「メディカル ケアプランナー」を提案 ── 4月24日の定例会見で橋本会長

会長メッセージ 協会の活動等

橋本康子会長_20250424会見

 日本慢性期医療協会は4月24日の定例記者会見で、「メディカル ケアプランナーの必要性 〜医療介護の一体化ケアプランニング〜」と題して見解を示した。橋本康子会長は、寝たきりゼロの実現に向け、医療と介護が一体となったケアプランニングの重要性を説明し、医療知識を有する「メディカルケアマネジャー」に加えて、退院支援等に関わる院内スタッフがチームとして取り組む「メディカルケアプランナー」の導入が必要であると述べた。

 会見で橋本会長は、寝たきりゼロの実現に向けた方策として「作らず・改善させ・悪化させない」の三本柱を提示し、重度化防止の意義を改めて強調。要介護2・3の利用者のうち、1年以内に約17〜18%が要介護4または5へと悪化している現状を示し、「リハビリテーション等により、その半数の重度化を防ぐことで月額約100億円の介護費用削減が可能」との認識を示した。

 その上で、橋本会長は「こうした成果を実現するためには、予後予測や改善可能性の評価が不可欠であり、現状のケアマネジャーによるケアプラン策定では十分に対応できていない」と指摘。令和6年度の介護報酬改定で新設されたリハビリテーション・個別機能訓練、栄養、口腔の一体的な取り組みを評価する加算の算定率が1割程度と低い状況を懸念し、「算定率の向上により、サービス提供の質向上を目指す必要がある」と強調した。

 橋本会長はまた、「ケアマネジャーの業務負担の増大も課題。利用者数の増加とケアマネジャーの減少により、1人当たりの担当者数が増加し、離職率も高まっている」と現状を伝え、当会が進めている「メディカルケアマネジャー」の育成に加え、さらに医療機関内で医療職が担う「メディカルケアプランナー」の導入を提案。「医師、看護師、療法士、管理栄養士、社会福祉士らがチームとなり、医療的視点からケアプランを策定し、ケアマネジャーと連携して進める体制が必要」と述べた。

 橋本会長はさらに、ケアマネジャーが処遇改善加算の対象外であることを問題視。ケアマネジャーを同加算の対象にする必要性を指摘したほか、メディカルケアプランナーの取り組みに対する加算の新設を提案。医療と介護が一体となったケアプランニング体制の確立に向け、医療職とケアマネジャーの情報共有や連携強化を図る必要性を訴えて、会見を締めくくった。

 会見要旨は以下のとおり。なお、資料は日本慢性期医療協会のホームページをご覧いただきたい。

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本日の内容について

[矢野諭副会長]
 定刻となったので、日本慢性期医療協会4月の定例記者会見を開始する。橋本会長、よろしくお願い申し上げる。

[橋本康子会長]
 本日の内容は「メディカルケアプランナーの必要性」について。医療介護の一体化ケアプランニングに関して当会の考えを示す。
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 まず、「医療介護の一体化ケアプランニング」の目的について説明する。ケアプランは、生活支援と機能改善の双方を目的として作成される。具体的には、ケアマネジャーが策定するケアプランにおいて、生活支援と機能改善の両側面を盛り込む必要がある。

 次に、プロセスとしては、医療機関によるケアプランニング機能を付加することを提案する。

 そして、アウトカムとしては、利用者の機能改善を図るとともに、事業所における加算算定率の向上を目指す。現在、事業所の加算算定率は低水準にとどまっており、その改善が求められている。

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寝たきりゼロへの重度化防止

 寝たきりゼロを実現するための方策は、「作らず・改善させ・悪化させない」の三本柱である。特に、悪化を防ぐ重度化防止のみでも、自立支援を促進し、介護費用の低減が可能となる。
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 重度化防止による介護費用改善効果を示した。その中で、特に赤い点線部分。悪化を防ぐ重度化防止だけでも、自立支援を促進し、介護費用を低減できることが示されている。注目すべきは、要介護2・3である。棒グラフの赤い網掛け部分だが、要介護2が18.5%、要介護3が17.4%であり、それぞれ1年間で要介護4あるいは5へと重度化している。

 要介護4・5は、いわゆる寝たきりの状態を意味する。要介護2・3の方々に対し、リハビリテーションなどを通じて積極的に介入し、そのうち50%でも重度化を防ぐことができれば、寝たきりの状態を回避することが可能となる。こうした改善により、月額で約100億円の介護費用削減が見込まれている。すなわち、介護費用の削減が可能となるのみならず、利用者自身が寝たきりを回避し、QOLの向上が期待できる。

 このような成果を実現するためには、どのような方策が必要か。その答えは、適切なケアマネジメントの実施にある。寝たきりを防止するためには、質の高いケアマネジメントが不可欠である。

