これからの医療提供体制のあり方 ── 第22回日本慢性期医療学会

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シンポジウム5

■ 地域包括ケア病棟が医療提供体制の要
 
[仲井培雄氏(地域包括ケア病棟協会会長、芳珠記念病院理事長)]
 今年5月15日に地域包括ケア病棟協会が発足して約半年。その間、皆さまからいろいろ教えて頂いた。それも含めて本日はお話ししたい。まず医療介護サービスの提供体制について医療介護総合推進法案が通った。都道府県の地域医療ビジョン、市町村の地域包括ケアシステムなど、様々な施策がズラリと並んでいる。そうした背景の下、治療と生活はどうあるべきか。

仲井培雄氏(地域包括ケア病棟協会会長) 私は、「従来型医療」と「生活支援型医療」に分けて考えている。あくまでも私の解釈だが、国際生活機能分類ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health)を活用して、方針決定も含め治療を行うプロセスで必要となる生活支援が少ないのが従来型医療で、多いのが生活支援型医療ではないかと考える。生活機能低下と障害は、障害者、障害児等、疾病、外傷、先天的要因いろんなことが原因となっている。中でももちろん老年症候群が一番多いので、生活支援型医療は若者よりも高齢者が圧倒的に多い。

 医療需要の増減率を見ると、2030年に向け75歳以上の医療費が急増する一方で、74歳以下はどんどん下がる。生活支援型医療は不足、従来型医療は過剰と予想されるため、「医療需給のミスマッチ」が起こる。ただし、これはあくまでも全国平均であって、各医療圏では全部バラバラである。ここが今後の大きな課題だろう。

 そこで、医療提供体制のロードマップを私なりに作ってみた。国レベル、都道府県レベル、市町村レベルに分けて考えた。国レベルでは、消費税引き上げ、診療報酬・介護報酬の同時改定、都道府県レベルでは、地域医療構想、医療計画、介護保険事業計画、市町村レベルでは地域包括ケアシステム。そして地域連携型医療法人が成立する可能性がある。われわれ現場では、医療機能の分化や連携を進め、在宅医療・介護の充実を図る。地域医療や介護を進めるうえで、国や都道府県、市町村レベルの施策と現場の取り組みとの整合性を図らねばならない。その要が今回の地域包括ケア病棟ではないか。
 

■ 地域包括ケア病棟には4つの機能がある

 先ほど、従来型医療と生活支援型医療を示した。これを病床機能報告制度の病床機能分類に当てはめてみる。「高度急性期」「急性期」の機能は集中治療センターから一般病床7対1で、ここを担うのは従来型医療であろう。一方、生活支援型医療は急性期の一部と回復期、慢性期が担う。すなわち、地域包括ケア病棟や回復期リハ病棟、療養病床などが中心的に担うのではないか。

 地域包括ケア病棟は様々な条件をクリアしなければならないが、多くの病院では「地域包括ケア病棟をやろう」という強い意気込みで進めていることと思う。地域包括ケア病棟の機能として、①ポストアキュート、②サブアキュート、③在宅生活復帰支援──の3つが挙げられているが、私はもう1つ④その他機能があると考えている。

 地域包括ケア病棟の4つめの機能は、ICFで必要な支援が少ない患者を対象としている。短期滞在手術等基本料3や、慢性期の定期的な抗悪性腫瘍剤の治療のほか、糖尿病教育入院の患者さん等を診ている。
 

■ 生活回復リハビリテーションが非常に重要

 現在ある地域包括ケア病棟を持つ病院のタイプについて、私なりに仮説を立ててみた。まずケアミックス型がある。これはフルラインの病院。それからポストアキュート連携型がある。主に急性期病院での治療を終えた患者さんを受け入れる。そして規模の小さい一般病床や療養病床を中心にした地域密着型がある。都会であれ過疎地であれ、とにかく地域に密着して地域包括ケア病棟や回復期病棟、療養病床を持っている。

