「地域に活きる~徹底的な予防リハビリテーションに取り組む~」── 第3回慢性期リハビリテーション学会を開催
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日本慢性期医療協会は2月27、28日の両日、兵庫県神戸市の神戸国際会議場で、第3回慢性期リハビリテーション学会を開催しました。テーマは、「地域に活きる ~徹底的な予防リハビリテーションに取り組む」──。開会のあいさつで木戸保秀学会長(松山リハビリテーション病院院長)は予防リハビリテーションの必要性を訴え、「慢性期、維持期、在宅などで、しっかりと栄養状態もみる。日常生活を維持していけるような環境をつくっていくことこそが、慢性期リハビリテーションの重要な役割ではないか」と呼び掛けました。
本学会は、慢性期リハビリテーション協会(会長=武久洋三・日本慢性期医療協会会長、博愛記念病院理事長)が企画し、実行委員長を博愛記念病院リハビリテーションセンター部の池村健部長が務めました。運営委員長は、木戸学会長が運営する松山リハビリテーション病院言語療法科の河島邦宏係長が務め、同院職員のほか平成医療福祉グループ、千里リハビリテーション病院、わかくさ竜間リハビリテーション病院、倉敷スイートホスピタルの職員がボランティアスタッフとして円滑な運営に大きく貢献。来場者は1,000人を超え、400に迫る演題の応募があり、医療・介護・リハビリテーションの関係係団体などから多くの来賓が集まりました。
慢性期リハビリテーション協会は2013年7月、日本慢性期医療協会によって設立されました。慢性期における継続的なリハビリテーションの在り方などを考えるため、これまで2回の慢性期リハビリテーション学会を開催。西日本で初めての開催となる今回は、「予防リハビリテーション」をテーマに多くの演題発表が行われました。「地域に活きる~慢性期リハビリテーションの方向性を探る~」と題した特別講演①では、厚生労働省医政局地域医療計画課の迫井正深課長が登壇。特別講演②では、「パラリンピックスポーツの魅力」と題して、日本パラリンピック委員会事務局長の中森邦男事務局長(日本障がい者スポーツ協会強化部長)が講演しました。
学会初日のシンポジウム1は、「生活行為向上リハビリテーションにどう取り組むか」をテーマに開催。座長を慢性期リハビリテーション協会の橋本康子副会長(千里リハビリテーション病院理事長)が務めました。シンポジウム2は、地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長(芳珠記念病院理事長)が座長を務め、地域包括ケア病棟と回復期リハ病棟のリハビリテーションを比較しながら展開。シンポジウム3は、「認知症を地域で支えるリハビリテーション」と題し、慢性期リハビリテーション協会の江澤和彦副会長(倉敷スイートホスピタル理事長)が座長として議論をリードしました。
学会2日目は2つのシンポジウムが行われました。木戸学会長が座長を務めたシンポジウム4は「慢性期リハビリテーション戦略~がんリハから見るこれからの慢性期リハビリ~」をテーマに開催。シンポジウム5では、慢性期リハに必要な食支援のための予防について、言語聴覚士ら多職種を交えて討論しました。シンポジウム5の座長は、わかくさ竜間リハビリテーション病院の歯科医師である糸田昌隆診療部長が務めました。
本ブログでは、開会式とシンポジウムの模様を2回に分けてお伝えします。
■ 患者さんのニーズに合うようなリハビリを ── 武久会長
開会に当たり、慢性期リハビリテーション協会・日本慢性期医療協会の武久会長は、これまで急性期以降のリハビリテーションに積極的に取り組んできたことを確認し、「すべての場面でリハビリテーションを誠実にやってきた。トータルで慢性期リハビリテーションを大事にする者たちがここに集まった」と盛会を祝いました。