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ケアマネジメントの課題

 ケアマネジメントのPDCAには、各段階で課題が存在する。その出発点は機能改善を目的としたケアプランの策定である。そのためには、改善可能性の見極めと、提供されるサービスに関する十分な知識が不可欠である。
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 まず、Planの段階においては、ケアマネジャーが利用者およびその家族の状況やニーズを把握し、それに基づいてケアプランを作成することが基本である。現状では、この利用者や家族の意向を反映したプログラムの立案がケアプラン作成の中心となっている。

 しかし、本来はゴールの設定、すなわち予後予測が必要不可欠である。例えば、「現在は軟食しか摂取できないが、リハビリテーションを行うことで次第に通常食の摂取が可能になるのではないか」といった見通しや、「現在は歩行困難でトイレへの介助が必要であるが、リハビリを重ねることで自立歩行が可能となり、見守りのみでトイレまで歩行できるようになるのではないか」といった予測が挙げられる。

 このようなリハビリテーションに関する予後予測のほか、疾患に関する予後予測も重要である。例えば、心疾患や腎疾患を有する場合、その症状がいつ頃どのように進行するか、あるいは維持が可能か、または、特定の対応を行うことで改善が見込めるかといった評価が必要となる。このような予後予測、すなわち改善可能性の評価は、ケアプランを策定する上で極めて重要な要素である。しかし現状では、その水準にまで達していないことが課題である。

 プランを策定した後は、効果的なサービスを提供することが求められる。令和6年度の介護報酬改定においては、リハビリテーション・個別機能訓練、栄養、口腔の一体的取組が評価対象となる加算が新設された。この加算は、効果的なサービスが提供されているかどうかを示す指標である一体的取組を評価する。しかし、同加算の算定率は1割程度にとどまり、最も高い算定割合である介護老人保健施設においても16%に過ぎない。右側の棒グラフが示す通り、新設加算の算定率は1割から2割程度と低迷している。

 一体的取組に係る加算が算定されていない理由としては、「管理栄養士や口腔の専門職の確保が困難であること」や、「ケアプランが十分に作成されていないこと」など、さまざまな要因が挙げられる。このように加算が取得できていない現状は、サービス提供が十分に行われていない可能性を示唆している。

 このほか、「Check」や「Action」の段階でも課題がある。また、サービスの質を向上させることは要介護度の軽減につながり、結果として報酬が減少するという負の側面が存在する。そのため、十分なインセンティブが働かず、改善が進みにくいという課題もある。ただ、今回は特に「Plan」の段階に焦点を当てて考察したい。特に重要なのは、「Plan」における予後予測の立案、ならびに医療やリハビリの視点を取り入れたケアプランの策定である。

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ケアマネジャーの業務課題

 ケアプランは、本来ケアマネジャーが作成するものである。しかしながら、現状では業務負荷が高く、その作成に十分に注力できない状況が続いている。
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 現在、ケアマネジャーはどのような業務を担い、いかなる課題を抱えているか。厚生労働省の資料によれば、ケアマネジャーの業務状況に関して「業務繁忙のため、主任介護支援専門員に求められる役割に手が回らない」とする回答が59.9%と最も多く、次いで「主任介護支援専門員が担う役割が大きく、燃え尽きてしまう不安がある」が39.9%となっている。また、ケアマネジャーによる対応内容については、「モニタリングや定期的な安否確認を除く緊急訪問」が最も多く、次いで「家族介護者本人に対する相談対応」や「サービス調整等に関わらない電話対応、時間外相談」などが挙げられている。

 このような過重な業務状況が離職の一因となっており、ケアマネジャーが継続的に職務を遂行することが困難な状況に陥っていることが問題である。このため、ケアマネジャーが安定して業務に従事できる環境整備が求められている。

 ケアマネジャーと要介護者数の推移について、平成30年を基準値100とした場合、令和4年には要介護受給者数は111に増加している一方、ケアマネジャーの数は90に減少している。その結果、ケアマネジャー1人当たりの要介護者数は115と増加しており、業務負担はますます増大している。診療報酬や介護報酬改定において各種加算が設けられる一方で、ケアマネジャーの業務量は増加の一途をたどっている。ケアマネジメントの質の確保およびケアマネジャーの負担軽減の両面において、大きな課題となっている。

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メディカルケアマネジャー

 これまで当会では、医療知識を備えた「メディカルケアマネジャー」の必要性を提言し、育成を進めてきた。
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 ケアマネジャーが医療的知識を有することで、より的確なケアプランの作成が可能となり、関係機関との連絡調整や利用者からの相談対応にも効果的に対応できる。このような観点から、ケアマネジャーに対し医療的知識の習得を促し、「メディカルケアマネジャー」として育成する取り組みは今後も継続していく。