 当院の現状はどうか。当法人グループは、予防・医療・介護複合体となっている。医療圏は南加賀と金沢を中心とした石川中央医療圏の狭間にあり、両医療圏にはERに近い拠点病院、周辺には個性的な中小病院がある。当院は9月1日以降に病床構成を変更。亜急性期を廃止して、7:1DPCを4割減らして、HCU10床と地域包括ケア病棟を80床とした。

 9月10月時点で、地域包括ケア病棟の入院患者は、全入院患者の3割で229人。内訳を見ると、サブアキュートは24%にとどまり、その75%が緊急入院、うち2割が救急車による搬送であった。一方、ポストアキュートは34%で、うち10%が紹介である。最も多かったのは、「その他機能」の42%であった。

 地域包括ケア病棟ではリハビリテーションが重要である。疾患別リハビリテーションの要件は「1日2単位以上」だが、当院では4単位前後を実施している。脳血管疾患、運動器、呼吸器、そしてがん患者のリハビリもやっている。生活回復リハビリテーションが非常に重要だと思っている。時間や単位数、場所、個別や集団などに縛られない包括的な生活回復リハビリの提供が初めて可能になったのが地域包括ケア病棟である。

 地域包括ケア病棟での包括的な個別の生活回復リハビリ(自称POCリハビリ)は、10月になって前月の約1.5倍増えている。1日当たりの平均人数は22.6人。1件当たり平均12.9分となっている。介護者の方も一緒に訓練し、早く在宅に戻れた方や家族の支援が進んだケースもある。このように、新たなリハビリテーションの始まりが地域包括ケア病棟の中で生まれていく。

 地域包括ケアシステムの数は今後もさらに増え続け「最大」となる。そしてポストアキュートやサブアキュート、在宅・生活復帰支援、その他機能など多彩な機能を持つ懐の深い「最強」の病棟となる。地域包括ケア病棟を中心に、地域のまちづくりが進む。地域医療・介護において地域包括ケア病棟は要となる。
 
[座長(安藤高朗・日慢協副会長)]
 ありがとうございました。仲井先生のすごいところは、自院のデータをきちんと取って分析し、病棟の構成に利用していること。なかなか真似ができないと思う。仲井先生は地域包括ケア病棟協会の会長としても非常に頑張っておられるので、どうか皆さん、ご入会のほどをよろしくお願いしたい。
 
 最後の講演は、「介護保険の産みの親」と言われる厚生労働省老健局の三浦公嗣局長。テーマは「これからの医療提供体制のあり方 ~地域包括ケアシステムを機能させるために~」でお話しいただく。
 

■ 「福岡宣言」から15年、大きな進歩
 
[三浦公嗣氏(厚生労働省老健局長)]
 思い起こせば、日本慢性期医療協会は歴史的に、介護療養型医療施設連絡協議会から、介護療養型医療施設連絡協議会、日本療養病床協会へと発展してきた。いま、この会場で先生方の発表を拝聴しながら、昔の思い出に浸っていた。

三浦公嗣氏(厚生労働省老健局長) 「抑制廃止福岡宣言」があった。「縛らない医療をやろう」という取り組みがあった。介護保険の創設時、縛らない医療だけではなく縛らない介護をやろうと、身体拘束禁止規定をサービスの基本としようという議論が局内であった。私は当時、正直なところ相当難しいのではないかと思った。高齢者、中でも認知症の高齢者がたくさんいる中で、あるいは意識障害の方もいる中で、縛らない介護というものが本当にできるか、実現は難しいのではないかと思っていた人間の一人ではないかと思う。