その上で、今後のリハビリテーションの在り方に言及し、「最近は高齢者が非常に増えており、従来の平均的な療法がすべての患者さんに通用するという時代ではなくなった。OT(作業療法士)がメインに出てこなければいけない時代になった」との考えを示しました。
武久会長は、「私たちの役割は、(寝たきりの状態を)車いすの状態であった日常に早く帰してあげることである。さらに車いす以前の歩ける状態まで機能回復させることではない」と慢性期リハビリテーションの目的を説明し、「『寝たきり』よりもまだ『座りきり』のほうがいいと思っている。患者さんのニーズに合うようなリハビリをしていきたい」と意欲を示しました。
■ 日常生活を維持していける環境をつくる ── 木戸学会長
続いて木戸学会長があいさつ。冒頭、「リハビリテーションにとって何が大事なのか」と問いかけ、「根幹は社会復帰。リハビリテーションによって社会復帰できた人が再び悪化してしまったとき、速やかに手を差し伸べるのがリハビリテーションである。私たちは、徹底した予防リハビリテーションに取り組む」と強調しました。
木戸学会長は、急性期病院におけるリハビリテーションの限界に触れ、「急性期病院に運ばれたとしても虚弱になっている状態では、どんなに頑張ったとしても足りない。急性期病院の短い在院日数では、あるいは回復期病棟の限られた日数では、元気になるにはあまりにも足りなすぎる」と指摘。「私たちが慢性期、維持期、在宅、施設などで、しっかりと栄養状態もみる。嚥下障害や肺炎などの予防もしながら、日常生活を維持していけるような環境をつくっていくことこそが、この慢性期リハビリテーションの重要な役割ではないか。そういう期待を込めて、今回の学会の内容を決めた」と述べました。
■ 自立した日常生活のため多職種連携が肝要 ── 日医の笠井常任理事
本学会には、ご来賓として、日本医師会(日医)をはじめとする医療・介護・リハビリテーションに関係する団体の代表者に多数ご臨席いただきました。
最初に祝辞を述べた日医の笠井英夫常任理事は冒頭、「住み慣れた地域で、なるべく自立した日常生活を営むためには、医師だけではなく看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の方々をはじめとする多職種連携が肝要」と指摘。「そうした視点で考えても、今回の学会テーマは誠に正鵠を射たもの」と評価しました。
その上で笠井常任理事は日医の取り組みを紹介。地域包括ケアシステムと健康寿命の延伸を最重要視し、かかりつけ医機能強化研修会や、多職種連携を担う人材育成などに努めていることを伝え、「慢性期機能や回復期機能を担う本学会参加者の方々は、これからの時代、非常に重大な役割を担われる。慢性期リハビリテーション学会の成果が実り多いものとなることをご期待申し上げる」とエールを送りました。
■ 住民力をさらに高める活動として重要 ── 日本リハビリテーション病院・施設協会の栗原会長
続いて日本リハビリテーション病院・施設協会の栗原正紀会長は冒頭で、リハビリテーションの理念を説明。「リハビリテーションとは、広い意味で全人的立場に立って、尊厳や権利、資格を本来あるべき姿に復する。ゆえに、リハビリテーションに従事する私たちは高齢者に限らず、どのような障害があっても社会的存在としての尊厳を守り、互いに支え合うことを最終目標として努力する必要がある」との考えを示しました。
その上で栗原会長は、地域リハビリテーションの理念を協会の重要な柱として種々の活動を行ってきたことを説明。「医療、介護、地域生活に至るまで幅広くリハビリテーションが推進され、その重要性が認知されることが望まれる」との考えを示し、「今学会のメインテーマである『地域に活きる』、『予防リハビリテーション』はまさに地域包括ケアを支える自助、互助の住民力をさらに高める活動の一環として重要な課題」と評価しました。
栗原会長は「ぜひ本学会を通じて確固たる実績を集約し、共に我が国のリハビリテーション医療の普及、推進、ひいては地域包括ケアシステムの構築に資する役割を担っていこうではないか」と呼び掛けました。
(取材・執筆=新井裕充)
2016年2月29日