病院内の空床を院内施設に、「SNW」を提案 ── 7月16日の記者会見
日本慢性期医療協会は7月16日、定例の記者会見を開催しました。武久洋三会長は、6月の記者会見で行った「病院内の空床を院内施設に」という提案に関連して、SNW(Skilled Nursing Ward:スキルドナーシングウォード)という新たな類型を発案致しました。
空床を院内施設に転換することで空いたベッドを有効に活用でき、かつ院内の施設なので、患者に何かあれば医師も看護師もすぐに駆けつけられるという利点があります。患者像としては、療養機能強化型A、Bよりも軽い病態が想定されています。さらにSNWでは、医師ではなく「特定行為に係る看護師の研修制度」を修了した看護師を施設長にするという提案を行いました。
2025年を目標に病床削減を進める動きについては、現在入院している患者のうち、11.5万人は受入れ条件が整えば退院が可能であるということや(第292回中央社会保険医療協議会(3月4日)資料より)、新公立病院改革ガイドラインにより、公的病院の休眠病床が今後削減されること等を考慮すれば、30万床程度は自然に減っていくだろうと予測しました。
以下、会見での発言要旨をお伝えします。
■ 新しい病院内施設(SNW)の提案
[武久会長]
6月の記者会見では、院内の空床を施設に転換利用することの有用性を説いた。本日は、新しい病院内施設としてSNW(Skilled Nursing Ward)の創設を提案したい。アメリカでは、通常の老人ホームに入居するには状態が悪く、医療を必要とする人たちのためにスキルドナーシングファシリティという施設がある。この役割を、病院内の空床で担おうというのがSNWである。
SNWの施設長には、医師ではなく、特定行為の研修を終えた看護師が適切と考える。それぞれの病棟に病棟師長がいるように、SNWもベッドの空いた病棟、病床を利用した院内施設なので、無理のある話ではない。特定行為の研修を終えた看護師に、施設長をつとめて活躍してもらいたいと思う。
SNWを介護保険施設とするならリハビリは包括になるだろうが、住宅として扱うならば医療提供は外付けのサービスとなり、リハビリも訪問リハビリによる対応となるだろう。SNWを介護保険施設としてサービスは内蔵型にするか、在宅として医療提供等のサービスを外付けにするかは、担当の省庁が状況に応じて決定すればいいと思う。いずれにせよ、院内の空いたスペースをそのまま放っておくことはない。こういう施設類型が創られれば、一般病床からも、必要とあらば転換してくる医療機関は多く出てくるだろうと考える。
資料「病院・介護施設の居室面積基準と一人あたりの最低家賃」を確認してもらえば明らかだが、SNWは有料老人ホームやサービス付高齢者向け住宅よりもはるかに低い価格設定が可能である。最低家賃ということだけで考えれば、老健、特養よりも低く済んでいる。加えて、新たな建築費用は発生しない。利用者も医療提供側も、両方にとってメリットがあるといえる。
病室面積については、6.4㎡以上で、4人以下が最低限のレベルと思われる。4.3㎡に5人以上入れるというのは、急性期医療のような在院日数が短い入院ならまだしも、療養病床の病室環境としては劣悪である。実際問題として、経過措置の4.3㎡多床室を完全に除外することは難しいだろうが、そうした医療機関には引き続き環境改善を進めていただくか、在院日数の短い急性期へ方向転換してもらう必要があるだろう。
現状、医療法において療養病床の看護配置基準は4対1(実質配置数20対1)となっている。平成30年の医療法改正において5対1、6対1(実質配置数25対1、30対1)の経過措置が終了し、以降の存続も完全に不可となれば、4対1に移行するか、4対1でハードルが高いということであればSNWに転換していくやり方もあるのではないだろうか。平成28年度診療報酬改定においても、療養病床25対1の要件として医療区分2、3の患者が5割以上入院などといった何らかの制限が出てきた場合、達成できない病院にとってSNWへの転換は、良い選択肢の一つとなるのではないか。
特養では、看護師は入居者100名に対し3名配置されているが、夜間は不在である。医師は、1週間のうち2時間程度しか来ない。医師も看護師もいない中、介護職員だけに看取りを強要しているというのが現状である。看取りを行うには、医師も看護師も一定人数の配置が必要であるのに、今の特養にはそれがない。だから、介護職員が利用者の日常の世話をしているすぐそばで看取りを行わざるを得ないという、利用者にとっても職員にとっても悲惨な状況となっている。
自施設でのことだが、老健と特養に、レントゲンとエコー検査の装置を導入しようとしたところ、置いてはいけないということで設置の許可が下りなかった。今の時代に、写真もなしに医師の説明を信じる患者や家族など、まれである。聴診器だけといった設備の中で看取りをしようというのは、無理がある。
院内施設であるSNWなら、医師も看護師もすぐに駆けつける体制が整っており、利用者も家族も安心できる。資料に記載した看護師、介護士の配置基準はあくまで案である。ターミナルを行うなら介護職員配置を25対1に増員する等、入ってくる患者の状態により考え直す必要があるだろう。SNWには、おそらく、療養機能強化型A、Bより軽い病態の患者が入ってくるのではないかと考えている。
平成30年の医療法改正で医療療養病床25対1、介護療養病床が病床として認められなくなっても、医療療養病床20対1かSNWにすれば、すべて院内で解決できてしまう。よってSNWは、平成28年度診療報酬改定で経過措置をつけて新設することもできると思われるが、基本的には医療法改正と同時に行われる平成30年度改定での対応が望ましいのではないかと思われる。
これまで便宜上SNWと申し上げてきたが、どのような名称でも構わない。協会として、病床削減、施設転換のための選択肢の一つとして、具体的な形で提案を行ったまでである。この提案は、今後の検討会でも議論のたたき台としていただければと考えている。
■ 病床の自然減はどのくらいか
地域医療構想調整会議や、医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査委員会の報告等見ていると、ベッド数が15~20万床減るのではないかということで大騒ぎしているようだが、これは、東京や大阪といった大都市や過疎地も含めた全国平均の数字であり、削減数は都道府県の状況によって異なる。
これまでの記者会見でも言及してきた通り、「受入れ条件が整えば退院可能」な患者というのは、一般病床、療養病床を合わせると11.5万人にのぼる。しかもこれは医療機関の自己申告の数字であるので、現状はもっと多いだろう。この数字だけを見ても、一般病床からSNW等の施設に転換するところはかなり多くなると考える。
一般病床は、昨年12月にベッド利用率が60%に落ちている。その後多少持ち直したが、今後は60%台から上昇することは難しいだろう。つまり、現在約100万床ある一般病床のうち40万近くが空いてしまうことになる。この40万床をすべてなくすわけにもいかないが、うち15万床程度を削減することは可能だろう。
新公立病院改革ガイドラインでは、許可病床数と運用病床数に差がある場合、休眠病床を返してもらうことが可能となった。経過措置が3年あるが、公的病院1,600病院についてそれぞれ1病院から30床ずつ差し引いていけば、約5万床の削減となる。ここまでで、ざっと30万床は削減できたことになる。
さらに療養病床35万床のうち10万床程度がSNW等の施設に転換するとすれば、それだけで10万床減る。よって、一部で心配されているような、現在入院している人を押しのけてまで病床を削減するということはありえない。2025年までには、病床の削減目標は容易に達成されているだろう。
(取材・執筆=新井裕充)
2015年7月17日