要である。
現在の算定要件が非常に限られているため、現場での運用が困難な状況にある。この課題を解消するためには、制度全体の見直しが必要であると感じる。
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院内・院外リハの組み合わせ
患者の状態や時期によって、取り組むべき課題は異なる。退院後に円滑な生活を送るためには、院内リハビリテーションと院外リハビリテーションを適切に提供できる制度が必要である。
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回復期リハビリ病棟に入院してから退院するまでの流れを見ると、入院当初は疾患別のリハビリを実施し、主に機能訓練を中心としたプログラムが提供される。例えば、立つ、歩く、食事を摂る、排泄する、といった基本的な動作が困難な患者に対して、これらの機能を回復させることが最初の目標となる。
機能訓練を進めるにつれて、患者は擬似的な空間での生活訓練を経て、徐々に実際の生活訓練へと移行する。この段階では、生活そのものを再現した訓練が重要となる。
歩けるようになった段階で退院することも一理あるが、歩行が可能であっても、すべての社会生活が問題なく行えるわけではない。退院直後に現実の生活環境に直面すると、適応が困難な場合が多い。そのため、病院での院内リハビリテーションも一定の役割を果たしている。
ただし、いつまでも長期間リハビリテーションを続ける必要はないと考える。退院の1週間前、あるいは1カ月前から、週に1回または2回程度、自宅に戻って生活する中で、何ができて何ができないかを確認し、その課題を持ち帰って病院でリハビリを行うことが有効である。このような取り組みにより、退院後の生活に必要なスキルを適切に身につけることが可能となる。
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実生活での課題を認識する
退院後の訪問リハビリや通所リハビリを実施する上で、その患者にとって必要となる課題を発見する必要がある。外来リハビリでは、実生活での課題を認識することで、次のリハビリにつなげる効果が期待できる。
介護保険施設や在宅におけるリハビリでは、退院時点で何を課題とし、どのような目的を持ち、患者がどのようなことをできるようになりたいかを明確にすることが求められる。このような目標設定に基づき、訪問・通所リハビリを実施することが重要である。
訪問・通所リハビリでは、具体的なアウトカムを示す必要がある。つまり、「この目的のためにこのようなリハビリを行い、これだけの成果を得た」という結果を示す必要がある。このため、退院を控えた時期に、今後の実生活で必要となる課題を認識し、対応を計画することが重要である。
当院の調査結果によれば、院外リハビリテーションによって、リハビリスタッフが今後の課題や目標をイメージできたかを確認したところ、ほぼ100%が「かなりできた」または「少しできた」と回答している。これは、患者とともに院外でリハビリテーションを実施することが、病院内では気づけなかった課題を発見する機会となることを示している。例えば、患者が自宅でリハビリを行う、電車やバスを利用する、仕事や買い物に行くなどの実生活での動作を試みることにより、具体的な課題が明らかになる。
このように、院外リハビリを活用することで、患者の今後の課題や目標を具体的に把握することが可能である。逆に言えば、院外でのリハビリを行わなければ発見できない課題も多く存在する。このような特性を活かし、院外リハビリを効果的に活用していくことが望まれる。
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院外リハの内容と提供方法(案)
院外リハビリは生活に直結する重要な取り組みであるが、その内容は広範囲に及ぶ可能性がある。そのため、生活に必要なリハビリと余暇的な活動を切り分けて評価することも検討すべきである。
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院外リハビリの内容と提供方法の案を示す。日常生活や社会復帰に必要な能力を獲得するため、移動手段の獲得、復職の準備、家事能力の獲得といった既存の内容に加え、復学の準備なども含むべきである。
若い患者のための復学を目指すための準備や、自宅内でのIADLだけでなく、ADLを支援するリハビリテーションも必要であると考えられる。
また、時間的な制約についても検討が必要である。現在の6~9単位の評価では不十分であり、実際にはより多くの時間を要するケースが多い。
これらの課題を解決するためには、リハビリの評価を包括的な仕組みに変更することが最も妥当であると考える。このような包括的な評価は、すべての必要事項を適切に網羅する上で有効な方法であると考えられる。
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「選定療養リハビリテーション」で評価
日常生活に必須なADLや社会復帰に必要なIADLに加え、それ以外にも患者の希望に基づくさらなるQOLの向上が求められる。
患者の希望を尊重し、それをリハビリに反映することは、回復期リハビリ病棟や地域包括ケア病棟、さらには慢性期の病院や介護保険施設においても必要性が指摘されている。このような考え方は幅広い場面で支持されており、リハビリの提供において重要な視点である。
患者の中には、調理や家事能力を向上させたいという具体的な希望を持つ方も多いが、それだけでは生きがいや夢のある生活を実現するには十分ではない。趣味や余暇的活動を含めた支援を行うことで、より豊かで充実した生活を提供することが可能となる。例えば、ゴルフができるようになりたい、旅行に行きたい、といった余暇的活動や趣味活動への支援が、QOLの向上に寄与すると考えられる。
これらの支援を保険診療の枠組みで実施するかどうかについては議論の余地がある。私は、患者の自己負担による「選定療養リハビリテーション」として提供することが適切ではないかと考える。このようなリハビリ提供方法により、患者の多様なニーズに応える仕組みを構築することが可能であると考えられる。
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院外リハビリの提供体制を拡充すべき
まとめとして、入院患者の最終的な目的は社会復帰であり、それを円滑に進めるためには、実践的な訓練である院外リハビリの提供が極めて重要である。院外リハビリの提供体制を拡充すべきであると考える。
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生活の場で訓練を行う院外リハビリの目的は、患者の状態や課題に応じた適切なリハビリの場を提供することである。病院内のリハビリは、実生活とは異なるバーチャルな環境であり、実際の生活場面で課題を発見し、それに対応することが、患者にとってもセラピストや医師にとっても重要である。
「プロセス」としては、医療機関外リハビリテーションにおける3単位(60分)の制限を緩和すること、自宅や社会生活に必要な範囲を拡大することが必要である。例えば、復学や自宅内でのADLなど、現在の制限を超える内容を含めることが求められる。60分という時間制限の緩和と、リハビリテーション内容の拡充は喫緊の課題である。
「アウトカム」としては、院外リハビリテーションの実施率が向上することで、円滑な社会復帰が可能となる。この成果は、患者の職場復帰や仕事継続、さらには社会参加といった次のステップにもつながる。自宅に戻ることだけが最終目標ではなく、社会復帰や社会参加を実現することが、院外リハビリテーションの重要な役割であると考える。以上である。
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2024年12月13日