 しかし、ケアマネジャーは多忙であり、現状ではメディカルケアマネジャーとしての役割を十分に果たすことが困難な状況にある。そのため、ケアマネジャーのみでは支えきれない段階に来ていると認識している。そこで今回、新たに「メディカルケアプランナー」の導入を提案する。これは、病院内の医療職が担う役割である。

 具体的には、例えばA氏という患者がいた場合、その主治医である医師、担当看護師、担当療法士、管理栄養士、さらに病棟に所属する社会福祉士などがチームを組み、医療的観点からA氏のケアプランを作成する。この医療職によるケアプランを、ケアマネジャーと連携しながら協議・調整し、A氏にとって最適なケアプランとして構築していく。こうした「メディカルケアプランナー」という体制を多くの医療機関で導入するよう提案したい。

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ケアプランニングの役割分担

 ケアサービスの提供においては、生活支援と機能改善の両面を考慮したプランニングが求められる。そのためには、医療と介護の両視点を一体化した最適な体制の構築が必要である。ケアプランニングにおける役割分担について現状はどうなっているか。
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 病院における退院支援として実施される退院時カンファレンスでは、入院患者について、医療担当者や患者家族とともに、詳細な情報交換や質疑応答が行われる。当院でも同様に、ケアマネジャーが病院に赴き、カンファレンスに参加し、その後も1~2時間をかけて情報収集を行っている。しかし、これだけの時間を費やしてもなお、十分とはいえない場合がある。

 先述したように、ケアマネジャーは多忙であり、十分なケアプランを立案することが困難な状況にある。また、医療的知識を持たないケアマネジャーが、血糖値やインスリン量、心不全の重症度、具体的な症状や注意点、リハビリテーションの内容や効果などを詳細に確認するのは容易ではない。

 一方、入院中の患者の状態を把握している医療機関内の医療職は、こうした医療情報に精通している。これら医療職が、メディカルケアマネジャーやケアマネジャーに対し、医療的な提案や資料の提供を行うことで、より円滑な情報共有が可能となる。

 すなわち、ケアマネジャーがケアプランを策定する際には、メディカルケアプランナーが医療的な視点から提案や資料提供を行い、協議しながら進めていく。このような体制を整えることで、メディカルケアマネジャーやケアマネジャーの業務負担が軽減され、利用者にとってもより良い支援が提供できる。医療機関においても、退院後の患者に対するケア内容や注意点を整理することができるため、全体としての質の向上が期待できる。

 現状、ケアマネジャーが主治医に直接相談することはハードルが高く、看護師からの情報収集も難しい場面が多い。加えて、生活支援の計画立案や限度基準額の配分といった利用者の経済面を考慮した調整など、多岐にわたる業務を担っている。このため、医療機関内にメディカルケアプランナーの役割を担う部署を設置することも有効な手段である。医療情報の提供とその調整は院内の医療職が担い、ケアマネジャーが全体を調整することで、相互に補完し合う体制が望ましい。

 このように、医療と介護の両視点を一体化した最適な体制を整えることが重要であると考えるが、ケアマネジャーの業務効率化を図るとともに、処遇改善を進める必要性は依然として大きな課題として残っている。患者のケアプランを立案・調整し、実施内容を確認・評価するという役割を担っており、まさに司令塔としての役割を果たしている。その司令塔であるケアマネジャーが処遇改善加算の対象外となっている現状は、改善が必要である。ケアマネジャーにも処遇改善加算を適用し、適切な待遇を確保すべきである。

 以上を踏まえ、今後のケアプランニングにおける役割分担を考えると、院内においては、メディカルケアプランナーを配置する体制の整備が求められる。これは、多職種によるチーム体制でも、地域連携室を中心とする体制でも構わないが、できれば病棟の看護師や管理栄養士、リハビリスタッフらによるチームで取り組んだほうが患者の状況を把握できるため、適切であると考える。その上で、地域連携室などを窓口とする体制も有効であろう。このようなメディカルケアプランナーの体制を構築し、その活動に対して加算を新設することができれば、よりスムーズな運用が可能になると考えている。

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ケアプランニングをデザインする

 まとめである。これまで説明したように、寝たきりゼロを実現するためのケアマネジメントを機能させるには、医療と介護を一体化した最適なケアプランの提案が不可欠である。そのためには、メディカルケアプランナーの存在が重要である。
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 こうした観点から、最適なケアを届けるために、目標、プロセス、アウトカムの各要素に基づいて取り組みを整理した。これまで、ケアマネジャーに医療的知識を付加するメディカルケアマネジャーの育成に取り組んできたが、今後も引き続きこの取り組みを継続していく。

 さらに、それに加えて医療機関側でもケアマネジャーの業務負担を軽減するため、積極的な情報提供や連携を進める。この取り組みにより、ケアマネジメントがより円滑に進み、結果として事業所の加算算定率の向上も期待できると考えている。私からの説明は以上である。
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