 しかしその後、介護保険の施行と同時に拘束禁止の規定が運用され、そして介護療養型医療施設連絡協議会でも、これからの医療はそういうやり方をしないということを高らかに宣言した。振り返ってみると、あれから15年ほど経っているが、今さらながらに自分の不明を恥じるばかりである。現場の関係者が必死の思いで高齢者の生活や命を支えてきた。結果的に見てみると拘束をしないというのが我が国においても常識になった。先般も新聞等で一部報道されたような事件があったように、縛って拘束していること自体が問題視される状況が生じてきたのは、この間の大きな進歩だったのではないか。
 

■ ケアで果たす医療の役割が非常に大きい

 先日、認知症の国際会議が東京で開かれた。認知症の患者さんが開会式で発言したほか、世界中から研究者や実際にケアを行っている人が参集した。安倍総理や塩崎恭久厚生労働大臣も会場に来られた。安倍総理からは、平成24年から動いているオレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)を見直し、政府一丸となって対応するようにとの指示も出て、オレンジプランの見直しが動くことになった。

 その会場で、外国の方からお尋ねがあったらしい。「今回は『新しいケアと予防』がテーマであるにも関わらず、なぜ日本はこんなに医療の話をするのか」と。ケアの話ではなく、例えば介護をする中で認知症の様々なBPSDなどの症状が出ないようにする話ではなく、そもそも健康をつくるとか、日常生活の改善を通じて認知症のリスクファクターを減らしていこうという議論が行われたことがテーマと一致しないのではないかという。

 考え方は両方あると思う。つまり認知症の予防そのものに果たす医療の役割というものが、日本は非常に大きい。これが日本の大きな特徴だと思った。多くの国は認知症の対応ということになると、主に介護の純粋なケアの中で対応しようとしている中、日本は医療も一体になっている。これはやはり日本の1つの特徴であろう。

 日本の平均在院日数が長かった時代は、一時的にも医療保険の中で高齢者の医療費の負担がゼロになった時期があったということもあって、介護を医療が一生懸命支えてきた過去の歴史もある。我が国においては、医療が介護において欠かせない要素として認識されていることは間違いない。

 今後、その両者の位置付けや役割をどうするのかという議論が出てくるのではないか。それはまさに地域包括ケアの在り方そのものであり、これも先生方から議論があった通り、これからの医療の中で特に高齢者医療、慢性期医療ということになれば「治す医療」ということだけではなく、「支える医療」の重要性が指摘されたということではないかと思う。
 

■ 新しい日本の医療が構築される

 認知症の国際会議で指摘されたことがもう1つある。本日の会場もそれに近い状態なのだが、男性が多いということ。国際的に認知症のケアというのは従来、女性の関心が非常に高く、認知症のケアは女性の問題であると言われることもあったようだ。

 日本の介護保険制度では、介護サービスが給付の対象となっている。つまり介護サービスが事業として成り立っている。従って、家庭の中での女性の役割ということだけではなく経済活動としての一面もあるため、男性の高齢者介護、認知症介護に対する役割が他の国に比べて大きいのではないか。日本の介護は介護保険制度に支えられている。40歳以上のすべての方々からの保険料で介護サービスが成り立っている。その中で新しい産業も生まれている。こうしたことも関係しているのではないか。

 そんなことを思いながら、今日この会場に来た。この協会が介護療養型医療施設連絡協議会の名称で活動していたときには、まさに介護療養型医療施設の役割は何か、そこでのケアの位置付けをどうするかについて議論された。しかし、本日の議論はもっと大局的だと思う。急性期、サブアキュート、あるいは亜急性期と言うのか、それから回復期、生活期、慢性期、こういう形でまさに一気通貫に急性期から在宅までを一堂に会して議論する場が成立している。これは今までにない画期的な視点である。

 これまでは、慢性期の医療施設に回ってきた高齢者をどう支えるかという議論をしてきたことが多かったと思う。しかし、本日のように急性期医療の在り方にまで議論が及ぶ。これがまさに地域包括ケアの在り方であり、慢性期が変わることにより急性期が変わってくる。そしてその中で新しい日本の医療が構築される。こういうことではないか。[→ 続きはこちら]
 

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