年頭所感2025 日本慢性期医療協会 会長 橋本康子
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新年の幕開けにあたりご挨拶を申し上げます。
昨年は、トリプル改定の年でした。医療介護界とっては改定だけではなく、日本経済や少子化に伴う就労人口の減少など社会問題が、大きくマイナスの影響としてのしかかってきています。まさに試練の時代と言えます。
その中でも賢く生き残っていくために私たちが考える様々な提言が皆様の病院施設運営に少しでも役立てていただければ幸いです。日本慢性期医療協会は、以前は「日本療養病床協会」の名称でした。そのため昨年で廃止された介護療養病床や病床変更により、療養病床がなくなったため協会員から離れようと考えることもあるかと思います。
しかし、今までも申し上げてきたように日本慢性期医療協会は、急性期以降のすべての病棟、施設、在宅にわたる医療を考えていく協会です。療養病床に限っているものではありません。改定毎に様々な名称が出来たり、廃止されたりしますが、私たちは、患者中心にその流れ、変化に合わせてその時に必要な医療介護を行っています。ぜひ、協会内で様々なタイプの病院運営を紹介しあって勉強したいと思います。
確かに報酬改定は経営に大きな影響を与えますが、上手に使ってピンチをチャンスに変えられるように柔軟に工夫することが大切だと思います。会員の皆様がそのアイデアや方法を見つけられる提言や、加算が算定できるセミナー、講習会の開催、視察、病院紹介など、また話し合いの場を作りたいと考えています。
今期から、都道府県慢性期医療協会会長会議と日本慢性期医療協会青年部会を発足しました。それぞれの会長、副会長も決まり今後の活躍を期待しております。
昨年の記者会見での提言を月を追って紹介させていただきます。
2024年1月 「2024年報酬改定をどう活かすか?」
診療報酬、介護報酬ともプラス改定と出ていますが、実質は医療従事者、介護職員などへの処遇改善が主軸になっています。物価高、水道光熱費や人件費の高騰には到底追いついていません。医療介護界は経営的に非常に厳しい状態であり持続可能な運営が不安視されています。しかし、私たちの果たすべき責任は何かを真摯に考えると、治療、リハビリ、栄養管理により質の高い医療を提供し、寝たきりを減らし、DX化・無駄排除による業務コスト低減を行うことでしょう。今、給食費のさらなるアップ(患者負担ではあるが)やDX化に対する補助金も検討されています。
2月 「報酬改定の振り返り」
日慢協のこれまでの提言が今回の改定項目に反映されているかどうかを振り返りました。寝たきりを作らないために私たちが提言してきた急性期でのリハ・ケア・栄養体制の充実や給食費の値上げ、介護福祉士、歯科衛生士などの専門職種への評価がとりあげられました。また、高齢者救急患者などにリハ・栄養・在宅復帰支援などの機能を提供する地域包括医療病棟が新設されました。
3月 「回リハ病棟 冬の時代にどう立ち向かうのか」
今回の改定で経営的に大きなダメージを受けたのが、回リハ1の病棟ではないでしょうか。日慢協会員病院の38%が回リハ病棟を運営しています。そして質の高い入院料1・2取得病棟が8割を占め、手厚い医師配置をして体制強化加算を算定していました。その加算が廃止されました。また、運動期リハも1日6単位に制限されました。
成功モデルであった回復期リハに質低下の懸念が生じる改定であったと感じます。今後の対応としては加算による質と報酬向上を図ることと退院時支援にかじを取り、リハビリ医療全体をあり方を見直す時期だと思います。
4月 「療養病床での経口摂取をどう進めるか」
今回の改定で、問題視されていた中心静脈栄養について疾患が限定され、30日の線引きがされました。私たちはもとより中心静脈栄養を終了させ経腸栄養(胃瘻・経管栄養)へ移行し嚥下リハビリを実施してきました。経口摂取を成功させるための胃瘻造設を行っています。その事実を提示し、3食経口摂取に移行するには、平均60日を要することもデーターで提示しました。
6月 「慢性期医療をデザインする」
2期目の日慢協会長を拝命したことを機に「慢性期医療をデザインする」をテーマに掲げました。
テーマに沿って目的、プロセス、アウトカムの視点で慢性期医療の果たすべき役割をデザイン(改革提言)すると発表し、第49回通常総会記念講演では「慢性期治療病棟」について話をさせていただきました。
「療養病棟」を「慢性期治療病棟」に名称変更する提言を行いました。目的は、病態を改善し在宅復帰を促す、プロセスは、7病態(肺炎、尿路感染症、その他の感染症、脱水、低栄養、褥瘡、心不全){6月に時点では6病態、その後心不全を含めた7病態に変更する}
アウトカムは7病態の改善度、期間、症例数とします。療養病棟は療養ではなく治療を行っていることを示さなければなりません。現在、アンケート内容を作成中であり会員の皆様のご協力を願っております。
7月 「強化型訪問リハビリテーションの創設について」
提言の目的は、通所リハの代替手段から生活再構築への最適手段、プロセスは十分量のリハビリ提供とオンラインリハの試み、アウトカムはADL指標の設定と改善度で評価する仕組みの構築です。端的に言えば、訪問リハは身体機能の向上のみならず在宅生活再構築を行うための最も重要な効果的なリハビリテーションツールであることに気づくべきです。
8月 「身体拘束廃止をデザインする」
今回の改定で初めて医療分野に身体拘束廃止が出現しました。私たち日慢協会員は20年以上前から身体拘束廃止に取り組んできました。しかし、急性期医療ではほとんど認識されていなかったため今回の変化は大変喜ばしいことだと思います。アウトカムとして身体拘束最小化やゼロ化を促進するために時間単位の評価を提言しました。当協会では実技を含めた講習会を行っています。
10月 「介護認定と患者状態のアンマッチを是正する」
介護医療院における介護認定と患者の状態のアンマッチ(要介護ラグ)について、要介護認定との時間差が問題であると提言しました。
12月 「医療機関外(院外)リハビリをデザインする」
目的は患者の課題に応じたリハビリ提供、プロセスは、院外リハ3単位(60分)の制限緩和と必要範囲の拡大、アウトカムは円滑な社会復帰に向けた院外リハ実施率の向上です。
2年半にこれらのことを提言してきましたが、解決できていないことも多々あります。
今後発言していきたいことの一つに、「インセンティブが働く報酬制度を」です。
医療分野では「療養病棟の医療区分」介護分野では「要介護度」は、約20年前に制度化され微調整はされてきたものの考え方は変わっていません。どちらも状態に合わせた点数制度になっているため改善しようというインセンティブは働かずむしろ状態が悪くなれば収益は上がる状況です。策定されたころとは社会の構図も雇用問題も変わってきています。
治療、ケア、リハを行い介護度が低くなれば高い報酬が支払われる制度にすれば寝たきり高齢者が減少し介護スタッフ不足にも対応できるのではないでしょうか。
また、「総合診療医」の急性期・在宅期への配置。人材紹介会社に対する対策。病院給食の在り方。などこれらは「寝たきり高齢者を作らない、増やさない」を通じることであり、しっかり提言していきたいと思います。
最後に2025年も、持続可能な医療・介護サービスを提供するために、私たち業界全体で力を合わせて取り組みます。新たな年が私たちの組織的かつ戦略的なアプローチで、より充実したものとなることを願っています。
皆様と共に、より良い未来を築いていく決意です。本年も変わらぬご支援とご鞭撻を心よりお願い申し上げます。
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2025年1月1日