慢性期医療の質をどう担保する?

会員・現場の声

 2. 「認定審査の実際~サーベイヤーの立場から~」 鈴木龍太氏(神奈川県・鶴巻温泉病院院長)
 
 鶴巻温泉病院(神奈川県秦野市)院長の鈴木氏は、協会認定審査のサーベイヤーであるとともに、日本医療機能評価機構の病院機能評価のサーベイヤーも務めている。

 同氏はまず、超高齢社会の到来、急性期病院の平均在院日数短縮などの背景から、慢性期病院の負担が増加してより亜急性期病院化すること、良質な慢性期医療を提供するために、CIによる客観的評価や第三者評価・医療の標準化などで「医療の質」を測ることが必要であることを強調した。また「従来までに急性期のCIは存在したが、慢性期医療にCIを導入したのは日本で初めて」である点にも触れた。

 次に、10領域62項目の協会CIの内容と特徴について解説。62項目をストラクチャー指標(S指標)、プロセス指標(P指標)、アウトカム指標(O指標)に分類して提示した。

 特に62項目中S指標が7項目、P指標が35項目、O指標が20項目であり、S指標やP指標が中心でO指標がほとんどない日本医療機能評価機構の評価との違いを指摘し、計算式により点数化されることで、受審病院にとってわかりやすく改善しやすい指標になっていると述べた。

 また、実際の認定審査のスケジュール(半日)、審査の内容、聞き取り審査の準備(職種・用意すべき書類など)、採点、基準値の根拠(会員病院のデータを基本)、5年後の更新基準等についても詳説した。

3. 「慢性期医療認定病院認定審査を受審して」 富家隆樹氏(埼玉県・富家病院理事長)

 富家氏が理事長を務める富家病院(埼玉県ふじみ野市、202床)は、慢性期医療認定病院認定審査において最高得点(124点満点中104点)を獲得した病院である。

 富家氏はまず自院の概要について説明。同院で行われている「先進の重度慢性期医療」の数々を紹介した。気管切開・人工呼吸器患者をはじめとした、全国平均と比較して突出した医療区分3・2患者の比率(91.1%)、人工透析患者の比率(50.6%)が示され、それを支える最新の自動喀痰吸引器やFTXレスピレーター・サチュレーションマルチモニターの導入とその効果が発表された。

 ソフトウエア面では、先進のリハ体制(回復期リハ28床、セラピスト56名)と効果、看護スタッフをサポートするための「ナースサポートチーム」、MSW中心のチーム医療などが提示された。

 さらに、これだけの重症患者を診療している中で、「抑制患者ゼロ」を達成していること、充実した教育研修制度、シームレスな地域連携、「ナラティブホスピタル」など、まさに最高得点の病院にふさわしい、質の高い診療の内容とユニークな種々の取り組みが発表された。

 4. 「慢性期医療の質をどう担保するか」 高木安雄氏(慶應義塾大学大学院教授)

 最後に研究者の立場から、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科の高木安雄教授の講演が行われた。

 高木氏は、まず「医療の質がなぜ問題になるのか」についての背景を説明、それは医療の「量」の確保から「質」が問われる時代への変化、医療に対する安全・安心への関心の高まり、医療機能の分化・選択・集中と連携における「質」の確認・保証の必要性、そして最も重要なものは、医療財源の確保のための「質」の確保と「効率性」に関する社会的(国民的)合意形成の必要性であると指摘した。

 また、10領域における協会の認定審査のデータを提示し(合計124点満点)、最高点の病院(104点)は薬剤の項目(12点満点)においては7点で、最低点の病院(69点)は9点という逆転現象が起きていることを示した。また、医療安全・院内感染防止対策や終末期医療の領域のように、容易に満点が取れる指標の問題点を指摘した。

 さらに、20:1病棟は25:1病棟よりも身体抑制、留置カテーテル、尿路感染症、褥瘡のいずれにおいても比率が高いという中医協のQIについてのデータを引用し、解釈による差の存在(人員が多いのに臨床指標の値が悪いのか、重症が多いから人員が多いのか)を強調した。

 また、企業評価では誰から見た「優れた会社か」が問われ、総合、投資家、消費者、従業員、社会によるランキングの1位は異なっており、それぞれ指標別での評価が分散することを示した。

 医療の質の評価は臨床指標として導入されており、現場の質の向上に貢献するが、重み付けや評価尺度などの課題を内包し、医療現場においては、各職種が共通の目線、共通の言語のもとに、共通のケアを提供する体制を確立することが重要な課題であると述べた。

 最後に、質の評価は患者の選択・同意・安心と不可分であり、医療の需要・供給者の拮抗とコミュニケーションが必要であると結んだ。
 

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