社会保障審議会・医療保険部会(11月28日)のご報告

協会の活動等 審議会

11月28日の医療保険部会

 

(4) 健康保険と労災保険の適用関係の整理について
 

 仕事中の負傷に対して労災保険も健康保険も適用されないケースを救済するため厚労省は、「健康保険における業務上・外の区分を廃止し、労災保険の給付が受けられない場合には、健康保険の対象とする」ことを提案しました。意見交換では、労働者災害補償保険法(労災法)と健康保険法(健保法)の適用関係を見直して救済することは合意しましたが、変更の方法(法改正の要否)などで意見が分かれました(資料は厚労省ホームページ)。

 労災保険と健康保険の不適用をめぐっては、シルバー人材センターの会員が仕事中に負傷して治療した場合に、労災保険も健康保険も適用されない問題が起きたことを契機に、西村智奈美・厚生労働副大臣を責任者とする「健康保険と労災保険の適用関係の整理プロジェクトチーム」(PT)が9月28日に設置され、10月29日に一定の結論を取りまとめました。

 それによると、「シルバー人材センターの問題のみならず、働き方が多様化する中、国民に広く医療を保障する」と指摘。雇用関係がない請負契約の人たちが労災法上の「労働者」と認められず、仕事中のけがのため健保法の「業務外」に該当しないような「制度の谷間」に落ちてしまうケースを救済する方針を示しました。その対応策は、「健康保険における業務上・外の区分を廃止し、請負の業務(シルバー人材センターの会員等)やインターンシップなど、労災保険の給付が受けられない場合には、健康保険の対象とする」としています。

 その上で、「労使等関係者の負担に関わる変更であるため、変更の方法(法改正の要否)、遡及適用の要否、役員の業務上の負傷に対する給付の取扱いを含め、社会保障審議会医療保険部会で審議を行い、結論を得る」としています。これを受け、28日の会合で法改正の必要性などを議論しました。
 
 労災法7条は、「この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする」とした上で、「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付」としています。一方、健保法1条は、「労働者の業務外の事由による疾病、負傷若しくは死亡又は出産及びその被扶養者の疾病、負傷、死亡又は出産に関して保険給付を行い」としています。さらに同55条は、「被保険者に係る療養の給付(中略)は、(中略)労働者災害補償保険法(中略)の規定によりこれらに相当する給付を受けることができる場合には、行わない」という併給調整の規定を置いています。
 

■ 労災法の適用範囲を広げる?
 
 意見交換で小林委員(協会けんぽ理事長)は、「労災保険の対象となる『労働者』が健保法よりも狭い。なぜ労災が適用されないのか、その検討が必要ではないか」と述べ、労災法の適用を拡大して救済する必要性を指摘しました。白川委員(健保連専務理事)も同様に、「業務中の負傷は労災とするのが基本中の基本。健康保険の適用範囲をできる限り少なくすべきだ」と主張しました。

 これに対し、菅家功委員(日本労働組合総連合会副事務局長)は、「PTの結論には異議がある。(業務上・外の)区分廃止はおかしい」と批判。その理由として、「もともと健保法には区分がなかったが労災法ができたので、すみ分けた」ことを挙げ、「区分を変える必要は全くない。労災保険の適用にならないのに、健保適用になっていないことが問題だ。運用の実態に問題がある」と述べました。

 一方、岩村部会長代理(東大大学院教授)は、労災法で定める「労働者」の概念が労基法上の「労働者」と同義であるとした上で、「労基法の『労働者』でなければ対象にならないという意味で労災法と労基法が連結しているため、多くの場合に労働者性が認められない」として、労災法の適用範囲が狭いことを指摘しました。
 

■ 変更に伴う問題点は?
 
 厚労省案では、「労働者の業務災害と疑われる事例で健康保険の給付が申請された場合、まずは労災保険の請求を促し、健康保険の給付を留保することができる」としています。そのため鈴木委員(日医常任理事)は、「医療機関に落ち度がないのに、診療費の支払いが滞ることがあれば問題だ」として、労災保険の優先適用によって支障が生じないように配慮することを求めました。岩村部会長代理も、「労災認定されるまでの間のタイムラグをどうするかという問題は残る。労災をまず適用すると医療機関も患者も困る」と指摘しました。

 厚労省の担当者は、「まず労災かどうかを判断して、労災が認定されなければ健康保険の適用にするが、いたずらに支払いを引き延ばすことがないように検討したい」と応じました。

 一方、小林委員(協会けんぽ理事長)は、健康保険の適用範囲を拡大することに伴う問題点として「労災隠しを助長することになる」と指摘、医療機関から請求を受けた保険者が意見を述べられるような仕組みを求めました。鈴木委員も、「労災隠し」への対策を講じるよう要望。「医師が『労災ではないか』ときいても、『健康保険でお願いしたい』と言われてしまうと、無理に労災申請を勧められないので、医療機関から『労災の疑い』というコメントを付けて保険者が確認すれば『労災隠し』が減少する。ぜひ検討をお願いしたい」と求めました。
 

■ 法改正は必要?
 
 小林委員は、「業務上・外の区分をなくすのは健保法の目的の根幹に関わるので、解釈運用の変更ではなく、明確に法律を見直して実施すべき」と述べ、厚労省案に賛成しました。白川委員(健保連専務理事)は、法改正の要否について明言せず、「労災保険優先の原則が貫かれればいい」と述べました。

 これに対し岩村部会長代理は、「健保法の『業務外』の概念を整理して対応できるのではないか。健保法の『業務外』について、『労災保険における業務上の認定を受けなかった者』と定義すれば、法改正は必要ない」と指摘しました。
 
 こうした意見を受け、厚労省の担当者は「健保法の『業務』が広いので、『業務災害』という言葉を使って明確にして、労災法との区分をなくすほうが混乱は少ない」と述べ、健保法を改正して対応する意向を示しました。これに対し委員から発言はなく、遠藤部会長も「本件はこのぐらいにしたい」と述べるにとどまりました。


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